オンライン・コラボレーションで画期的なアイデアを生み出す方法(“How to develop innovative ideas together – online”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「オンライン・コラボレーションで画期的なアイデアを生み出す方法("How to develop innovative ideas together – online")」という、オンライン環境での新事業アイデア創造法についてのお話しです。弊社でもブログでご紹介している各種のツールを活用して実際にワークショップや新事業創造プロジェクトの支援をオンラインで実施しています。では本文をお楽しみください。
2021年3月4日
オンライン・コラボレーションで画期的なアイデアを生み出す方法(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
リモートワークをしているときに、オフィス勤務の何が一番恋しくなるだろう?長い通勤時間や融通の利かない勤務時間から解放されたことを喜んでいる人も大勢いるが、一方でオフィスでの同僚との刺激的な会話や、共同で問題点を洗い出し、斬新なアイデアを生み出す時間が失われたことを恋しく思う人が大勢いるのも事実だ。
2021年の初めには、我々はデジタル化された新しい生活様式にほとんど慣れてしまった。しかしながら、オンライン会議は調整には適しているかもしれないが、アイデア創出には適していないと、いまだに多くの人が感じている。過去12か月にわたってのべ数百人の参加者とオンライン・ワークショップを実施してたどり着いた我々の結論は、いくつかの点に留意すれば、革新的なビジネス・アイデアをリモートで開発することは十分可能であるというものだ。
このブログ記事では、理想的なグループ・サイズ、我々が気に入っているコラボレーション・ツールから、仮想ホワイトボードやアイス・ブレーク実施時の注意事項まで、リモート・アイデア創出セッションを成功させるための計画方法や実施方法について、我々が得た学びを共有したい
アイデア創出とは何か?
まず、簡単におさらいをしよう。アイデア創出セッションとは、新しいアイデアを生み出し、チームメンバーと意見交換するアイデア創造プロセスである。対象とするアイデアは、顧客の問題を最もうまく解決するアイデア、ビジネスチャンスを素早くモノにするためのアイデア、さらには既存のビジネスモデルを再設計する革新的なアイデアなど、様々なテーマがあり得る。
我々が提唱するビジネスモデル・イノベーションの実施プロセスにおいては、アイデア創出は2番目のステップだ。
- 現状分析
- アイデア創出
- 事業設計
- 実行フェーズ
では、アイデア創出セッションをオンラインで成功させるためには、どのように企画・運営を進めればよいのだろうか?
アイデア創出ワークショップの実施に際しては、1)適切な参加者を集めること、2)各種セッションを準備すること、の2つが重要な要素となる。アイデア創出セッションをオンラインで実施する際には、この2つの要素をよく考慮する必要がある。
参加者の招集
オンライン・アイデア創造セッションの明確な利点は、オンラインであれば多様な参加者のグループを比較的簡単に集められることだ。他の地域や海外の同僚、顧客、あるいはスタートアップ企業や特定技術の専門家などの外部参加者とも、デジタル・ツールを使えば簡単に接続できる。アイデア創造セッションにおける鉄則は、参加者グループの多様性が増すほど、革新的なアイデアが生まれる可能性が高くなるということだ。
参加案内として明確かつ十分な情報を事前提供することで、セッションに対する参加者の期待値を適切にコントロールできる。以下の要点を事前共有することをおすすめする。
- セッションの目的 – 達成すべき目標は何か?
- 問題 – 解決したい問題の対象範囲と特徴
- 役割 – セッションにおいて参加者にどのような貢献を期待しているか?
