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製品を起点としたビジネスモデルイノベーション:TICK、スイスのミグロ(MIGROS)社が提供するオンデマンド洗濯サービス【前編】(“From product to business model innovation: TICK, the laundry on demand service from Migros.”)

製品を起点としたビジネスモデルイノベーション:TICK、スイスのミグロ(MIGROS)社が提供するオンデマンド洗濯サービス【前編】(“From product to business model innovation: TICK, the laundry on demand service from Migros.”)

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「製品を起点としたビジネスモデルイノベーション:TICK、スイスのミグロ(MIGROS)社が提供するオンデマンド洗濯サービス【前編】("From product to business model innovation: TICK, the laundry on demand service from Migros.")」という、ビジネスモデル・パターンを活用して既存製品をもとにした新規事業の立ち上げに成功したスイスの大手流通グループであるミグロ社の成功事例についてのお話しの前編です。洗剤の製造販売からランドリーサービスへの「モノ」から「コト」への転換は、プロダクト・アズ・ア・サービス(Product as a Service)あるいはサーキュラー・エコノミーの典型的な事例とも言えます。では、本文をお楽しみください。

2018年2月15日
製品を起点としたビジネスモデルイノベーション:TICK、スイスのミグロ社が提供するオンデマンド洗濯サービス((BMI Lab社ウェブサイト)のブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

ビジネスモデル・イノベーションは、実行チームのスキルやモチベーション、経営陣のサポート、実施の時間などを要する複雑なプロセスである。インターネット上で参考にすべきビジネスモデル・イノベーションの事例を検索すると、通常は新たなビジネスモデルの導入に成功し、高い業績や市場支配力を実現したネットフリックス、アマゾン、ウーバー、その他の巨大テック企業の事例が見つかる。

これらの事例には読む価値があるが、特定の市場の大手テック企業に関するものであり、必ずしも自社がビジネスモデル・イノベーションを進めるうえでの、さまざまな状況が考慮されているわけではない。より具体的には、これらの事例は特定業界の隠れた世界No.1欧州企業が、どうすればイノベーションに成功できるかを示すものではない。

実際には、適切な実行支援とリソースがあれば、ビジネスモデル・イノベーションのプロセスから結果を達成することは可能である。BMILabでは、プロダクト・イノベーションの経験はあるものの、ビジネスモデル・イノベーションに取り組むのは初めてという企業を支援してきた。その一例として、ミベル・グループの革新的なベンチャー事業であるTICKの事例を紹介したい。

新しいアプローチの模索: ミベル・グループの事例

ミベル・グループは、スイス最大の小売業者であるミグロの自社ブランド品を生産するメーカーであり、メーカーとしての一連の機能をすべて備えている。同社はスイスに多数のグループ企業を持ち、幅広い分野で活動し、ヨーロッパの自社ブランド品市場で3番目の市場規模を誇るミグロのグループ企業である。したがって、従業員数約1,200名のミベル・グループは、グローバルな大企業でも中小企業でもない。

ミベル・グループは一般家庭向け消費材の製造に豊富な経験をもつメーカーだが、最終消費者とのより密接な接点を必要としていた。

ミベル・グループは、2012年のMifa AG社とMibelle AG社の合併によって、英国とフランスのいくつかの企業が統合されて誕生したメーカーだ。

  • Mifa AG社は1930年代に粉末洗剤やその他の洗剤、マーガリン、脂肪、油の提供から事業を開始した。
  • Mibelle AG社は1960年代に設立され、パーソナルケアと化粧品の有効成分の製造を専門としている。

同社はプロダクト・イノベーションに精通しており、文字通り毎日3つの新製品を提供開始している。ただし、この種のイノベーションは漸進的イノベーションと呼ばれるものである。同社は重大な問題には直面していたわけではないが、同社のマネージャーたちは以下の2つの問題に注意する必要があることを見出していた。

  1. 同社の主力事業は製品製造と大手小売業者への製品提供であり、最終顧客との密接な接点が欠けていた。同社の事業活動において製品ユーザーとの接点はほぼ無かったため、市場で何が起こっているのかを理解するのは同社にとって困難であった。
  2. 顧客について、同社は顧客の真の問題点を特定済みであった。その問題点とは、たいていの顧客が洗濯は時間と労力の無駄だと考えていたことだ。ミベルは衣類の洗濯に必要なあらゆる製品を提供できたが、時間と労力に関する顧客ニーズを解決できていなかった。

おそらく他の企業であれば、市場の変化や洗濯に関する顧客の行動を気にせず、メーカーとしての市場におけるポジショニングにとらわれていたかもしれない。しかし、ミベル・グループは、この課題に取り組む必要があることを即座に理解したため、リソースを割り当て、明確な目標を持ってビジネスモデル・イノベーションのプロセスを開始した。その目標とは、売上の減少を積極的に防ぐために最終顧客と接点を持つことだった。

課題解決手法によるイノベーション

ミベル・グループは、2015年初めに我々BMILabにビジネスモデル・イノベーション手法を使用してこの課題を解決するための支援を依頼した。そこで当社は、ビジネスモデル・ナビゲーターのプロセスの一連の段階(現状分析、アイデア創造、事業設計)に沿って同社を支援した。

マネージャーたちに我々の方法論と顧客の課題を解説した後、BMIパターンカードを使用したアイデア創造プロセスを実施し、19件のビジネスモデルのアイデアが生み出された。当然のことながら、それらすべての追加検討を進めたわけではない。BMILabとミベル・グループの各チームは何回かのワークショップで、発展性の観点で最も有望と思われる6件を選択した。さらに、ふるい分け、組み合わせ、統合のプロセスを経て、2件のアイデアが選定された。これら2件のうち1つは、最終消費者を対象とした新しいサービ型のビジネスモデルである「M Wash」というアイデアで、2015年末に新たなスタートアップ事業として立ち上げられた。このビジネスモデルが最終的に「TICK」となった。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非問い合わせください。

次回は、「製品を起点としたビジネスモデルイノベーション:TICK、スイスのミグロ社が提供するオンデマンド洗濯サービス【後編】("From product to business model innovation: TICK, the laundry on demand service from Migros.")」として、スイス最大手の流通企業ミグロのグループ企業であるミベル・グループが実際に立ち上げた新規事業の概要とその成功の理由をご紹介します。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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