AIは企業のオペレーションとビジネスモデルをどのように変革するのか?("How is AI transforming operations and business models?")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「AIは企業のオペレーションとビジネスモデルをどのように変革するのか?("How is AI transforming operations and business models?")」という、AIによる企業変革についてのお話しです。では本文をお楽しみください。
AIは企業のオペレーションとビジネスモデルをどのように変革するのか?("How is AI transforming operations and business models?")
2024年3月8日
AIは企業のオペレーションとビジネスモデルをどのように変革するのか?(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
人工知能(AI)は、あらゆる業界においてゲームチェンジャーとなり、企業の業務運営を根本から変革しつつある。AIがビジネスモデルおよび業務プロセスをいかに再構築し、現代の急速に変化するデジタル社会において企業が競争優位を維持するためにどのように貢献しているのか、その多様な側面を探っていく。
AIによる高度なデータ分析
データ分析におけるAIの役割は、膨大なデータセットを高精度に処理するという点において、画期的な転換点となっている。従来の手法では、大規模かつ複雑なデータセットを効率的に扱うことが困難であった。これに対して、AIを活用した分析は、構造化データおよび非構造化データを迅速に処理することを可能にする画期的な手段である。機械学習アルゴリズムを用いることで、企業はこれまで見落とされていたパターン、相関関係、傾向を把握し、より鋭い予測と戦略的な意思決定を実現することができる。このような機能は、正確な予測と実用的な洞察をもたらすだけでなく、情報に基づいた意思決定と、市場環境の変化に対する迅速な対応を促進するものである。
ウォールマート社の事例
例えばウォルマートは、AIを活用した高度なデータ分析により、需要予測と在庫の最適化を実現している。同社は、過去の売上データ、気象パターン、季節的なトレンド、地域のイベントなど、膨大なデータをAIアルゴリズムによって分析し、顧客需要を高精度に予測している。機械学習モデルを活用することで、ウォルマートは在庫水準を最適化し、品切れの発生を抑え、過剰在庫を最小限にとどめている。その結果、商品の可用性が向上し、在庫保管コストの削減にもつながっている。
顧客とのやり取りをパーソナライズする
膨大な数の人やモノがネットワークを介して互いに繋がりあう今日のハイパーコネクテッドな世界において、パーソナライズされた顧客体験の提供はますます重要性を増している。この点において、AIは極めて重要な役割を果たしている。AIを活用することで、企業は人口統計情報、閲覧行動、購買履歴、ソーシャルメディア上での活動など、膨大な顧客データを分析することが可能となる。AIアルゴリズムを駆使すれば、カスタマイズされた商品推奨の生成、ターゲットを絞ったマーケティングキャンペーンの立案、個別ニーズに応じたオファーの提供が実現できる。パーソナライゼーションは、企業と顧客との関係性を強化し、顧客満足度の向上、ロイヤルティの醸成、そしてリピート購入の促進に寄与する。
スポティファイ社の事例
音楽ストリーミング大手であるスポティファイは、ユーザーの視聴習慣、ジャンルの好み、さらには気分の兆候までも分析することで、ユーザー体験をパーソナライズしている。これにより、各リスナーの固有の嗜好に響く個別のプレイリストを作成している。
インテリジェントな自動化による業務の効率化
AIは定型業務の自動化において優れた能力を発揮し、ビジネスの効率性およびリソース配分を抜本的に変革する。AIを搭載したロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は、データ入力、文書処理、顧客からの問い合わせ対応といった業務を自動化する。これにより、人材をより戦略的な業務に集中させることが可能となり、同時にミスの削減、業務効率の向上、運用コストの低減を実現する。たとえば、AIを活用したチャットボットやバーチャルアシスタントは、問い合わせに対して即時かつ個別化された応答を提供することで、顧客サービスに革新をもたらしている。
VISA社の事例
Visaは、AIを活用してクレジットカードのトラブル解決を自動化しており、顧客サービスを向上させつつ、運用コストの削減を実現している。
AIによるサプライチェーンの最適化
