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イノベーションに対する2つの戦略的アプローチ:連続的vs非連続的(“Two strategic approaches to innovation: incremental vs radical”)

イノベーションに対する2つの戦略的アプローチ:連続的vs非連続的(“Two strategic approaches to innovation: incremental vs radical”)

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「イノベーションに対する2つの戦略的アプローチ:連続的vs非連続的("Two strategic approaches to innovation: incremental vs radical")」という、既存事業の延長線上として事業を強化する連続的イノベーションと既存事業とは異なる、あるいは既存事業を破壊する非連続的イノベーションの2つのイノベーションについてのお話しです。では本文をお楽しみください。

イノベーションに対する2つの戦略的アプローチ:連続的vs非連続的("Two strategic approaches to innovation: incremental vs radical")

2017年8月3日
イノベーションに対する2つの戦略的アプローチ:連続的vs非連続的
(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

イノベーションには、連続的と非連続的な2つの補完的なアプローチがある。

イノベーション戦略を立てる際には、多くの決定を下す必要がある。そしておそらく、最初の課題の1つは、2つの異なるアプローチのどちらを選択するかである。連続的なイノベーションの道を選択すべきか?それとも、むしろ非連続的、あるいは破壊的なアプローチを模索すべきか?どちらの選択にもメリットとデメリットがあり、目的も異なる。これら2つの選択肢について、より詳細に見てみよう。

【連続的イノベーション】

これは、多くの既存企業で新製品や新サービスの開発をする際の一般的なアプローチである。通常は以下のようないくつかの目標を掲げる。

1.既存の商品やサービスの売上と利益を拡大する。

2.現在のビジネスモデルを防御する。

3.現在のビジネスモデルと競合しないように、新たなビジネスモデルを生み出す。

このアプローチは非常に人気があり、それは非連続的なイノベーションの実施に伴うリスクを軽減できるからだ。特に、優れた人的資本、リソース、資本を備えた企業にとっては、このイノベーションの道をたどることは非常に容易であり、次のような明確な利点がもたらされる。

1.企業の競争力維持:既存製品から利益をあげつつ、同時に次世代製品の開発を実施可能。

2.新アイデアの市場導入が容易:すでになじみのある製品やサービスの新たな改良版は、顧客にとって理解しやすく、購入しやすい。

3.資金手当ての容易性:同種の製品やサービスの革新継続に必要なリソースやインフラをすでに保有している限り、開発プロセスにかかるコストは莫大にならない。

スマートフォン業界は、この種のイノベーションのよい例である。アップルが最初にiPhoneを設計したとき、それによって新たな巨大市場が創出された。この流れにのって、多数の企業が各社独自の初期型スマートフォンを開発し、市場の一部を手に入れた。このような初期の動きの結果、スマートフォン業界のすべてのテック企業が、自社の製品モデルの旧バージョンから利益を得つつ、次世代版の開発を続けるという開発競争を開始することとなった。開発のためのリソースを一旦入手したら、あとは単に開発サイクルを回し続けて、段階的な改善を続けるだけだ。これによって企業と顧客の親和性は高まり、不確実性が減少し、コスト管理がしやすくなる。少なくとも、誰かが再度市場を破壊するまでは!

もちろん、このアプローチにもいくつかの欠点がある。競合が多数存在する成熟市場では、顧客の注目を集めるのが非常に難しい。そのため、競争力を維持するために、研究開発リソースだけでなく、莫大なマーケティング費用が必須となる。競争に勝つのは容易でなく、ノキアの例は、イノベーション戦略に失敗した結果、大手企業が市場における地位を明らかに失った典型例である。

【非連続的イノベーション】

非連続的なイノベーションは、はるかに複雑な取り組みである。これは複雑なプロセスであり個別のタスクではない。そして、困難で時間がかかり、危険なプロセスを意味する。非連続的なイノベーションを定義する方法はいくつかあるが、おそらくキムとモボルニュによる「ブルー・オーシャン戦略」として表現するのが正確であろう。

ブルー・オーシャン戦略は、市場シェアの一部を争うこととは一線を画する。むしろ、多数の競合から一歩離れて新たな市場を創造することである。この戦略には以下のような明確な利点がある。

1.イノベーターが当該分野のパイオニアであり他に競合がいないのであれば、大勝利をおさめるチャンスが得らえる。これは、あらゆる企業にとって大きなメリットである。

2.この利点により、少なくとも最初の段階では市場全体を占有し、自社が利益を上げられるようにルールを決める機会が得られる可能性がある。

3.新たな市場には、さらなる開発とイノベーションの可能性が大きく広がっている。新たな市場を生み出したとき、通常は非常に多数のさらなるイノベーション機会が得られる。すなわち、成熟市場に比べてはるかに容易に収益を獲得できることを意味する。

