ビジネスモデルの定義と重要性(“Business Models – Definition and Reason”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI (※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「ビジネスモデルの定義と重要性("Business Models – Definition and Reason")」という、ビジネスモデル・ナビゲーター手法におけるビジネスモデルの定義とその重要性についてのお話しです。では本文をお楽しみください。
2020年1月23日
ビジネスモデルの定義とビジネスモデルの重要性(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
IoT、産業用IoT、またはインダストリー4.0によって予想される変化についての記事や文献を読むと、ビジネスモデルという用語に必ず出くわす。通常、IoTによって期待される変化の成果がビジネスモデルとされている。つまり、ビジネスモデルを革新するか変更する必要があるということだ。しかし、多くの場合、記事や文献に書かれているのはそれだけで、ビジネスモデルの変革をする方法は自分で考え出すしかない。
ある意味、それはもっともだと言える。というのも、ビジネスモデルの変革や創造は容易ではなく、個人レベルおよび組織レベルでの多大な努力が必要とされるからだ。今回のブログは、IoTの文脈でビジネスモデル変革のプロセスを進めていくための道しるべとなるように作成したものである。本文では、IoTがビジネスモデル、さらにはビジネス全体にもたらす変化について、全体像を提供したいと考えている。そのために、これまでに学んだことを説明し、できるだけ多くの事例を紹介し、見落とされがちな、または実行が難しい重要な側面を指摘し、私の理解に基づいてそれらに対する見解を示したい。
ビジネスモデルの拡張性とは何を意味するのか?
読者の理解を深めるために、まずはビジネスモデルについて簡単に説明したい。文献には多数のフレームワークとさまざまな定義(Teece、Chesbrough、Baden-Fuller&Morgan、Magretta、Zott&Amitなど)が記載されているが、そのほとんどは学術的なアプローチであり、現場での実践にはうまく適用できない。
我々のアプローチの中核をなすザンクトガレン・ビジネスモデル・ナビゲーターでは、現場の実践に基くビジネスモデルの記述方法を採用しており、インタラクティブなワークショップに適している。我々のやり方はシンプルで、ビジネスモデル・キャンバスを使った複雑な作業よりも迅速に、より焦点を絞った議論につながる。我々のアプローチは、以下の図のピラミッドの4つの次元(軸)と付随する各種の設問に基づくものだ。
1番目の軸:WHO(顧客は誰か?)
自社事業のロジックを説明する際に、常にビジネスモデルの中心に位置するのが顧客だ。自社がなぜ、どう機能するかは、基盤である顧客のニーズや課題に基づいており、そうでなければ顧客としてお金を払ってくれる人は誰もいないくなるだろう。
2番目の軸:WHAT(何を顧客に提供するのか?)
ここでは提供価値、つまり顧客のニーズを満たすために実際に何が提供されるのか、そしてそれがどのように顧客の問題を解決するのかについて記載する。
3番目の軸:HOW(製品やサービスを提供する方法は?)
価値を顧客に提供するために、企業は自社のリソースと能力を活用し、またバリューチェーン内のパートナーと連携して、特定のプロセスと事業活動を実行する必要がある。
4番目の軸:WHY(収支面で実現性があるか?)
最後に、このビジネスモデルで収益を上げる方法を説明するために、コスト構造と収益源について記述する。
これらの質問に答えることで、(対象とする)会社や事業部門の具体的で明確なイメージが浮かび上がり、イノベーションの基盤となる。4軸のうち2つ以上の軸に変更があった場合には、ビジネスモデル自体の構造が変わったとみなして、ビジネスモデル・イノベーション(BMI)と呼んでいる。WHAT軸だけを変更したら製品イノベーション、HOW軸だけの変更はプロセス・イノベーションとなる。
なぜビジネスモデルが重要なのか?
