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画期的なビジネスモデルで気候変動と戦う方法(“How to fight climate change with innovative business models”)

画期的なビジネスモデルで気候変動と戦う方法(“How to fight climate change with innovative business models”)

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「画期的なビジネスモデルで気候変動と戦う方法("How to fight climate change with innovative business models")」という、ビジネスモデル・イノベーションが気候変動に対してどのように役立つのかに関するBMI Lab社の見解に関するお話しです。では本文をお楽しみください。

画期的なビジネスモデルで気候変動と戦う方法

2021年4月30日
画期的なビジネスモデルで気候変動と戦う方法
(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

驚くには当たらないのだが。。。:気候変動は人類が直面する最大の課題の一つであり、干ばつ、洪水、海面上昇、海洋酸性化、生物多様性の喪失など、様々な悪影響を及ぼしている。問題の複雑性のため、気候変動を解消する簡単で即効性のある解決策は存在しない。専門家は温暖化ガス(GHG:グリーンハウスガス)の排出が気候変動の原因の一端となっていることは明らかだと口をそろえる。

したがって、脱炭素化は気候変動への対策の重要な一手であると言え、家庭においても役員会議室においても脱炭素というトピックへの注目度が増している。気候変動に関する政府間パネル(IPCC:the Intergovenmental Panel for Climate Change)によれば、地球温暖化を産業化の以前に対して1.5度以内に抑えるためには、21世紀の半ばまでにカーボンニュートラルを達成しなければならない。この目標はパリ協定で定められ、世界195か国によって署名された。しかし、このような動きはビジネスにとって何を意味するのだろか?そして全体の枠組みにビジネスモデル・イノベーションはどのようにフィットするのだろうか?

このブログ記事では、ビジネスモデル・イノベーションが我々の社会の脱炭素化を推進する取り組み及び世界経済にどう役立つのか、さらには気候変動との戦いにどう貢献できるのかについての、我々の見解を共有したい。出発点をそろえるために、まずは意識合わせとして中核コンセプトと定義の話から始めたい。

定義:脱炭素化とカーボンニュートラルとは何を意味するのか?

簡単に言うと、カーボンニュートラルは目標であり、そのための手段が脱炭素化である。

・『カーボンニュートラル』とは、大気中への炭素の排出と大気中から地中や海底への炭素の吸収とのバランスを指す。大気中から二酸化炭素を取り除き貯蔵することを炭素隔離と呼ぶ。

・エネルギーの観点での『脱炭素化』とは、化石燃料に依存したエネルギー源からクリーンなエネルギー源に転換することを通じてエネルギー源からの二酸化炭素を削減あるいはゼロにすることだ。脱炭素化には互いに絡み合い支えあう次の3つの柱がある。
-電化
-電気の脱炭素化
-エネルギー効率化

脱炭素化の手段

上述したとおり気候変動は複雑な問題であり、その解決策の一部である脱炭素化も単純ではない。脱炭素化にかかわる範囲は新技術から新ビジネスモデル、さらには消費者や社会の受け入れ状況にまで及ぶ。

脱炭素化には以下が含まれる。

1)従来型および再生可能エネルギーによるバリューチェーン全般にわたるエネルギー効率の向上

2)経済活動を可能な限り電化する

3)発電と送配電の脱炭素化

4)製品やサービスの生産における脱炭素化(例:サーキュラーエコノミーを通じた取り組み)

新技術の果たす役割は何か?

二酸化炭素回収・貯留(CCS)、グリーン水素、新たなエネルギー貯蔵ソリューションのような新技術に加え、例えばAI、ブロックチェーン、IoTのようなデジタル化技術など、技術は気候変動との戦いのカギを握ると期待されている。しかしながら、デジタル化が約束する効率向上が世界のカーボン排出の削減につながるかどうかは不透明であるため、デジタル技術のもたらす影響については喧々諤々の議論が行われている。

欧州委員会による説明の通り、「脱炭素化成功の要素は技術だけではない。新技術や新ソリューションの導入には技術以外の面への注意も必要だ(例:消費者や社会の受け入れ状況)。このことが示すのは、脱炭素化には包括的な取り組み、すなわち新技術の出現だけでなく、新たなビジネスモデル、法規制を含む取り組みが必要であり、そしてこれらにはデジタルという側面が非常に大きな影響を及ぼす。」

なぜ脱炭素化が重要なのか?

