企業アクセラレーターが今後さらに重要になるかもしれない4つの理由("Four Reasons Why Corporate Accelerators Might Be Even More Important Now")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も2025年末に発売予定の英語書籍『OPEN INNOVATION WORKS』の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、及びエスター・ゴンス氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「企業アクセラレーターが今後さらに重要になるかもしれない4つの理由("Four Reasons Why Corporate Accelerators Might Be Even More Important Now")」という、スタートアップと既存事業を持つ企業とのオープンイノベーションを推進する企業アクセラレーターの重要性についてのお話です。では本文をお楽しみください。
企業アクセラレーターが今後さらに重要になるかもしれない4つの理由("Four Reasons Why Corporate Accelerators Might Be Even More Important Now")
2023年11月3日
ダイアナ・ジョセフ氏
企業アクセラレーターが今後さらに重要になるかもしれない4つの理由(書籍の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、エスター・ゴンス氏が"OPEN INNOVATION WORKSウェブサイト"に掲載したブログ記事を、著者らの許可を得て翻訳、掲載しています)
ブレット・カルホーン氏は、ノーコード開発の普及や、質の高いオンラインでの創業者向けガイダンスが無料で利用できる現在において、一般的なアクセラレーターの時代は終わりを迎えつつあると主張しています。簡単に言えば、一般的なアクセラレーターがスタートアップの創業者に対して、エクイティを差し出すだけの価値を十分に提供するのは難しくなっているということです。
彼の指摘は的を射ているかもしれません。しかし、その一方で──
企業アクセラレーターは、これからの時代において、以前にも増して重要になる可能性があります。
スタートアップの創業者にとって、適切な企業パートナーと緊密に連携することの価値は常に変わらないため、企業アクセラレーターの重要性が失われることはありません。実際、カルフーン氏が指摘するように、一般的なアクセラレーターの存在感が薄れつつあるのであれば、その空白を埋める形で企業アクセラレーターがますます台頭する可能性があります。
研究者のヤエル・ホックバーグ氏とスーザン・コーエン氏は、アクセラレーターを「スタートアップ企業向けの、コホート型で期間が限定されたプログラムであり、学習の機会や人脈構築を提供し、最終的にデモ・デイで締めくくられるもの」と定義しています。通常は、株式と引き換えに資金が提供されます。アクセラレーターは成長への道筋となることを目的としており、スタートアップの製品やサービスを十分な数の顧客に届けることで、そのビジネスの価値を実証(あるいは反証)する役割を果たします。一般的なアクセラレーターと企業アクセラレーターは、こうした特徴や目的を共有していますが、企業アクセラレーターの運営は、重要かつ本質的な点で一般的なアクセラレーターとは異なります。
第一に、企業アクセラレーターでは、運営側の企業そのものが、すでに創業者が求めている理想的なパートナーである場合が多いです。一般的なアクセラレーターが提供するのは、投資家の紹介や、ビジネス・法律に関する専門知識、初期顧客との接点などですが、企業アクセラレーターは、それらの役割の一部またはすべてを自ら担っています。一般的なアクセラレーターが創業者の歩む道に敷かれた「踏み石」のような存在であるのに対し、企業アクセラレーターは「目的地」そのものと言えます。
第二に、企業は、VCや一般的なアクセラレーターには持ち得ない知見を備えています。長年の経験と多数の人材により、インターネット上で無料に得られるものではない情報やスキルを保有しています。たとえば、関連業界の顧客についての深い理解、規制やコンプライアンスに関する知識、科学技術やサプライヤーに関する実務的な知見などです。こうした企業のすぐそばに身を置けることは、非常に大きな価値につながります。
第三に、創業者のキャップテーブルに適切な企業ブランドが入っていることは、スタートアップの価値を高める大きなメリットになります。ただし注意が必要なのは、不適切な企業ブランドがキャップテーブルに載っていると、他の投資家の関心を下げてしまう可能性があるという点です。株式を受け入れるかどうかは、そのタイミングを含めて慎重に判断することが大切です。
第四に、企業アクセラレーターは、一般的なアクセラレーターのように創業者のエクイティを必ずしも希薄化させるわけではありません。実際、多くの企業アクセラレーターはエクイティフリー(株式取得なし)で運営されています。これは、企業アクセラレーターの主な目的の一つが「学習」であるのに対し、一般的なアクセラレーターの主な目的が常に「成長」であることに由来しています。
もしあなたが企業のリーダーでしたら、一般的なアクセラレーターに対する最近の逆風に気後れして、企業アクセラレーターの取り組みを諦めないでください。スタートアップから学べることは多くあり、アクセラレーターはそれを学ぶための非常に有効な手段になり得ます。
カルフーン氏は、アクセラレーターは変化に適応するか、さもなければ消滅するしかないと主張しています。というのも、アクセラレーターの数が多すぎるうえに、スタートアップ成功の本質と無関係な努力を過剰に求めることがあり、さらに彼らが提供しているものの多くは、すでに無料で手に入るようになってきているからです。
一方で、企業アクセラレーターは、適切に運用すれば非常に大きな価値をもたらします。それぞれが特定の企業へのアクセスを提供し、その内容は非常に貴重でユニークです。ただし、運用を誤ると、一般的なアクセラレーターと同様か、それ以上に悪い結果を招くこともあります。その見極め方については、近日公開予定の関連投稿をご覧ください。
慎重に設計して、ぜひ楽しんで取り組んでください!
いかがでしたでしょうか。弊社では、シリコンバレーや欧州のスタートアップとのアライアンスによるオープンイノベーションの支援サービスである「テクノロジーソーシング」サービスを日本企業向けに提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回のブログは「スタートアップ協業の仕組みを機能させる方法: 創業者に優しくしましょう。("Making Any Startup Engine Work: Be Founder Friendly!")」という、スタートアップ企業経営者との付き合い方についてのお話です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。