企業内イノベーション統制のコツ

イノベーション, ビジネスモデル・イノベーション, 事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏のブログをご紹介します。

今回は「企業内イノベーション統制のコツ(”Tips for governing corporate innovation”)」という企業内でイノベーション・プロジェクトを推進・管理する視点からみた運営のコツについてのお話しです。
見込みのなさそうなアイデアやプロジェクトをいかに早く止めるか、が今回の話の焦点です。
弊社での過去の経験上、日本企業ではプロジェクトを止めると、それはチームの失敗とみなされ、おおごとになってしまいます。
あらかじめ複数プロジェクトを並行して走らせて、うまくいかないプロジェクトが出たら優先順位を下げ、他のプロジェクトの優先順位を上げるなど、失敗とみなされないようにプロジェクトを止める工夫が必要になるように感じています。
本ブログで言えば、手持ちの事業アイデア数を増やす、というのがその部分に該当するコツかと思います。
では本文をお楽しみください。

企業内イノベーション統制のコツ

2020年12月4日  ダン・トマ氏
企業内イノベーション統制のコツ
(ダン・トマ氏が”The Corporate Startup bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

コミュニティでワークショップを開催するのはいつも楽しい。
最近実施したのは、オスロ市でのリーンスタートアップ・ノルウェイのワークショップだ。私は集合知の力を信じており、ゆえにワークショップは参加者にとってだけでなく、私自身にとっても良い学習の機会だと考えている。

ベガルド氏ブルーノ氏より、私に企業内イノベーションの統制について話してほしいとの依頼があった。
統制全般でなく、特に統制システムの設計について、とのことであった。両氏の話では、その晩のワークショップの60名以上の参加者は、事業アイデアをいつ「殺す」べきかについて、もっと知りたがっているとのことだった。統制システムには、いくつの「ゲート」を設けるべきか。それに関連する話も聞きたいとのことだ。

理論よりも経験による学習を重視している私は、このイベントのために、パチンコゲームの改造版を使うことにした。

このパチンコの新ネタは、トリスタン・クローマー氏メーガン・ケネディ氏ジョシュ・ベリー氏、そしてウィル・ダージュ氏らと作ったものだ。このゲームは、イノベーション管理がどう機能し、統制システムがなぜ重要性かを、目に見える形で示すために設計されている。ゲームの目的は明確で、ROIを高めることだ。

オスロ市でのコミュニティ・ワークショップから得た教訓を以下に列挙する。

1.予算を大量に食いつぶす前に事業アイデアを止める
「間違った方向」に進んでいる証拠があるときには、そのプロジェクトを早めに「殺す」方が良い。プロジェクトを止めるのが遅すぎると、そのプロジェクトに必要以上に多くの予算をつぎ込んで飲み込まれてしまう結果となる。他の事業アイデアに回せたはずの予算だ。行動科学者の警告によると、もし事業アイデアを適切なタイミングで止めないと、埋没コスト・バイアスの罠に陥るリスクが生じるとのことだ。

2.イノベーションの(初期)コストを下げる
基本的に、もし成功の確率が同じなら、少数に多額の掛け金を賭けるより、多数に少額をかけた方が良い。

3.手持ちの事業アイデア数を増やす(上記2の補完)
イノベーションは数字のゲームだ。スタートアップ・アクセラレーターやVCは、このことを良く知っている。会社が「ユニコーン」に成長する可能性は2%未満である
そして、企業の成長は絶対額でなくパーセントで測定されるのだから、意味のある変化を起こすには、フォーチュン500企業は「ユニコーン」を見つける必要がある。一度に一つの事業アイデアにだけ投資しているのでは、賭けに勝つ確率はかなり不利になる。

4.やりすぎるな
事業アイデアを止めるのが早すぎると、遅すぎるのと同じようにひどい結果になる。事業アイデアを「殺す」うえで、適切なバランスを見つけることが必要だ。製品チームには、自分達が取り組んでいる事業アイデアの成否を証明する証拠を用意するための、十分な準備期間を与える必要がある。「十分な準備期間」をどう決めるか、が頭の使いどころだ。

5.動的な予算
VC投資家のように行動せよ。
初めから総額を承認せず、少額の予算でチームに始めさせ、「適切に進んでいる」ことを確認できたら追加投資の機会を与える形で進める。こうすることで具体的に2つのメリットがある。一つには、初期投資を抑えることで、イノベーションのコストを抑えられる(上記の2)。もう一つは、資金的なリソースに自由度を得て、複数の事業アイデアを同時に開始可能になり、VCのような数字のゲームを戦えるようになる(上記の3)。

6.信念より事実
統制システムは事実情報ベースであるべきだ。もしプロジェクトが最終的に成功しないという結果を示す事実情報があるのであれば、プロジェクトをすぐに停止する必要がある。高い給料をもらっている上層部の意見(HiPPOs)に振り回されるな

7.統制の設計は繰り返しプロセスで(多分最も最も重要な教訓)
パチンコゲームで最も高いROIをもたらす成功法則にたどり着くまでに、我々自身が何回も試行錯誤した。新たに実施するたびに、前回の実施結果を踏まえて利益向上に結び付けた。同様に、統制システムを設計する際には、科学的なプロセスに従って繰り返し設計の調整をすべきだ。本件については、別の機会に詳しく触れたい。

企業内イノベーションの統制はパチンコゲームよりも複雑で、単にステージゲートを設計するだけでは済まない。しかし、我々のセッションで明らかになった教訓は、うまく機能するイノベーション・エコシステムを設計する際の基盤として使える。うまく機能するイノベーション・エコシステムでは、偶然が結果にもたらす影響を下げることにより、安定した成果を得られる。

ワークショップの機会を頂いた事務局の皆さんとパチンコゲームの設計に協力頂いた皆さんには改めて感謝の意を表したい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、『実験速度と学習速度(”Experiment Velocity vs. Learning Velocity”)』として、イノベーション・プロジェクトを推進しているチーム及びプロジェクトそのものの推進状況をどのように評価すべきか、というイノベーションプロジェクトのKPI(評価指標)についてご紹介します。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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