スタートアップ協業の仕組みを機能させる方法: 創業者にとって付き合いやすい企業になりましょう。("Making Any Startup Engine Work: Be Founder Friendly!")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も2025年末に発売予定の英語書籍『OPEN INNOVATION WORKS』の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、及びエスター・ゴンス氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「スタートアップ協業の仕組みを機能させる方法: 創業者にとって付き合いやすい企業になりましょう。("Making Any Startup Engine Work: Be Founder Friendly!")」という、スタートアップ企業経営者との付き合い方についてのお話です。では本文をお楽しみください。
スタートアップ協業の仕組みを機能させる方法: 創業者にとって付き合いやすい企業になりましょう。("Making Any Startup Engine Work: Be Founder Friendly!")
2024年3月13日
ダイアナ・ジョセフ氏
スタートアップ協業の仕組みを機能させる方法: 創業者にとって付き合いやすい企業になりましょう。(書籍の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、エスター・ゴンス氏が"OPEN INNOVATION WORKSウェブサイト"に掲載したブログ記事を、著者らの許可を得て翻訳、掲載しています)
変化の激しい環境において、オープンイノベーションは企業の長期的な健全性にとって欠かせないものです。そして、スタートアップとのパートナーシップは、非常に効果的なオープンイノベーションの手段となります。大企業とスタートアップの協業は「象とネズミ」のような関係ですので、象であるあなたがネズミを踏まないように十分注意しなければなりません。ネズミを踏んでしまうのは簡単ですが、そこから関係を修復するのは困難です。そして、それはネズミ(=スタートアップ)のためだけではありません。覚えておいてほしいのは、ネズミたちは互いに知り合いどうしだということです。スタートアップの創業者たちは、あなたの会社と過去に協業したことのある知り合いに「どんな対応だったか」を必ず聞くはずです。もし「ネズミを踏みつぶすひどい企業」という評判が立てば、スタートアップとの提携は難しくなり、スタートアップを活用して未来を切り開くこともできなくなります。
創業者にとって付き合いやすい企業であるために守るべき約束ごとは、たった3つだけです。「しっかりとコミュニケーションを取ること」「パートナーの時間を無駄にしないこと」「自社のブランドで喜びだけをもたらすこと」です。具体的には以下のようになります。
1.コミュニケーションを怠らないこと:
・わかりやすくすること: パートナー候補が、パートナーシップを前に進める担当者やプロセスを簡単に理解できるようにしておきましょう。
・きちんと対応すること:創業者には返信までの目安となる期間を伝え、それを守るようにしましょう。遅れが生じた場合には、必ず一報を入れてください。本当にノーだと思うときにはノーと言い、イエスのときにだけイエスと言うようにしましょう。また、たとえパートナーシップに至らなかった場合でも、真摯なフィードバックを提供することが大切です。
2.パートナーの時間を無駄にしないこと:
・時間や資料作成への対価を支払うこと:多くの場合、本格的な提携に進む前に、パートナーに何ができるのかを確認する必要があります。その際に、自社用の資料やカスタマイズ版の企画案の作成などで多くの時間を費やす必要があるのであれば、きちんと報酬を支払いましょう。こうした対応はあなたの評判を高めるだけでなく、パートナーにとっては大きな意味を持つ金額であり、あなたにとっては誤差のような少額(数百ドルから多くても数千ドル程度)です。通常は会社のクレジットカードで対応できる範囲で、大掛かりな調達プロセスも不要です。
・パートナーが自社と協業する際に直面する社内プロセスを把握しておくこと:これは非常に重要です。なぜなら、企業のイノベーションチームは人の入れ替わりが激しく、新任のリーダーはパートナーシップに関する知識が不十分なことがあるからです。たとえば、社内のベンダー登録にどれだけの時間がかかるか、誰の承認が必要かなどを把握していないことがあります。新規ベンダーとの取引開始には数ヶ月から、場合によっては1年かかることもあり、その間に資金不足でスタートアップが倒産してしまうリスクもあります。だからこそ、イノベーションチームは外部パートナーにあらかじめ伝えるべき情報を把握しておく必要があります。さらに理想を言えば、スタートアップとの協業のための迅速な手続きルートを用意し、確実に期限通りに支払いを行う体制を整えることが望ましいです。
3.自社ブランドで相手に“メリットだけ”をもたらすこと:
・自社ブランドがパートナーに与える影響について、特に投資家対応や市場での活動においてどのような意味を持つかを、十分に理解し、意図的に考慮すること:特に、株式を保有し、スタートアップのキャップテーブル(株主構成)に名を連ねる場合は注意が必要です。パートナーにとって、あなたのブランドと強く結びつくことが有益かどうかを慎重に検討しましょう。それによって、信頼性が高まり、ビジネスチャンスが広がるのであれば、積極的に提携について公表し、パートナーにもそのことを発信することを許可し、自社ブランドの素材や資産を活用できるように支援しましょう。一方で、あなたのブランドとの強い関係がパートナーにとって不利になる可能性もあります。たとえば、スタートアップに対して多額の出資をしていると、競合企業が投資を避けたり、他の投資家が「このスタートアップはいずれ買収される」と考えて敬遠するようなことがあるかもしれません。こうした点を踏まえて、スタートアップとの関係構築や情報発信の方法を考えていくことが重要です。
・独占的な関係を求める場合は慎重に行うこと:有望なパートナーに自社との関係を優先してもらいたいと考えるのは自然なことですが、一定の制限を設けることが肝心です。過度な独占要求は、パートナーの成長の妨げになる可能性があります。たとえば、以下のような制限を検討するとよいでしょう。
1)期間の限定: 独占関係は一時的なものにする。
2)地域の限定: 一定期間、自社の所在地域(都市、州、国など)においてのみ独占的パートナーになるよう依頼する。
3)業界の限定: 一定期間、自社が属する業界においてのみパートナーになるよう依頼する。
いかがでしたでしょうか。弊社では、シリコンバレーや欧州のスタートアップとのアライアンスによるオープンイノベーションの支援サービスである「テクノロジーソーシング」サービスを日本企業向けに提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回のブログは「あなたの会社がCVCを設立すべき(または設立すべきでない)7つの理由("Seven Reasons Why Your Firm Should (or Shouldn’t!) Open a CVC")」についてのお話です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。