企業アクセラレーターの仕組み("How a Corporate Accelerator Works")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も2025年末に発売予定の英語書籍『OPEN INNOVATION WORKS』の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、及びエスター・ゴンス氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「企業アクセラレーターの仕組み("How a Corporate Accelerator Works")」という、企業アクセラレーターの概要・特徴と一連の工程についてのお話です。では本文をお楽しみください。
企業アクセラレーターの仕組み("How a Corporate Accelerator Works")
2025年3月17日
ダイアナ・ジョセフ氏
企業アクセラレーターの仕組み(書籍の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、エスター・ゴンス氏が"OPEN INNOVATION WORKSウェブサイト"に掲載したブログ記事を、著者らの許可を得て翻訳、掲載しています)
スタートアップ・アクセラレータープログラムは、次の3つの基本的な慣習によって定義されます。1つ目は、選ばれたスタートアップが「コホート(同時期に参加するグループ)」として教育プログラムに参加すること、2つ目は、このプログラムが期間限定で行われ、通常は「デモデイ」と呼ばれる成果発表イベントで締めくくられること、そして3つ目は、組織間で何らかの対価のやり取りがあり、一般的にはスタートアップの株式の一定割合と引き換えに資金が提供されることです。
Yコンビネーターのようなサードパーティ型のアクセラレーターと比べて、企業などの大規模組織が運営するスタートアップ・アクセラレータープログラムには、特有の利点がいくつかあります。大規模組織は、該当する業界に必要なあらゆる能力を備え、現場の最前線で積極的に活動している存在です。たとえば、物理的な作業スペースや設備、備品、ブランディングへのアクセス、コンプライアンスに関する内部知識、顧客基盤、専門的な知見などは、創業者にとって非常に価値の高い資源です。このように、企業主導のアクセラレーターが提供する非金銭的なリソースは、資金提供と同等、あるいはそれ以上の価値を持つ場合があります。
企業側はこのプログラムから何を得られるのでしょうか?一番のメリットは、スタートアップが魅力的な技術や市場を探求していく様子を、最前列で間近に見ることができるという点です。アクセラレータープログラムでは、スタートアップが限られた期間内でイノベーションと協業を推進しながら、スポンサー企業に対して貴重な知見や株式取得という形のリターンをもたらします。
パートナーシップを通じてイノベーションを加速する
コーポレート・スタートアップ・アクセラレータープログラムは、既存の企業とアーリーステージのスタートアップの間に、強力な価値の交換を生み出します。企業は、選定したスタートアップに対するリソースやメンタリング、業界とのネットワークの提供を通じて、貴重な知見を得ることができます。一方で、スタートアップは成長に必要な支援を受けることができます。
アクセラレータープログラムの利点
企業にとってのメリット:
- 学習機会:最新技術や市場動向に関する直接的な知見の獲得
- 文化的インパクト:起業家精神や革新的なアプローチへの理解促進
- ブランド認知度の向上:顧客、パートナー、業界に対するイノベーションへの積極姿勢を発信
- 投資の可能性:有望なスタートアップ企業の株式取得による経済的リターンの機会
スタートアップ企業にとってのメリット:
- 業界専門知識:業界のベテランのもつ知見へのアクセスやメンタリングの機会
- 物理的リソース:ラボや機器、ワークスペースなどの設備利用の機会
- ネットワークアクセス:顧客、投資家、パートナーとの関係構築の機会
- 事業開発支援:ビジネスモデルの検証やサービス改善に向けた体系的サポート
アクセラレータープログラムの実施工程
1. 選考
コーポレートアクセラレータープログラムでは、企業パートナーの関心に合致するスタートアップを広く募集します。スタートアップの創業者が応募し、技術力、チームの構成、そして双方にとって重要な課題への対応可能性などを評価する選考プロセスを経て、最も有望なチームが選ばれます。
2. レジデンシー
選抜されたスタートアップ企業は、通常3〜10か月の一定期間、アクセラレータープログラムに参加し、以下のような支援を受けます。
- 物理的なワークスペース
- 専門的な機器やリソースへのアクセス
- 教育プログラム
- 業界の専門家によるメンタリング
- 潜在的な顧客や投資家とのネットワーク
3. 開発
プログラム参加期間中、スタートアップはビジネスモデルの検証、製品のブラッシュアップ、そしてスケールアップに向けた準備に取り組みます。企業パートナーは、スタートアップの歩みから学びつつ、適切なガイダンスをスタートアップに提供します。
4. 卒業
プログラムの締めくくりとして、スタートアップが投資家やパートナー、顧客にこれまでの成果を発表する「デモデイ」が行われます。このイベントは、スタートアップにとって追加の資金調達や新たなパートナーシップのきっかけとなる貴重な機会になります。
5. 過去のプログラム修了者との連携
プログラム修了後に、スタートアップ企業向けのプログラム修了者ネットワークに参加してもらい、継続的なサポートを提供することで、企業パートナーとスタートアップのより深いパートナーシップ構築の可能性を高めます。
成功の測定
スタートアップ企業の指標:
- 投資確保
- 売上拡大
- 顧客獲得
企業パートナーの指標:
- 市場に関する知見の獲得
- 文化的インパクト
- ブランド認知度の向上
- 投資収益(財務面および戦略面)
アクセラレータープログラムはあなたの会社に適した施策と言えるでしょうか?
アクセラレーターは、次のような場合に最も効果を発揮します。
企業にとって:
- 特定のイノベーション分野における学習機会の追求している場合
- 業界特有の価値あるリソースを提供できる場合
- 中長期的なリターンへの忍耐力がある場合
- イノベーション・エコシステムにおける高い認知度の獲得を重視している場合
スタートアップにとって:
- 事業開発の初期段階にある場合
- 業界特有のリソースや専門知識を活用したい場合
- コラボレーションおよびメンターシップに対して前向きな姿勢を持つ場合
- 企業パートナーの戦略的関心と一致した成長目標を持つ場合
アクセラレータープログラムは、限られた期間の中でイノベーションと協働を促進しつつ、スポンサー企業にとっては知見や株式取得という形で価値を生み出します。
いかがでしたでしょうか。弊社では、シリコンバレーや欧州のスタートアップとのアライアンスによるオープンイノベーションの支援サービスである「テクノロジーソーシング」サービスを日本企業向けに提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回のブログは「アルファベットの羅列をパートナーシップの実証工程に転換する("Turn Your Alphabet Soup into a Prove-Out Journey")」という、スタートアップとのパートナーシップの実証工程における各種の用語や契約についてのお話です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。