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中古品ブームの到来:再利用品オンライン販売の事業機会を探る(“The Rise of Second-hand: Exploring the Opportunities of Re-commerce”)

中古品ブームの到来:再利用品オンライン販売の事業機会を探る(“The Rise of Second-hand: Exploring the Opportunities of Re-commerce”)

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「中古品ブームの到来:再利用品オンライン販売の事業機会を探る("The Rise of Second-hand: Exploring the Opportunities of Re-commerce")」という、再利用品オンライン販売の価値やその事例についてのお話しです。日本で成功している再利用品オンライン販売と言えば何といってもメルカリですね。メルカリのビジネスモデルについてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています。では本文をお楽しみください。

中古品ブームの到来:再利用品オンライン販売の事業機会を探る

2021年2月2日
中古品ブームの到来:再利用品オンライン販売の事業機会を探る
(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

ファッションの中古品市場が急拡大している。2029年までには、800億ドル(12兆円)市場になり、ファストファッションの倍の市場規模となると予測されている。中古の衣料品が私たちのクローゼットを乗っ取りつつある現状を鑑みて、今回はビジネスモデルの観点から中古品再販という事象を探求し、このモデルを他の業界に適用する方法を調査研究してみたい。

定義:再利用品オンライン販売とは何か?

中古品販売とは文字通り中古品の販売のことである。数年前までは、中古品は主にフリーマーケットや安っぽい店で売り買いされていたが、現在では取引の多くはオンラインプラットフォーム上に移行した。これまで中古品販売モデルをけん引してきたのはファッション業界であるが、ファッション以外のビジネスも急速に成長している。例えば、家具販売のIKEAは最近買取サービスと中古品ポップアップストア(ポップアップストア:期間限定で短期間だけ運営する店舗)のテスト営業を始めた。

顧客動向:消費者はどうして中古品を売ったり買ったりするのか?

中古品の購入はもはや後ろめたいことではなくなった。実際、最近の調査によると特に若者の間では中古品を買うことがある種のステータスとなっている。このような変化の背景には様々な要因があるが、そのほとんどが以下2つの主要因に絡むものだ。

  • 新品より安い
  • 新品より環境に良い

中古品は新品の小売価格に比べてわずかな金額で購入できることも多い。これは、すべての中古品販売モデルで低価格帯層を対象としているという意味ではない。近年では高級ファッションの中古品販売が前例のない急成長を見せている。例えば、バーバリーグッチといったブランドが"RealReal"のような委託サービスを使って、自社商品を前のオーナーから集荷し再販売している。また、"Vestiaire Collective"のようなプラットフォーム上で、消費者がブランド品を他の消費者に直接販売することもできる。購入者だけでなく、元の所有者の方も、金銭的な動機(自分のクローゼットを整理しながら少しお小遣いを稼ぐチャンス)から売り買いをしていることも多い。

中古品に第二あるいは第三の人生をもたらすことは、消費者の財布にやさしいだけではない。製品の寿命を延ばすことには環境面でのメリットもあるのだ。具体的には経済活動に伴う天然資源の使用を削減し、廃棄物の生成を遅らせることができる。使い捨て型のファッションであるファストファッションがどれほどゴミを増やすかを消費者が意識するようになるにつれ、よりサステナブルな代替商品や代替手段を消費者が求めるようになる。このトレンドは、ファッション業界で明確になってきただけでなく、家電や家具など、その他の製品カテゴリでも同様の動きがある。

これからは中古品販売の時代だとして、中古衣料品のオンラインマーケットプレイス大手"thredUp"の共同創業者兼CEOのジェイムス・ラインハルト氏は次のように語っている。「今後の問題は、誰が勝者となり誰が敗者となるかである。」企業が中古品販売のビジネスモデルを実現する方法をより力知るために、既に中古品がブームとなっている我々の親密な隣国フランスの状況を見てみよう。

フランスにおける中古品販売推進の動き

近所のスーパーの特売でZARAのドレスを8ユーロで売っている。フランスでは、既にこのような世界が実現している。フランスの食品流通の大手であり総合スーパーの"Auchan"では、最近自社の店舗に中古衣料品のコーナーを開設しはじめた。オンライン販売プラットフォームである"Patatam"がフランスのランド地方アスタングの町に保有する2500平米の倉庫から供給されるドレス、パンツなどの中古衣料品が、既に5か所のAuchanの総合スーパーの店舗で特売されている。「2021年の春までには、120か所以上のAuchanの総合スーパー店舗で販売を開始したいと考えています。」と、Patamの創業者兼社長のエリック・ガグネール氏は語る。

フランスのアパレル及び家庭用リネンの小売"La Redoute"は、自社の顧客の半数が中古品の売買をしていると知ると、中古品オンライン販売プラットフォームである"La Reboucle"を素早く立ち上げた。このプラットフォーム上で、消費者は同社の商品だけでなく他のブランドの商品も含めて中古品の売買を行うことができる。売り手は、現金での支払いか25%引きのディスカウントクーポンを受け取るかを選択できる。こうすることで、La Redouteはこの新たなプラットフォーム上のお金の流れを捉え、自社のウェブサイトでそのお金を使ってもらうことを狙っている。ファッション市場での競争環境は既に非常に厳しいため、La Redouteは家庭用の装飾品に注力することで他との差別化を図り、新たな顧客を獲得しようとしている。

中古品とコロナ禍:パンデミックの及ぼしたインパクトとは?

