ポルシェの教訓:戦略は宣言するためではなく、学習するために設計されなければならない(“Lessons from Porsche: Why Strategy Must Be Built to Learn, Not Just to Declare”)

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みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。

今回は、「ポルシェの教訓:戦略は宣言するためではなく、学習するために設計されなければならない(“Lessons from Porsche: Why Strategy Must Be Built to Learn, Not Just to Declare”)」という、急速に変化する時代において、戦略は一度宣言して実行する不変のルールではなく、仮説を検証しながら学習と適応を繰り返す柔軟な枠組みとして設計されるべきであるという戦略のあり方についてのお話です。では本文をお楽しみください。

ポルシェの教訓:戦略は宣言するためではなく、学習するために設計されなければならない(“Lessons from Porsche: Why Strategy Must Be Built to Learn, Not Just to Declare”)

2025年12月31日
ダン・トマ氏
ポルシェの教訓:戦略は宣言するためではなく、学習するために設計されなければならない
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

2025年、ポルシェは前年比で利益率が90%以上低下するという、ほぼ驚異的ともいえる落ち込みを報告した。これは、電気自動車の販売減速に加え、同社の中核的な顧客層である従来からのコアな自動車ファン層がが電動化を完全には受け入れていないことに起因するものである。

この状況は、伝統と革新の衝突として広く捉えられている。しかし、より本質的な教訓は、電気自動車と内燃機関のどちらが優れているかという点にあるのではない。それは、「スピードと対応力の問題」である。今日の破壊的変化は、新たな技術やトレンドの出現だけによって生じるものではない。「組織の外部における変化のスピードが、組織内部の適応のスピードを上回ったときにこそ生まれる」のである。この点は、数十年前にジャック・ウェルチが「外部の変化の速度が内部の変化の速度を上回れば、終わりは近い」と述べた、今や広く知られた言葉にも端的に示されている。

ポルシェの課題は、電動化そのものが誤った判断であったという点にあるのではない。問題は、実際の顧客に対する検証が十分に行われる前に、固定的な戦略方針に基づいて意思決定がなされていた点にある。有効なフィードバックが得られた時点では、すでに数十億ドル規模の設備投資がコミットされており、その結果、戦略的なロックインが生じ、方向転換の余地が大きく制約されていたのである。

ポルシェで起きたことは、「成長戦略やイノベーション、そして破壊的変化への対応」を担うリーダーにとって重要な教訓を示している。長期的な成功に必要なのは、一度定めた中長期計画を実行し続けることではなく、市場や顧客からのフィードバックを踏まえ、戦略を柔軟に方向修正していくことである。

なぜ従来型の戦略はもはや通用しないのか

数十年にわたり、戦略は「固定的なロードマップ」、すなわち今後数年の事業運営の指針となる一連のコミットメント(達成すべき目標)とマイルストーン(進捗指標)として捉えられてきた。しかし、テクノロジー、市場、そして顧客行動が急速に変化する現代において、このモデルはもはや機能しない。なぜなら、その前提となる事業環境の確実性が実際には存在しないからである。実行リストとしての戦略は、完成した時点ですでに陳腐化しているのだ。

現在、有識者たちは、戦略はもはや固定的な事業実行計画ではなく、「自社の事業環境に関する想定を検証し、組織全体の意思決定に一貫性を持たせるための動的な枠組み」として捉えるべきだと主張している。そして戦略の中核は、将来に関する最も重要な前提を明確にし、それらを継続的に検証する仕組みを備えることにある。

これこそが、「宣言による戦略から実験による戦略への転換」の本質である。

一連の実験としての戦略とは

先見性のある企業は、もはや戦略的なコミットメントを一度決めたら変更できないものとしては捉えない。代わりに、戦略を「検証可能な仮説」の集合体として捉える。すなわち、戦略を不確実性を低減し、組織の方向性を形づくるための、小規模で検証可能な一連の実験へと分解するのである。

(ポルシェが完全電動化で行ったように)検証されていない単一のビジョンに自社の命運を委ねるのではなく、複数の小規模な試みを同時に進め、それぞれについて戦略的な想定が現実世界で成立するかどうかを検証することも可能である。このような取り組み方は、Amazonのようにイノベーションに長けた企業が、大規模な資源を投入する前に、自社の管理・統制のもとで新たなアイデアを継続的に検証しつつ、段階的に拡張していく手法に通じるものである。

