イノベーション管理のキャリアを積むのが良くない理由と
その対策(“WHY IS A CAREER IN INNOVATION MANAGEMENT A BAD IDEA. AND WHAT CAN YOU DO ABOUT IT”)
- HOME
- ブログ
- イノベーション
- イノベーション管理のキャリアを積むのが良くない理由とその対策(“WHY IS A CAREER IN INNOVATION MANAGEMENT A BAD IDEA. AND WHAT CAN YOU DO ABOUT IT”)
みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション・アカウンティング』を2022年10月5日に発売開始しました。
今回は、「イノベーション管理のキャリアを積むのが良くない理由とその対策(“WHY IS A CAREER IN INNOVATION MANAGEMENT A BAD IDEA. AND WHAT CAN YOU DO ABOUT IT”)」という、キャリアとしてのイノベーションについてのお話です。では本文をお楽しみください。
「イノベーション管理のキャリアを積むのが良くない理由とその対策(“WHY IS A CAREER IN INNOVATION MANAGEMENT A BAD IDEA. AND WHAT CAN YOU DO ABOUT IT”)」
~イノベーションのキャリアと社内での出世は両立されないのか?~
2022年12月10日 ダン・トマ氏
イノベーション管理のキャリアを積むのが良くない理由とその対策
(ダン・トマ氏が“The Corporate Startup bookウェブサイト”に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)
キャリアとしてイノベーションを追いかけるのは非常に魅力的に聞こえるかもしれません。少なくとも理論的には、自分の創造性を活用しなければならない環境に身を置き、最新テクノロジーを使用する機会を得て、世の中の最新動向を理解し、これらすべてをひっくるめて世界の先を走っている気分になるでしょう。
しかし現実には、ほとんどの企業において、キャリアとしてイノベーションを追いかけるのは最悪の選択肢かもしれないのです。
リンクトインによる全世界の社員数50名以上の1万2千社のCEOの調査によれば、CEOになった人が最初に担当した職種のトップ10にイノベーションは含まれません(イノベーションに最も近い「親戚」は、アントレプレナーシップで8位にランキングされています)。
では、なぜイノベーションのキャリアが後々に企業の経営上層部への出世に結びつかず、それでもイノベーション管理のキャリアを追いかけたい場合にはどのような対策をすることが可能なのでしょうか?
仮説1:優れたイノベーターはめったに出世しない
属人的な才能に依存することをイノベーションで成功するための戦略としており、才能の低いイノベーターでも革新的になるような手助けをするイノベーション統制システムを社内に仕組みとして取り入れていない企業では、成功したイノベーターが企業の経営トップ層に出世することはあり得ないでしょう。
これは皆さんの直感に反するかもしれませんが、実際には道理にかなっています。
企業としては、成功したイノベータ―にイノベーションに携わり続けてほしいのです。これらの人にはアイデアを事業として成功させる能力についての実績があります。したがって、これらの人を現場から離れた上層部に移してしまうと、新たな事業アイデアへの直接的な貢献を期待できなくなってしまうのです。
「勝っているチームには手を加えるな」という古い言い回しの通りで、成功を収めている社内起業家は現場に置いておくのが良いのです。
仮説2:失敗の烙印がつきまとう
企業はたいていリスクをとって失敗することを報奨すると言うのですが、ほとんどの場合には同じ会社で働き続ける限り失敗の烙印がその人のキャリアにつきまといます(場合によっては会社を辞めた後も)。そのような企業文化においては、失敗が見逃されることはないでしょう。そして一度失敗した社員は他のプロジェクトでその失敗を取り返すことはできないのです。
残念ながら、失敗はイノベーションプロセスの一部です。データによればスタートアップの約80%は失敗します。つまり、大企業で起業家的なプロジェクトを成功できる可能性は10回に2回以下ということです。
したがって、失敗が嫌われ、また簡単には経歴から消えないという、リスクを許容しない文化をもつ企業においては、失敗の後で出世するという望みは薄いでしょう。
仮説3:あなたが取り組んでいるのはイノベーションでなくイノベーション劇場である
今日でも、多くの企業がいまだに真のイノベーションでなく、イノベーション劇場により多く携わっています。つまり、イノベーションに真摯に取り組まず、現実的な成長のエンジンとも考えていないということです。結果的に、イノベーション部門で働いている人も、社内でまともに取り合ってもらえず、イノベーション劇場から企業トップ層に直接出世するチャンスもほとんどないのです。
それでは、もしそれでもイノベーション管理のキャリアを追い求めたいのなら、あなたにはどのような選択肢があるのでしょう?
イノベーションのキャリアを追うのは止める、という明らかな選択肢は別として、もし人生の後半戦では経営トップ層に出世したいと望んでいるのなら、ほかに3つの選択肢が考えられます。
オプション1:リスクをとること、失敗すること、そしてイノベーション全般を報奨しているという実績を持つ会社を探す
世の中にはイノベーション管理や起業家的な文化全般を支援することを誇りとしている企業がたくさんあります。そのような企業を探して転職するというのは一つの手です。
オプション2:ヒーローの属人的な活躍の成果に依存するのでなく、イノベーションシステムの構築に投資を行う会社を探す
企業が自社のイノベーションの取り組みを個人の貢献に完全に頼った瞬間に、企業はその個人が会社を離職する可能性というリスクにさらされます。
イノベーションによる新事業に個々の人材が属人的にもたらす正の影響を最小化しないように気を付けつつ、長期的には企業は個人の俗人的な寄与への依存がより少なく、チームの協業やネットワーク効果により多く依存するようなイノベーションシステムの構築に投資する必要があります。
オプション3:自社の従業員のイノベーション能力開発に継続的に投資をしている会社を探す
自社の従業員を負債でなく資産と捉え、その考えに基づいて社員を扱っている会社は、社員の能力開発に投資をしている傾向があります。
イノベーション出身者を経営トップに据えるのは、多くの組織においてまだまだ一般的ではありません。しかし、真のイノベーションに牽引される成長への避けがたい必要性に直面する企業の数がどんどん増えるにつれ、将来的には状況が変わるかもしれません。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回のブログは「イノベーションの3つの組織形態(“THREE ORGANIZATIONAL DESIGNS FOR INNOVATION”)」という、イノベーションの組織設計についてのお話です。
WRITER
- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
- 株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。