イノベーションの3つの組織設計(“THREE ORGANIZATIONAL DESIGNS FOR INNOVATION”)

イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション・アカウンティング』を2022年10月5日に発売開始しました。

今回は、「イノベーションの3つの組織設計(“THREE ORGANIZATIONAL DESIGNS FOR INNOVATION”)」という、イノベーションの組織設計についてのお話です。では本文をお楽しみください。

「イノベーションの3つの組織設計(“THREE ORGANIZATIONAL DESIGNS FOR INNOVATION”)」
~イノベーションを実現するためには、どのような組織を採用するべきか?~

2023年1月30日  ダン・トマ氏
イノベーションの3つの組織設計
(ダン・トマ氏が“OUTCOME社ウェブサイト”に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

組織の設計/構造はその組織の目標達成に向けた進捗を後押しあるいは邪魔する。規模や業界にかかわらず、組織のニーズに組織の運営構造を適合させることで、組織は目標を達成しやすくなる。
イノベーションを扱う際にはその構造がより重要になるが、それというのもイノベーション活動は通常のビジネスとは様々な面で異なるからだ。ドラッカーの言葉を借りれば、「イノベーションとは実施というよりも知るための作業である」。
企業の長期的な持続性において、イノベーションは常に中心的な役割を担っている。故に、イノベーション組織の適切な組織構造が企業の持続的な成長につながる。それと同時に、誤った組織構造はイノベーションの活動を資金の無駄遣いにしかねない。原則として、イノベーションの組織構造は主に以下の3種である。

1.中央集権型イノベーション構造
最も伝統的な組織構造は中央集権型の組織である。その場合、イノベーション戦略が全社的に設定される。また、イノベーションのリソースは全社のイノベーション部門に集約される。
一般的に、全社イノベーション部門を持つ企業では、イノベーションの統制、管理、測定を行いやすい。しかしながら、この構造がボトルネックとなり、逆にイノベーションのコストが上昇する可能性もある。
さらに、この構造は事業部門の「自前主義(NIH症候群)」の影響を受けやすい。それ故に、全社イノベーション部門で開発が進んだ後で、既存の事業部門に事業アイデアを統合する際により強固な反対にあいやすい。

中央集権型イノベーション構造(中央主導)利点: イノベーション管理が容易 イノベーション測定が容易 イノベーションへの必要性が全社で共有されている企業で機能する 欠点: 現場の社員にとって他人事になりやすく、イノベーションの施策が中核事業の現場に反映されにくい 構造自体がボトルネックとなり、イノベーションのための費用が増加したり、社会/技術動向を迅速に利益に結び付けることができなくなったりする可能性がある

全社イノベーション構造の導入で最もメリットを受けるのは、同じようなイノベーションのニーズを各事業部門が共通でもつ(例:標準化された)組織や、イノベーションの取り組みを始めたばかりの組織で、それというのも、この組織設計は最もイノベーション管理をしやすい(そしてイノベーション管理システムに変更を加えやすい)からだ。

2.分散型イノベーション構造
中央集権構造の真逆が分散モデルである。前述のモデルとは大きく異なり、各事業部門がイノベーションの取り組みを完全にコントロールする。
この構造では、各タスクや責任の所在は各社員に均等に配分され、それによってオープンなコミュニケーションや協力が実現する可能性がある。
それに加えて、管理職には「自分たちの部署に適した形で運営する」自由が与えられているとはいえ、自分の部署の結果に対する説明責任は各管理職にある。
この構造下では、リソース配分のスピードは速くなる。そして、いったん事業アイデアが形になれば、事業部への統合は容易になる。この構造では全社部門で必要とされるイノベーションのリソース投入は(もしあったとしても)非常に限定的であるため、イノベーションの取り組みを全社規模で幅広く進めることができる。しかしながら、分散モデルでは、各部署のイノベーション戦略と全社のイノベーション目標との整合性を保つのが難しいという結果になり得る。

