サーキュラー・ナビゲーター手法で
新たなビジネスモデルを実現する(“Implementing New Circular Business Models with the Circular Navigator Methodology”)
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みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「サーキュラー・ナビゲーター手法で新たなビジネスモデルを実現する("Implementing New Circular Business Models with the Circular Navigator Methodology")」という、サーキュラーエコノミーを起点としたビジネスモデル・イノベーションの実現手法についてのお話しです。では本文をお楽しみください。
サーキュラー・ナビゲーター手法で新たなビジネスモデルを実現する
2020年12月11日
(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
数多くの企業が現在サステナビリティに注力しているが、地球環境の現状に対する実際の行動との間には大きなギャップが存在したままだ。以前のブログ記事で紹介した通り、サーキュラーエコノミーは製品の使用効率とその価値を最大に維持するための包括的なソリューションである。今回のブログ記事では、企業が自社単体では手が届かないが自社に適した複数のビジネスモデルを持つサーキュラーエコシステムを設計し、実証し、実現するための実行可能な道筋を提供する『サーキュラー・ナビゲーター』という我々のフレームワークを紹介したい。
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1.衝撃(IMPULSE):
企業が自社のビジネスを運営方法変更の必要性を認識する。具体的には、消費者の行動変化や法規制への対応、天然資源への依存度やコストの削減、従業員のモチベーション向上などの必要性などが考えられる。 -
2.特定(IDENTIFY):
自社のかかわるバリューチェーン全体の現状のビジネスモデルの環境及び社会への影響を数値的に評価する。そのために役立つ新たなツールの1つが、ビジネスモデルの4軸の概念(WHO/WHAT/HOW/WHY)にサステナビリティのトリプルボトムラインの3つの輪(地球環境、人々、利益)を組み合わせたサステナブル・ビジネスモデルだ。 -
3.アイデア創造(IDEATE):
サーキュラー・パターンカードを使って、既存ソリューションの枠組みを超えたサーキュラーなビジネスモデルのアイデア群を創造し、サステナブルな方法で循環ループを実現できる画期的なソリューションを持つ完全なサーキュラー・エコシステムを構想する。 -
4.事業設計(INTEGRATE):
創造プロセスで生み出された複数のアイデアをサーキュラーなロジックに統合し、循環ループの最初から最後までを完結するサーキュラーエコシステムを設計する。 -
5.ビジョン(IMAGINE):
自社のサーキュラー・トランスフォーメーションのビジョンとモチベーションを策定し、すべての利害関係者(サーキュラーエコシステムの従業員、経営陣、取引先、顧客)の方向性を合わせる。多くの関係者が関与するため、共通のビジョン、ミッション、及び目標を持つことがその根本となる。 -
6.具現化(INCORPORATE):
理想的と思われるパートナーにアプローチし、エコシステムに取り込む。サーキュラーソリューションの成功のためには、この点が非常に重要である。それというのも、必要な製品、サービス、あるいはガイドラインをすべて1社で創造、提供可能な企業は(ほぼ)存在しないからだ。新たなパートナー各社が参加することで新たなサービスや可能性が追加され、エコシステム全体が変化するかもしれない。さらにビジョンが変わることもあり得る。 -
7.実行(IMPLEMENT):
エコシステムの実現を各社それぞれのビジネスモデルのレベルで実施する。設計したエコシステムを実現するための鍵となるポイントは、想定の検証を通じてリスクを削減し、新たなビジネスモデルを実証するという既存のベストプラクティスをサーキュラーエコノミー特定の要件に合わせて適応させたものである。
新しいサステナブルなビジネスモデルを創造する方法をよりよく理解するために、特定(IDENTIFY)のステップをより詳細に説明したい。サーキュラーでサステナブルなプロジェクトには多数の障壁が存在するため(以前のブログ記事を参照)、最初に問うべき重要な質問はサーキュラーエコノミーとビジネスモデルイノベーションをどのように組み合わせるかである。まず最初に、ビジネスモデルそのものを精査しなければならない。
- 1.WHO(対象顧客):顧客はだれか?顧客のニーズや課題は何か?
- 2.WHAT(提供価値):顧客に提供する製品やサービスは何か?提供価値は何か?
- 3.HOW(提供手段):提供価値はバリューチェーンにおいてどのように創造・生成されるか?
- 4.VALUE(収益モデル):企業の視点から見た収入モデルは何か?どのように利益を生み出すか?
