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オープンRANに注目する理由
6G(!)からクアッド、楽天モバイルまで、さまざまな要素が重なり合う

オープンRANに注目する理由6G(!)からクアッド、楽天モバイルまで、さまざまな要素が重なり合う

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回は私の友人で北カリフォルニア・ジャパンソサエティの理事であり、米UCバークレーMBAスクールで教鞭をとるジョン・メツラー氏のブログ記事をご紹介します。ブログ記事のテーマは新たな通信基盤であるオープンRANです。ここしばらく、日本では宇宙、AI、半導体などに世間の注目が集中していますが、それらすべてをつなぐ通信技術の動向も決して見落とせません。通信の未来図についてシリコンバレーから日本市場を見る同氏の視点が感じられる興味深いブログ記事を2回にわたってご紹介します。

では本文をお楽しみください。

2024年10月31日
オープンRANに注目する理由 6G(!)からクアッド、楽天モバイルまで、さまざまな要素が重なり合う(ジョン・メツラー氏が"substack上の同氏ブログページ"Connect"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

皆さんこんにちは。以前のブログ記事で、オープンRANに関するレポートを執筆中であることについて触れました。この投稿は、Open RANに関する一連のブログ記事の第1弾です。まずは根本的な問いかけから始めましょう。そもそも、"なぜ私がオープンRANに注目しているのか?"です。2022年後半から2023年春にかけて、私の注意を引いたいくつかの出来事がありました。

  • Verizon社は、2022年第2四半期の収益発表(2022年7月)の際に、同社の一般的な携帯サービスである料金後払い契約の加入者の47%が5G対応のスマートフォンを所有していることを公表しました。さらに2023年9月には、その割合は68%に達しました。すでに加入者の大半が5Gを利用している状況となった今、Verizon社や先進的なワイヤレス市場の他のネットワーク・オペレーターは、いつから6Gに目を向け始めるのでしょうか?
  • 2023年5月、クアッド(Quad:オーストラリア、インド、日本、米国で構成する4か国安全保障対話)の加盟国会議に先立ち、NTIAはクアッド重要新興技術ワーキンググループ(the Quad Critical and Emerging Technology Working Group)の成果物であるクアッド・オープンRANセキュリティ・レポートを発表しました。このワーキンググループは、2022年5月にクアッド参加各国が覚書に署名したことで開始されました。
  • 日本の楽天は、オープンRAN技術を活用した希少な新規参入モバイル・ネットワーク事業者である楽天モバイルの事業展開への投資を賄う資金調達を目的として、一連の金融取引(例:楽天銀行の株式公開)を連続して実行しました。楽天モバイルは、まだ単体として営業利益の黒字化を達成していませんが(つまり楽天の負債は増加しています)、それと同時に楽天モバイルがオープンRAN技術を活用することで、従来のネットワーク・オペレーターに比べて資本効率の高い方法で市場参入していることも事実です。

楽天モバイルのARPUと加入者数、2021年第1四半期~2024年第1四半期。出典:楽天IR資料。左Y軸:加入者数(百万人)、右Y軸:月間ARPU(1米ドル=130円で換算)。

これらをはじめとするさまざまな要因(4つ目の重要な要因は、一般的に米国では通信インフラストラクチャが重要トピックであることが党派を超えた合意事項となっていること(ブロードバンド向け補助金を除く))を踏まえると、今こそオープンRANのトピックを掘り下げる適切なタイミングだと思うのです!

私は2023年春にカリフォルニア大学バークレー校の長期的サイバー・セキュリティ・センターの支援を受けて、次の3つの問いに答えることを目標に掲げて、オープンRANの調査に着手しました。

  • 5Gのサプライヤーを選定中の、あるいは6Gの計画策定を開始しつつあるネットワーク・オペレーターにとって、オープンRANのどんな点が重要なのか?
  • RAN分野における供給側の現状はどうなっているか?政策立案者は、RAN分野におけるサプライヤーの多様性を促進するためにどのような措置を講じることができるか?措置を講じなかったり、散発的に措置を講じたりすると、どのような結果をもたらすか?
  • より上位のレイヤーから見たとき、RAN分野におけるイノベーションの重要性や利点はどんなものか?

