SDGsやCSRを実現するためのKPI

DX・DX人材, イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。

今回は「企業倫理の測定(”Measuring Ethics”)」で、パーパス経営、SDGsや、悪い面ではグリーンウォッシングなどにも関連する最近話題のトピックです。
イノベーション会計では企業のイノベーション・システムを様々な指標で評価計測し、組織のイノベーション力を高めるための基準としています。このブログでは、企業倫理の確立を進めるための各種指標を紹介しています。
では本文をお楽しみください。

SDGsやCSRを実現するためのKPI
~企業倫理の評価測定~

2020年7月19日  ダン・トマ氏
企業倫理の測定
ダン・トマ氏が”The Innovation Accounting bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

今日の世界では、すべての業界が変化に見舞われており、その結果として購買決定に影響を及ぼす要因を理解することが非常に重要になっています。全ての企業が手ごろな価格で高品質な製品を市場に提供することで市場シェアを得ようとしているために、企業間の競争は熾烈です。

しかしながら、品質や価格面での製品やブランド間の差異を消費者がほとんど感じないモノやサービスがあふれる豊かな世界においては、新たな購入基準が前面に現れてきます。商品の差別化要因として利用されるものの一つとして企業の倫理的行動があります。機能、価格、ブランドでの差別化以外に企業の事業活動の倫理性に基づいて商品の差別化を図るのです。いち早く2002年頃に実施された調査では、企業の倫理的な活動が顧客の購買決定プロセスに影響することが明らかにされています。

しかしながら、企業の倫理的な活動を、「グリーンウォッシング」的に利用しても、戦略としては短命に終わってしまいます。

大部分の場合には、労働力の搾取、取締役会の不作為、地球環境汚染の代償として単にROIを向上させるのでなく、「正しいことを」したいと企業は考えているのです。だからと言って、フォルクスワーゲン社の排ガス不正テスコ社の不正会計の話が示すように、上記の話と異なり何かがおかしいと感じるようなケースをあまり目にしないと言っているわけではありません。

英国勅許内部監査人協会(IIA)の調査により、英国のFTSE100企業の94社がアニュアルレポートで企業倫理に言及している一方で、倫理的な行動をとっているかどうかを測る何等かの指標を持っているのはたった23社に過ぎないことが明らかになりました。そして倫理に関する自己評価の判定条件と目標値を示している会社は1社もありませんでした。

国際的あるいは地域的な倫理指数の体系は250以上あり、なかでも英国企業に最もよく知られている倫理投資の指数はFTSE4Goodとダウ・ジョーンズ・サステナビリティ指数(DJSI)の2つです。これらの指数は投資家が「倫理的な投資」を実施する際の基準として機能します。

倫理指数の編纂者は、倫理企業銘柄に含まれる企業、含まれない企業の選定理由については特にコメントしておらず、批判の対象となっています。例えばDJSIは、バンク・オブ・アメリカを倫理企業リストに加える決定をしたことで議論を巻き起こしました。グリーンピースやレインフォレスト・アライアンスなどのNGOは、バンク・オブ・アメリカが石炭業界への金融支援を継続していることから、この決定に異議を唱えています。

指数のもう一つの欠点は、未来のサステナビリティ成果を見る指標として利用する上での信頼性に欠ける点です。2010年にBPはDJSIとFTSE4Good指数の両方に含まれていました。しかしながら、メキシコ湾原油流出事故の発生後、即座に両指数から除外されました。これら指数の定期的なインターネット情報を追うことで、時系列での企業責任の進展状況を見る事はできるものの、年ごとに提起される質問が変わる可能性もあり、年ごとの比較が難しいのです。

すべての業界で、製品を一般消費者向けに提供開始する前に安全性を確認しなければなりませんが、中には他の業界に比べて規制の厳しい業界もあります。このような業界の一例が製薬業界で、製品提供前に徹底した治験を実施する必要があります。提供開始前に副作用(人口構成のどの層が、どういった状況下で、影響を受けるか)を必ず特定するために、徹底した治験が必要不可欠なのです。自動車や白物家電の製造業では、初期の安全性試験をクリアするだけでなく、出荷後に危険と見なされた場合には製品リコールを実施しなければなりません。

そして、ソフトウェアやメディアなどの業種セクターがあり、これらの業種ではGDPRや広告基準などの規制を満たさなければなりません。それにもかかわらず、今日までに設計されたメディアやソフトウェア技術の多くは人やグループ間のやり取りの品質を向上させる意図をもって設計されていません。単に中立的な傾向にあるだけです。例えばツイッターが生み出された際、同社のアイデアは誰もが自分の思いを口に出せる手段を提供しようというもので、特に問題を起こしそうではありませんでした。ところが今日では、ツイッターはヘイトスピーチ、荒らし、いじめ、相場操縦などのプラットフォームとしても利用されています。同社の創業者はこのようなことを望んでいたのでしょうか?おそらく違います。

製品設計をする際に事実を2次的あるいは3次的なレベルまで掘り下げて深く考えなければ、誤用により思わぬ行動や結果を招いてしまいます。したがって、倫理的な製品と安全性は必ずしも一致しないのです。しかし、安全性を重視する業界から学び、倫理課題の発展に活かせるものは適用することができます。

申立は個別製品に対して提起されますが、ブランドイメージ全体に影響を及ぼします。だからこそ、倫理指標を主に製品チームレベルで導入する必要があるのです。以下に、特定の製品が倫理に反している度合いを測定するための指標の例を列記します。

