破壊的イノベーションはなぜ現実的なビジネス戦略になりにくいのか。そして、その代替策は何か("Why Disruptive Innovation Is A Bad Business Idea. And What Can You Do Instead")

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みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。

今回は、「破壊的イノベーションはなぜ現実的なビジネス戦略になりにくいのか。そして、その代替策は何か("Why Disruptive Innovation Is A Bad Business Idea. And What Can You Do Instead")」という、破壊的イノベーションより、既存の強みを活かせる隣接イノベーションが最も実行しやすく成果につながるのではないか、というダン・トマ氏の提言についてのお話です。では本文をお楽しみください。

破壊的イノベーションはなぜ現実的なビジネス戦略になりにくいのか。そして、その代替策は何か("Why Disruptive Innovation Is A Bad Business Idea. And What Can You Do Instead")

2025年3月28日
ダン・トマ氏
破壊的イノベーションはなぜ現実的なビジネス戦略になりにくいのか。そして、その代替策は何か
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

要点

原価と効率性が破壊的イノベーションの障壁となる:企業はコスト効率と財務的な予測可能性を最適に保持するために、利益率、オペレーション、株価に生じうる混乱を避けようとし、抜本的な変革が困難となる傾向にある。

隣接領域でのイノベーションによる低リスク成長戦略:既存事業と関連する市場や顧客セグメントへの展開により、企業は業務面や財務面の混乱を最低限に抑えつつ既存資産を活用できる。

事業を多角化した企業は不確実な市場において優れた業績を上げる:各種の研究結果によれば、多角化されたポートフォリオを有する企業は、特に景気後退期において、より高い耐久性を示し、財務的に成功しやすい傾向がある。

破壊的イノベーションや変革的イノベーションの必要性を企業に納得させることは、常に容易であるとはいえない。企業によっては、そもそもその必要性が乏しい場合もあり、また資金的余裕がなく実行に踏み切れない企業もある。さらに多くの企業は、本質的にリスクの高い領域への投資を正当化することに苦慮している。中核事業――すなわち中核事業のもつ効率性、利益率、財務の予測可能性――を守ろうとする本能が、大胆な新機会を探索しようとする欲求を上回ることは少なくない。

変革的イノベーションに抵抗する経営幹部は、リスク、失敗回避、あるいは既存収益源とのカニバリゼーションの可能性を、反対する理由としてあげることが多い。しかし、企業内部には、それら以上に根深く、しばしば見落とされがちな障壁が存在する。それは、特にマーケティング、営業、その他の業務活動における、コスト効率への強い執着である。

CFOとCMOが破壊的イノベーションに抵抗する理由

企業各社は数十年にわたり、同じ製品を同じ顧客層に対し、より高い効率で販売する能力を磨き上げてきた。そして市場は、その取り組みを高い企業価値と株価という形で評価してきた。

マーケティングと営業の機能は、精緻な顧客セグメンテーション、実績あるメッセージ戦略、きめ細かく調整された流通チャネルを活用し、予測可能性を高めるべく最適化されている。売上原価(COGS)は、粗利や営業利益率、さらには自社の株価に直接影響するため、綿密に管理されている。

売上原価の最適化に徹底して取り組むということは、企業が次の取り組みに多大な努力を払うことを意味する。

  • より有利な仕入れ条件を得るべく契約交渉し、調達コストを削減する。
  • 自動化や業務効率化によって生産プロセスを合理化する。
  • 在庫コストを最小化し、サプライチェーンを最適化する。
  • マーケティングおよび営業活動を標準化し、投資収益率を最大化する。

企業が全く新たな製品やビジネスモデルを導入すると、これまで綿密に構築されてきた効率性が損なわれることになる。中核事業とは大きく異なる提供価値をマーケティングし、販売するためには、新たな能力、新たな流通戦略、さらに新たな成功指標が必要となる。これらのプロセスを再び習得するためには多大な費用と時間を要し、そしておそらく最も重要な点として、企業が精緻に調整してきた財務構造を脅かすことになる。

隣接領域でのイノベーションの事例

このように内部に抵抗の芽が組み込まれているため、財務業績を損う危険を冒さずにイノベーションによる成長を図りたい企業は、隣接領域でのイノベーションに目を向けるべきである。この戦略は、自社の中核事業を合理的かつ管理しやすいやり方で拡張するための新製品やサービスの開発に重点を置くというものである。このようなイノベーションは、次のいずれかに該当する。

  • 既存事業の能力を活用しつつ、新たな顧客セグメントへ進出する。
  • 中核事業の既存市場に対して、新たな製品やサービスを導入する。

隣接領域でのイノベーションは、次の理由から、リスクが低く、より予測可能な成長への道筋をもたらす。

  • 既存の資産(ブランド、サプライチェーン、流通、業務効率)を活用できる。
  • 企業の財務構造、特に売上原価への混乱を最小限に抑えられる。
  • 営業マーケティングにおける既存のノウハウを活用でき、導入がより円滑に進む。

例:老舗飲料会社の機能性飲料への進出

炭酸飲料を主力商品とし、数十年にわたってサプライチェーン、マーケティング、販売の最適化に取り組んできた伝統的な清涼飲料会社を例に考えてみるとよい。もしこの会社が、食品代替シェイクやオーダーメイド栄養管理サービスといった全く新しい商品・サービスを導入することになれば、顧客獲得戦略、価格モデル、サプライチェーン構成を一から再構築する必要が生じ、既存の業務活動の持つ効率性を損ない、利益率を脅かす可能性が高い。

そうする代わりに、隣接領域でのイノベーションのアプローチでは、ビタミン入り飲料や植物由来エナジードリンクといった機能性飲料ラインを立ち上げることが考えられる。これらの商品は、流通チャネル、小売との連携、ブランド認知といった自社のコアコンピタンスを活用しつつ、自社の財務面や事業運営面の既存のDNAを大きく変えることなく、新たな消費者ニーズを取り込むというものである。

ペプシコ社の事例がまさに上記の取り組みである。炭酸飲料とスナック菓子で有名なペプシコは、既存の流通およびマーケティングの強みを活かしつつ、スポーツドリンク(ゲータレード)、コンブチャ(ケヴィータ)、植物性プロテイン飲料へと事業を拡大し、成長市場を取り込んだのである。

研究結果によれば、事業を多角化している企業は、特に景気後退期において、事業を多角化していない企業よりも優れた業績を示す傾向があることが明らかになっている。ボストン・コンサルティング・グループとHHL(ライプツィヒ経営大学院)による調査でも、多角化企業は景気安定期には特定ニッチ特化型企業と同等の業績を上げる一方、景気悪化時には明確な財務上の優位性を持つことが示されている。

結論:スケーラブルなイノベーションへの道

CEOやイノベーションリーダーにとって、財務業績を不安定化させることなく成長を促進するための鍵は、事業拡大における野心と実現可能性との適切なバランスを見出す点にある。破壊的イノベーションは注目を浴びやすい一方で、隣接領域でのイノベーションは持続可能かつスケーラブルな事業インパクトをもたらすことが多い。

既存の強みを活かしつつ、新たな機会へ慎重に事業を拡大していくことで、企業はCFOを厄介者として疎外したり、CMOを苛立たせたり、長期的な成長を支える財務基盤を揺るがしたりすることなく、効果的にイノベーションを実現することができる。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください

次回のブログは「戦略の役割とは何か?("What Is The Role Of Strategy?")」という、企業における戦略の位置づけや活用方法についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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