イノベーションのプロセスにおいて創造力を向上させるための6つのツール(“Six tools to improve your creativity during an innovation process”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「イノベーションのプロセスにおいて創造力を向上させるための6つのツール("Six tools to improve your creativity during an innovation process")」という、画期的なアイデアを発想するための各種ツールや手法についてのお話しです。では本文をお楽しみください。
2017年10月27日
イノベーションのプロセスにおいて創造力を向上させるための6つのツール(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
創造性は天からの贈り物でなく、適切なツールを使って習得できるスキルである。
イノベーションの方法論、特にビジネスモデルに関する方法論を紹介する際には、創造性の役割が話題になることが多い。「イノベーションには創造性の発揮が必要か」、という質問がもっとも典型的だ。「有力なイノベーション方法論の大半では、創造性が強力な役割を担っている」、というのが質問対する簡潔な回答だ。さらに言うと、これらすべての方法論において、「創造性は天才や偶然によるひらめきの話でなく適切なツールを使えば誰もが達成できるものだ」、とされている。この基本的な共通認識をもとに、イノベーションにおける創造性のトピックにさらに踏み込むことができる。すなわち、創造性ツールはチームが新しいアイデアを生み出し、適切なビジネスモデルとしての実現可能性をさらに探求する通常のイノベーションプロセスの中で使用される。その中でも、世の中の大半を占めるイノベーション方法論に不慣れな人にとって最も高い壁となるのが、創造性を発揮するフェーズだ。
この壁を打ち破るために、多くの企業において、通常は社内ルール、手順、方法のせいで制約されている、人々が本来持っている創造性を解き放ち、育むのに役立つ幅広いツールをイノベーターは開発してきた。このような各種の制限は、事業が確立された企業の経営には適しているが、イノベーションのワークショップやプロジェクトにおいて新たな可能性を探求するためには役に立たない。
「イノベーターは、人々が本来持っている創造性を解き放ち、
育むのに役立つ幅広いツールを開発してきた。」
では、最も広く利用されているイノベーションの創造性ツールを見てみよう。まずは、頭を整理するために各種ツールを2つのグループに分類する。
- できるだけ多くのアイデアを生み出すことに重点を置いた発散思考ツール
- 最適なアイデアを選択するために、多数のアイデアを分析、フィルタリング、結合することを目的とした収束思考ツール
上記の両グループとも、ワークショップやプロジェクトに応じて幅広いツールの選択肢がある。以下では、よく使われるツールのタイプをいくつか紹介する。各種ツールを通じて、イノベーションのための創造性とは何なのか、その一端を知って頂きたい。
1.発散思考ツール
アイデアの発散に重点をおいた創造性ツールはすべて、短い時間内 (通常はアイデア創出セッション中の数分間)にできるだけ多くのアイデアを生み出すためのものだ。発散における基本ルールは、新たなアイデアが出てきたときに、それを批判したり判定したりしないことだ。それというのも、否定を始めると、あらゆるアイデアが簡単に潰されてしまうからだ。イノベーターに必要なのは、自分の脳内を開放し、できるだけ多くの可能性を生み出すことである。フィルタリングや結合は、あとの収束プロセスで実施する。
連想カード
アイデア創出セッションのアイデアの80%は、アナロジー思考で生み出される。アナロジー思考とは基本的に、他の業界の考え方・やり方を自社にあてはめることだ。つまり、新しい事業アイデアを生み出す優れた方法は、自社と関連がうすい業界を含め、他の業界とビジネスモデルを調査分析することである。他業界の各社のビジネスモデルを分析し、それを自分たちの業界にどのように適用できるかを考える。その過程で、自然と新たなビジネスの可能性が生み出される。我々BMI Labのビジネスパターン・カードを含む各種の連想カードは、アナロジー思考の訓練に最適な方法であり、作業対象を明示することで創造性プロセスで良い結果を得るためのガイダンスとなる。
技術トレンドのベンチマーク
連想カード以外のアナロジー思考の実践方法として、テクノロジーのベンチマークを参照対象とする方法がある。時には、複数の技術トレンドを選択し、それらを自社に導入する方法を検討すると役に立つことがある。たとえば、IA、IoT、ブロックチェーンを選択した場合、ブレーンストーミングのプロセスを通じて、これらのテクノロジーの活用例をもとに、自社の新しいビジネスアイデアを発想する。実際にやってみると、新しいアイデアが自分たちの経験と新たなテクノロジーによる新たな可能性との結びつきから生まれることがわかるだろう。
3つのIF(もしも)
アイデア創出セッションを実行する際に有用な、もう1つの方法論が水平思考ツールである。この考え方においては、自社の現状を別の視点から見る、すなわち基本的に自社の既存の事業戦略をずらす。優れた水平思考ツールに「3つのIF(もしも)」がある。このツールを使って、自社の事業の前提となっている想定に疑問をなげかけ、視点を変えることができる。例えば、以下のように自社の状況が3つの点で現状と異なっていたらどうなるかを自問する。
- もしも自社の顧客層を変更するとしたら、どうなるだろうか?
- もしも今とは別の価値を提供するとしたら、どうなるだろうか?
- もしもバリューチェーンを組み変えるとしたら、どうなるだろうか?
