人間の仕事はAIで置き換えられるか?("Does AI Replace Human Work?")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「人間の仕事はAIで置き換えられるか?("Does AI Replace Human Work?")」という、AIの業務活用についてのお話しです。最近話題となっているChatGPTなどの生成AIは、本ブログで触れられている汎用AIへの入り口と言えるかもしれません。では本文をお楽しみください。

人間の仕事はAIで置き換えられるか?("Does AI Replace Human Work?")

2021年9月14日
人間の仕事はAIで置き換えられるか?(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

テクノロジーによって、全世界の相互接続はますます進み、距離が縮まり、まるで一つの村のようにつながりが密接になってきている。モノのインターネット(IoT)は、モノの経済(IoE)に向かって進みつつある。すなわち、製品、プロセス、機械、アルゴリズムが自律的に動作して、顧客を満足させ、商品やサービスを生産し、事業価値を生み出すようになりつつあるのだ。すでに今日において、大規模な製造現場を支配しているのは、ロボット、自動運転車、物流システム、自動生産システムなどのサイバー・フィジカル・システムである。監視システムの担当として数人の人間が必要なだけだ。このようなトレンドの活用は銀行、保険、オフィス内にとどまらず、世界に広がっていく。実行前に1秒の確認が必要なチェック作業は、今でもすでにAIにアウトソーシング可能だ。単純作業のAIへのアウトソースが始まれば、近い将来、より複雑なタスクのアウトソーシングへと加速していくものと思われる。

世界のAI(人工知能)ソフトウェア市場は、2025年までに約1,260億米ドルに達し、今後数年間で急速に成長すると予測されている(Liu、2020年)。

2018年から2030年の市場規模予測に基づく、Statistaのセグメント別数値:

  • ロボ・アドバイザーによる運用資産額(2,550億ドル)
  • 自動運転車(870億ドル)
  • AIアナリティクス(700億ドル)
  • 物流、梱包、資材(310億ドル)

人工知能とは、コンピューターや機械を活用して、感情や思考など人間の精神面における問題解決能力と意思決定能力を模倣するものである。
—IBM、2020年

言葉の定義 - 人工知能とは何なのか?

オンライン英語辞典のオックスフォード・リビング・ディクショナリーの定義によると、「人工知能(AI)とは、視覚認識、音声認識、意思決定、複数言語間の翻訳など、通常は人間の知性を必要とするタスクを実行できるコンピューター・システムの理論と開発」とのことだ。ただし、AIが最初に話題とされ始めたのは、1950年のアラン・チューリングによるコンピューターとインテリジェンスの研究に遡る。チューリングは論文の中で、「機械は思考できるのか?」と質問している。この疑問に基づいて、同氏は今では有名な「チューリング・テスト」を開発した。このテストの目的は、消費者の受けとめ方という観点から、人間と同等、または人間と区別できないような知的な動作結果を示すかどうかで、機械の能力を評価することである。

例えば、被験者Cがいつ人間と話していつチャット・ボットと話したのか区別がつかない場合、チューリング・テストに合格となる。AIの評価方法については大いに議論されているが、チューリング・テストは依然としてAIの歴史の重要な部分であり、AI評価における進行中の概念でもある。

人工知能の種類 - 弱いAIと強力なAI

AIは、特化型AIまたは特化型人工知能とも呼ばれる弱いAIと、汎用/スーパーAI、汎用人工知能(AGI)、あるいは人工超知能(ASI)とも呼ばれる強力なAIに分類できる(IBM、2020年)。弱いAIとは、特定のタスクの実行に重点を置いて訓練されたAIを指す。たとえば、チェスの指し方をマスターするように指定して弱いAIを訓練できるが、その知能は別の領域に転用できない。AppleのSiri、AmazonのAlexa、IBMのWatson、自動運転車などのアプリケーションとして、今日のAIとして頻繁に目にするのが弱いAIだ。一方、強力なAIとは、機械が人間と同等の知能を持つAIであり、現時点では理論にとどまっている。強いAIは問題を解決し、学び、将来の計画を立てる能力を保有する自己認識の意識を持つものと思われる。いくつかの領域において人間よりも知能が高く、人間の能力を超えるとき、それはスーパーAIとなる。現時点で強力なAIはまだ完全に理論上の概念であり、ユースケースがないことを考慮すると、実際には研究者がその可能性を模索していると言える。強力なAIの実現形態を想像すると、見た目、知能、能力の点で完璧な人型ロボットなのかもしれない。

ここで、今日の最も先進的なヒューマノイド、具体的にはガイノイドの例として、ソフィアをご紹介したい。

人間にはどんな仕事が何が残されるのか?

人間に残される仕事は多くある。イノベーションの研究が示すように、あらゆる新技術が、技術の登場前には考えが及ばない新たな仕事を生み出してきた。AIにおいても多岐にわたる仕事が生まれてきそうだ。

  • SiriやAlexaなど人格(パーソナリティ)を持つAIアーキテクチャを作成するには、パーソナリティ・デザイナーが必要になります。パーソナリティ・デザイナーは、ユーザーに向けて仮想アシスタントが投影する人格イメージをデザインする。
  • AIライターはAIができるだけ人間らしくなるようにキャラクターを作成する。最終的には、キャラクター作成は、アルゴリズムに感情を投影することで、機械と人間の間に信頼関係を構築する可能性をもたらす。
  • 知能倫理学者は、AIおよびAIとの関係が社会の倫理規定に従っているかどうかを評価する。Googleは2018年に軍事AIを指導するための倫理フレームワークへの取り組みを開始した。取り組みが必要な新たなタスクには、「機械は権利を持つべきか?」あるいはイーロン・マスク氏のNeuralinkプロジェクトのような「AIチップを人間に埋め込むべきか?」といった未解決の問題も関連する。
  • AIコーチは、AIプラットフォームを自律的にするための教育と訓練を行う。コーチは、学習とスキルアップのために膨大なデータ・ストリームをアルゴリズムに供給しなければならない。膨大なデータ・ストリームの供給を通じて、AIコーチはマシンが自己改善のための学習を行えるようにする。
  • 個人データ・ブローカーは、収集したデータを分析し、エコシステム内の関心のある企業にデータを再販する役割を担う。

AIによる事業機会

人コネクテッド・ビジネスの事業機会として、さらに多くの仕事やビジネスが生まれるものと思われる。しかしながら、今回の変革スピードは、人類がこれまでに経験したどの変革よりも速いものとなりそうだ。その結果として、膨大な数の新規雇用が期待されるにもかかわらず、多くの先進国では構造的失業に直面するかもしれない。その理由は明らかで、職を失った保険の営業マン全員がAIデザイナーになれるわけではないからだ。

このような変化にどう備えるべきか?

新たな経済社会においては、テクノロジーに関するより多くのスキルが必要になる。誰もがコーディングできる必要はないが、ビジネスリーダーやイノベーターは、AIによる様々な事業機会を評価し、それに応じて自社のビジネスを変革するために、各種技術の基本的なメカニズムを理解する必要がある。それに加えて、従業員には今までより多くの社交スキルや共感力が必要とされるだろう。これら2つの特性は、機械で模倣できても、完全に実現することはできないからだ。未来における人間の仕事は、挑戦的で、興味深いのと同時に、有望でもある。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「BMI Lab社のおすすめニュースレター7選("Our 7 Favorite Newsletters")」という、BMI Lab社がお薦めするイノベーションに関するニュースレターについてのブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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