実際に、各国政府は6Gを見据え始めています。2024年2月、NTIAは米国を代表して、オーストラリア、カナダ、チェコ共和国、フィンランド、フランス、日本、韓国、スウェーデン、英国の政府と共同で、「6Gに関する原則を支持する共同声明:セキュア・オープン・レジリエント・バイ・デザイン」を発表しました。

標準化団体も6Gに注目しており、3GPPは最初の6Gリリースが2027年になると予測しています。標準化のための事前調査がすでに始まっています。

では、ここまで触れたように楽天モバイルのような新規参入者が活用し、政策立案者たちがネットワークをオープンかつ強固なものにすることを話し合っているとして、実際にオープンRANとは一体何なのでしょうか?

無線アクセス・ネットワーク(RAN)機器とは、スマートフォンなど顧客側の端末(ユーザー機器(UE:User Equipment)と呼ばれることもある)との無線接続リンクを提供し、かつ無線リソース管理も実施する無線通信システム機器を指します。以下の写真は、実際の基地局(ここに写っているのはバークレーのレストランの庭にある設備)です。

Entrepreneurship program happy hour at a local Berkeley restaurant led to a back office discovery - keg storage and generations of small cells, from Cingular (now AT&T), AT&T and T-Mobile. The small cells pay rent, the kegs do not…

- Jon Metzler

Read on Substack
  • オープンRANとは、RANをアンバンドルする、つまり、これまで1つのサプライヤー(Ericsson社など)がシステム全体を1つの固まりとして提供していたものを分離し、各種サプライヤーのハードウェアとソフトウェア間の相互運用性を高める動きを指します。
  • この動きは4Gから始まりました。4Gでは、ベース・トランシーバー・ステーション(BTS)がリモート・ラジオ・ヘッド(RRH)とベース・バンド・ユニット(BBU)の2つの要素に分割されました。やる気のあるインテグレーターやオペレーターは、その気になれば異なるサプライヤーのRRHとベースバンド製品を統合できるのです(実際に、楽天モバイルは4G展開でこれを実行し、Nokia社とAltiostar社の機器を組み合わせて使用しています)
  • 5Gでもこのような機能細分化の流れは継続しており、RANは無線ユニット(RU)、分散ユニット(DU)、制御ユニット(CU)の3つの製品分野に分割されています(以下のNokia Networks社の図を参照)。

オープンRANを取り巻くより幅広いトピックにおいては、複数の用語が使われています。

  • オープンRAN:一般的な用語としては、オープンRANとは、RANを無線ユニット(RU)、分散ユニット(DU)、および制御ユニット(CU) 製品に分離することを指します。技術的には、これらの製品間のインターフェイスを標準化して公開することを意味します。
  • クラウドRAN:クラウドRANとは、RANの各要素をクラウド上に設置することを指します。
  • 仮想RAN(vRAN):仮想RAN(vRAN)とは、DUやCU製品の仮想化(すなわちvDUやvCU)を指します。仮想RAN製品は、2022年のRAN市場全体の約2.5%を占めました。

このように命名法が確立され、2023年春にはこれが世界的な注目を集める話題であることが明らかになりました。報道によると、バイデン大統領は、クアッドのメンバーだけでなく、サウジアラビア、ブラジル、パラオ、インドネシア、フィリピンなどの国家元首との会談でオープンRANの話題を取り上げました(ワシントンポスト紙のギフトリンク。バイデン大統領は通信インフラの売り込みモードのときにトレードマークのパイロット用サングラスを着用していたのだろうか?)。

次に、モバイル業界の背景情報について少し説明したいと思います。

RANにおけるイノベーションが重要な理由 - 今日のモバイル業界

1973年、モトローラの幹部であったマーティン・クーパー氏が、モバイル・バッテリー駆動のモトローラ社製の携帯電話”DynaTac”を使用して、マンハッタンの路上で初めて携帯電話で通話をしてから50年以上が経ちました。携帯電話そのものの起源はさらに遡り、AT&T社が初めて車内ユーザーを対象にした携帯電話サービスを発表したのは1946年でした。それを踏まえると、1973年4月にクーパー氏がかけた電話が、当時AT&Tベル研究所の研究責任者だったジョエル・エンゲル氏宛だったことは象徴的な出来事でした。

50年後のマーティン・クーパー氏

クーパー氏のはじめての通話以降、モバイル業界は世界中で開花しました。世界的なモバイルネットワーク事業者協会のGSMアソシエーション(GSMA)は、2023年末の時点で、世界には86億個のSIM接続を使用する56億人のユニーク・モバイル加入者がおり、さらに35億個のインターネット接続デバイス(IoT接続)のネット接続が携帯電話回線でサポートされていると推定しています。GSMAはさらに、モバイル・テクノロジーとモバイル・サービスが世界のGDPの5.4%、つまり5.7兆ドルに貢献し、そのうち1.55兆ドルはネットワーク事業者、インフラストラクチャと機器、そしてコンテンツとサービスで構成されるモバイル・エコシステムから直接もたらされたと推定しています。

