ZFブランデンブルク工場はいかに内燃機関向けトランスミッション後の未来を描いたか(“How ZF Brandenburg Plotted Life After Combustion Gearboxes”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元Seconds"社(旧BMI Lab社)のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「ZFブランデンブルク工場はいかに内燃機関向けトランスミッション後の未来を描いたか("How ZF Brandenburg Plotted Life After Combustion Gearboxes")」という、ドイツの自動車部品メーカーZF社が、電動化による事業環境の変化を見据え、生産拠点の新たな事業モデルを構築し、持続的な成長と雇用の維持を目指した取り組みについてのお話です。では本文をお楽しみください。
2025年9月3日
ZFブランデンブルク工場はいかに内燃機関向けトランスミッション後の未来を描いたか
(Seconds"社ウェブサイト"のブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
ZF社のブランデンブルク工場では、年間約12万台のマニュアル・トランスミッションおよびデュアルクラッチ・トランスミッションを生産している。しかし、自動車の電動化が進むにつれて、こうした製品に対する需要は縮小し、工場の事業基盤も大きな影響を受けることが予想されていた。そこで同社は、従業員および外部の専門家とともに、1年にわたりビジネストランスフォーメーション・ナビゲーターを活用した変革プロジェクトを実施した。その成果として、3つの新たなビジネスモデルを策定するとともに、それぞれについて投資判断に必要な事業計画を作成し、工場の将来に向けた明確な方向性を示すとともに、雇用の維持にもつながる道筋を描いた。

課題
ZFフリードリヒスハーフェン社は、乗用車、商用車、産業機械用の各種モビリティ・ソリューションを提供するグローバルな技術企業である。同社の主要生産拠点の一つであるブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルのZFブランデンブルク工場は、従来より乗用車向けのマニュアル・トランスミッションおよびデュアルクラッチ・トランスミッションの製造を担い、年間約12万台分を生産してきた。しかし、自動車産業では電動化・ハイブリッド化への移行が着実に進み、従来型トランスミッションの需要環境は急速に変化している。内燃機関向けトランスミッションの生産に全面的に依存してきたブランデンブルク工場の将来を確かなものとするため、ZF社は、新製品や新サービス、さらにはまったく新しい市場への進出を視野に入れた事業変革プロジェクトに着手した。
CO₂排出規制の強化、電動モビリティへの移行、さらには一部トランスミッション製品の生産終了計画により、事業変革の必要性は一層高まっていた。ZF社が事業モデルの拡張や再構築に取り組まなければ、ブランデンブルク工場はグループ内における戦略的な存在意義を失うおそれがあった。さらに、この課題は、持続可能な代替事業を確立できなければ、2028年までに最大850人の正社員を削減するという社内再編計画によって、より深刻なものとなっていた。主力事業であるトランスミッションの生産量が減少するまで残された時間は限られていたことから、ZF社は新たな事業機会を見いだすため、外部の専門知識を活用するとともに、体系的なイノベーション・プロセスを導入した。
これらの課題に対応するため、ZF社は当社(BMI Lab)と連携し、同社の生産拠点における大規模な事業変革の推進と、有望な新規事業領域の発掘を実現するために、多段階アプローチである「ビジネストランスフォーメーション・ナビゲーター」を導入した。図1に示すように、この手法は「幅広い参加」「早期の着手」「外部知見の活用」という3つの成功要因を重視している。経営層から現場までのさまざまな階層の従業員に加え、外部の専門家もプロジェクトに参画することで、社内に蓄積された強みと将来の市場動向の双方を踏まえた事業アイデアの創出が可能となった。なお、このアプローチは、ドイツの産業別労働組合であるIG MetallとBMI Labが共同で開発したものである。IG Metallは、あらゆる関係者を巻き込みながら本手法の開発を推進するうえで、中心的な役割を果たした。
当社チームのアプローチ
ナビゲーター手法の基本原則に沿って、本プロジェクトは2023年に「初期セットアップフェーズ」から開始された。このフェーズでは、戦略上の基本方針を定めるとともに、専任のプロジェクトチームを編成し、各メンバーの役割と責任を明確化した。プロジェクトチームには、工場の労働組合代表、IG Metall本部の代表者、経営陣、さらに労働者代表が参加し、プロジェクト開始当初から、幅広い関係者が参画する体制を構築した。ZF社は、「グループ全体のサステナビリティおよびイノベーション方針との整合性を確保しつつ、新たな市場に向けた実現性の高い事業計画および投資計画を策定する」という明確な目標を掲げた。

分析とアイデア創出:内燃機関依存からの脱却に向けた道筋を描く
初期セットアップフェーズに続き、プロジェクトは2023年5月末までの「分析フェーズ」へと移行した。この期間中、ZF社は同社の工場が保有する既存の技術や能力を詳細に分析した。なかでも、精密加工技術や試作開発における強みを明らかにした。一方で、駆動システムの電動化の進展、産業オートメーションの進展、サステナビリティへの要求の高まりといった外部環境の変化についても分析を行った。これら社内外の視点を組み合わせることで、新たな事業領域につながる幅広い事業機会を見いだした。
このようにしてアイデア創出の基盤を整えたうえで、プロジェクトは2023年5月中旬から9月下旬までの「アイデア創出フェーズ」へと進んだ。ビジネスモデル・ナビゲーター手法と体系化されたワークショップを通じて、参加者は複数の新たな事業コンセプトを共同で創出した。図2に示すように、ワークショップではメガトレンド分析、インタビュー、ブレインストーミングを組み合わせながら、新たな事業アイデアを具体化していった。また、従業員参加型のアプローチを採用したことで、従業員は事業変革の当事者として主体的に参画し、外部専門家の知見と現場の知識を融合させながら、実現性の高い事業アイデアの創出につなげることができた。