とはいうものの、新たなブルー・オーシャンを生み出すことは容易でなく、実際には非常に高いリスクを伴う。新製品を適切なタイミングで適切な人に提供するためには、タイミングが完璧でなければならない。市場導入に時間がかかる可能性があるのは明らかであり、そのために市場成長が妨げられ、また明確な収益見通しの無い状態で非常に大きな投資が必要となる事が一般的である。

この種のイノベーションのわかりやすい例はデジタル カメラである。このデバイスの歴史の始まりは、まさにこの種のアプローチがどのように機能するかを示すものだ。最初にコダックによってデジタルセンサーが発明されたのは1975年であり、1976年に日本のニコン社がカメラに搭載した。当初、デジタルカメラの普及は遅々として進まず、従来業界を脅かすものではなかった。実際、コダック自体はデジタルカメラを真の競争相手とは考えていなかった。物語の結末はよく知られている通りであり、デジタルカメラの普及によってコダックは破綻した、というものだ。デジタルカメラの設計が改良され続け、価格の低下が進み続けた結果、デジタルカメラの普及が急激に拡大し、従来のアナログ技術、及びコダックをはじめデジタルカメラへの適応に失敗したすべての企業はすべて置き換えられてしまったのだ。そして数年後には、デジタルカメラ技術に付随する様々なデバイス、製品、サービスがあふれる新たな巨大市場が誕生した。

しかし、これはテクノロジーに限った話ではない。ビジネスモデル・イノベーションで非連続的なイノベーションを実現することが可能なのだ。このトピックについてより詳しく知りたい方は、ビジネスモデル・ナビゲーターのホワイトペーパーを一読いただきたい。非連続的なイノベーションとは、新しいものを開発することだけでなく、既存の業界の常識を覆すことであることを理解するのに役立つヒントがちりばめられているはずだ。

【自社にとって最も適切なアプローチは何か?】

現在、連続的イノベーションを採用する企業が圧倒的な多数であり、それは自社のリソースと戦略に適しているからである。全く新しいものを生み出し、全く新たな市場を創造するよりも、競争力維持のために製品に新機能を追加したり改善するほうがはるかに容易である。

新興企業や市場参入者にとっては、連続的イノベーションよりも非連続的なイノベーションの方がはるかに面白みがある。なぜなら、成熟市場には存在しない幅広い機会が開かれるからだ。とはいうものの、連続的イノベーションと非連続的イノベーションは、どちらか一方を選択しなければならないというような対立概念ではない。実際、スマートフォンとデジタルカメラの市場は、これら2種類のイノベーションが相互に依存していることをよく示している。最初のiPhone、そして最初のニコン社のデジタルカメラは、それぞれブルーオーシャンの市場機会を生み出したが、その後に企業各社がユーザーニーズに沿って製品を段階的に改善する連続的イノベーションを選択したため、市場は成長し、成熟した。

それをふまえると、自社の目標に応じて適切な道を選択することが可能だ。もし競争力を強化し、市場シェアや利益の増加を図りたいのであれば、着実なペースで連続的イノベーションを実施することを選択すべきである。しかし、その場合には予想もしなかった非連続的なイノベーションを起こす(新たな)競合が現れるというリスクを抱えることになる。それとは反対に、新しい、比類のない、まだ発見されていない新しい市場に飛び込みたいのであれば(そしてリスクを負いたいのであれば)、おそらく新たなテクノロジーを開発してそれを市場に投入するという、非連続的なイノベーションを選択するべきである。いずれにせよ、私たちは選択による結果をあらかじめ覚悟し、それぞれのイノベーション戦略に伴う課題に対処する準備をしておかなければならない。

【参考文献】

https://www.wired.com/insights/2013/11/the-power-of-incremental-innovation/
https://www.forbes.com/sites/peterhinssen/2017/02/06/how-to-secure-radical-innovation-with-a-portfolio-approach/#7a402c7b6336
http://www.designcouncil.org.uk/news-opinion/incremental-vs-radical-what-s-future-product-innovation

ソリューションプロバイダーのビジネスモデル活用の別の例として、B2B事業に長く携わってきた老舗企業がB2Cのソリューション・プロバイダーのビジネスモデルを考案し、新たな収益化の可能性を開拓した例を紹介している、こちらのブログも参照してほしい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。

次回は、『55種類のビジネスモデル・パターンカード:アドオン("BMI´s 55 pattern cards: Add-on")』という、ビジネスモデル・ナビゲーターの特徴である55種類のビジネスモデル・パタンカードの解説ブログ記事をご紹介します。次回のブログ記事でご紹介するのは、製品体系と価格体系を工夫することで市場における独自のポジショニングを確立するという、アドオンのビジネスモデル・パターンです。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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