近年、全世界の加入者数の増加率は鈍化していますが、加入者総数は依然として年間1億5,000万件から2億件のペースで増加しています。GSMAは、2023年時点で全世界の100人あたり111件のモバイル加入者数を予測しています。将来的には、GSMAは2030年までにモバイル加入者数が63億人に達すると予測しています。これは、予測される世界人口86億人の約73%に相当します。

携帯電話とモバイル・インフラストラクチャの両方に電源へのアクセスが必要なため、残りの20億人を超える潜在的な加入者に接続できるかどうかは、サービスの可用性と手頃な価格だけでなく、ネットワークと携帯電話の電源の可用性にも左右されます。

ネットワーク技術ロードマップ

GSMAは、2030年までに世界の接続の56%が5G接続になり、北米の加入者回線の90%が5Gになると予測しています。ネットワーク・オペレーターは通常、10年に1回のペースでネットワーク・テクノロジー(世代、例: 1G、2G、3G など)をアップグレードし、その間に中間世代への段階的なアップグレード(例:2.75G、3.5Gなど)を実施します。世代と代表的なサービスを以下に紹介します。

  • 1G:1973年にマーティン・クーパー氏がAT&T社に電話をかけるために使用した「Motorola社DynaTac」は、その後1980年代に1G(第1世代)電話端末として販売されました。1Gはアナログ音声サービスをサポートしていました。米国のAMPS、ヨーロッパの一部のNMT、英国のTACS など、複数の1Gシステムがありました。1G音声システムは暗号化されていませんでした。
  • 2G:1991年に、GSMサービスがフィンランドで初めて開始されました。2Gでは通話に暗号化が追加されました。音声に加えて、2Gではテキスト・メッセージと、後に軽量データ・サービスがサポートされました。2G規格には複数の種類があり、ヨーロッパではGSM、米国ではTDMAとCDMA、日本ではPDCが2Gの通信規格でした。2007年に発売された最初のiPhoneは、2.75GまたはEDGE対応の携帯電話として提供されました。
  • 3G:NTT DoCoMo社は2001年に日本で3Gサービスを開始しました。3Gの登場で、モバイルWebサービスや、RIM社のBlackBerryなどの初期世代のスマートフォンが実現可能となりました。2008年に発売された2代目のiPhoneは、初の3G対応iPhoneでした。HSPA(3.5G)などの3Gの中間世代での拡張機能により、より堅牢なデータ・サービスが実現しました。
  • 4G:TeliaSonera社は2009年にノルウェーで最初の4Gサービスを開始しました。Verizon社は2010年に米国で4Gサービスを提供開始しました。4Gネットワークは、モバイルOSプラットフォームと現行世代のスマートフォンの登場と相まって、今日のモバイル・アプリ経済を可能にしました。
  • 5G:KT社は2018年の冬季オリンピックに合わせて韓国でサービスを開始しました。米国では、2019年に最初の5Gサービスが開始されました。5Gネットワークでは、遅延やネットワーク応答時間が短縮され、企業向けアプリケーションや産業用アプリケーションなど、より多様なアプリケーションが可能になります。

この秋の初めに「ネットワーク経済の戦略」の授業でこれらのマイルストーンのいくつかを紹介したのでご参考までに掲載します。

今後の展望:

  • 6G:2030年までに、先進ワイヤレス市場の通信事業者が6Gサービスを開始する可能性が高いです。中国、フィンランド、インド、日本、韓国、米国を含むさまざまな政府が、6G標準の開発とネットワーク展開で主導的な役割を果たす意向を示す発表を行っています。

今後のブログ記事では、以下の点について取り上げる予定です。

  • RAN市場における競争の状況(一言に要約すると、依然として市場の集中度が高い!)
  • Nokia社、Ericsson社、Huawei社、Samsung社、ZTE社などおなじみの通信機器サプライヤー以外に新たなRANサプライヤーが存在するか?
  • ワイヤレス・インフラストラクチャ分野のスタートアップが成熟するまでにどのくらいの時間がかかるか?

ご質問やご意見をお待ちしております。

ハッピーハロウィン!

ジョン


いかがでしたでしょうか。ジョン・メツラー氏の取り組みにご興味の方は、以下のブログページから同氏に直接ご相談ください。

次回は、Open RANに関するジョン・メツラー氏のブログ記事の続編をご紹介予定です。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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