気候変動は、個人、企業や団体、そして全世界の国々に影響を及ぼす。したがって、すべての人や組織が脱炭素化を取り組み課題とすべきである。以下の数字が示す通り、近年では市民社会、国内及び国際的な政策立案者、そして企業の分野のそれぞれで動きがみられる。

●市民社会

-2018年の調査によれば、EU市民の93%が、気候変動を深刻な問題と考えている。
-「未来のための金曜日(Fridays for Future)」、「絶滅への反逆(Extinction Rebellion)」など、気候に関する市民運動が盛り上がっている。
-特に若手人材はサステナビリティ意識の高い企業を就職先として選ぶようになっており、企業に気候変動に関する問題に対する活動を促している。

●政策決定者

-2015年のパリ協定
-2019年の非財務情報開示指令(NFRD:Non-Financial Reporting Directive)
-2020年の欧州グリーンディール
-直近では2021年4月のの欧州気候法(※ブログ記事原文の執筆時には制定待ちであった)

●ビジネス

-2020年のデロイトの調査結果として、エネルギー及び資源産業の企業幹部のうち89%は、化石燃料への依存を削減する戦略を既に制定済みあるいは作成中であると報告している。
-金融業界では気候に関連する事業機会への注力度が高まっており、例えば37兆ユーロの資産を持つ300以上の投資家が、「気候変動に関する投資家グループ(IIGCC:the Institutional Investors Group on Climate Change)」という団体に加入した。
-アマゾン、アップル、マイクロソフト、欧州スカイ・グループなど、特にICT分野では多くの企業が排出削減を公約している。
-その他の産業も追随している。(例:BMWは2030年までに排出量を1/3に減らすことを発表し、その目標達成に役員のボーナスを紐づけている。

注目企業:マイクロソフトによる炭素の排出に関する誓約

2030年までにサプライチェーンを含めてカーボンネガティブを達成することなど、マイクロソフトの計画をより詳細に見てみたい。下記のグラフを見れば、炭素排出のほとんどがサプライチェーン(グレーの部分)によるものだとわかる。2030年までに、同社は炭素除去の取り組みと炭素排出分をバランスさせる予定だ。マイクロソフトはさらに一歩踏み込んで、2050年までに過去からの同社のCO2排出の累計をすべて埋め合わせることを目論んでいる。

企業各社による炭素排出の測定方法

上の例ではマイクロソフトのカーボン・フットプリントについて触れた。自社の炭素排出について語るとき、企業は「カーボン・フットプリント」について語ることが多く、いわゆる「カーボン・ハンドプリント(自社の製品を顧客が使用することで排出が回避される炭素の量)」を見逃しがちだ。これら2つの指標について簡単に解説したい。

-「カーボン・フットプリント」とは、特定の個人、企業・団体などの組織、あるいは国や自治体などのコミュニティが、その活動の結果として大気中に放出する二酸化炭素の量を指す。

-「カーボン・ハンドプリント」とは、自社の顧客がカーボン・フットプリントを削減する役に立つ製品やサービスを企業が提供することで、環境に与える好影響を指す。つまり、自社の顧客が削減したカーボン・フットプリントがカーボン・ハンドプリントである

もしあなたの所属する企業や団体が自社のフット・プリントの削減に集中していたら、既に素晴らしい第一歩を踏み出していると言える。さらに貢献度を最大化するために、自社の顧客が脱炭素を進める支援をする方法についても検討することをお勧めしたい。

なぜ、報告以外のことを事業として気にする必要があるのか?

