ビジネスモデル開発における大きな課題:システマチックにビジネスモデルを検証する方法(“The big challenge in business model development: How to systematically test your business model”)
みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMILab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「ビジネスモデル開発における大きな課題:システマチックにビジネスモデルを検証する方法("The big challenge in business model development: How to systematically test your business model")」という、新規事業を事業拡大するためのポイントについてのお話しです。では本文をお楽しみください。
2019年4月29日
ビジネスモデル開発における大きな課題:システマチックにビジネスモデルを検証する方法(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
私たちがこれまで協力してきた企業のほとんどは、何年もかけてビジネスモデル開発に優れた成果を上げ、新しいビジネス (モデル)アイデアを生み出すことができる様になった。ビジネスモデル・ナビゲーター、デザイン思考、ブルーオーシャン・アプローチなどのツールを活用することで、企業各社は顧客の視点やニーズに関する非常に有用な洞察を得ることに成功している。また、説得力のある提供価値やビジネスモデル・コンセプトの形成にも成功している。
しかしながら、ほとんどの企業がその段階で新事業の開発プロセスを止めてしまう傾向がある。顧客と話をするのは「完璧な」ソリューションを構築してから、という古い考え方に逆戻りしてしまうのだ。そうなってしまうと、途中で修正をしながら顧客と一緒にソリューションを形作っていくというメリットを手放すことになる。一般的に広く普及しているこのようなアプローチの問題点は以下のとおりだ。
- コストがかかる
- リソースと時間を要する
- 制作者側の目には「完璧」だが、顧客にとっては完璧でないものができる
ビジネスモデル開発: ビジネスモデルの検証サイクル
一つのビジネスモデル開発に必要以上にリソースや時間を費やさないためのポイントは、ビジネスモデルの最重要な側面をいくつか特定し、それを繰り返し検証することだ。このやり方で進めれば、企業は事業モデルの実現可能性に関する迅速なフィードバックを、顧客、ユーザー、パートナーから得られる。この方法によって、以下を実施することが容易になる。
- 検証プロセスを段階ごとに検討し理解する
- 検証のための適切な質問を見つけるのに役立つ適切なツールを選択する
- ビジネスモデル開発を成功させるために最適な検証方法と検証の諸条件を理解する
このやり方は業界に依存せず、B2BとB2Cの両方のビジネスモデルに有効であることを強調しておきたい。
ビジネスモデル開発: 仮説の構築方法
ビジネスモデルを4軸で文書化したら、ビジネスモデル開発の次の大事なステップはビジネスモデル・キャンバスを作成することだ。ここで気を付けたいのは、ビジネスモデル・キャンバスが顧客向けの最終ソリューションを開発する直前の最後のステップと見なされることが多い点である。実際にはビジネスモデル・キャンバス上の情報は、ビジネスモデルの実現可能性を確認するために検証する必要がある仮定にすぎない。言い方を換えると、誰に対して何をテストする必要があるのかを見つけるための選択肢の一覧にすぎないのだ。
ビジネスモデル・キャンバスの情報をテストの準備と実行を可能な形に変換するためには、次の手順を実施する必要がある。
1. 前提となっているすべての想定を特定する
キャンバスをざっと見て、事実であると確信できる部分と検証が必要な部分を判定する。事実確認は厳しく判定する。ここでの誤認はあとで痛い目をみることになる。自分で判定した結果を他の人に再確認してもらう。自分が事実だと思っていることが、そうでないこともあるためだ。既存企業の新事業の場合は、外部(顧客やパートナー)と内部(社内)の両方の想定を検討する。非常に有望な事業アイデアであっても、自社の戦略や文化に適合しなければ成功する可能性はない。
2. 想定に優先順位を付ける
