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イノベーションの力を解き放つ:イノベーションとは何か
(“Unleashing the power of innovation: What is innovation”)

イノベーションの力を解き放つ:イノベーションとは何か(“Unleashing the power of innovation: What is innovation”)

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「イノベーションの力を解き放つ:イノベーションとは何か("Unleashing the power of innovation: What is innovation")」という、イノベーションの定義や特徴についてのお話しです。最近はSpaceXがイノベーションの考え方や取り組みアプローチを重厚長大なロケット開発に適用して宇宙分野にイノベーションを起こしたことで話題になっています。どのような産業にもイノベーションのアプローチを適用して成果を上げられるという非常に良い例だと思います。では本文をお楽しみください。

イノベーションの力を解き放つ:イノベーションとは何か
("Unleashing the power of innovation: What is innovation")

2017年7月19日
イノベーションの力を解き放つ:イノベーションとは何か
(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

多くの企業において、イノベーションをテーマにした議論が繰り返し行われている。ビジネスマンあるいはビジネスウーマンであれば、中期的に生き残っていくためには、自分たちのビジネスにもイノベーションが必要である事は誰もがわかっている。現代においては、これはほとんど常識と言える。ところが、イノベーションとは何であり、どのようにすれば実際に実現できるのかを、本当に理解している人は滅多に見つけられない。多くの人が、イノベーションとはある種の幸運による偶然の出来事、天才的ひらめき、あるいはどこからともなく得られた強力な洞察の結果だと思っている。確かにこれらすべてはイノベーションに関連し、そして実際にこのようなことが起きてはいるものの、実はイノベーションとは、自社内の創造力を開放し、それらを実際のビジネスの成功という形に落とし込むためのプロセスとして遂行可能なのだ。

【イノベーションは遂行可能なプロセスである】

このプロセスの中核をなすのが、「枠にとらわれることなく思考することでヒントとなる事実情報を見つけだし、それらの断片的事実をつなぎ合わせて進むべき正しい道を明らかにする」というシンプルな指針である。そして、そのために多くの研究者やビジネスイノベーターが様々なツールや手法を開発し、実社会で検証し、そして素晴らしい成果を達成してきた。だからこそ、一連のビジネスプロセスの中でイノベーションを実際に実現できることは既に判明していると言える。

次に考えるべき質問は明らかで、「そのプロセスとはどんなものか?」である。しかし、これは単純なトピックではない。それというのも、世の中には実績を上げている数多くのイノベーション手法があるからだ。例えば、以下のようなものがある。

  1. スタンフォード大学のデザインスクールが提唱しているような、デザイン思考アプローチを採用してもよい。これは基本的には、従来からあるデザイン手法をビジネス課題に適用するというものである。
  2. IDEO社は、「人々のニーズをイノベーション開発の源と捉えて注力する」という「人間中心デザイン」プロセスをイノベーションのために開発し、実際のプロジェクトに適用することに成功している。この手法はデザイン思考をもとにしている。
  3. このデザインに基づく取り組み方法は、いくつもの派生的な手法に発展した。例えば、英国デザイン評議会が開発した「ダブルダイヤモンド手法」、Jeanne Liedtka氏による「ビジネスイノベーションのためのデザイン思考」、Alex Osterwalder氏による「ビジネスモデル・ジェネレーション」手法などである。
  4. Eric Ries氏は、アイデア創造と繰り返し(イテレーション)を通じて新事業開発に取り組むという「リーンスタートアップ」手法によって、スタートアップが新ビジネス開発に取り組む方法を変革した。
  5. Googleも、同社のイノベーション取り組み方法、「ウィークリー・デザイン・スプリント」で一定の成功をおさめ、名を広めている。実際に、この手法はビジネス課題に取り組む企業の間で広く利用されている。
  6. ザンクトガレン大学とBMI Labが生み出したのが、ビジネスモデル・イノベーションをシステマチックに進めることに集中したもう一つの手法「ビジネスモデル・ナビゲーター」である。この手法では、企業の現在のビジネスモデルを他の業界で成功したビジネスモデルと対比することで、画期的なアイデア創造を促進する。実は、世の中の成功企業各社のビジネスモデルの90%はたった55種類のビジネスモデルで構成されており、これら55種類のビジネスモデルを自社が属する特定の業界にあてはめたり組み合わせたりすることで、自社の業界における新たなビジネスモデルを見つけ出すことができる。