議論を深く掘り下げる前に、なぜビジネスモデルが、もしくはビジネスモデルで考えることが、実際に企業のイノベーション役立つのかを理解することが重要だと思われる。ビジネスモデルで考えることは、単に古いワインを新しい皮袋に入れただけの話ではないのだ。全体像を理解するために、少し立ち止まって考えてみよう。
何が人類を現在の状態にまで発展させたのかと言えば、その本質は言語である。言語によって、私たちは他の人間と経験、物語、知識を共有することができるようになり、それによって現代社会や世界の基礎を築くことができるようになった。しかし、言語は目に見える外の世界、すなわち我々が作り出した、あるいは作ることができる世界だけに限定されたものではなく、我々の内面、アイデア、想像力を言語を使って表現することもできるのだ。
それによって、法律、宗教、民主主義、科学、お金など、自然界には実体として存在しないアイデアや構造を表現し、共通の理解を生み出すことができる。これらの各種構造が機能するためには、十分な数の人々がそれを信じ、遵守することが前提となる。ユヴァル・ハラリはこれを集合的想像と呼び、集合的想像のおかげで人間は何千、何百万人もの見知らぬ人と柔軟に協力できるのだと主張している。このような協力関係のネットワークの中心には、何らかの架空の物語が存在する。カトリック教徒は新興ゆえにお互いを知らずに一緒に十字軍に参加し、特定の国の兵士は共通の国家を信じているためにお互いのために命を危険にさらし、弁護士は法、正義、人権、そしてそうすることで支払われるお金を信じているため、個人を救ったり制裁したりするために協力できるのだ。
しかし、ハラリは以下のように言っている。「こうしたものは、人々が作り出し、互いに語り合う物語の外には存在しない。私たちの集合的想像の外側には、神も国家もお金も人権もないのだ。」
強力な集合的想像のもう一つの形態が企業である。フォード、LG、グーグルなどの企業が存在しているのは、いったいどういうことなのか?企業には肉体が無いが、財産を所有でき、創業者が亡くなっても(必ずしも)消滅するわけではない。こういった企業の全社員とすべての資産は解雇され、破棄される可能性があるが、我々は企業という存在に同意しているため、そのような企業がこの世界に存在し続けているのだ。
集合的想像によって、地理的あるいはコミュニケーションの境界を越えた協力が可能になるが、これは他の動物にはできないことだ。集合的想像は物理的実体を持たない効率的な概念構造を可能にし、それがコミュニケーション、行動、決定に役立っている。
ビジネスモデルの概念も、そのような集合的想像の一つとして考えるのが一番良いと私は言いたい。ビジネスモデルは抽象概念であるが、やはり抽象概念である企業がどのように機能するかを、より高い次元で説明する。しかしながら、ビジネスモデルの概念により、企業を違った角度から見ることができる。具体的には、企業の全体ロジックを簡単に把握し、重要な部分を認識し、特定の部分の変更について自由に考えることができる。そして最も重要なのは、ビジネスモデルという集合的想像により、発見と洞察を我々が互いに共有し、その内容に基づいて現実世界で行動できることだ。
そのようにして、ドットコムの時代にビジネスモデルが発展したのだ。当時の創業者たちは、潜在的な投資家に対して、自社のビジネスを迅速かつ包括的に説明する方法を必要としていた。そして事業コンセプトに共感する人々は、30ページのビジネスプランではなく、ビジネスモデルという名の短い事業コンセプトに基づいて、それがどう機能するか(または機能しないか)をより簡単に想像し、投資の意思決定を下せるようになったのだ。
人々が新しいアイデアやビジネスモデルを生み出せるように支援する際に最も重要なポイントの1つは、従来の考え方、つまり既存の常識から抜け出す手助けをすることだ。既存の常識とは、彼ら、彼らの会社、彼らの業界、そして彼らが知っている人々が通常行ってきた仕事のやり方、そして彼らが従っている構造やプロセスのことだ。既存の常識はその時点まで非常にうまく機能している一方、彼らの創造性を妨げ、革新する能力を阻害する。私たちが「既存の枠にとらわれず外部視点で考える」という言い方をするのには理由がある。
既存の枠にとらわれて内側からの視点で会社や業界を見て、何がうまく機能し、なぜうまく機能するのかを把握していても、それぞれの部分を上から俯瞰的に見て全体像を把握できていなければ、意義のある何かを達成するための新しくて一貫した方法を思いつくことは通常できない。
ビジネスモデルは、企業や事業部門を「俯瞰的に」見るのに役立つ。ビジネスモデルによって、最も重要な部分が明確になり、問題が特定しやすくなり、そして最も重要なこととして、新しいアイデアを簡単に説明できるようになる。これが、ザンクトガレン・ビジネスモデル・ナビゲーターやビジネスモデル・パターンカードが非常に効果的な理由である。様々なビジネスモデルをわかりやすく抽象化した各種のビジネスモデル・パターンは、ビジネスアイデア創出の基盤として機能する。カードを使って過去の様々なビッグ・ビジネスの成功パターンの蓄積という巨人の肩の上に立てるのだから、それを活用すべきだろう。
DX・イノベーション手法を学ぶ、
マキシマイズのセミナー
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「2020年代のビジネスモデルイノベーション:リーンスタートアップからインパクト・スタートアップへ("Business Model Innovation 2020 - From Lean Startups to Impact Startups")」という、社会課題の解決と経済的な成長を両立するというスタートアップの新たな潮流に関するブログ記事をご紹介予定です
WRITER
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。