なぜ今なのか?なぜ私たちなのか?超合理的な勝利のためのビジネス戦略(“WHY NOW? WHY US? A RADICALLY RATIONAL GUIDE FOR A WINNING BUSINESS STRATEGY”)

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション・アカウンティング』を昨年10月5日に出版しました

今回は、「なぜ今なのか?なぜ私たちなのか?超合理的な勝利のためのビジネス戦略("WHY NOW? WHY US? A RADICALLY
RATIONAL GUIDE FOR A WINNING BUSINESS STRATEGY")」という、企業における戦略策定方法についてのお話です。では本文をお楽しみください。

「なぜ今なのか?なぜ私たちなのか?超合理的な勝利のためのビジネス戦略("WHY NOW? WHY US? A RADICALLY RATIONAL GUIDE FOR A WINNING BUSINESS
STRATEGY")」
~戦略オプションの評価方法~

2022年8月10日  ダン・トマ氏
なぜ今なのか?なぜ私たちなのか?超合理的な勝利のためのビジネス戦略
ダン・トマ氏が“The Innovation Accounting bookウェブサイト”に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

ほとんどの企業戦略は、もしうまく策定されている場合(経験上そうでない場合が多いが)、予測可能な将来に向けて企業が注力すべき方向性を明確に示す。基本的に優れた企業戦略は、自社が向かっている方向性と何を達成したいかを、わかりやすく説明する。

ネットフリックスがストリーミングに移行した際、なぜそれが良いアイデアなのかについて、同社は非常に明快であった。リード・ヘイスティングス会長自身の言葉で語られた同社の狙いはただ一つ「普通のビデオレンタルよりはるかに優れた動画体験を提供して、誰もが使いたくなるようにすること」であった。

従って、戦略を立案する際には(そしてその後に決定する際は)、トレンド分析と自社が未来の世界をうまく進んでいくための判断基準とすべきパターンの特定に全力を注ぐべきだ。その際に議論される点は多岐にわたるが、主要なポイントは、「市場では何が起きているのか?」、「最近はやりつつある顧客トレンドは?」、「自社に影響を及ぼすマクロ経済的な要因は何か?」の3つである。

これらは確かに重要な点ではあるが、残念ながらこれらの質問に回答するだけでは確固たる戦略の構築には不十分であり、特に戦略の実現という観点で足りない部分が多い。具体的には、企業戦略の構築において時間や能力といった要素も考慮する必要があるのだ。ところが、我々の経験上、「なぜ今が行動するのによい時なのか?」そして「なぜ我々が今行動するうえで良いポジションにいるのか?」の2点が見逃されていることが非常に多い。

どのような場合でも、企業にはミッションやビジョンを実現するための手段がいくつかあり、そのうち一つを採用する。それぞれの戦略実行手段の実施方法、時間軸、そして必要なリソースは異なる。そして通常は一つを選択した時点で他のオプションを取れなくなる。従って、検討すべき戦略を決める際には、リーダーは戦略の実現方法も慎重に考慮に入れる必要がある。

基本的に戦略オプションの複数の選択肢を評価する際には、「なぜ今が他の選択肢でなく、特定の一つの選択肢を実行するのによいタイミングなのか?」、そして「なぜその選択肢を実行する場合に、我が社が有利なポジションに立てるのか?」という2つの問いに答えることが、意思決定における最重要の判断基準となっていなければない。後付けの理屈ではいけないのだ。

ネットフリックスの場合には、「普通のビデオレンタルよりはるかに優れた動画体験を提供して、誰もが使いたくなるようにすること」を、ストリーミングだけでなく他の手段でも実現可能だったかもしれない。意思決定をした時点で、ストリーミングというオプションがタイミングと場所に最も適した選択肢だったのだ。

「なぜ今?」そして「なぜ我々か?」という質問の背景に何があるかを詳細に見ることで、これらの質問に最もうまく答えられる。

例えばあなたはリーダーとして、それぞれの戦略オプションの成功に必要なリソース、そして自社の財務状況を踏まえて必要なリソースを賄えるかどうかを、顕微鏡で覗きこむことができる。全ての戦略オプションについて「我が社はそれを賄えるか?」を採点可能なのだ。