すべての想定を同時に検証することはできない。特定した想定を、ビジネスモデルの成功に対する影響度に応じてランク付けする。ビジネスモデルに対して最も重要な想定を見つけるためのツールとして、私たちは「想定条件のジュース絞り機」を作成した。そのあとで、それぞれの想定を検証する難易度を確認する。最初に検証しやすく最も重要な想定に集中する。これらの想定を検証したあとで、より難しく、それほど重要でない想定の確認を進める。
3. 仮説を構築する
それぞれの想定は検証実施可能な形になっていない。想定を検証するためには、反証可能な仮説として構築する必要がある。反証可能な仮説を構築する手順は以下の通りだ。
- ランク付けされた想定リストから想定を選択する
- 想定をテストする対象者のグループを特定する
- 想定を反証可能にするための基準値と測定データを決定する
仮説の構築方法を理解するために、郊外エリアにおけるドアツードアのライドシェアリング・サービスの事業モデルをテストしたいと考えていたスイスのモビリティサービス・プロバイダーの例を見てみよう。プロジェクトに関する最も重要な想定は、「郊外エリアの人々がサービスを頻繁に利用する意思がある」ことであった。ところが、この想定は検証するためには対象が広すぎた。そこで、想定をより具体的にするために、様々なユースケースを洗い出した。
様々なユースケースのうち、サービスの成功に最大の影響を及ぼすユースケースは通勤者のユースケースであった。このユースケースでは、通勤者は自宅と駅の間で1日に2回サービスを利用する可能性がある(対象顧客グループ)。次に、サービス利用に興味を持つ通勤者の総数を判断するために、基準値が必要となった。事業成功のためには、この駅の通勤者総数の少なくとも20%がモビリティサービス用アプリのダウンロードに興味を持っている必要があった(基準値と測定データ)。
これらの情報から、同社は次のような仮説を立てた。
「スイスの郊外エリアにある特定の小さな街の周辺地域の通勤者の20%が、アプリをダウンロードして、自宅から駅まで当社のドアツードアのライドシェアサービスを利用することに興味を持っている。」
検証する仮説の作成作業を支援するために、私たちはBMIテストテーブルを開発した。このツールは、検証の準備に必要な一連の流れに沿って作業を支援する。「仮説」セクションでは、以下に示すように、最も重要な仮説を構築する。
このプロセスは一回で終わる作業ではない。テストの結果として仮説が検証または反証されたら、それを踏まえてビジネスモデル・キャンバスを見直し、キャンバスの一部を変更したり、情報を追加したりする。すると、それに伴い新たな想定や仮説が生まれる可能性がある。これらの仮説は、ビジネスモデル開発の検証エンジンを動かし続けるための燃料と言ってもよい。
ビジネスモデル開発: BMIテストカード - 仮説に最適な検証方法を見つける
私たちの経験上、仮説検証のために適切な検証法を選択することについて、ツールによるサポートが特に役立つことがわかっている。ビジネスモデル開発プロセスのそれぞれの段階において、適した検証方法が存在する。また、テスト対象のビジネスモデルの特性(サービスか製品か?、B2BかB2Cか?など)に応じて、テストをうまく進めやすい検証方法の選択肢が複数ある。
そこで私たちは、イノベーション・プロジェクトにおいて適切な検証方法を見つけて選択できるように、ビジネスモデルのあらゆる側面を検証するのに役立つ22の検証方法を整理した。
22枚の検証カードについては、こちらを参照してほしい。
検証カードの使い方は簡単だ。まず、検証カードを手に取る。カードの表側には、検証方法の簡単な説明と例が記載されている。すべてのカードに目を通し、それぞれの仮説に当てはまるものを選択する。どの検証方法を使用するかを決めたら、カードの裏側を見て、テスト実施方法のハウトゥガイドを参照する。
検証方法を決めたら、検証テスト参加者の募集方法を検討する。テスト参加者募集の重要性は見落とされがちだが、検証テストの成果を左右する鍵となる。テスト内容に適した対象者グループを選ぶことが重要である。ただし、募集に時間がかかると、検証テストの実施スケジュールに遅れが生じる。最後に、テスト計画の実施期限を設定し、テストの準備、実行、結果とりまとめの責任者を明確に決める。
テストテーブルを使えば、「実験」セクションに必要事項を記入するだけで、次の内容を文書化できる。
- 実施したいテスト
- 参加者の募集方法
- 設定した実施期限
- 責任者
スイスのモビリティサービス・プロバイダーの場合は、サービスを利用する通勤者の関心についての仮説を検証するための初期の検証方法としてチラシを使用することにした。テスト参加者の募集については、駅や駅周辺の駐車場で顧客に直接チラシを配布した。さらに、この機会を利用して通勤者にサービスのコンセプトを直接説明した。そうすることで、テスト対象グループが提供価値を理解し、チラシが無駄にならないようにしたのだ。さまざまな仮説を検証するために同社が使用したその他の検証方法としては、顧客インタビュー、アンケート、コンシェルジュMVPなどがある。