ロードマップの具体化:事業計画と投資計画の策定
アイデア創出フェーズの終了時点で、ZF社は数多くのアイデアを将来性の高い事業モデルへと絞り込んだ。次のフェーズでは、それらの事業モデルを経営判断に耐え得る事業計画へと具体化することに重点を置いた。各事業計画には、以下の内容が盛り込まれた。
・市場分析と事業実現性の評価: 想定される収益源、ターゲット顧客セグメント、ならびに自社独自の提供価値の整理
・技術・事業運営上の必要条件: 生産設備の改修内容、必要となる追加スキル、人材・設備への投資額の見積もり
・財務シミュレーション: 初期投資額、運営コスト、損益分岐点に至るまでの期間などの財務予測
こうして、財務面と戦略面の両方を統合的に評価した事業計画が取りまとめられ、ZF社の経営会議における最終承認に付すことが可能となった。図3に示すように、ビジネストランスフォーメーション・ナビゲーターは、新たな将来構想を創出するだけでなく、それらを実際の事業として実現するための明確なロードマップの策定にもつながった。

イノベーションと共創文化の定着
本プロジェクトの大きな特徴の一つは、従業員の積極的な参画を重視した点にある。この取り組みは、主要な成功要因としてIG Metallが中心となって推進したものである。ワークショップは、新たな事業アイデアを創出するだけでなく、組織全体にイノベーション文化を根付かせることも重要な目的としていた。例えば、部門横断型のチームがアジャイル型のスプリントで活動し、ビジネスモデル・ナビゲーターをはじめとする創造的な手法を実践的に学んだ。こうした共同作業を通じて、参加者は今回の事業変革にとどまらず、将来にわたって活用できる知識やスキルを習得するとともに、継続的な改善に取り組むマインドセットを身に付けることができた。
本アプローチでは、業界の専門家、地域の産業振興機関、さらには投資家候補など、多様な関係者とのネットワークを活用することで、外部の知見も積極的に取り入れた。図4に示すように、このようなオープンかつ参加型のアプローチでは、「変革ニーズの把握」から「将来を見据えた事業モデルの構築」に至るまで、プロジェクトの各段階において、全社的な連携と部門横断的な共同作業の双方が不可欠となる。

成果
2023年12月までに、ZF社はブランデンブルク工場の中核的な強みを活用した、有望な3つの新規事業モデルを特定した。
市場検証や初期の財務評価の結果、これらの新規事業案は工場の雇用水準の維持に寄与するとともに、新たな投資を呼び込む可能性があることが示された。次のステップとして、それぞれの事業モデルについて策定した包括的な事業計画および投資計画を踏まえ、ZF社では現在、社内リソースの活用方法や外部パートナーとの連携可能性について具体的な検討を進めている。
主な学び
ZF社の事業変革から得られた主な学びは、以下のとおりである。
-早期の着手: 生産量が減少する前の段階から取り組みを開始したことで、現場の知識や経験を豊富に持ち、高い意欲を維持している従業員の専門性を十分に活用することができた。
-従業員の積極的な参画: 現場で働く作業員や技術者をはじめとする従業員をアイデア創出のプロセスに積極的に参加させることで、日々の業務に根差した実践的なアイデアを生み出すことができた。
-外部知見の活用: 外部の専門家との連携や幅広いネットワークの活用により、既存の技術や能力を新たな用途へ展開・高度化するための新しい視点を取り入れることができた。
-反復的なアプローチ: アイデアの創出、検証、ブラッシュアップを繰り返すことで、それぞれの事業コンセプトについて、革新性と実現可能性の双方を備えた内容へと磨き上げることができた。
とりわけ、本取り組みの成功の鍵となったのは、経営陣と従業員との信頼関係を構築したことである。その背景には、新たな事業モデルが人員削減の必要性を軽減するとともに、工場の持続的な発展に向けた現実的な道筋となり得ることを具体的に示した点がある。
変革を通じた成果の創出
ビジネストランスフォーメーション・ナビゲーターとビジネスモデル・ナビゲーターを活用することで、ZFブランデンブルク工場は、急速に変化する自動車業界において将来にわたり競争力を維持するための具体的な一歩を踏み出した。体系的でありながら柔軟性を備えたアプローチにより、新たな収益源の発掘、縮小が見込まれるトランスミッション事業への依存度の低減、さらには地域における高度な技能を持つ人材の維持に向けた確かな枠組みを構築することができた。
本プロジェクトは、社内に蓄積された技術や能力を、外部環境の変化や長期的な視点と体系的に結び付けることで、既存の生産拠点が持続的な進化を実現できることを示している。ZF社は今後、パイロットプロジェクトの実施や外部パートナーとの協議を進めていく予定である。ブランデンブルク工場での取り組みは、先を見据えた事業変革の先進事例として、今後はZF社の他の生産拠点や、さらには他企業への応用も期待される。

DX・イノベーション手法を学ぶ、
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いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しておりますご興味の方は是非お問い合わせください。
WRITER

渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。
