理美容業界にイノベーションを起こしたQBハウスの画期的なビジネスモデル(続編)
こんにちは、マキシマイズの中島です。
以前こちらの記事ご紹介した、理美容業界にイノベーションを起こしたQBハウスについて、その後の事業環境の変化に合わせてビジネスモデルをさらに進化させていることがわかりました。
今回は、進化したQBハウスのビジネスモデルについて、前回同様にビジネスモデル・ナビゲーター手法によるビジネスモデルの定義「ビジネスモデルの4軸」とビジネスモデル・パターンカードを使用して解説していきます。
本記事の作成にあたりキュービーネット株式会社様にご協力をいただきました。あらためて御礼申し上げます。
理美容業界にイノベーションを起こしたQBハウスの画期的なビジネスモデル
QBハウス(キュービーネット株式会社)は10分1000円(創業時)でヘアカットを行う、いわゆる「1000円カット」で一躍有名となった企業です。1996年の1号店出店以来、2022年6月末時点で国内に591店舗、海外に129店舗を展開する理美容業界の大手チェーンです。
大規模なチェーン店が少なく、個々の店舗がしのぎを削る非常に成熟した理美容業界という市場環境の中で、QBハウスはどのようにビジネスモデルを進化させてきたのでしょうか。
それではまず、QBハウスが既存の理美容市場をどのように変革してきたのか、ビジネスモデルの4軸を使用して、QBハウスの創業初期と現在のビジネスモデルをそれぞれ分析していきたいと思います。
【ビジネスモデルの4軸とは】
ビジネスモデルの4軸は、ビジネスモデルをシンプルかつ抜けもれなく定義することで、ビジネスモデルの設計や検討を容易に行うために開発されました。
具体的には、顧客は誰でどんな困りごとを持っているかというWHOの軸、顧客へ提供する提供価値は何かというWHATの軸、どのような手段で価値を提供するのか差別化をするのかというHOWの軸、なぜ儲かるのかというWHYの軸の4軸でビジネスモデルを定義します。特にビジネスモデル4軸のうち2軸以上が変化したとき、ビジネスモデルの構造が変わったとみなし、ビジネスモデル・イノベーションと呼んでいます。ビジネスモデルの4軸は、新規事業の設計だけでなく、既存事業の分析、企画内容の精査などにも利用することができます。
初期のQBハウスのビジネスモデル
まず、初期のQBハウスのビジネスモデルを4軸で分析します。
初期のQBハウスは、シャンプー等の付随サービスをやめ、髪を切ることに特化して短時間・低価格でのサービスを実現し、極限まで効率化されたオペレーションを武器に、フランチャイズ形式で規模を拡大しました。フランチャイズ形式は、自社のノウハウを外部のパートナーへ提供することによるロイヤリティ収入や、パートナーへの商品の卸などで収益を上げるビジネスモデルです。フランチャイズのビジネスモデルでは、パートナーが容易かつ速やかに事業を開始できる業務プロセスやマニュアルが重要な差別化要素となりますが、QBハウスでは、スタイリストが効率的に施術を行うためのパッケージ化された施術スペースと施術ノウハウをパートナーへ提供していました。
競合との差別化により一線を画す現在のQBハウスのビジネスモデルとは?