ビジネスモデル開発: BMI発見計画 - 週次でテストを予定する
ここで具体的な実行の話に入りたい。検証方式を決定したら、その後は週次で、テストの準備、実行、結果のとりまとめの計画についてアップデートする。検証カードの裏面を参考にして検討する。実行する必要があるすべての作業が明確になったら、テストを実行するために必要な時間とリソースを見積もる。ここまでくれば、ビジネスモデルの検証と実行に関する意思決定の確固たる判断基準が得られる。あとは、顧客のところに行って、検証テストを実行するのみだ。
私たちは、テスト結果の文書化支援のために、BMI発見計画ツールを作成した。テストテーブルから仮説を選択し、計画シートを使用して検証実験の終了まで毎週何をするかを定める。十分な時間をかけてテスト参加者を募集し、調査結果をまとめることを忘れないようにする。必要な作業がはっきりしたら、テストの実行に必要な人的リソース、時間、および資金を見積もる。
検証テストの実行は明確で、発見計画に記載したとおりにテストを実行するだけだ。しかしながらほとんどの場合、テストの実行は当初予定した通りには進まない。したがって、テストの進行状況を早めに検証し、意味のあるテスト結果を得るために何か変更する必要があるかどうかを確認することが重要である。検証テストで期待どおりの結果が得られない場合、条件設定を変えて再度検証し、初期の条件設定が期待にそぐわない結果の原因であったかどうかを確認する。たとえば、テスト参加者の募集が想定通りに機能しなかったせいで、適切でない対象グループにテストをしてしまった可能性があり得る。このような場合は、欠陥のあるテストを完了することにすべてのリソースを費やさないようにする。速やかにテストを停止し、別の対象グループを相手にテストを再開する。
検証テストの実行に関するもう1つの重要なポイントは、意味のあるフィードバックを得ることだ。よくありがちなのは、テスト担当者が完璧なテストを実行することに集中しすぎて、フィードバックを得るのを忘れてしまうことだ。検証テストを開始する前に、必ずフィードバックに関する明確な戦略を立てるようにする。望ましいフィードバックの形式、フィードバックを得るタイミング、取得すべきフィードバックの内容を事前に整理しておく。フィードバックが無ければ仮説をしっかり検証したり反証したりできないため、フィードバックの無いテストには意味がない。
ビジネスモデルのテストサイクルの最後のステップは、フィードバックを分析し、そのフィードバックを最初のビジネスモデル・コンセプトに反映することだ。初期のビジネスモデル・キャンバスに戻って別の色のポストイットを追加し、検証テストから得た重要な発見事項を記載する。その後で、初期の想定と重要な発見事項を比較し、ビジネスモデル・キャンバス内の該当箇所を修正する。
結論
検証の進め方を示す適切なツールや標準プロセスがなければ、新しいビジネスモデルの開発は困難を極める可能性がある。私たちの開発したビジネスモデル開発-テストサイクルを使えば、自分たちの現在の状況とToDoリストの次の実施項目を常に把握できる。BMI検証カードは、さまざまな検証方法のブレインストーミングを行うのに役立つツールである。このツールは、最終的なソリューションを実際に構築するよりもリソースを抑えて検証を実施する方法を見つけるのに役立つはずだ。ただし、業務の一環として検証テストの実行、そして潜在的な顧客から話を聞くことに真剣に取り組まなければ、中途半端な結果に終わってしまう恐れがある。いくら素晴らしい計画であっても、それを実行しなければ失敗に終わることを常に念頭に置く必要がある。
DX・イノベーション手法を学ぶ、
マキシマイズのセミナー
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「スマートシティとデジタル・イノベーション:未来への道程("Smart Cities and Digital Innovation: a guide to the future")」という、都市開発にIoTなどのデジタル技術を取り入れることでスマートシティを実現することおよびその課題、スマートシティのもたらす事業機会に関するブログ記事をご紹介予定です。
WRITER
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。