より良い結果を得るために、アナロジー思考と水平思考を組み合わせることを推奨したい。たとえば、AIを導入したら自社の提供価値がどうなるかを自問する。あるいは、他の業界の特定のビジネスモデルを自社に適用した場合に、対象顧客層がどうなるかを考えてもよい。これらの「IF(もしも)」の質問に答えようとすると、その過程で既存の事業に関する知識が、新しい可能性を発見し、新しいアイデアを生みだすのに役立つことがわかるだろう。アナロジー思考と水平思考の可能性は非常に広大だが、それ自体はまったく問題ない。なぜなら、これらのツールの目的は、アイデア創出プロセスに火をつけて実りある結果を得ることであり、そうすることで自社事業の対象範囲を拡大できるからだ。
2.収束思考ツール
収束思考ツールには、発散思考プロセスで生成したすべてのアイデアを整理、フィルタリング、選択するという明確な目的がある。このステップでは発散思考とは異なる考え方が必要とされるため、使用ツールも明確に異なり、アイデアの生成でなく分析と統合に重点が置かれる。この種の作業は創造的ではないと考える人も多いが、実際には創造的な作業である。イノベーション・プロセスを最後まで成功させたいなら、アイデア創造ステップだけを実行しても無駄である。最適なアイデアを選定し、価値の低いアイデアを除外し、最良のアイデアに集中するための明確な方法も必要となる。
ビジネスモデル4軸(マジックトライアングル)は、アイデア創出プロセスで得られる情報やアイデアを収集、整理、フィルタリングするための優れた方法である。
マインドマップ
マインドマップはアイデア整理の方法としてよく利用される優れたツールだ。我々はアイデア間の関連性や相違を探り、アイデア創造で生み出したすべてのアイデアをグループ化するために使っている。マインドマップは、背後にあるトレンドを洗い出し、冗長性を排除し、検討対象とするアイデアを絞り込むのに有用だ。これらの目的を果たすために、通常はマインドマップの作成が必要だが、顧客キャンバスやビジネスモデル・キャンバスなど、事前に開発整理されたツールやフレームワークを使って実施することも可能である。
思考の帽子
思考の帽子は人気の手法で、すべてのアイデアの良い面と悪い面を探るのに非常に有用である。まず、いくつかの異なる立場や考え方を、それぞれ異なる役割の帽子として定める(例:顧客、賛成派、反対派、取締役会など)。アイデア発表プレゼンの後で、フィードバック役がそれぞれ別の帽子をかぶり、別の視点から提案を分析する。同じ人が別々の帽子を順にかぶり、同じアイデアを様々な角度から見ることを強制する、というやり方も便利だ。このテクニックで得られるフィードバックの価値は非常に高く、アイデア検討チームのディスカッションに新たな視点を持ち込んだり、不合格のアイデアを明確に却下したり、合格のアイデアの改善点を浮き彫りにしたりするために役立つ。
100ユーロ・テスト(アイデア・ショッピング)
このツールはアイデアの数値評価に非常に有用だ。聴衆となるプレゼン相手を決めたら、複数の異なるアイデアをキャンバス等を使って紹介し、たった100ユーロでよいので自分たちの提供する価値を買ってくれないか、と聴衆に依頼する。聴衆は100ユーロを1つの提供価値に全部割り当ててもよいし、複数の提供価値に分けてもよい。価格はとくに定めず、支払う価値があると思うアイデアにお金を払う。聴衆から資金が分配されたら、資金の大部分を受け取った最も人気のあるアイデアを簡単に特定できる。このテストでは第三者からの非常に貴重なフィードバックを得ることを通じて、アイデアをふるいにかけ、自分たちの思い込みや偏見を脇に置くことが可能となる。
創造性は分岐と収束を繰り返す試行錯誤のプロセスである
イノベーションのプロセスにおいては、発散思考と収束思考の両方の種類のツールを、さまざまな段階で使用する。時には、自分たちの選択肢の幅を広げるために視野を広げて対象範囲を拡大することが必要となる。そのあとで、今度は新たな事業アイデアとビジネスモデルの深掘りを進めるために、おそらく少数のアイデアに対象を絞り込むことが必要となる。どちらの目的にも、適切なツールの選択が必要だ。
さらに言えば、このようなイノベーションのプロセスは一本道の直線的なものではない。必要なだけ分岐と収束のプロセスを繰り返し、実現可能な新アイデアを探し求めるのだ。創造性にチームワークが重要である点も忘れてはならない。プロセスにおける様々な異なる視点など、建設的な批判をフィードバックすることを奨励すべきである。多様なバックグラウンドを持つチームを構成することで、異なる考え方や経験が融合し、お互いを強化できるため、通常は同質的なメンバーのチームよりもはるかに優れた結果をもたらす。
目標に応じて、両方のタイプのツールを組み合わせた戦略を策定することも可能だ。プロジェクトによっては1つのツールで対応するのが難しいこともあり、その場合にはプロセスを示し、適切なツールを選定してメンバーを同一の道筋に導く経験と忍耐力のあるファシリテーターが必要となる。選択したツールを最大限に活用し、各チームの可能性を引き出すためには、専門家の助けを得ることも有用だ。
DX・イノベーション手法を学ぶ、
マキシマイズのセミナー
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「社員のイノベーション教育をどのように進めるべきか?("How to train people in innovation?")」という、イノベーション教育・研修の進め方に関するブログ記事をご紹介予定です。
WRITER
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。