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イノベーション

イノベーション会計を組織に反発を生まずに導入する方法(“How to Introduce Innovation Accounting Without Alienating Your Organization”)

イノベーション会計を組織に反発を生まずに導入する方法(“How to Introduce Innovation Accounting Without Alienating Your Organization”)

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。

今回は、「イノベーション会計を組織に反発を生まずに導入する方法(“How to Introduce Innovation Accounting Without Alienating Your Organization”)」というイノベーション会計の段階的導入についてのお話です。では本文をお楽しみください。

2025年9月30日
ダン・トマ氏
イノベーション会計を組織に反発を生まずに導入する方法(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

イノベーションの測定は、現代の組織にとって最も困難な課題の一つである。明確さと予測可能性を提供する従来の財務指標とは異なり、イノベーションのROIははるかに複雑であり、単純には把握できない。しかし、イノベーションのパフォーマンスを適切に追跡できない企業は、どの取り組みが価値を創出し、どの取り組みが資源を消耗しているのかを明確に理解しないまま、盲目的に投資してしまうリスクを抱えることになる。

ここでイノベーション会計の出番となる。イノベーション会計の本質は、体系的な枠組みとして、進捗を測定し、不確実性を低減し、イノベーション投資を事業成果と整合させる点にある。しかし現実には、企業にイノベーション会計を導入することは決して容易ではない。あまりに急激に導入すれば、かえって逆効果となり、社内からの抵抗や懐疑、さらには明確な拒絶を招く可能性がある。

では、うまく導入を進めるためにはどうすればよいのか。その答えは、イノベーション会計の導入を単なる制度変更ではなく、経営変革の取り組みとして位置付けることである。

イノベーション会計が組織にとってリスクに感じられる理由

多くの組織は、売上高、顧客獲得コスト、営業利益率といった、効率性や予測可能性を測定する業績管理システムに慣れ親しんでいる。しかし、イノベーションは不確実性の高い環境において成長するものである。イノベーションは本質的に反復的であり、混沌としており、曖昧さに満ちている。

だからこそ、企業に厳格なイノベーション指標を一方的に新たに導入することはリスクを伴う。既存の行動様式との摩擦を生み、反対者の反発を招き、「また新たな制度か」とすでに懐疑的になっている従業員に過度な負担を与えてしまうからである。

このようなリスクを軽減するためには、企業は既存の行動規範の上に重ねる新たなレイヤーとしてイノベーション会計を導入すべきである。すでに社内で共有され、実践されている基準を基盤としてイノベーション会計を構築することで、抵抗を抑えつつ、段階的な導入を実現することができる。

導入の心理学:態度を決めていない層に焦点を当てる

イノベーション会計を導入する際、多くのリーダーは最も強固に反対しているグループを説得しようとするという誤りを犯す。しかし、それは徒労に終わることが少なくない。より効果的なのは、賛成とも反対とも態度を決めていないグループ、すなわち従業員の多数を占める未決定層に焦点を当てることである。

態度を決めていない従業員を支持者へと転換することで、推進の勢いが生まれ、具体的な証拠が蓄積され、それに伴い反対グループの主張も自然に弱まっていく。このような段階的アプローチをとることで、イノベーション会計を負担として押し付けられた制度ではなく、信頼に足る有用な仕組みとして、時間の経過とともに定着させていくことができる。

イノベーション会計の段階的導入

イノベーション会計システム全体を一度に全面導入することは、非現実的であるだけでなく、かえって逆効果となる。組織はまず、イノベーション会計として機能し得る最小限の規模での導入を目指し、段階的に展開していくべきである。導入の各段階は、具体的な活動や時間軸と結び付けて設計する。例えば、各段階を1年単位で区切る、あるいはマイルストーンに基づいて進行させるといった方法が考えられる。

フェーズ1:既存の事業活動と測定指標を基盤とする

すでに「事業アイデア提出数」や「社内イノベーション・イベント参加者数」といった指標を追跡している場合は、たとえそれらが十分に実践的な指標でなくとも、継続して測定すべきである。これにより、既存の仕組みとの親和性を保ちながら、徐々により意味のある指標へと移行することが可能となる。

1)現在取り組んでいる「アイデア数」と、ILC(アイデア・ライフサイクル)フレームワーク全体におけるその分布(各ステージのアイデア数)を追跡する

  • 何が分かるのか:各ステージに存在するアイデア数
  • なぜ重要なのか:現在進行中のアイデアの総数と、それらがライフサイクルのどの段階に位置しているかを把握するため。ファネルが過度に薄い場合(すなわち、取り組み中のアイデア数が極めて少ない場合)に、新たなアイデア創出を開始すべきタイミングを見極めるための指標となる。

2)ILCフレームワークの各ステージにおける各チームの「平均所要時間」を追跡する

  • 何が分かるのか:事業アイデアがファネル(ILC)の各ステージを通過するまでに要する時間
  • なぜ重要なのか:アイデア・ライフサイクルにおいて通過が最も困難なステージを特定するとともに、各ステージに入る新規アイデアに対する基準値を把握するため。特定のチームが恒常的に長時間を要したり、基準値を超過したりしている場合には、スキル不足を可視化できる。

3)パイプライン内のイノベーションの種類ごとの「投資配分」を測定する

  • 何が分かるのか:どのような種類のアイデアに投資が行われているか
  • なぜ重要なのか:企業が中核事業の外側の領域への成長を積極的に追求しているかどうかを把握し、その投資が破壊的変化への備えという観点から戦略的優先事項と整合しているかを可視化するため。

