サーキュラーなビジネスモデルを設計する:アイデア創造から実現まで(“Designing Circular Business Models: From Ideation to Implementation”)

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みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「サーキュラーなビジネスモデルを設計する:アイデア創造から実現まで("Designing Circular Business Models: From Ideation to Implementation")」という、サーキュラー・ナビゲーター手法でサーキュラーエコノミーを起点として新たなビジネスモデルとそれを取り巻くビジネスエコシステムを構築するための一連のプロセスについてのお話しです。では本文をお楽しみください。

サーキュラーなビジネスモデルを設計する:アイデア創造から実現まで

2021年1月27日
サーキュラーなビジネスモデルを設計する:アイデア創造から実現まで
BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)


昨今の環境下において、自社のソリューションを現状よりもサステナブルな新たなソリューションに代替するために、自社のビジネスモデルを革新するための方法を探している企業をますます多く目にするようになってきている。その際の究極的な目的は、環境問題を解決しつつ、自社の顧客にとって魅力的な価値を提供するようなサーキュラーエコシステムを実現することである。以前のブログ記事でも触れたとおり、サーキュラーナビゲーターはそのための有用なツールである。今回の記事では、新たにサステナブルなアイデアをいくつも創造し、それらを実現するために必要とされる一連のステップを詳細に見ていきたい。

サーキュラーエコシステム開発のためのビジネスモデル・パターン

この分類フレームワークは、ザンクトガレン大学の協力による200以上のサステナブルなビジネスの調査に基づき作成されたものだ。このフレームワークでは、サーキュラーエコシステムを創造するために必須の4つのカテゴリーに各パターンを分類している。これら4カテゴリーを網羅することで、収益性のある魅力的な商品・サービスを提供しつつ、同時にサステナブルなリソースの循環ループを実現することが可能となる。

サーキュラーエコシステムを創造するためのビジネスモデル・パターンの4つのカテゴリー

  1. 1.循環ループの実現: ソリューションをサーキュラーエコノミーに対応させるために何をすればよいか?製品を再利用するだけでなく、安全に自然界に戻すことができるように製品を設計するのだ。
  2. 2.循環ループの向上: サーキュラーであるというだけでは、自社のソリューションがサステナブルであるとは言えない(外界への副作用を考える必要がある)。循環ループを向上するためのサステナブルなビジネスモデル・パターンがこのカテゴリーに分類される。パターンの範囲は、製品の長寿命化、効率の向上、機能性の向上(を通じて他の製品を不要にする)、さらには使用する製品の数を減らすなど、多岐にわたる。
  3. 3.循環ループのマネタイズ: サーキュラーソリューションをマネタイズする手段は多数ある。しかし目的は常に同じで、顧客にとって魅力的でありつつ、それと同時に製品を確実に回収し、再活用できることだ。とすると、ここで問うべきことは、いかにしてエコシステム内のパートナーとの協業を実現するか、パートナー全社にとっての価値をどのように生み出すのか、そしてバリューチェーン全体を通じての収益モデルをどのように設計するか、の3点となる。
  4. 4.循環ループの付加価値向上: 最後に重要な点として、常に顧客を念頭に置くことがある。魅力的な価値を提供し、顧客が取り組みたくなるようなソリューションを生み出し、顧客を熱狂させるのだ。そのために、付随サービス、情報の透明性、プラットフォーム化などの選択肢を検討する。

サーキュラーエコシステム・パターンは4つのカテゴリーに分類される。

基本的に、企業はサーキュラーエコノミーという枠組みにおいて、新たな提供価値と、価値を生み出すメカニズムについてのアイデアを創造すべきだ。アイデア創造に関しては、異なる2つの取り組み方法、すなわち構造化された方法と構造化されていない方法がある。構造化されたアイデア創造では、まず第1の柱(カテゴリー)に属するパターンをもとにアイデアを生み出し、その結果を受けて順にその他の柱(カテゴリー)に移っていく。この方法の特徴は、参加者にとっては取り組みやすいが、適用順による制約がある、すなわち初めの方のカテゴリーから生まれたアイデアに比べて、後ろの方のカテゴリーに属するパターンは採用されにくいということだ。

構造化されていない方法では、自由なブレインストーミングによってすべてのソリューションを生み出す。このやり方には、柔軟性や調整のしやすさ、といった点でメリットがあるが、参加者がアイデアを生み出すためのハードルは高くなる。