パンデミックが勃発した際に、消費者が衛生面の理由で中古品を買わなくなるのではないかとの懸念を示す専門家が何人かいた。しかしながら数字を見ると、その逆であることが分かった。1250万人以上の利用者と持つ中古衣料品のオンラインプラットフォームVintedは、コロナのパンデミックと戦うために3月~5月までフランスで封じ込め措置が取られた際に非常に大きく成長した。最近の消費者調査がその理由を示している。世界的に、パンデミック前と比較して個人が自由にできる時間が増えたことにより、自分のクローゼットを整理する機会が倍に増えたのだ。消費者が自宅を整理し続け、かつオンラインでのバーゲンを求め続けるため、オンラインのファッション中古品販売は2021年に2019年比で69%成長することが予測されている。それに対して、小売りセクター全体では同時期に15%の市場減少が予測されている。

事業機会:なぜ様々な企業が再利用品販売に携わるのか?

2019年にファッションの中古品販売はファッション小売りセクター全体に比べて25倍も速く成長した。当然のことながら、小売り各社はこの有望な新規の市場セグメントの一角を占めたいと考える。しかし、中古品すなわち製品の二次利用は、単純に再利用品を再度販売する事業機会というだけの話ではない。二次利用品を取り巻くサーキュラーなビジネスモデルを構築することで、事業者は消費者、そして地球環境に対する新たな価値を生み出すことができるのだ。

以下に、再利用品販売に携わる企業各社が最も重視しているモチベーションを列挙する。

  1. 消費者の需要変化への対応の必要性
  2. 環境面でのパフォーマンス向上
  3. 消費者との関係強化をはかる機会
  4. より良い商品を生み出したいというインセンティブ
  5. 規制対応で先を制する

● 中古品とサステナビリティ

気候変動、環境汚染、生物多様性の喪失といった地球環境の危機が消費者の興味の最上位に上昇している状況下では、企業各社が自社のビジネスモデルを地球環境の危機に適応させることが期待されている。中古品を新たな所有者に循環させるための輸送で二酸化炭素の排出が増加するにもかかわらず、中古品販売モデルは従来型の「資源を採取し、製品を製造し、廃棄する(採取、製造、廃棄)」モデルよりも、ほとんどの環境指標において優れている。

● 消費者との関係強化

よりサステナブルな商品への消費者の需要の変化に対応することは、新たな顧客の獲得と顧客のロイヤルティ向上の両方の面で有効である。中古品販売事業のビジネスモデルは、例えば、いわゆる「ロックイン」のパターンを生み出す。というのも、使用済みの製品と交換で、企業は顧客に自社店舗のみで有効なクーポンを提供してもよい。そうすることで、顧客は使用済みの資産から新たな価値を得るが、販売のループはその小売企業の事業エコシステムの中に閉じたままであり、その小売事業者の新たな収入源となる。

● 中古品販売とサーキュラーデザイン

最後に、中古品販売モデルは企業が自社製品をより長持ちするように設計しようというインセンティブとなる。製品の耐久性が高いことは、中古品販売モデルの必要条件だからだ。製品寿命が長いほど、製品が新たな所有者に再販される機会も増加する。この新たな目標は製品設計に関わってくる。より長持ちさせるために、より耐久性の高い素材で衣料品を作り、モジュラーデザインでエレクトロニクス製品を作り、修繕や部品の取り換えを容易にできるようにするのだ。中古品販売を念頭に置いた製品設計はイノベーションのきっかけを生み、製品の品質をより高めることにつながる。

フランスでは、廃棄物に対する新たな規制によって、衣料品に関する拡張製品責任:EPRの枠組みとして製品の循環を意識した設計を促すことを狙っている。この規制により、フランス国内で衣料品の製造や販売を行う企業は、自社製品の廃棄に関する管理と処理の費用を賄うための費用を支払わなければならない。品質が低く、耐久性の低い素材が使われている場合には、この費用が非常に高くなる。この廃棄物に対する新たな法律は、財務的な報奨/罰則システムの非常に良い例と言え、そのうちに他の国や他の製品セクターにも広がっていくと考えられている。

事業者が中古品販売のビジネスモデルを実現する方法は?

中古品販売のビジネスモデルへの取り組みを開始した既存企業の多くは、テストプロジェクトを行ったうえで、主要事業とは切り離したスピンオフ事業として、しかしながらこのような異なるビジネスモデルをどう扱えばよいのかを学ぶことができるモデルプロジェクトとして、中古品販売の事業を運営している。H&MとZalandoの両社は、品質管理をした中古ファッションアイテム販売の独自プラットフォーム、H&MのSellpyと、ZalandoのZirkleをそれぞれ開始している。

企業が自社のビジネスモデルを革新するための方法についてもっと知りたいのであれば、ビジネスモデルナビゲーターを参照してほしい。
サーキュラー・ビジネスモデルについての追加情報は、サーキュラー・ナビゲーターの紹介ページ及びサーキュラーエコノミーのビジネスモデル・イノベーションに関するホワイトペーパーを参照頂きたい。

● 考え方のヒント

同様のパターンが見られる他の企業や製品セクターはあるだろうか?

あなたは、これらの新たなビジネスモデルがどのようになっていくと思うか?

自社にとっての事業機会はありそうか?

自社でも使用済み製品を回収して中古品として販売することは可能だろうか?

もしそれを実施した場合、自社にとってどのようなメリットがあるだろうか?

それによって新たな顧客を獲得できるだろうか?

それによって顧客のロイヤルティを高められるだろうか?


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください.
次回は、「画期的なビジネスモデルで気候変動と戦う方法("How to fight climate change with innovative business models")」という、ビジネスモデル・イノベーションが気候変動に対してどのように役立つのかに関するBMI Lab社の見解に関するブログ記事をご紹介予定です。

渡邊 哲(わたなべ さとる)

株式会社マキシマイズ シニアパートナー

Japan Society of Norithern California日本事務所代表

早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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