2005年以降、短時間・低価格というビジネスモデルを模倣する競合店の増加に対応して、QBハウスはビジネスモデルを進化させました。
現在のQBハウスのビジネスモデル
では、現在のQBハウスのビジネスモデルを見ていきましょう。
QBハウスの初期と現在のビジネスモデルを比較すると、Who、What、How、Whyの全ての軸において変化が見られ、ビジネスモデルの構造が変化する「ビジネスモデル・イノベーション」が起きていることがわかります。それでは低価格な理美容サービスという市場セグメントにおける同社のビジネスモデル進化の背景に、どのようなビジネスモデル・パターンが利用されているのかを順番に見ていきます。
直販モデル
初期のQBハウスでは、フランチャイズ方式を活用し、積極的な出店戦略を取っていました。しかし、“1000円カット”を標榜する散髪店が様々な場所にあることからもわかるように、効率化による短時間・低価格でのカットサービスの提供というビジネスモデルは、ある程度模倣することが比較的容易でした。
一方、直営形式での店舗展開に転換することで、店舗運営に伴う労力が増える半面、マーケティングや店舗開発、人材開発を一気通貫にマネジメントする体制を確立することが可能となります。また、各店舗からの意見を吸い上げ、改善していくことがよりスムーズであり、スタッフとの直接の雇用関係によって、教育や自社のポリシーを徹底し、品質管理が計画的に進められるため、直営形式の大きなメリットです。
また、QBハウスは海外展開に積極的な姿勢を取っていますが、特に海外ではガバナンスが効きにくいため、いかに組織としてガバナンスを伴った仕組みを現地に導入し、浸透させるかが成功の鍵でした。直営形式による一気通貫のマネジメントによって、海外店舗におけるカットサービスの品質を大きく向上させることができました。
合気道
初QBハウスの拡大に伴い、1000円カットというジャンルが定着し、同業他社が増えてきました。
その一方で、QBハウスは2019年にカット料金を1080円から1200円(いずれも税込み)へ引き上げました。値上げは客離れを招くことが多く、企業は通常値上げを最後の手段として残そうとすることが多いです。
そのような中、QBハウスはあえて価格を上げることで、他の1000円カットを提供する理美容室と同価格帯ながら、品質が良いというブランディングにつなげ、同業他社との差別化をさらに図ることに成功しています。
加えて、スタイリスト教育などに力を入れ、10分で品質の高いカットを提供することを実現し、低価格帯のヘアカットにおけるサービス品質のトップ企業となっています。店舗運営を直営としている企業体制もサービス品質という差別化要因に寄与しています。
顧客データ活用
QBハウスは、10分でカットを終えるという目標値を掲げています。目標値を各店舗で達成させるために、カットブースごとに設置されているターミナルと呼ばれる機械を利用してカット時間を自動で蓄積し、従業員のパフォーマンスを計測しています。
データを取得して積み上げることで、10分でのカットという目標値に届かない傾向がある従業員に対する適切なフィードバックを実施することができ、従業員の技術・サービス品質を均質化することができます。
全国・海外に広く店舗を展開するQBハウスならではのデータの蓄積ができ、競合との差別化を図る上での武器になっていると言えます。
以上のようなQBハウスのビジネスモデルの変化の背景として、海外展開において現地法人のサービスを模倣した低価格サービスが多数出てきたという市場環境への対策が必要となったことが挙げられます。そのような状況で、安さだけではなく、品質で勝負するという日本企業ならではのポジショニングを取ったということが現在においてもQBハウスが業界トップの企業であり続けている要因であると考えられます。
DX・イノベーション手法を学ぶ、
マキシマイズのセミナー
今回は進化を遂げたQBハウスのビジネスモデルと初期のビジネスモデルの違いを、ビジネスモデルの4軸とビジネスモデル・パターンを使用して比較、分析しました。4軸でビジネスモデルを分解する事でビジネスモデルの強みは何か、何が勝負を分けるのかといった点も明らかにすることができます。
株式会社マキシマイズでは、ビジネスモデル・ナビゲーター手法を使用した新事業創造の実施方法をケーススタディ方式で習得する体験型ワークショップを提供しております。本ブログでの解説に使用したビジネスモデルの定義「ビジネスモデルの4軸」とビジネスモデル・パターンカードの活用法を短期間で学ぶことができます。ご興味の方は是非お問い合せください。
参考文献
- 日経新聞 (2018年8月13日) QBハウス、1200円に値上げ 来年2月
参照先:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34101120T10C18A8TJ1000/ - DX SQUARE (2021年11月30日) QBハウスに10分カットの秘密を聞いてみたらすごくDXだった
参照先: https://dx.ipa.go.jp/interview-qbhouse - 東洋経済オンライン (2014年02月19日) 「QBハウス」がアジアの時短市場を攻略 「日本クオリティ」で模倣店駆逐、世界一へ
参照先: 東洋経済オンライン:https://toyokeizai.net/articles/-/31013?page=3
WRITER
中島 貴志(なかじま たかし)
株式会社マキシマイズ コンサルタント
平成7年生まれ。千葉県富里市出身。早稲田大学法学部卒。在学中は国際法模擬裁判に勤しんだ。卒業後は、地方メディア企業にて主に新規事業創出促進イベントやスタートアップと大企業とのマッチング系イベントの企画・運営に取り組んだ。その傍ら、マキシマイズ社に参画し、企業、地方自治体、大学との新規事業創出のためのワークショップの企画・運営・講師を務めている。2020年より宇宙コンテンツ開発スタートアップの株式会社amulapoへ関わり、バックオフィスの統括及び新規事業の創出に取り組んでいる。2021年より、ITコンサルタントとして、地方自治体の業務改善及びDX推進に従事している。
専門:新規事業創出、業務改善、DX推進、経営管理、ロビーイング