企業イノベーション部門の衰退:イノベーションと戦略を再び結びつけることが何故理にかなっているのか、およびその実施方法("The Decline of Corporate Innovation Arms: Why It Makes Sense and How to Reconnect Innovation with Strategy")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「企業イノベーション部門の衰退:イノベーションと戦略を再び結びつけることが何故理にかなっているのか、およびその実施方法
("The Decline of Corporate Innovation Arms: Why It Makes Sense and How to Reconnect Innovation with Strategy")」という、イノベーションの取り組みが十分に成果を上げていない企業におけるイノベーションへの取り組みの見直し状況や具体的な施策についてのお話です。では本文をお楽しみください。
    
企業イノベーション部門の衰退:イノベーションと戦略を再び結びつけることが何故理にかなっているのか、およびその実施方法
("The Decline of Corporate Innovation Arms: Why It Makes Sense and How to Reconnect Innovation with Strategy")
        2024年6月20日
        ダン・トマ氏
        企業イノベーション部門の衰退:イノベーションと戦略を再び結びつけることが何故理にかなっているのか、およびその実施方法
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)
    

近年、多くの企業がイノベーション部門の閉鎖を決定した。今年だけでも、ミグロス、ZF、SAP、FWD、ウォルマートなど象徴的な例が多々ある。一見すると、この傾向は直感に反するように思えるかもしれない。なぜなら、今でもイノベーションは成長と競争優位性の重要な原動力として謳われることが多いからである。
しかし、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)による新たな調査では、これらの閉鎖が実際には戦略的な動きである可能性を明らかにしている。BCGの調査によると、イノベーションと企業戦略全体、あるいは戦略的な狙いとの間に強い関連性を確立できている企業はわずか12%である。すなわち、全体の88%の企業にとって、イノベーションはコストが高く、企業の中核的目標に対してほとんど影響を及ぼさない、必須とは言えない活動として認識されているということである。
イノベーションと戦略の乖離
イノベーションへの取り組みと企業戦略との乖離は、多くの場合、リソースの浪費や機会損失を招く結果となる。イノベーションが企業の主要な目標や目的から切り離されて実行される場合、それはサイロ化された活動となる。
この不一致は、事業部門が関与して新規事業の規模拡大を図る段階でイノベーションプロジェクトが拒否されるという問題を引き起こし、イノベーションにかかるコストを増大させ、そして何よりも、イノベーションが単なるパフォーマンスに過ぎず、真剣に取り組むべきものではないという認識を社内に根強く残し続けるという事態を招きかねない。
悪循環の打破:イノベーションと戦略の連動性を再構築する
この悪循環を断ち切り、イノベーションを企業戦略と効果的に結び付けるためには、イノベーションを担うリーダーが、より現実的な姿勢を取り、明確な行動を開始する必要がある。具体的には、イノベーションを単なるリソースの無駄遣いではなく、景気後退やコスト削減の局面にも耐えうるようにするための、ビジネス上の必須事項として位置付けるために、以下の5つの重要なステップの実行を検討する必要がある。
1. 明確なイノベーション投資方針を構築する
イノベーション投資方針とは、企業のイノベーションに関する目標と、その達成手段を明示した戦略文書である。この投資方針は、企業全体の戦略的な狙いと直接結びついている必要がある。イノベーション投資方針は、どのイノベーションプロジェクトに注力すべきかを判断するための枠組みを提供し、各プロジェクトが企業の長期的目標と整合していることを担保するものである。
2. イノベーション投資の明確な目標を設定する
イノベーションリーダーは、取締役会と緊密に連携し、イノベーション投資に関する明確かつ測定可能な目標を設定する必要がある。これらの目標は、短期、中期、長期といった複数の期間にわたって定義する必要がある。このようにして整合性を取ることで、社内の全員がイノベーションの取り組みの目的と、それが会社の戦略目標にどのように貢献するかを理解できるようになる。
3. イノベーションのための明確な予算を設定する
目標が設定された後は、異なる時間軸および戦略的トピックごとに区分された、イノベーションのための明確な予算を合意することが重要である。この予算は、企業のイノベーションに対するコミットメントを反映し、意義あるプロジェクトを推進するために必要なリソースを提供するものでなければならない。このような形で予算を配分することで、イノベーションへの取り組みに十分な資金が確保され、リソースの効率的な活用が担保される。
4. イノベーションの手段を適切に組み合わせる
成功を収めたイノベーション戦略は、多くの場合、それぞれが明確な目的と目標を持つ複数のイノベーション手段を組み合わせて構築されている。これらの手段には、社内での研究開発、スタートアップとの提携、コーポレート・ベンチャー・キャピタル、イノベーションラボ、スタートアップ・アクセラレーター・プログラムなどが含まれる。それぞれの手段は、全体的なイノベーション投資目標と結びついており、かつ明確な成功指標が設定されている必要がある。
5. 明確な権限とコミュニケーションのラインを確立する
効果的なイノベーションの実現には、強力なリーダーシップと明確な権限体系が不可欠である。イノベーションリーダーは取締役会との良好な関係を築き、イノベーションプロジェクトの進捗状況およびその影響について定期的に取締役会に報告可能な体制を整える必要がある。こうしたコミュニケーションにより、取締役会はイノベーションへの取り組みに関する最新の情報を把握し、継続的な支援を行うことが可能となる。また、プロジェクトが目標に達していない場合には、迅速な対応と修正を促すことができる。
まとめ
企業におけるイノベーション部門の閉鎖は、イノベーションと企業全体の戦略的な狙いとの結びつきを緊急に強化する必要性を浮き彫りにしている。ミグロス、ZF、SAP、FWD、ウォルマートといった企業の轍を踏むことなく、イノベーション機能を持続的に保持したいのであれば、今こそイノベーションに対して実効性のある実践的な姿勢を持つことが不可欠である。
明確なイノベーション投資方針を策定し、取締役会と目標および予算に関して整合を図り、複数のイノベーション手段を組み合わせ、明確な権限とコミュニケーションのラインを確立することで、企業はイノベーションの取り組みを単なる「あったら良いな」的なものでなく、戦略的成功に不可欠な要素とすることができる。
これらのステップを実行することにより、イノベーションリーダーはイノベーションを、コストのかかる間接費から、企業に多大な価値をもたらす戦略的必須事項へと転換することが可能だ。
本ブログ記事は、もともとCorporate Startupのブログに掲載されたものです。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください
次回のブログは「目標を持つことは戦略を持つことを意味しない("Having Goals Doesn’t Mean You Have a Strategy")」という、企業における戦略と目標の違い、及びその両方を適切に設定することの重要性についてのお話です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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                        株式会社マキシマイズ シニアパートナー
 Japan Society of Norithern California日本事務所代表
 早稲田大学 非常勤講師
            東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
            「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。
        


 
                                         
                                         
                                         
                                        

 
                