想定条件のジュース絞り機:新規事業の最大のリスク要因を特定するためのツール("The Assumptions Juice Press – A tool to identify your most critical assumptions")

ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「想定条件のジュース絞り機:新規事業の最大のリスク要因を特定するためのツール("The Assumptions Juice Press – A tool to identify your most critical assumptions")」という、新事業アイデアの事業性の検証についてのお話しです。事業アイデアが100%確実に成功することを事業の開始前に確認することはできません。しかし逆に、実際にはうまくいかない事業アイデアがあった場合、事業アイデアの前提となっている想定条件を洗い出し、その想定が事実とは異なることを確認できれば、うまくいかない事業を始める前に事業内容を軌道修正したり、あるいは中止することができます。そうすることで、失敗する事業を始めた場合の人的、金銭的、時間的な損失を事前に防ぐことが可能となります。見方を変えると、事業の想定を洗い出す作業は、事業アイデアの失敗につながるリスク要因を事前に洗い出すこととも言えます。失敗事業への無駄なリソース投入を減らすことで、結果的に新事業アイデアの成功確率を高めることができるのです。より具体的な考え方については、本文をご覧ください。

想定条件のジュース絞り機:新規事業の最大のリスク要因を特定するためのツール("The Assumptions Juice Press – A tool to identify your most critical assumptions")

2018年5月9日
想定条件のジュース絞り機:新規事業の最大のリスク要因を特定するためのツール(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)


事業アイデアの前提となっている想定条件を洗い出すにはどうすればよいか?

過去5年間にわたり、BMI Labではイノベーション・ワークショップ、BMIスプリント、およびプロジェクトの伴走サービス等を通じて、多数の大企業をサポートしてきた。新たなビジネスチャンスを発見し、ビジネスモデルのコンセプトを作成した後の重要なステップは、コンセプトの前提となっている最も重要な想定条件の特定である。この作業を実施する理由は、事業アイデアの基礎となる前提を明確に理解していなければ、事業アイデア検証とプロトタイピングの工程を明快に進められないからだ。

我々が携わったプロジェクトでの経験上、前提条件を特定することは容易でなく、また顧客企業が作業に「不自然さ」を感じることも多いようだ。そこで、このプロセスを支援するために、我々は「想定条件のジュース絞り機("Assumptions Juice Press")」を開発した。このツールは、ビジネスモデルの各側面で最大のリスク要因を洗い出し、その後のテストを通じて検証または否定するために使用する。まず、ビジネス仮説についてみてみよう。


優れたビジネス仮説とは?

優れたビジネス仮説とは、以下のようなものを言う。

  1. 明確: 自分の考えをシンプルかつ具体的に表現する。想定について他のチームメンバーの見解が異なる場合は、共通点を探す。もし、自分の想定を文書化する方法やその曖昧さの粒度について、依然としてチーム内に異なる意見がある場合には、十分に明確でない表現を中途半端に選択しないこと。その代わりに、自分の想定を2つ以上の想定に分割してそれぞれが異なる意見に明確に適合するようにし、検証しやすくする。
  2. 標準構造: 定石の一つに、想定を表現するときに常に同じ文章構造を使用することがある。我々がお薦めしている文章構造は、まず最初に「私の考えでは…である」か、チームの場合は「我々の考えでは…である」、あるいは「私/我々は…と想定している」で始めるというものだ。次に、ビジネスモデルの各軸(顧客ニーズなど)と、その後にこの軸に当てはまると自分が考える内容を記述する。
  3. 否定可能: 表現を柔軟にしすぎないこと。否定可能とは、自分の想定が間違っている可能性が高いかどうかを検証できなければ意味がないということだ。ビジネス仮説の一部が的外れであったと確定できれば、事業アイデアに関する学びを加速できるため、それは非常に素晴らしいことなのだ。

我々は、事業に関する想定条件を、標準構造に従って、明確、かつ否定可能な形で記述したものを、「ビジネス仮説」と呼んでいる。


あるビジネスにとっての最大のリスク要因を特定するにはどうすればよいか?