脱炭素化は様々な分野や地域で多数の事業機会を生み出す。エネルギー、運輸、農業、工業、建設などの化石燃料に深く依存した産業には以下の機会がある。

-資源効率の向上

-排出の無いエネルギー源

-フットプリントやハンドプリントを削減する新製品・サービス

-新たな市場の登場

-資金を得やすくなる

上記だけでなく、カーボンニュートラルへの移行によって、以下のような目に見えにくい事業機会がすべての業種の企業に生み出されている。

-リスク管理:より排出量の低い代替製品やサービスで、既存の製品・サービスを置き換える

-新たな提携機会:提携先とのパートナーシップの活用機会(例:共同投資の可能性やサプライチェーン全体を通じたパートナーシップの構築の可能性)

-積極的な広報:外部の目に対して、さらには人材や株主に対して、積極的なポジションに自社を位置づけ

では、ビジネスモデル・イノベーションがどう関係するのか?

脱炭素化は、社会やビジネスの重要な変革ドライバーであり、既存の事業の仕方やビジネスモデルに大きな影響を及ぼす。したがって、脱炭素化に伴う新たな事業機会を活かすためには画期的なビジネスモデルが要求される。

ビジネスモデルの視点からは、このことはビジネスモデルの従来的な要素である「WHO」「WHAT」「HOW」「WHY」に、「社会」「地球環境」「利益」のトリプルボトムラインの概念を組み合わせることを意味する。

各社ごとに脱炭素化への貢献が意味するところは少しずつ異なる。各社のプロジェクトの例としては以下のようなことがあり得る。

-サーキュラーエコノミーへの取り組み拡大
-よりサービス主体のビジネスモデルへの移行
-顧客の効率向上の支援
-最終顧客に対する価値創造のためにバリューチェーンの川下の機能を取り込む

一般的に、カーボンニュートラル達成への取り組みは、次の二つのカテゴリに分類できる。すなわち、自社・団体のカーボン・フットプリントで脱炭素化に取り組むか、あるいはカーボン・ハンドプリントで脱炭素化に取り組むかの二つである。

企業や団体のフットプリントを脱炭素化で減らす方法

自社・団体のカーボン・フットプリントを削減するためには、サーキュラーなビジネスモデルの構築がカギとなる。サーキュラーなビジネス実現のための我々の取り組み方法の詳細は、ザンクトガレン大学と共同で発行し、ハーバードビジネスレビューでも紹介されたホワイトペーパーを参照してほしい。

企業や団体のハンドプリントを強化する方法

自社・団体のハンドプリントを脱炭素化するための我々の方法はビジネスモデル・ナビゲーター手法の4つのステップに沿って構築されている。

  1. 現状分析: 以下の要領で既存の事業モデルや自社の能力に基づく事業機会を特定する。
    -脱炭素と関連する自社の事業ポートフォリオ、能力、既存顧客を分析する
    -注力業界の動向や変革ドライバーを分析する(まずは既によく知っている業界から始め、その後に他の業界も検討する)
    -特に自社が提供する製品やサービスに関連して、脱炭素化が自社の顧客にどのような影響を与えるかを自問自答する
    -最も大きな影響を受ける顧客セグメントを特定し、新規顧客及び既存顧客のニーズや課題を特定する

  2. アイデア創造: 以下のような観点で社会、地球環境、利益への影響を念頭に置きつつ、特定した顧客ニーズや課題に基づいて自社の既存の事業モデルを革新するアイデアを創造する。
    -新たな脱炭素化の製品やサービスを開発する
    -既存の技術を新たな顧客セグメントに適用する
    -バリューチェーンを再検討し、新たなパートナーとの提携を活用する
    -自社のビジネスモデルの収益化のロジックを再構築する

  3. 事業設計: 新たなビジネスモデルを既存のビジネスに統合する方法を検討する

  4. 実行:生み出したビジネスアイデアを段階的に構築、実証、拡大する

気候変動、そしてソリューションの一環としての脱炭素化は、我々全員にとっての挑戦である。ぜひとも我々とともにイノベーションの実現を開始してほしい。

脱炭素化を事業機会と捉え新たな事業を創造するための手法についてより詳しく知りたい場合には、是非お問合せ頂きたい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非問い合わせください.
次回は、「サステナビリティをビジネスに導く:Haufeアカデミーに関するRichard StechowとVera Hermesの対談("Navigating Sustainability in Business: A conversation with Richard Stechow and Vera Hermes for Haufe Academy")」という、サステナビリティを事業機会ととらえて新事業を創造する秘訣に関する対談記事をご紹介予定です。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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