CES2020に見るビジネスモデルイノベーション(“Business Model Innovation from the CES 2020”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI (※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「CES2020に見るビジネスモデルイノベーション("Business Model Innovation from the CES 2020")」という、ビジネスモデル・イノベーションの視点からスタートアップを見ることで得られる示唆についてのお話しです。では本文をお楽しみください。
2020年2月11日
CES2020に見るビジネスモデルイノベーション(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
ラスベガスで開催されるCESは、コンシューマー・テクノロジーのビジネスで活躍している企業にとって、今年最初のグローバル展示会である。情熱的なイノベーターとして、私たちは今年の展示会で発表されたイノベーションに注目し、ビジネスモデル・イノベーションの観点から分析した。私たちのビジネスモデルの定義では、技術革新は、顧客やユーザーにとって新しい価値を生み出す、または企業が顧客に価値を提供する方法を最適化する上で重要な役割を果たす。
驚くことではないが、過去5年間の傾向にならって、コネクティビティと新たなモビリティは、コンシューマーエレクトロニクス業界で最大の応用分野となっている。しかし、これらのイノベーションの背後にあるビジネスモデルはどうだろうか。ここでは、2020年代の10年間で多くの業界の様子を変えるであろう3つのポイントを紹介したい。
1.電気自動車のビジネスモデルのポイントはオーケストレーターだ
どういうことか?
ラスベガスでソニーは電気自動車のコンセプトカーである「Vision-S」を発表し、世界中を驚かせた。大型HDディスプレイ、「360 Reality Audio」サウンドシステム、半自動運転と完全自動運転を可能にする33個のセンサーなど、「Vision-S」に組み込まれた技術レベルは非常に印象的だ。仮にソニーがこのコンセプトを自動車製品のショーケースとしてのみ使用しているとしても、このコンセプトをもう少し深掘りする価値があると私たちは感じた。
ビジネスモデル・イノベーションの観点から、このコンセプトが興味深いのはなぜか?
まず、この事例はソニーが社内の複数の部門をとりまとめて野心的なイノベーションプロジェクトを管理する能力を持っていることを示している。これは、強力なイノベーション文化の証拠だ。次に、ソニーがこのアイデアを発展させた方法は、自社で開発できなかった車両の各部品について、世界クラスの大手企業(ボッシュ、NVIDIA、コンチネンタルなど)と提携することであった。車両の組み立ては、すでに世界中のいくつものメーカーの車両を組み立てている大手自動車サプライヤーのマグナが実施した。これは、ビジネスエコシステムの重要性が高まっていることを表している。最後に、ソニーのパフォーマンスは、電動モビリティが自動車業界にどのような混乱をもたらすかを示している。電動パワートレインやバッテリーパックはすでに一定部分が標準化されており、新規参入企業が各種サプライヤーと提携して独自の電気自動車を製造することが容易になっている。ソニー以外にもリマックや中国企業などの例があり、現状の自動車の製造方法が最終的には破壊されるという変化の波を示唆している
結論
ソニーの例は、適切に管理されたビジネス・エコシステムを持つ企業が、オーケストレーターの役割を担うことを望む場合、特にその企業が強力なイノベーション文化に支えられている場合には、破壊的なイノベーションを起こす可能性があることを示している。
電気自動車に関連するビジネスモデル・パターン
電気自動車に関連する各種パターンの詳細については、以下の画像をクリックしてほしい。
2.デジタル・ヘルスは、データ関連の各種ビジネスモデルを活かす大きな機会だ
どういうことか?
2020年のCESにはデジタル・ヘルス業界から150社を超える出展者が集まり、注目すべき明確なトレンドと言える。ウェアラブル業界の競争はアップルがアップルウォッチを市場投入するずっと前から始まっていたかもしれないが、今年のCESは、まだ歴史の浅いスマートウォッチの歴史に新たな一章を刻むものだ。Withings社は、クラシックな時計のデザインとハイエンドのモニタリング機能を組み合わせたハイブリッド・スマートウォッチとして受賞歴のあるScanwatchを展示した。Scanwatchを使えば、わずか30秒で心電図(ECG)を表示できる。Scanwatchはユーザーの心拍を継続的にモニタリングし、異常を検知した際にはデータレポートを作成してユーザーに通知する。それに加えて、睡眠中のユーザーのモニタリングや、フィットネス・トラッカーとしての使用、さらには生成されたデータの認定医療専門家との共有も可能だ。
ビジネスモデル・イノベーションの観点から、このコンセプトが興味深いのはなぜか?
