オープンイノベーションを成功させるために必要な3つのこと("The Three Things Open Innovation Needs to Work")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も2025年末に発売予定の英語書籍『OPEN INNOVATION WORKS』の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、及びエスター・ゴンス氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「オープンイノベーションを成功させるために必要な3つのこと("The Three Things Open Innovation Needs to Work")」という、オープンイノベーションを成功させるために準備すべきキーポイントについてのお話です。では本文をお楽しみください。
オープンイノベーションを成功させるために必要な3つのこと("The Three Things Open Innovation Needs to Work")
2023年10月4日
ダン・トマ氏
(書籍の著者であるダイアナ・ジョセフ氏、ダン・トマ氏、エスター・ゴンス氏が"OPEN INNOVATION WORKSウェブサイト"に掲載したブログ記事を、著者らの許可を得て翻訳、掲載しています)
Outcomeは、2023年のグローバルサミットにおいてタイのTechSauce社と提携した。この提携の一環として、Outcomeは本年のイベントにおける企業イノベーショントラックの企画・監修に協力した。これに伴い、約2か月前、バンコクにて「オープンイノベーション」をテーマとするパネルディスカッションを主催する機会を得た。TechSauceという名高いステージにふさわしく、登壇したパネリスト陣もその多様性と卓越した経歴において印象的であった。具体的には、チェン・グナヨウ氏(DesignSingapore Council 戦略・ガバナンス・国際関係担当副ディレクター)、サム・タンクル氏(Krungsri イノベーションラボ責任者)、およびスコット・ベイルズ氏(Microsoft アジア太平洋地域 チーフ・オブ・スタッフ)である。
おそらく、パネルディスカッションにおいて最も多くの時間を費やした議論は、政府機関、企業、教育機関(たとえば研究機関や大学)といった大規模組織の文脈において、オープンイノベーションを機能させるために何が必要であるかという問いであった。
パネルディスカッションにおいて、我々全員が必要不可欠であると認識した上位3項目は以下のとおりである。
1.経営トップによる支援
イノベーションに関わるあらゆる事柄と同様に、組織のトップによる支援は不可欠である。これにより、オープンイノベーションの取り組みに対して適切な資金と支援が提供されるとともに、それが単に「やっている感を出すための」リソースの無駄遣いではなく、企業全体の成功に資する重要な活動として認識されるようになる。
さらに、オープンイノベーションに従事する人々にとって、「食物連鎖」の頂点に位置する経営陣からの支援は、間違いなく士気を高める要因となる。
2.明確なイノベーション戦略
繰り返しになるが、他のすべてのイノベーション活動と同様に、明確なイノベーション戦略は不可欠である。企業全体の戦略意図と連動した明確なイノベーション戦略がなければ、オープンイノベーションに関する指標は混乱を招き、方向性を失ってしまうリスクがある。
イノベーション投資方針を策定することで、オープンイノベーションの活動を企業の目指す方向性と整合させ、社内で進められているイノベーションの各種取り組みと連動させることが可能となる。要するに、各プロジェクトのアプローチが異なっていたとしても、確実に全員が共通の目標に向かって進んでいくように意思統一できるのだ。
3.望ましい成果と現実の状況に応じた、適切なオープンイノベーション・エンジン(活動)の正確な選定
オープンイノベーション・エンジンには、さまざまな形態と規模が存在する。ジョイントベンチャーからスタートアップ・アクセラレーター・プログラム、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)から大学との連携まで、その選択肢は多岐にわたる。しかしながら、企業はどのエンジンを採用するかについて、慎重かつ戦略的に判断する必要がある。なぜなら、それらは一様に機能するものではなく、「万能型」ではないからである。ある技術や市場動向について学ぶ機会を提供するオープンイノベーション・エンジンは、財務的リターンの観点で最も効率的なものとは限らない。また、企業の露出度を高めるエンジンが、最もコスト効率の良い投資先であるとは限らない。
したがって、自社の意図と戦略に合った適切なオープンイノベーション・エンジンを選択することが重要となる。
上記の各項目は一見些細なことのように思えるかもしれないが、実際に実行に移すのは決して容易ではない。加えて、これらのうち一つあるいは二つを整えただけでは、オープンイノベーションの成功は保証されない。たとえば、社内の全面的な支援を得ており、どのオープンイノベーション・エンジンに取り組むべきかを明確に理解していたとしても、戦略が欠如していれば組織は混乱に陥る。同様に、優れた戦略と十分な支援を備えていたとしても、誤ったオープンイノベーション・エンジンに投資してしまえば、いかなる形態のものであれ、オープンイノベーションから投資対効果(ROI)を得ることはできない。
したがって、オープンイノベーションにおける成功の可能性を高めたいのであれば、適切な経営レベルの支援を確保し、明確なイノベーション投資方針を策定したうえで、望ましい成果および戦略的意図に適合したオープンイノベーション・エンジンを選定する必要がある。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回のブログは「企業アクセラレーターが今後さらに重要になるかもしれない4つの理由("Four Reasons Why Corporate Accelerators Might Be Even More Important Now")」という、スタートアップと既存事業を持つ企業とのオープンイノベーションを推進する企業アクセラレーターの重要性についてのお話です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。