分散型イノベーション構造 (現場主導)利点: 多数のイノベーションを実施可能 部署ごとの、きめ細かなイノベーション戦略 一旦プロジェクトが進めば現場への浸透が容易 欠点: 全社の成長目標や戦略と各部署のイノベーション戦略の整合性を図るのが難しい 部署ごとの取り組み度合いがバラバラになりがち 部署間で不整合や重複が生まれやすい

また、中央からの明確な統制ガイドラインがないことから、各部署間でツール、取り組み方法、手法、測定指標を統一するのが難しいかもしれない。
分散構造の導入で最もメリットを受けるのは、各部門が大きく異なる企業である。そのような会社の例として、ジョンソンエンドジョンソン、イリノイ・ツールワークス社、タイコ・インターナショナル社などがある。

3.ハイブリッド構造あるいは権限移譲型
ハイブリッド構造は機能面でも事業部門においても複合型の構造である。この構造は様々な特徴を持つため、企業は役割の割り当てをより柔軟に分散させることができる。
また、この構造は各部門間の健全な関係性を保つことにも役立つ。この構造下では、全社戦略を各部署のイノベーション戦略と紐づけやすくなる。
このように様々な利点がある一方、ハイブリッド構造の最大の落とし穴は中央のイノベーション機能と各部署のイノベーション機能との摩擦が起きる可能性が高い点である。権限の境目があいまいになり、期限とリソース投入とのジレンマが企業の様々な組織階層での問題を引き起こしがちである。
このモデルのもう一つの懸念要因は、イノベーションの統治である。すなわち、どの種類や形態のイノベーションを各部署に残し、どれを中央機能に移管する必要があるか、という話だ。

ハイブリッド構造 (権限移譲型)利点: 柔軟な対応が可能 個々の部署のイノベーション戦略と全社の成長目標との整合性を取りやすい 欠点: 不整合や重複が生まれやすい イノベーションの形態によってはこの構造が必須要件となる

しかしながら、強力な統制と明確な境界線があれば、特にイノベーションの取り組みがかなり進んだ企業にとっては(イノベーション取り組みの成熟度)、ハイブリッドモデルが最も万能である。
もう一つ注目すべき点は、ハイブリッドモデルの場合には中央機能が自社グループ全般にかかわるトピックについてのイノベーションに取り組むのに加えて、イノベーション・システムやイノベーション文化を全社に広め、管理する責任も負うことである。3つのモデルの中でハイブリッドモデルが最も高い柔軟性を持ち、各部署は中央からの支援を受け入れたり断ったりできる。しかし、このモデルには不整合や重複のリスクが高くなるという面もある。
スターバックス、GAP、アイエヌジー、DNB、そしてグーグルは、ハイブリッド構造を導入した組織の非常に良い例である。一般的に、この構造は各部門が異なるニーズを持ち、しかしながら中央からの調整が必要という場合に最も適している。

企業各社のイノベーション構造は本来的にそれぞれ異なる。イノベーションの取り組みを進めるなかで、企業各社が独自のシステムを構築し、磨いていくのだ。したがって、企業が最も適切な構造を選ぶうえで、企業は各モデルを隅々まで精査して、最も適切なモデルを選択すべきである。決定に際しては自社と自社業界の特性を考慮する必要がある。そして、自社の提供価値や目標と整合性のあるモデルを確実に選択しなければならない。さらに企業はイノベーションを担当する人員の役割や行動が、企業が育もうとしているイノベーション文化そのものに影響を与えることを計算に入れなければならない。

もう一つ言及すべき点があり、それは選択したモデルに拘わらず、イノベーションの成果は最終的にはイノベーション統制システムの質に依存する部分が大きく、イノベーション構造そのものによる部分は小さいことだ。イノベーションシステムが導入されていればイノベーションモデルがその成果を改善するが、イノベーションシステムが導入されていなければモデルを慎重に選んだとしても成果を得ることは難しい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。

次回のブログは「イノベーションを起こしたいなら、まずは事業計画から始めましょう(“WANT TO INNOVATE? START WITH A BUSINESS CASE”)」という、事業アイデアの潜在的な定量インパクトを推定する方法についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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