- 成果物 – セッションの想定成果物は何か?すなわち、多様なアイデアを期待していることを伝える。
プログラムとタイムラインの企画検討
お気に入りのコラボレーション・ツールでワークショップの準備を始める前に、参加者が問題なく当該ツールにアクセスできることを確認する。次に、セッションのプログラム構成と時間進行の検討に進む。我々の経験に基づくと、以下の3つのガイドラインが、有意義なワークショップを計画するための鍵となる。
- グループの規模 – 3~5人の小グループでアイデアを出し合うことが望ましい。
- 時間の長さ – 一回のアイデア創造セッションの時間は60分以内にすること。それを超えると創造性が低下し、品質も低下する。
- 発想の元ネタ - 「類似」と「対立」の2つの原則に基づいてビジネスモデル・パターンを選択する。
適切なコラボレーション・ツールの選択
2020年初頭にコロナ禍のパンデミックが発生し、多くの企業が会議、ワークショップ、サービス提供のオンライン移行という課題に直面した。BMI Labでは、いくつかのコラボレーション・ツールを試したうえで、オンライン・ワークショップにMiroを採用することにした。
Miroは、人気の高いオンライン・コラボレーション・プラットフォームの一つである。どんなツールかと言えば、PowerPointのようなプレゼンテーション機能を備え、Googleマップと同じくらい簡単に操作できるデジタル・ホワイトボードである。
視覚化 – すべきこと・すべきでないこと
オンラインのアイデア創造セッションの資料を準備する際には、物理的な集合形式で実施する場合の準備資料を出発点としてイメージするとよい。ホワイトボード、付箋、チームごとの部屋の仕切りなどはすべて、オンライン環境に簡単に移行できる。
Miroでは、テンプレートを使った作業、PDFドキュメントのアップロード、仮想ボード上の付箋への書き込みなどを簡単に実施できる。参加者を疲れさせてしまうおそれがあるため、あまりに情報過多なホワイトボードでの作業は避けるようお勧めする。あまりにシンプルすぎて参加者が退屈しないように気を付けつつ、ボードをなるべくシンプルに保つことがうまく運営するためのコツだ。
ビジネスモデル・パターンカードをオンラインで活用する3つの方法
世の中のビジネスモデルの90%は、55種類の既存パターンの組み合わせだ。書籍「ビジネスモデル・ナビゲーター」で紹介されている各種のパターンは、イノベーションのアイデアを発想するためのひな形として利用可能だ。イノベーション・プロセスのアイデア創出セッションで使用できるように、パターン・カードのセットを一般向けにも販売している。
ビジネスモデル・イノベーション・パターンカードを使用したアイデア創出のガイドラインについては、こちらのブログ記事を参照してほしい。「類似」と「対立」のパターン適応の原則を適用すれば、可能性を秘めた新しいビジネスモデルのアイデアが豊富に得られるはずだ。既存の業界の常識を打ち破るためには、生み出した多数のビジネスモデル・アイデアの中から既存業界にはない新たなパターンを特定して、適用することが極めて重要である。
オンラインでのアイデア創出セッションを実施しやすいように、我々は2020年にこれらのビジネスモデル・パターン・カードをデジタル化した。オンラインでカードを使用するには3つの方法があります。
オプション 1 – パターン・データベース
BMI Lab社の公開パターン・データベースでは、各種のビジネスモデル・パターン・カードの概要を閲覧可能だ。各カードには、当該ビジネスモデルが利用されている典型的な業界や、当該ビジネスモデルで運営されている有名企業などの背景情報も記載されているので参考にしてほしい。
オプション 2 – デジタル・アイデア創造ボード
デジタル・アイデア創造ボードは、リモート・チーム向けの無料オンラインツールだ。ランダム・アイディエーション機能を使用すると、制限時間付きで1枚のカードが表示され、そのパターンを使ったビジネスモデル・アイデア創造のブレインストーミングを実施できる。
オプション3 – すぐに使えるMiroボード
チュートリアル、デジタル版の55種類のパターン・カードを含む個別のMiroボード、特定テーマ向けのパターンの選択、BMIチームの専門家によるアイデア創出セッションなどのプロジェクト支援やワークショップ支援を受けるには、当社ウェブサイトのデジタル・アイデア創出サービスをご参照ください。
リモートでのアイデア創出セッションの実施方法
