イノベーション投資の目標設定に際して設定すべき3つの項目("THE THREE THINGS YOU NEED TO SET GOALS FOR YOUR INNOVATION INVESTMENT")

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みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション・アカウンティング』を2022年10月5日に発売開始しました。

今回は、「イノベーション投資の目標設定に際して設定すべき3つの項目("THE THREE THINGS YOU NEED TO SET GOALS FOR YOUR INNOVATION INVESTMENT")」という、イノベーション投資をより現実的な観点で考え、そこから具体的な成果を得るために事前に実施すべき状況分析と目標設定についてのお話です。では本文をお楽しみください。

「イノベーション投資の目標設定に際して設定すべき3つの項目("THE THREE THINGS YOU NEED TO SET GOALS FOR YOUR INNOVATION INVESTMENT")」
~イノベーション投資をより現実的な観点で考え、そこから具体的な成果を得るために~

2022年6月13日  ダン・トマ氏
イノベーション投資の目標設定に際して設定すべき3つの項目
(ダン・トマ氏が“OUTCOME社ウェブサイト”に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

コロナのパンデミック以前から過去何年にもわたって、イノベーションの名のもとに多大な投資が行われてきた。しかしながらパンデミックが、イノベーションの重要性、そして新たなビジネスモデルを定常的に生み出して成功させられるようにイノベーション・システムとイノベーション文化を確立することの重要性に改めて光を当てた。パンデミック前は必ずしもイノベーションが成長の必須事項だと考えていなかった企業が、もはやイノベーションはナイス・トゥ・ハブでなく、むしろ直面している変化の時代においては保険に近いものだという事実に目を向けるようになったのだ。

しかし残念ながら多くの場合、投資の結果はイノベーションへの投資レベルに見合ったものでない。例えば製薬業界を例に考えてみよう。2021年の「世界のイノベーション企業トップ50」に3社の名前がある。ジョンソンエンドジョンソン、ノバルティス、そしてバイエルだ。しかし同時に2021年の「研究開発費のトップ50」には、製薬業界から1ダース以上の会社が名を連ねていた。2つの企業ランキングを並べてみると、投資とリターンが釣り合っていないケースがあるのは明らかだ。

イノベーション投資へのリターンを得られるかどうかは、自社の能力から外部マーケットの状況まで、膨大な数の因子に依存する。しかし、企業のリーダーがイノベーション投資に成功の機会を与えるために最初にすべき(そして最も重要な)事の一つは、おそらく自社のイノベーションの取組みに明確な目標を設定することである。

イノベーション主導の成長に関する目標設定をすれば、企業の既存事業と自社の各種イノベーション施策を結びつけるために役立つ。もはやイノベーションが無駄遣いと思われることはなく、企業の成長目標と戦略に明確に貢献する活動だと認められるからだ。それでは、イノベーション投資の目標設定をどのように始めればよいのだろうか?

イノベーション主導の成長に関する目標設定には以下3つの項目が必要である。

企業戦略(特にイノベーション戦略)におけるもしくは株主に約束した企業の成長への野心、企業の財務情報(過去と現在)、そして企業のイノベーション・システムの過去の実績だ。

1)企業戦略(特にイノベーション戦略)におけるもしくは株主に約束した企業の成長への野心
全ての企業は野心を達成するための最良の方法を決定する前にまず戦略に合意し、成長への明確な野心をもつ必要がある。最初にイノベーションが貢献すべき明確な戦略目的をもつことなしに、イノベーション投資を語ることはできない。その際には特定市場への参入、特定の動向の収益化、あるいは特定の市場における地位を守ることが、目標の中心にあるかもしれない。

企業が成し遂げたいことが十分に明確であれば、リーダーはイノベーションへの確約が如何に大きいかを理解しやすくなる。

基本的には、リーダーは自社が将来いるべき場所はどこかを自問する必要がある。この質問への答えがイノベーション投資目標の土台となる。自社が進む方向を明確にしなければ、イノベーション投資は単なる最新技術への投資となってしまう。

2)企業の財務情報(過去と現在)
企業の財務情報は、イノベーション投資目標ための主な入力情報と言える。財務情報としては企業の現在状況に加えて過去からの財務実績の履歴も考慮すべきだ。イノベーション投資目標の設定に際しては、「中核事業」が衰退する速度、「現状を保つ」ためだけにどれだけの予算を費やしているか、そして中核事業の現状の利益率を明確にしておく必要がある。

これらの入力情報は、次年度以降も自社が現在と同レベルの財務実績を上げるために、イノベーションが、最低でも、売上成長にどれだけ貢献する必要があるかを示す。

3)企業のイノベーション・システムの過去の実績
明確なベンチマークなしに現実的な目標を語ることはできない。自社のイノベーション・システムの過去の実績を理解することは、自社が志すイノベーションへの投資額に対する現実的な投資リターンをリーダーが理解する上で役に立つ。

あるいはその逆に、自社のイノベーション・システムの過去の実績に基づいて、自社の求める投資リターンに対して自社が志すイノベーション投資額が十分かどうかをリーダーが理解する上で役に立つ。

自社のイノベーション・システムの過去の実績を理解することは、例えば以下のような何らかのイノベーション・アカウンティングのKPIを明確に把握することを意味する。

  • 自社が事業アイデアを市場投入するまでに要する時間(書籍「イノベーション・アカウンティング」では平均事業化時間と呼んでいる)
  • 事業アイデアを市場で一つ成功させるまでに生み出した事業アイデアの総数(書籍「イノベーション・アカウンティング」では平均事業化率と呼んでいる)
  • 事業アイデアを市場で一つ成功させるまでに費やす平均費用(書籍「イノベーション・アカウンティング」ではイノベーション費用と呼んでいる)
  • そして最後に、新たな事業アイデアから現在生み出している新たな売上1ドルにつき、過去に費やしたイノベーション費用の額(書籍「イノベーション・アカウンティング」ではイノベーション投資の効率性と呼んでいる)

これらのイノベーション・アカウンティングのKPIは、一方でイノベーション・システムを改善するために投資が必要かどうかを理解するために役立ち、また他方では企業がイノベーションに一定金額を投資することを決めている場合に投資リターンについての期待値を適性に管理するために役立つ。

これら3つの入力情報を出発点とすることで、イノベーション主導の成長のためにどれだけ投資する必要があり、また投資したいのかについて、リーダーはより現実的に(そして計画的に)なれる。企業がイノベーションを通じた持続的な成長を目指すならば、イノベーション投資のための明確な目標設定をすることは単に「成功の近道」というだけでなく、欠くべからざる活動なのだ。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。

次回のブログは「なぜ今なのか?なぜ私たちなのか?勝利のための超合理的なビジネス戦略("WHY NOW? WHY US? A RADICALLY RATIONAL GUIDE FOR A WINNING BUSINESS STRATEGY")」という、企業における戦略策定方法についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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