全体として、ビジネスモデルでは企業の視点と利益のみに焦点を当てており、サステナビリティの観点が欠けていることが見て取れる。持続的(サステナブル)な成長と利益という言葉は環境のサステナビリティという意味でなく、「長期的な」成功という意味でつかわれる。包括的な視点からは、単に企業のビジネスモデルのみを表現するのでなく、自然環境や社会全体への影響も表現すべきである。以下に示すように、ビジネスモデルのそれぞれの軸はトリプルボトムラインの異なる対象への影響を持つ。例えば、自社の提供するもの(WHAT)と提供手段(HOW)は、環境への影響に関する主要な要因となる。サステナブル・ビジネスモデルの概念を使って、企業は自社の選択に伴う影響を自問自答する必要がある。このように文書として明記することで、企業がよりサステナブルなソリューションを生み出せるようになる。
サーキュラーエコノミーは単にサーキュラー・ビジネスモデルのみから生み出されるのではなく、それぞれが繋がりあった複数のビジネスモデルのエコシステムが、各関係者の相互作用を生み、共同で作業をすることで循環ループが完結する。
その一方で、物質の流れやリサイクルのみに焦点を合わせるべきではない。最も重要なのは、サステナブルであるということを超えた説得力を持つ提供価値を最終消費者に向けて生み出すことである。そうでなければ、最終消費者へのメリットを生み出すという主目標への視点を見失ってしまう。最後に、もう一つ言及しておくべき重要な点として、エコシステム内の各プレイヤー間のとりまとめ、すなわち異なる多くのプレイヤーが実際に成果を生み出すために必要な協調と推進がある。プロジェクトを推進し、関与するすべての企業とコミュニケーションを図るために最低1人のリーダーが必要である。これらすべての特徴を取り込むことで、成功するサーキュラーエコシステムの構築が可能となるのだ。
現状の特定を終えれば、新たなアイデアを生み出すことが可能となる。一般的なビジネスモデル・イノベーションと同様に、アイデア創造プロセスにはパターンが役立つ。例えば、マクドナルドのロジックを別の会社にあてはめることで、新たなソリューションを発想することが容易になる。それと同時に、パターンをサステナブルという観点で注意深く選定して利用すれば、既に効果を生み出したことが明らかになっているサステナブルなソリューションを追加して様々な暗黙知を取り込むことができる。それこそが、BMI Labのチームが200以上のサステナブル・ビジネスモデルの成功例(完全にサーキュラーとは言えないものも含むが)を調査した理由である。いずれにしても、これらすべての企業は、各社の成功に寄与した非常に重要なサステナブルなパターンを持つという点で際立っている。
サーキュラー・ビジネスモデルのベストプラクティスをいくつか紹介するうえで、ブルーランド社は最高の事例だ。同社はガラスや鏡、床や家具の表面、バスタブなどの洗剤製品の販売に注力している。同社のイノベーションは、長持ちするガラス製のボトルと水に溶かして洗剤として利用する錠剤を提供して、家庭用洗剤の使い捨て容器を削減する点にある。これは非常に便利なソリューションで、それというのも水はもともと家庭にあるため、顧客にとってのコストは錠剤のみとなるからだ。それに加えて、使い捨てのプラスチック容器は無くなり、倉庫や輸送コストが削減される。このパターンは、「部材の節減(De-Materialisation)」と呼ばれるが、なぜなら元の製品から水が取り除かれたからだ。容器はリユースされ、長持ちするようにという意図をもって製造されれている。最後に、生分解性の包装と毒性のない素材が使用され、環境、人々、そして動物に害が及ぶこと無いように配慮されている。
2つ目のサステナブルの事例はインファーム社で、同社は地域の店舗で直接野菜を育てるドイツのスタートアップだ。同社の植物育成装置はスーパーマーケット内に設置され、長大なサプライチェーンを排除するとともに、エネルギー消費の少ないLEDを使っている。殺虫剤は使用せず、顧客との密接な関係性も構築できる、それというのも顧客は作物がその場で生育され、直接店で収穫され、まさに新鮮だということを、直接目にして理解するからだ。すべてのインファームの装置はクラウドベースの育成プラットフォームで管理され、育成状況を常に学習し、調整し、改善し続けるため、植物の生育方法も常に改善され続けるのだ。
最後の事例がループで、これはサーキュラーエコシステムのとりまとめを行っているアメリカ企業の華々しい事例だ。多数の大手ブランドとの提携を通じて、ループでは長持ちする高品質な容器で廃棄物ゼロ版の生活必需品を提供している。顧客が商品をオンラインで注文すると、ループの箱に入った商品が配達される。商品を使い終わったら、からの容器は回収され、洗浄され、再利用される。ループは専用の洗浄設備を保有することで、大量の使い捨てプラスチック容器や包装材の削減に成功している。
まとめ
気候変動、地球資源の過剰な利用、自然界の環境破壊によるの問題を軽減するためには、通常のビジネスの運営方法を徐々に変えていくだけではもはや不十分である。複数の企業が関与するサーキュラーエコシステムを設計し、より多くの取引先企業との間でサーキュラーなイノベーションプロセスを立ち上げることで、社会、環境そして企業各社そのものに対して大いなる利益が得られるのだ。サーキュラー・ナビゲーターは、すでに多くの企業がサステナブルなパターンを自社のプロセスに取り込むために利用している洗練されたフレームワークを提供している。総括すると、サーキュラーエコノミーとは、事業運営の方法にポジティブな変革を起こすための一つの手段であると言える。
サーキュラー・ビジネスモデルについての追加情報は、サーキュラー・ナビゲーターの紹介ページ及びサーキュラーエコノミーのビジネスモデル・イノベーションに関するホワイトペーパーを参照頂きたい。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください.
次回は、「サーキュラーなビジネスモデルを設計する:アイデア創造から実現まで("Designing Circular Business Models: From Ideation to Implementation")」という、サーキュラー・ナビゲーター手法でサーキュラーエコノミーを起点として新たなビジネスモデルとそれを取り巻くビジネスエコシステムを構築するための一連のプロセスに関するブログ記事をご紹介予定です。
WRITER
- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。