連携: サーキュラーキャンバスでサーキュラーエコシステムを設計する

一旦様々なアイデアを思い付いたら、次のステップは多数のアイデアをもとに包括的なエコシステムを設計することだ。そのためのツールがサーキュラーキャンバスであり、サーキュラーエコノミーの複雑さをシンプルにし、モノの流れと商流を融合させてサーキュラーなバリューチェーンの大枠を作りだすのに役立つ。

循環サークルの内側は製造、使用、回収の3つのフェーズで構成される。そして循環サークルの外周は取得と廃棄だ。これらはサーキュラーエコノミーの論理に則っており、循環ループを実現するソリューションを強制的に生み出させる。

キャンバスの目的は、エコシステムを形成するアイデアを整理し、選定し、エコシステムを設計することである。最も優れたアイデアを選定し、キャンバスに組み込む。各アイデア同士がうまく機能するだろうか、他のアイデアの方がうまくはまるだろうか、循環ループにギャップが残っていないだろうか、と自問自答してほしい。どんな場合にも、製品と共通の提供価値を中心として、エコシステムが形成される(このように考えてほしい。世の中にサーキュラーなサービスというものは存在しない。モノの流れをサーキュラーにするためのサービスが存在するだけだ)。

キャンバスの四隅には、4つの戦略因子が示されている。これらの因子はエコシステム形成において非常に重要である。

サーキュラー・キャンバスは4つの戦略因子で構成される

  1. 1.製品デザイン – 製品を回収し、再活用するためには、製品デザインが適切であることが必要だ。それに関するアイデアをここに集める。
  2. 2.指標 - 現状を特定し、さらに進捗を追跡できるようにしなければならない。
  3. 3.財務 - サーキュラーな製品を生み出してから回収、再活用するまでにはタイムラグがある。エコシステムが機能するようになるまで何年も持ちこたえるのは容易でなく、それを乗り越えるための様々なアイデアが必要である。
  4. 4.包装&物流 – サーキュラーなバリューチェーンの各ステップにおいて、その時点の製品を運送する必要がある。各ステップが可能な限りサステナブルかつ効率的になることを確実にするために、様々な方法を考えてほしい。

サーキュラー・キャンバスでサーキュラーエコシステムの調整を図る。

そのあとで、それぞれの活動の詳細をじっくり眺めて、自社で担当したいもの、重要だが自社でなくパートナーに実現してもらう必要があるもの、の2つに分類することを提案したい。サステナブルなビジネスモデルを策定し、収益逆算のようなツールを使って、自分たちのコンセプトを収益性のある事業として実現できることを確認する。

サーキュラーな共通のビジョンを生み出す

5つ目のステップであるビジョン("Imagine")は、サーキュラー・トランスフォーメーションの重要な要素である。エコシステムのパーパスと共通の提供価値を物語る共通のビジョンを策定するのだ。社内において、さらには潜在的なパートナー、顧客、従業員の方向性を一致させるうえで、共通のビジョンは欠かせない。目的は関係者全員のモチベーションを高め、なぜこのような活動をするのかについての理解を共通化することである。なぜ自社が変わる必要があるのかについての説得力のあるビジョンなしには、成功はほぼ自社を取り巻く環境と運任せとなってしまう。サーキュラーエコノミー・トランスフォーメーションのプロセスにおけるもっとも典型的な課題は、サステナブルなイノベーションの必要性に関する認識の欠如と消極的な企業文化である。

例えば、テスラのビジョンは、「サステナブルなエネルギーへの世界の移行を加速すること」である。パタゴニアの狙いは「最高の製品を作り、不要な害をなくし、ビジネスを通じて環境危機に対する解決策を創造し、実現すること」である。Wear2Wearは、多数の企業が関与するサーキュラーなソリューションを持つ。彼らのビジョンは、「高品質なアパレル商品を100%リサイクル素材で作る」ことである。インターフェイス社のミッションは、「人類が直面する最大の課題を乗り越えること、すなわち地球の温暖化を逆転させること」である。自社のビジョンを策定させるための決まった方程式はない。しかし、意義と企業の目的をできる限り正確に記述することが非常に重要である。