AIは、需要予測から物流に至るまで、サプライチェーン管理を見直し、進化させることで、信頼性の向上とコスト削減を実現している。AIを活用したツールは、過去のデータおよび市場動向を分析することで、正確な需要予測を提供し、在庫管理の最適化およびサプライチェーン業務の効率化を可能にする。AIアルゴリズムは、過去のデータ、市場動向、気象条件や経済指標などの外部要因を総合的に分析し、需要予測の精度を高めることで、企業が供給と需要をより的確に一致させることを支援する。その結果として、サプライチェーン業務の効率化、コスト削減、顧客満足度の向上、そして受注処理の迅速化が実現される。
マースク社の事例
マースクは、航海スケジュール、コンテナ追跡情報、気象パターン、港湾の混雑状況など、さまざまなデータソースをAIアルゴリズムによって分析している。機械学習および予測分析を活用することで、航路の選定、船舶スケジューリング、コンテナ取り扱いプロセスの最適化を図り、効率的かつ迅速な貨物配送を実現している。
AI予測分析による保守メンテナンス業務の革新
AIは問題の発生を事前に予測し、機器の稼働効率の最適化を可能にすることで、保守および運用のあり方を変革する。予知保全のアルゴリズムは、機器のリアルタイムデータを分析することにより、ダウンタイムの最小化や機器寿命の延長につながる能動的な保守対応を実現する。また、AIを活用した最適化アルゴリズムは、需要予測、市場動向、運用上の制約に応じて、生産スケジュール、リソース配分、在庫レベルを動的に調整することができる。このようなプロアクティブな運用管理アプローチは、コストの削減、生産性の向上、さらには企業全体の競争力の強化をもたらす。
エアバス社の事例
エアバスのAIを活用した予知保全ソリューションは、航空機システム、エンジン、アビオニクス(航空電子機器)コンポーネントに組み込まれたセンサーからのデータを分析するものである。高度な分析技術および機械学習アルゴリズムを活用することで、エアバスは機器の故障や性能低下を示唆するパターンや異常をデータから検出することが可能である。これにより、メンテナンスの必要性を事前に予測し、予防的な対応を計画的に実施することで、運航の中断を防止し、飛行の安全性を確保し、航空機の稼働率を最適化することができる。
新たなビジネスモデルと収益源
AIは、全く新しいビジネスモデルおよび収益源の創出を可能にし、従来の産業に破壊的変化をもたらすとともに、新たな成長機会を生み出している。企業は、AI主導のイノベーションを活用するために、AIベースのサブスクリプションモデル、従量課金型サービス、成果連動型の価格設定モデルなどを模索している。これらの新しいビジネスモデルは、既存の産業を変革するのみならず、価値創造および収益化に向けた全く新しいアプローチへの道を切り開くものである。AIを活用してイノベーションを推進し、新たなビジネスモデルを構築することにより、組織は新たな収益源を開拓し、長期的かつ持続可能な成長を実現することが可能となる。
スティッチ・フィックス社の事例
Stitch Fixは、AIアルゴリズムを活用して顧客一人ひとりに最適化された衣類を厳選するオンライン・パーソナルスタイリングサービスである。同社のAI駆動型プラットフォームは、顧客の嗜好、スタイルプロファイル、フィードバックを分析し、個々のユーザーに対してパーソナライズされた衣類の提案を行う。さらに、Stitch Fixのビジネスモデルは、顧客が定額料金を支払うことで、定期的にパーソナライズされた衣類のセレクションを受け取るサブスクリプション型サービスを基盤としている。このサブスクリプションモデルとAIによるパーソナライゼーションの組み合わせにより、Stitch Fixはファッション小売業界において独自の価値提案を実現し、個別のスタイリング提案や厳選された衣類を求める顧客層の獲得に成功している。
AIは、ビジネスモデルおよび業務運営を確実に変革し、現代における組織運営と競争の在り方に革命をもたらしている。AI技術を統合することにより、企業は業務プロセスを合理化し、意思決定を高度化し、成長およびイノベーションに向けた新たな可能性を切り拓くことが可能となる。
我々BMILabは、企業が変革を推進するための支援を行っている。具体的には、ビジネスモデル・イノベーションに関する豊富な知見と、AIをビジネス変革に活用するための独自のシステマチックなアプローチを活かし、企業各社がイノベーションを軸としたプロセスを構築し、データに基づく新たな製品やサービスを開発できるようサポートしている。このような取り組みを進めることで、AIが主導する未来においても、常に時代の最前線を走り続けることが可能となるのだ。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、今後の道筋を管理する: 循環型経済のためのビジネスモデルの開発に関する 6 つの洞察("Managing the path forward: Six insights on developing business models for the circular economy")」という、サーキュラーエコノミーのビジネスモデル開発を進める際に念頭におくべき各種の原則に関するブログ記事をご紹介予定です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。