  • 申立や苦情の数:特定製品に何人のユーザーや顧客が苦情を申し立てているか。これらの申立の背後にある共通パターンは何か?
  • 1件の申立に影響される製品の比率:自社の製品ラインアップのうち、顧客や利害関係者が苦情を申し立てた製品の割合
  • 申立の立証率:申立全体のうち顧客やユーザーが立証した申立の割合
  • 場所や事業部門:顧客からの苦情が最も多い地域、事業部門
  • 対策の実行時間:製品を倫理的な状態にするために必要な変更を加えるためにチームが要する時間
  • 非倫理的な行動に伴うコスト:訴訟費用や問題解決のための製品回収、改修に自社が費やしたコスト

決して間違わないでほしいのは、上記の倫理指標はすべて受動的な、遅延指標だという点です。苦情が発生するまでの時点で、既に何か問題が発生しているのです。そしてソーシャルメディアの世の中において、風評被害は甚大な影響を及ぼしかねません。結果に対する訂正や回復のコストに、風評被害に関するものを加えてください。遅延指標に頼って得られるのは偽りの安心感だということが良くわかると思います。

したがって、倫理的行動の文化を醸成することだけが、実効性のある唯一の能動的な解決策となります。自社の従業員が倫理の理想を押し進めるようになり、倫理的な成果を踏まえて一つ一つの業務プロセスを実行するようになったとき、遅延指標だけに頼る必要が無くなるのです。より重要なのは、自社や自社の製品がより倫理的になるだけでなく、製品の導入設置についても倫理的な方法で実施されるように設計し、その思想を組み込むことが予防措置として機能します。したがって、倫理的な文化を構築するための誘導指標を見て、倫理的な文化に裏打ちされた活動に影響を与えるべく努力することが長期的には理にかなうのです。そのために利用可能な指標の例が以下になります。

  • 企業倫理プログラム(企業で提供することが前提)に参加した従業員の割合
  • 年間の研修セッション数、年間の研修セッション実施時間
  • 企業倫理の啓蒙と教育に対する予算
  • 従業員が倫理教育プログラムや倫理関連の活動に費やした年間の平均時間数
  • 倫理教育プログラムや倫理関連の活動に前回参加してから何日経過しているかの平均日数
  • 企業倫理プログラムや関連活動に関する従業員のNPS(他の従業員に薦めるかどうかのアンケート結果)
  • 倫理への理解や、倫理問題が発生した兆候がある場合の影響に対する怖れに関する質問などを含む、年次の倫理調査アンケートへの回答状況
  • 製品の倫理問題や非倫理的なふるまいを目撃し、報告した従業員の比率

企業倫理に関して、現時点で外部性はありません。すなわち倫理に反していたり、あるいは非倫理的な使われ方をされる可能性のある製品のコストは、誰か別の人が負担するのです。それまでに行った多くの対応と同様に、企業が立ち戻って修正するかもしれませんが、たいていは非倫理的な状況に世間の注目が集まった後で実施されます。

そして、その結果として現代の戦略担当者やビジネスリーダー最大の疑問となっているのが、能動的なフレームワークを構築して全ての行動に倫理を埋め込むのかどうかです。もしROIの最大化だけをはかり、意図せず団体や社会の階層を傷つけてしまっているのであれば、それは財務的な利益に値することなのだろうか?

それこそが、製品や収益性の先を見据え、社会に影響を及ぼす方法を考える、真に倫理的な企業の印なのです。AirBnBを例にとりましょう。基本的には、自分の資産に訪問者を迎え入れることで個人に補完的な収入をもたらす一方で、それがコスト効率の良い旅行業の成長を実現するという単純なアイデアです。したがって、表面的にはウィンウィンの関係です。しかしながら、AirBnBが人気になった結果、ある地域では資産価値や家賃が急上昇し、観光施設が過密状態になってしまいました。ここで、私たちはAirBnBが非倫理的な事業だと言っている訳ではなく、意図していない結果と事業開発の全体像を見る事の重要性の例として紹介しています。

効率化のためだけに最適化をするリスクは、そのことで社会が非常にぜい弱になることです。私たちが何かを失う場合に、問題が非常に速く進んでしまい、手遅れで防御手段がありません。しかしながら、歩んでいる方向は正しいのです。2020年の始めにスイスのダボスで開催された年次の世界経済フォーラムにおいて、ビジネスリーダーと政治のリーダーはダボス・マニフェスト2020に署名しました。これによって会社の目的が「企業の目的はすべてのステークホルダーと共通の持続的な価値創造を分かち合う事である。その様な価値創造において、会社は株主だけでなく、すべてのステークホルダーすなわち従業員、顧客、サプライヤー、地域コミュニティ、そして社会全般に尽くす。すべてのステークホルダーの様々な利益を理解し協調させる最良の方法は、長期的な会社の繁栄を強化するためのポリシーと意思決定に共通のコミットメントをすることである。」と定義され、より倫理的なビジネスへの道を開いたのです。

「効率性、安価、無償という世界において、不幸にも我々は社会をぜい弱にしてしまった。」スタンフォード大学の平和イノベーションラボ共同ディレクターのマルガリータ・クイウィス氏が、シンギュラリティ大学ノルディックによるポッドキャストのインタビューで、こう語っています。同じインタビューで彼女は以下の様に追加しています。「我々は自分達の住みたい世界を開発し始める必要があります。我々は投資の意思決定をする前に、自分達で開発し、進んでいく方向を見て、その世界は自分達が求め、私たちの子供に住んでほしい世界なのかを自問する必要があります。」

※本記事のオリジナルはダン・トマ氏が定期的に寄稿している「The Future Shapers」に掲載されたものです。


いいかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「イノベーション投資委員会(”The Venture Boards”)」という、新規事業案件に対する段階的な投資判断をするための組織についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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