これらの実験は、単なる戦術的なA/Bテストではない。むしろ「戦略的な検証手段」であり、それぞれの実験が顧客のニーズや市場の反応、あるいは特定の成長機会の実現可能性といった重要な問いに答えるために設計されている。リーダーは、目的地をあらかじめ定めてその実現を期待するのではなく、まず想定を明確にし、それを体系的に検証するための組織的なプロセスを構築するのである。

このアプローチには二つの利点がある。

  • 長期的なコミットメントに先立つ迅速な学習:実験により早期に実データが得られるため、組織は特定の方向に多額のコストを投じる前に方向転換することが可能となる。
  • 戦略とイノベーションの整合性の確保:憶測ではなく検証に基づいて個々の新規プロジェクトを進めることで、イノベーション活動の結果が戦略的意思決定に反映されるとともに、戦略もまたイノベーションの方向性に影響を与える。

成長、イノベーション、そして破壊的変化に対する示唆

経営幹部や経営戦略スタッフにとって、その意味するところは極めて大きい。

まず、戦略は一度きりの「宣言」ではなく、継続的な「事業環境との対話」でなければならない。」従来型の中長期計画は、急速に変化する環境に対してあまりにも脆弱である。そのような計画に縛られるのではなく、市場や顧客と事業運営を緊密に結びつける実験から知見を得るたびに、戦略を進化させ続けるべきである

「第二に、イノベーションは戦略的意図と結びついていなければならず、そこから切り離された「実験的な取り組み」として扱われるべきではない。」その結びつきを欠くと、イノベーションは実業から孤立した「見せ物」に陥り、たとえ興味深い取り組みであっても、企業の中核的な方向性と乖離してしまうのである。

最後に、リーダーは学習とガバナンスの双方を支える組織的な仕組みを構築しなければならない。」フィードバックループ、迅速な実験の枠組み、意思決定のチェックポイント、継続的な戦略レビュー、そして修正を前提とした計画プロセスは、もはや選択肢ではなく、破壊的変化の中で戦略が機能するために不可欠な要素である。

顧客を決して忘れてはならない

これらすべての根底にあるのは、単純な真実である。何が望ましいかを決めるのは顧客であり、社内の予測やエンジニアリング上の想定ではない。あらゆる戦略的仮説、実験、投資は、顧客の反応データに紐づくものでなければならない。これを無視すれば、企業は検証されていない将来に対して大胆な判断を下してしまうリスクを負うことになる。

結論:変化のスピードに対応するための戦略

ポルシェの事例は、破壊的変化とは単に最新技術を保有することではないことを物語っている。重要なのは、顧客の嗜好、市場、そして競争環境が進化するスピードである。組織の内部プロセスがこうした外部の変化に追いつかないとき、たとえ最強のブランドであっても、その勢いを失ってしまうのだ。

不確実性に満ちた世界において、最も高い業績を上げるのは、戦略を継続的な学習システムとして捉える企業である。すなわち、成長、イノベーション、そして破壊的変化に対して、硬直的な中長期計画ではなく、反復的な実験を通じて対応していく企業である。

この考え方によって、現代におけるリーダーシップのあり方が再定義される。今やすべての経営幹部に問われるのは、「我々の中長期計画は何か」ではなく、「今日、我々はどのような想定を検証しているのか」、そして「昨日、我々は何を学んだのか」である。

Outcome社のポートフォリオ管理およびイノベーション会計プラットフォームであるSATORIは、どの戦略的取り組みが顧客から最も支持を得ているか、そしてどの取り組みが最も高い潜在的リターンをもたらすかを理解するのに役立つため、経営陣がより自信を持って投資の優先順位を決定できるようになります。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください

次回のブログは「あなたの業界が破壊的変化に直面する9つの兆候(“9 Signs Your Industry is About to be Disrupted”)」という、デジタル技術の進展と第4次産業革命の中で、既存業界がどのような兆候を示したときにディスラプション(破壊的変化)が起こるのか、また企業はそれにどう備えるべきかという業界変革の兆候と対応についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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