変革のパーパスを物語る共通のビジョンが策定される。

サーキュラーエコシステムを形成する

一旦ソリューションを創造、設計したら、次のステップはパートナーを巻き込むことである。その際に、参加する各社が自社のビジネスモデルを調整可能であり、測定可能なインパクトを共通の提供価値として生み出せることが必須となる。まずはパートナーに参画してもらうことが第一歩だ。パートナーを見つけて接触する前に、エコシステムの計画と理想的なビジョンをあらかじめ用意しておくと有用かもしれない。心に描くエコシステムへの理解が明確であるほど、適切なパートナーを特定しやすくなる。時には、プロセス全体のかなり早い段階でパートナーが参画するかもしれないが、もし共通の出発点がないのであれば、自社のビジョンとソリューションを協業のベースとして提供することが望ましい。パートナー群の形成には長い時間を要するため、最も重要なパートナーや代替不可能なパートナーを確実に特定しておくことが重要だ。エコシステムや提供価値についてパートナーと方向性をそろえて、必要であれば初期の段階の各ステップをパートナーと一緒に再度実施する。

欠かせないパートナーを巻き込むことができたら、各社がそれぞれの事業領域においてソリューションを具現化し、社内及びエコシステムでの必要な調整と変更を進める必要がある。成功の鍵は、モチベーション、コミュニケーション、社内外の調整である。

企業ごとにサーキュラーやサステナビリティの社内組織への導入レベルが大きく異なることから、実行の際に企業各社の文化を変える必要性を伴うこともしばしばある。それによって、様々な障壁や課題に直面する。

「私は協業の力を強く信じている。私はこの企業間連携を統合されたテキスタイル・ラインと呼んでいる。」
デコンテックス社トミー・ヴァーミンク

タイミングが死活的に重要である。それというのもエコシステムによっては、リサイクルパートナーが運用可能なレベルで参画可能になるのが3、4年後というケースもあるからだ。パートナーがエコシステムに参画し続けるようにモチベーションを与え続けることが重要であり、共通のビジョンやストーリーが非常に重要であるのはそのためでもある。また、ソリューションの実現を自分の責務だと考えるエコシステム内の1、2社のとりまとめ役が、プロジェクトを推進していくことが極めて重要である。時には、パートナー企業が協業の枠組みから外れたり、社内での抵抗にあったりする。したがって、プロジェクトを進めることに責任を感じてくれる各社の担当者のモチベーションを高めることが必須である。

しばしば、採算が合う形でソリューションを作成するために、競合相手との協力が必要となる。サーキュラーエコシステムは1社だけでは機能せず、競合相手との協力のおかげで、魅力的なソリューションが提供可能になるケースもあるのだ。

実行:具体的なアクションを起こす

最後に重要な点は、計画策定したサーキュラーなソリューションを実現する必要があることだ。企業各社にとって、エコシステムの実現とは、各社のビジネスモデルをそれぞれ実行することである。すでに知られているビジネスモデル・イノベーションの方法論と同様だが、小さなステップで素早くテストをしながら進めていくことが必須である。基本的に、実行とは最も重要な想定の検証を通じて各ビジネスモデルを機能させることであり、その中でも最終顧客が欲しがるようなソリューションを提供できていることを可能な限り早く確認することが肝要だ。その際の最も典型的な課題は、自社中心の視点(社内およびエコシステムの目線)が非常に複雑で注意を要することから、顧客の視点を見失ってしまうことである。しかしながら、顧客ニーズに合致しないソリューションを生み出せば、確実に失敗すること間違いなしである。

まとめ


既に触れたとおり、思い描くソリューションとエコシステムと合致するようにビジネスモデルを設計し調整するためには多大な時間を要する。この複雑な作業をうまくこなすためには、システマチックなアプローチが有効である。大きな計画を策定しつつ、ステップ・バイ・ステップでソリューションを実現するのだ。サーキュラーエコノミーの場合には、関係者すべてが目的とビジョンを理解し、また何故それらの目標やビジョンを追求する必要があるのかについて全員の共感を得るように確実に事を運ぶことが必須である。

あまりの複雑さに思考停止に陥らないよう気を付ければ、ソリューションをシステマチックに設計できる。最も重要なことは、これらのソリューションを形にし、サーキュラーで自社を成功に導くための積極的な行動を、今すぐ開始することだ!

サーキュラー・ビジネスモデルについての追加情報は、サーキュラー・ナビゲーターの紹介ページ及びサーキュラーエコノミーのビジネスモデル・イノベーションに関するホワイトペーパーを参照頂きたい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください.
次回は「中古品ブームの到来:再利用品オンライン販売の事業機会を探る("The Rise of Second-hand: Exploring the Opportunities of Re-commerce")」という、再利用品オンライン販売の価値やその事例に関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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