最大のリスクは顧客に受け入れられるかどうかである

どのビジネスもそれぞれ異なるため、リスクの内容もそれぞれ異なる。言い方を変えると、例えば革新的な新技術(ブロックチェーン、AI、3Dプリンティングなど)に基づくビジネスは、すでに確立された技術(電子商取引、モバイルアプリ、SaaSなど)に基づく事業アイデアとは異なるリスクを負うということだ。

しかし、最大のリスクは技術そのものではなく、顧客に受け入れられるかどうかであることが多い。良い例はPayPalだ。ピーター・ティール、ルーク・ノセック、マックス・レヴチンがConfinityという会社名で創業した当初、うまく事業が立ち上がらなかったのはテクノロジーのせいではなかった。その当時にスタートアップであった同社が90年代後半に破綻寸前の状況に追い込まれた理由は、彼らが最初に開発したパームパイロット用のモバイル決済ソリューションに対する顧客ニーズが無かったからだ。

一般的に、新たなビジネスモデルを開発する際の最大のリスクは、顧客を理解していないこと、つまり顧客ニーズを満たしていないことに関連していることが多い。あるいは、自分たちのソリューションの価値を顧客に十分に理解させることに失敗していることもある。

9割のケースで、ビジネスモデルの構成要素における最大のリスク要因は次の7つのいずれかに当てはまる。

  1. ニーズに関する想定:顧客のニーズは何か?なぜ顧客はそれを望んでいるのか?同様のニーズを満たす既存のソリューションは何か?顧客が達成したいと思っているが、うまく達成できておらず、支援が必要な「タスク」は何か?
  2. 問題点に関する想定:既存のソリューションの問題点は何か?現時点での顧客の満足度はどの程度か?なぜ顧客は不満なのか? 既存のソリューションは複雑すぎる、高すぎる、簡単に見つからない、といったことがあるか?
  3. 顧客の種類に関する想定:適切な顧客を念頭に置いているか?「理想的な」顧客はどんな顧客か?顧客のプロフィール(ペルソナ)を説明できるか?法人向けであれば、理想的な顧客になりそうな会社はどの会社か?消費者向けの場合、自社商品を購入してくれる知人の名前を言えるか?場合によっては、複数の種類の顧客(マッチング・プラットフォームなど)が存在する場合や、複雑な意思決定の段階に対処しなければならないことにも留意する。
  4. 提供価値に関する想定:最も説得力のある提供価値は何か?自社の提供価値をユニークな点は何か?自社の提供価値のどんな点が顧客の心に焼き付くのか?自社の提供価値が顧客をワクワクさせるのはなぜか?
  5. 提供内容に関する想定:提供内容に何が含まれることが必要か?顧客をワクワクさせるために、自社(あるいはビジネス・パートナー)は、どんな製品やサービスを提供する必要があるか?提供する必要がある製品やサービスの主な機能は何か?
  6. 収入に関する想定:自社にとって、新ソリューションの最適な収益モデルはどんなものか?顧客はどのような支払い方法を希望するか(使用量ごと、利用時間ごと、販売、サブスクリプションなど)。自社の収益モデルはどのようにして顧客をロックインし、あるいは強化ループや好循環を生み出すか?
  7. 購入意欲に関する想定:顧客がソリューションに払ってもよいと思っているのはいくらか?同様の製品やサービスの一般的な価格はいくらか?自社ソリューションの価格感応度曲線はどんな状況か?アンカリング効果を使って価格を引き上げるにはどうすればよいか?自社ソリューションの顧客あたり平均単価はいくらか?


説明は以上ですべてだ

上記で説明したことが、事実上あらゆる新規ビジネスモデル企画において最もリスクの高い想定だと言える。もし新たなビジネスモデルを生み出そうとしているなら、できるだけ早くこれらのリスク要因を特定して検証することが肝要だ。どの想定が間違っているかを知ることは、自分の想定の正確さを証明することと同じくらい重要なのだ。だからこそ、想定を明確にし、構造化して、否定可能にすることが重要である。

「想定条件のジュース絞り機("Assumptions Juice Press")」ワークシートを使えば、より良い仮説を構築するために役立つはずだ。ワークシートは我々のウェブサイトからダウンロードできるので、ぜひ参考にしてもらいたい


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、『ビジネスモデルのスケーラビリティ:内部vs外部("Business Model Scalability: Internal vs. External")』というビジネスモデル・パターンを活用して既存製品をもとにした新規事業の立ち上げに成功したスイスの大手流通グループミグロス社の成功事例に関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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