4)各チームに対する意思決定者の総合的な確信度を把握する

  • 何が分かるのか:当該アイデアが次のILCステージへ進むに足る適切な道筋を歩んでいると、どの程度確信されているか
  • なぜ重要なのか:当該指標がリスクの逆指標として機能するとともに、学習速度の代理指標としても機能するため。意思決定者から高い確信を得ている場合、一般にリスクが相対的に低く、イノベーション・ファネルを前進する準備が整ったビジネスモデルであることを示す。ただし、その確信は直感ではなくエビデンスに基づくものである必要があり、チームが実験を重ね、主要仮説を検証するにつれて高まるはずである。

5)各実行中アイデアから期待されるインパクトの推定値を追跡する

  • 何が分かるのか:当該アイデアから期待される事業インパクトの水準
  • なぜ重要なのか:個々のアイデアが持つ潜在的インパクトを定量的に見積もり、その予測値が企業の設定する最低基準を上回っているかを確認するため。EBITDAに意味のある貢献をもたらす可能性の高いアイデアへの投資を優先し、低インパクト案件への資源配分を抑制する判断材料となる。

フェーズ2:フェーズ1をもとに、より広範なパフォーマンス指標を構築する

フェーズ1の指標に加えて、以下の測定を開始する。

1)イノベーション投資全体における推定インパクトの集計値

  • 何が分かるのか:イノベーション投資全体が企業の成長にどの程度貢献すると見込まれるか
  • なぜ重要なのか:企業がEBITDAに大きな影響を与える可能性のあるアイデアに投資しているのか、それとも低リターンの取り組みに資源を配分しているのかを見極めるため。これにより、イノベーション投資の意思決定に実効性と現実性をもたらす。

2)市場投入までの平均所要時間

  • 何が分かるのか:事業アイデアが市場投入に至るまでの平均的な期間
  • なぜ重要なのか:アイデアが構想段階から事業として成熟するまでに要する期間を現実的に見積もるため。これにより、目標設定を行うとともに、イノベーション投資を企業の戦略的時間軸と整合させることが可能となる。

3)平均ファネル転換率

  • 何が分かるのか:市場投入に至るアイデアの割合
  • なぜ重要なのか:現在開始している新規取り組みの数を前提として、将来的にどの程度のアイデアが成熟段階へ到達するかを現実的に見積もるため。これにより、目標設定を行うとともに、イノベーション投資を企業の戦略意図と整合させることが可能となる。

4)ILCフレームワーク各段階における中止アイデア数

  • 何が分かるのか:アイデア・ライフサイクル(ILC)のどの段階で最も多くのアイデアが中止されているか
  • なぜ重要なのか:見込みの低いアイデアを早期に停止し、「早く、安く失敗する」仕組みが機能しているかを検証するため。中止のタイミングが過度に遅い場合には、ライフサイクル基準の不備やサンクコスト・バイアスの影響を受けた組織文化の存在を示唆する。

フェーズ3:ROI中心の指標への移行

フェーズ1とフェーズ2の指標が確立されたら、次はROI主導の指標に移行可能となる。

1)アイデア中止決定までの平均所要時間

  • 何が分かるのか:アイデアの中止を決定するまでに要する平均的な期間
  • なぜ重要なのか:チームが非難やキャリア上の不利益を恐れることなく、アイデアを否定し得るエビデンスを提示できる心理的安全性のある環境が醸成されているかを把握するため。数値が過度に高い場合には、失敗を許容しない文化の存在を示唆する。また、本指標は自己ベンチマークおよび組織文化の改善領域を特定するための有効なツールであり、「失敗コスト」指標にも影響を与える。

2)平均失敗コスト

3)NPVI(新製品活力指数)

  • 何が分かるのか:現在の売上高のうち、過去3〜5年間に投入した新製品が占める割合
  • なぜ重要なのか:過去のイノベーション投資がEBITDAにどの程度貢献しているかを定量的に把握するため。その貢献度を可視化するとともに、「投資配分」指標と組み合わせることで、自社の成長がどの領域から生み出されているのかを明確に示すことができる。

企業がフェーズ3に到達する頃には、資源配分やパイプライン管理、ポートフォリオのバランス最適化に活用可能な実践的示唆を備えたイノベーションROI測定のための堅牢な仕組みが確立されているはずだ。

スポンサーの役割とリーダーシップとの整合性

経営幹部の支援なくして、いかなる測定システムも存続し得ない。イノベーション会計を導入するリーダーは、スポンサーである経営幹部が単に計画に合意しているだけでなく、イノベーション活動を具体的な事業価値へ結びつけるという最終目的についても認識を共有していることを確認する必要がある。

スポンサーシップ獲得の意義は、単に資源を確保することにとどまらない。それはプロジェクトの正当性を示し、組織内の懐疑を和らげ、「イノベーション会計を経営上の重要課題として位置付ける」役割を果たす。

持続可能なイノベーション測定システムの構築

イノベーション会計の導入は、新たなダッシュボードを押し付けることに本質があるのではなく、組織学習を促進することに主眼がある。既存の活動の上に新たな階層としてイノベーション会計指標を重ね、段階的に展開し、態度を定めていない従業員層に焦点を当てることで、イノベーション測定システムを組織内に定着させることが可能となる。

最終的に、イノベーション会計は従来の会計では成し得なかったこと、すなわち不確実性を測定し、市場からの学習状況を可視化し、実験的な仮説検証活動をROIへと結びつけることを可能にする。そして、イノベーションがもはや選択肢ではなく不可欠な要件となった現代の事業環境において、この能力こそが繁栄する企業と停滞する企業を分かつ決定的要因である。

当社のポートフォリオ管理・イノベーション会計プラットフォーム「SATORI」を活用すれば、組織に余計な負担や摩擦を生じさせることなく、40以上のイノベーション会計KPIを導入できます。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください

次回のブログは「戦略と整合しないアイデアに投資し続ける3つの理由」という戦略外投資の戦略的意義についてのお話です。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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