ユーザーの健康に関する新たな価値が生まれることに加え、データとその潜在的な可能性が、データに基づくビジネスモデルの観点から非常に興味深い機会を提供していると言える。Withings社は、開発者用の専用APIを通じて、無料の「Health Mate」アプリに保存されているデータへのアクセスを提供している (もちろん、ユーザーが同意し、かつ利用条件を満たしている場合に限られる)。これこそ消費者向け健康管理ビジネスの本質と言える。すなわち、データの所有者、データへのアクセス権、データから生み出される提供価値、収益化の方法などがポイントだ。Withings社は、Scanwatchを同社の定めた価格で販売し、専用アプリは無料だ。この古典的な収益モデルは、サードパーティがユーザー中心のサービスを提供するのための扉を開き、Withings社もその恩恵を受けることができる。
結論
このイノベーションは、データに基づくビジネスのアイデアに関しては、オープンなビジネスモデルとビジネス・エコシステムがいかに重要であるかを改めて示している。ウェアラブル業界の現在の競争はハードウェアに重点が置かれているようだが、その結果、サードパーティがユーザーに利益をもたらす革新的な提供価値を設計する機会が生まれている。
デジタル・ヘルスに関連するビジネスモデル・パターン
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3.ストリーミング戦争はまだ始まったばかりだ
どういうことか?
BMI Labを設立時からフォローしている方は、ネットフリックスのビジネスモデル分析を目にしたことがあるかもしれない。さらにアマゾン、そしてアップルがストリーミング・サービスを開始した時点で、世間一般では、この3社で市場を分け合うだろうと考えられていた。しかし、私たちはみな間違っており、本当の戦いは始まったばかりだ。ディズニー、HBO、NBCの3社は、独自のストリーミングサービスをそれぞれ開始した、またはまもなく開始する。しかし、ラスベガスで私たちの興味をそそったのは、イーベイやHP社の元CEOであるメグ・ホイットマンと、映画プロデューサーでウォルト・ディズニー・スタジオの元会長であるジェフリー・カッツェンバーグが設立した、業界初のモバイル・ストリーミング・サービスのQuibi社だ。同社のストリーミング・テクノロジーと制作方法は非常に革新的だ。ストリーミングされるすべてのビデオは「ターン・スタイル」テクノロジーを使用しており、視聴者はポートレート・モードとランドスケープ・モードをシームレスに切り替えて、異なる視点で閲覧できる。このサービスは、2種類のサブスクリプション・モデルで提供される予定だ。
ビジネスモデル・イノベーションの観点から、このコンセプトが興味深いのはなぜか?
ストリーミング・サービスについて語るとき、興味深い点が2つある。まず、サブスクリプション・モデルがどのくらい続くのかという点だ。世の中で提供されているすべての映画、テレビ番組、ドキュメンタリーを視聴できるようにしたいというユーザーにとっては、すべての動画サービスを契約する以外の選択肢はない。そうなると最終的には、DVDレンタルの時代よりもビジネスに広がりがある。次に、ストリーミング・サービス各社が、独自制作コンテンツとユーザー中心主義という2つの方向で競合他社との差別化を図ろうとしている点も興味深い。Quibi社は、モバイル専用のサービスと、より没入感のあるビューを得るために視点を切り替える機能を備えた面白い例と言える。
結論
新たなストリーミング・サービスのポイントは、新たなコンテンツ制作や技術だけではない。市場にサービスが増えれば増えるほど、それらすべてを集約して1つのサブスクリプション契約として提供するプラットフォームのチャンスが大きくなる。また、サブスクリプション・モデルの民主化によって、結局はコンテンツを視聴するために以前よりも多くの費用を払うことが必要になることに消費者が気づけば、いずれはサブスクリプション・モデルの終焉につながる可能性がある。サブスクリプション型の収益モデルに興味を持つB2B企業が非常に増えているが、顧客に価値をもたらさない新たなモデルを提供してしまうというよくある間違いを避けるためにも、実行前にその限界を評価することを強くおすすめしたい。
ストリーミング・サービスに関連するビジネスモデル・パターン
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私たちのお気に入り製品その1: 誰もが使いたくなるロボット
サムスンは、スマートホーム技術を多数搭載した、かわいくてフレンドリーなボール型ロボット「Ballie」をリリースした。サムスンのビデオ・プレゼンテーションでは、完全にネットワーク接続されたスマートホームの未来がどのようなものになるか、そして顧客がロボットからどのような恩恵を受けることができるかを紹介している。ロボットをより人間らしく動作させることを目指したサムスンのNEONプロジェクトの他の開発成果も含め、Ballieがすべての家に導入されるのが待ち遠しい。
私たちのお気に入りの製品その2:「あり得ない食べ物(インポッシブル・フード)」を食べる
カリフォルニアに拠点を置き、「インポッシブル・バーガー」(牛肉のようにジューシーで、切ると血が出るが、肉ではない)を発明した企業、インポッシブル・フード社も、CESではないがラスベガスの別の展示会に出展していた。その展示会で、同社は新製品の「植物由来のインポッシブル・ポーク」を紹介していた。豚肉は世界で最も食べられている肉であり、同社が豚肉を植物由来の代替品に置き換えるという挑戦に取り組んでいるのはそのためだ。私たち自身が肉好きかどうかにかかわらず、BMI Labの私たちはこの新しい代替品に非常に興味をそそられた。試食する機会が待ちきれないと言わざるを得ない。
DX・イノベーション手法を学ぶ、
マキシマイズのセミナー
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「デジタルビジネスモデル実現の5ステップ("The 5 steps for implementing digital business models")」という、ビジネスモデル・ナビゲーターの手法に沿ってデジタルビジネスモデルを実現するための一連の手順に関するブログ記事をご紹介予定です。
WRITER
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。