参加者を招集して参加案内を送付し、必要な準備をすべて済ませたら、いよいよ開催当日だ。以下では、リモート・ワークショップの実施について知っておくべきこと、そしてセッションの直後に行うべきことをご紹介したい。
アイデア創出セッションにおける参加者の活性化
リモートでのアイデア・ワークショップを成功させるためには、セッションの最初の入り方が重要である。リモート環境では、参加者の参加意識を高め、積極的にアイデアを提供してくれるように、セッション開始後すぐに参加者を活性化させることが特に重要となる。
アイスブレイクは参加者の参加意識を高める良い方法になり得る一方、逆効果にもなりやすい。不適切なアイスブレイクは参加者に不快感を与え、その結果、参加者の気持ちが離れてしまう恐れもある。デジタル・アイスブレイクを成功させるヒントについては、実効性のあるバーチャル・アイスブレイクの実施方法についてのZapierの優れた記事を参照してほしい。
活気を生むタスクでセッションを始めれば、参加者の創造性のレベルは高まるはずだ。創造性はアイデア創出セッションを成功させるための鍵である。参加者の創造性が高まれば高まるほど、より多くのアイデアが生み出される。ここで、よく見られる誤解を解いておきたい。創造性はセレンディピティと呼ばれる偶然の幸運や天才的なひらめきではなく、適切なツールがあれば誰でも習得できるスキルである。こちらのブログ記事では、アイデア創出セッションにおいて創造性を高めるための6つのツールを紹介しているので是非参考にしてほしい。
結果の文書化
デジタル・アイデアセッションのもう1つの利点は、対面でのワークショップよりも簡単に文書化できることだ。多くのオンライン・コラボレーション・プラットフォームでは、結果をPDFドキュメントとしてエクスポートする機能を提供している。また、参加者には、デジタル・ボードの作業内容のスクリーンショットを撮ったり、短いビデオを作成したりすることをお勧めしている。これらのコンテンツは、将来のセッションで参加者の参加意識をより高めたり、社内のマーケティング/コミュニケーション施策をはじめる際に役立つはずだ。
アイデア創出セッションがより長期的なプロジェクトの一部である場合には、Miroを利用したデジタル・ビジネスモデル開発について、こちらのリンクからお気軽に問い合わせ頂きたい。
以降のステップ
スティーブ・ジョブズがかつて言った言葉に次のようなものがある。「私にとっては、実行されなければアイデアには何の価値もありません。アイデアは実行の価値を高める単なる掛け算でしかありません。実行にこそ何百万ドルもの価値があるのです。」オンラインでアイデア創出セッションを実施することは困難な作業であるが、ビジネスモデル革新プロセスの始まりに過ぎない。
アイデア創出セッションで生まれたアイデアから実際に価値を生み出すためには、アイデア創出の結果を基に事業を構築する必要がある。まず、最も有望ないくつかのアイデアに優先順位を付け、そのうえで事業を取り巻く外部環境の要請を満たし、自社のコア・コンピテンシーとうまくかみ合った整合性のあるビジネスモデルを組み立てる必要がある。このステップを事業設計と呼ぶ。事業設計の目的は、有望なアイデアそれぞれをビジネスモデルの4軸に沿って詳細化することだ。
実行フェーズ
まったく新たなビジネスモデルのアイデアを実現することは、ビジネスモデル・イノベーションのプロセスの中で最も困難なフェーズとなり得る。通常は、これらのアイデアのリスクは非常に高く、失敗する可能性も非常に高い。しかしながら、最も革新的なアイデアは、長期的な影響を与える可能性が最も高いアイデアでもある。実行フェーズの目標は、効率的なやり方でビジネスモデル・アイデアにおいて最も重要性の高い要素を継続的にテストし続けることで、自分たちの考えたビジネスモデルのリスク低減を図ることである。ビジネスモデル検証と検証カードについて詳細にご興味の方はぜひ参照してほしい。
DX・イノベーション手法を学ぶ、
マキシマイズのセミナー
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「画期的なビジネスモデルでデジタルトランスフォーメーションの最大限の可能性を探索する("How to explore the full potential of digital transformation through innovative business models")」という、デジタルトランスフォーメーションを成功させるための施策の進め方や組織などに関するブログ記事をご紹介予定です。
WRITER
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。