それに加えて、それぞれの戦略オプションにどんな能力が必要とされるか、現時点で自社にその能力があるかどうか、あるいは合理的な期間内に身につけることができるかを、より詳細に調べることができる。基本的に、「この選択肢に従い/戦略を実行するために必要な能力を我々は持っているか?」あるいは「もし現時点でそれを持っていないなら適切なタイミングで獲得できるか?」という質問に答えて各選択肢を採点する。

さらにリーダーとして、市場性を示す証拠をもとに、今が自社の目前にある戦略オプションを実行するのに適切なタイミングかどうかを判断できる。市場調査レポートにヒントを求めたり、自社で過去に実施した市場内での特定の実験に証拠を求めたり、他の市場プレイヤー(通常はスタートアップやVC投資家)の行動を分析したりして、「事業機会のウィンドウは閉まってしまったか?まだ開いているか?あるいは勝負を挑むには早すぎるか?」について、各戦略オプションを採点する。

より難しいのは、理論的に素晴らしいアイデアが実際に今すぐに機能するかどうかを見極めることであり、その主な理由はほとんどの場合にこの点が戦略分野の一環として教えられていないからである。これを評価するためには、社内のリーダーとエンジニアを奮起させる能力が自社にあるかどうか、さらには活気のある外部エコシステムと関係を持ち、また自社の実施計画のある側面においてすでに成功を収めている他の業界の成功企業から素早く学ぶ能力を自社が備えているかどうかを診断することが必要だ。

最初の社員を奮起させることができるかどうかについての質問は、理論的に人員をアサインすることと、真の意味でみんながやる気を出して全力を尽くすようにできるか、との違いについての問いである。この問題の核心をつかむには、「わが社はこの戦略オプションを成功させるために、自社内で徹底した支援を実施できるか?」という問いに答える必要がある。戦略の評価の一環として、具体的な名前を挙げてその人達の反応を確かめてみるとよい。ほとんどの場合には、初期段階のプロジェクト開発を進めているチームには、それを大規模に本格導入するための十分な余力や能力がないとわかるはずだ。

奮起という意味での2つ目の大きな失策はより重大で、支払をはじめ、ビジネスプロセス全体の顧客との接点、サプライチェーンのすべてのポイントにおいてソリューションが円滑に機能するパートナー提携を実現するために、プロジェクトを社内から社外に飛び出させるうえで必要とされるエネルギーである。Netflixがビジネスをするすべての地域において、新作がなく、支払方法もなく、また同社サービスを他のプラットフォーム上に展開する機会もなかったらどうなのか、想像してみてほしい。この問いを深堀りするために、「わが社の社外エコシステムとして、プロジェクト立ち上げを支援してくれる重要なパートナーがいるか?」と自問してほしい。

最後に、優れた企業は自社のイノベーションの成功を加速させるために、他業界の能力を積極的に借りて勝利戦略の推進を図る。Netflixはサブスクリプションを成功させるために、アマゾンから何を学んだのか?Netflixは顧客の獲得と定着のために、ゲームコミュニティのどんなところを自社のビジネスに持ち込んだのか?「我々の戦略のある側面、例えば新たなビジネスモデルの推進、素晴らしい顧客定着戦略の導入、あるいは製品ロードマップ戦略の実行など、我々がより賢く、より速くなれるために借りられる何かを、(他業界で)誰かがすでに実践していないだろうか?」、とぜひ自問すべきだ。

学ぶべき重要な点は、あなたの戦略がいかに優れていたとしても、最初にそして何よりも、それが自社の時間軸に合っている必要があることだ。良く仕立てられた3ピースのスーツのように、縫い目の良し悪しを見る前に、それが自分の体形やスーツを着る場面にピッタリ合っている必要があるのだ。もし2サイズ大きくて、あなたがビーチに行くのであれば、どんなに素晴らしいイタリア製の3ピースのスーツでも格好良くは見えない。

この記事は尊敬する友人であり戦略専門家のAndrea Kates氏と共同で作成した。

複数の戦略オプション評価を簡単にするために、我々は戦略オプション評価カードを作成した。これを使って自社の直面する戦略オプションの優先順位付けをすれば、「なぜ今か?」、「なぜ我が社か?」という質問に回答しやすくなる。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回のブログは「イノベーション戦略策定において考慮すべき3つのポイント("THREE THINGS TO CONSIDER WHEN DEVELOPING AN INNOVATION STRATEGY")」という、イノベーション戦略策定方法についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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