このように、ツールや手法の選択肢は幅広く、よりどりみどりである。いずれにせよ、これらすべての手法を同じ問題に対する異なる取り組み方法として捉えるべきである。そして実際に、多くの場合には、各種のツールには以下のような共通点がある。

  1. 顧客に焦点を当てる:これまで非常に長い間、企業は新技術や新製品に焦点を当て続けてきた。そして、その結果として自社の顧客の実際の問題を理解することなく、市場に大量の製品を投入してきた。これらすべての取り組み手法では顧客に主眼をおき、顧客のニーズを探り、最適と思われるソリューションで顧客ニーズを満たそうとする。
  2. チーム型の手法:イノベーションに個人作業でなく、多様で活発で集中したチームで取り組む。ワークショップが標準的な手法とされており、活発な意見交換と有意義な議論を行うことが推奨される。
  3. 繰り返し型の取り組み:初回の挑戦で頂上までは登れない。実際には、仮説や想定の検証をかなりの頻度で実施する必要がある。すべての取り組み手法でこのプロセスが採用されているので、どの手法を利用したとしても、繰り返し型の取り組みを実施できる。イノベーションプロセスにおける失敗は、実際には前進であり、進むべきでない方向を明らかにした、と捉える。
  4. 手法を使った創造性の支援:ピカソが言ったように、「直感と洞察は重要だが、それらはワークショップの場で見出せるものだ」。つまり、適切なツールを使って一貫した手法と正確なワークフローに沿って進めることで、真の「ひらめきの瞬間」を生み出せるのだ。ブレインストーミングとチーム内の協力によるアイデア創造が、このプロセスの基盤となる要素だ。例えばBMI Labにおいては、イノベーションに役立つ新たな可能性を見出すための支援ツールとしてビジネスモデルパターン・カードを使っている。

【イノベーションは中期的な投資である】

もちろん各手法の間には多くの違いもある。ここでは違いについての説明は控えるが、理解いただきたい重要なポイントは、適切な手法と専門家の支援があれば、イノベーションを解き放ち、手なづけることができることだ。ここで、明確にしておきたい点が一つある。それは、「経営陣を巻き込まなければ、これらのプロセスや手法が成果を上げることはない」ことだ。イノベーションが企業の戦略ポリシーとして位置づけられているべきなのだ。短期的な成果は期待できない、成功のためには我慢強い継続と一定の損失や失敗の許容が重要なのだ。これは中期的な投資であり、我慢しなければならない。

最後にもう一つ重要な点が、いかなるイノベーション手法も企業内の文化を変えることなく適用することはできないことだ。このような取り組みには新たな考え方や実験的取り組みへの注力が必要とされ、多くのビジネスにおいて経営トップから現場まで幅広い変化が求めらる。Peter Drucker氏は次のように言ったと言われている。「企業文化は、戦略を朝食のように簡単に食べてしまう( “culture eats strategy for breakfast.”)」。ミスやあつれきを恐れ、保守的で、命令に従って仕事をしているような環境では、イノベーション戦略は全く機能しないのだ。

良いニュースは、誰もがイノベーションを実施できることだ。大企業や先端技術を持つメーカーである必要はない。明解で、正確で合理的なビジネスプロセスがあればイノベーションを解き放つことができる。専門家の指導、粘り強い取り組み、そして一定の損失や失敗の許容、そしておそらく企業文化と考え方のある程度の変化が必要になる。その代わりに得られるのは、ビジネスのレベルアップ、新たな市場の模索、そして新たな顧客の獲得だ。

【参考文献】

https://hbr.org/2002/08/the-discipline-of-innovation
https://hbr.org/2015/06/you-need-an-innovation-strategy?referral=03758&cm_vc=rr_item_page.top_right
https://www.fastcompany.com/3020950/what-is-innovation


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。

次回は、『スタートアップ企業から何を学ぶべきか?("What can we learn from startups?")』という、スタートアップのベストプラクティスから大企業が取り入れるべき教訓に関するブログ記事をご紹介予定です。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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