スタートアップ企業から何を学ぶべきか?
("What can we learn from startups?")

イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。
今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「スタートアップ企業から何を学ぶべきか?("What can we learn from startups?")」という、スタートアップのベストプラクティスから大企業が取り入れるべき教訓についてのお話しです。では本文をお楽しみください。

スタートアップ企業から何を学ぶべきか?
("What can we learn from startups?")

2017年7月26日
スタートアップ企業から何を学ぶべきか?(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

多くの大企業が、各種業界を揺るがす新興企業の成功を自社の業界で再現しようとしている。世界中のCEO達が考えているのは、情熱的なプロジェクトが数年で10億ドル規模のビジネスに成長したAirbnb、Uber、Teslaなどの成功物語を自社が再現するためには、どうすればよいのかである。成功のポイントは運なのか?莫大なお金が必要なのか?これらの成果は、特殊な才能を持つ限られた人物やリーダーにしか成し遂げられないものなのか?全くそんなことはない。

スタートアップのベストプラクティスからいくつかの教訓を取り入れさえすれば、スタートアップ的な事業運営方法を企業も学べるのだ。この記事ではそれらの教訓を以下に列挙するが、何よりもまず最初に指摘しておきたい最重要ポイントは、スタートアップのようなビジネスを運営したければ、失敗を受け入れる方法を学ばなければならないことだ。成功を収めたすべてのスタートアップは、最も持続性があり魅力的な事業機会を見つけ出すために、ほぼ間違いなく発展段階のどこかのタイミングで方向転換している。 そして90%以上のスタートアップは「適切なプロダクト・マーケットフィット(自社製品が適合した適切な市場)」を見つけることに失敗し、成功にたどり着くことなく終わっている。本来は失敗は必ずしも悪いことでなく、失敗を活かすことが重要だ。そのためにスタートアップは、柔軟性を保ち、初期段階では実験を重ね、失敗したすべてのテスト実施から学ぶことで、より早く、より安価に正しい道にたどり着くのだ。

初期段階のスタートアップをうまく進めるための有名な手法がたくさんあるが、上述したこの原則が各種の手法の中核となっている。おそらくもっとも有名な手法は、Eric Ries氏のリーンスタートアップである。迅速さ、実験、プロトタイプに注力して、自社製品にピッタリ合う市場を可能な限り素早く見つける、というのが同氏のやり方だ。この手法は、もともとデジタル系のスタートアップ向けに開発されたが、今では様々な業界で利用され、成果を上げている。

【スタートアップのベストプラクティスから学ぶべき教訓】
明白に言えるのは、失敗を受け入れたり実験をすることは、通常のビジネス慣習とはまったく異なる企業文化であることだ。このようなリーン・イノベーションを導入したければ、新しい働き方の様式を確立する必要がある。以下に、成功したスタートアップ企業のベストプラクティスを列挙する。

  • 1.迅速なプロトタイプ作成:スタートアップから学ぶべき一つの大きな教訓は、製品の価値をテストするために完璧な製品を用意する必要はないことだ。小型で非常に安価なプロトタイプをいくつか作成することで、製品の市場への適合性を確認したり、革新的なビジネスモデルを探索したりできる。うまく機能するソリューションの設計に成功する前に初期のプロトタイプで何度か失敗する、というのは優れたスタートアップにはよくあることだ。ジェームス・ダイソンと同氏の革新的な掃除機の開発は良い例である。革新的なデュアル・サイクロン掃除機の製品版の開発に成功するまでに、同氏は1,516種類もの試作機を開発したのだ。
  • 2.常に顧客を巻き込む:プロトタイピングは、製品について顧客の意見を聞くための迅速かつ安価な方法である。製品の重大な問題を特定して提供価値を再構築するうえで、消費者のフィードバックはデータプールとして非常に高い価値を持つ。このような考え方の好例としてイーロン・マスクの例がある。同氏はTwitterで顧客からの苦情を受け付けると、対策のアイデア検討から実行までを数日で完了させた。インパクトのある話だ!
  • 3.迅速なプロセスの採用:どんなプロジェクトにも、管理ツールが必要である。スタートアップのコミュニティで最もよく使われているのは、アジャイル開発の管理ツールだ。アジャイル開発は、品質と顧客志向のアプローチを組み合わせるための優れた方法である。アジャイル開発を採用することが市場の新たな要求に製品設計やプロトタイプを迅速に適応させることができるようにワークフローを切り替える機会となる。インターコム社の製品管理では、目標とアジャイル・プロセスを設定するための明確なガイドラインを整備しており、是非参考にしたい例と言える。
  • 4.混成チームの組成:スタートアップ流の低コストで迅速なプロセスを実現するには、社内の縦割り組織を排除し、プロダクト・マネージャー、開発者、エンジニア、マーケティング担当者、財務担当者が活発に共同作業する混成チームを組織する必要がある。
  • 5.現場への権限移譲:意思決定はオフィスの最上階でなく、現場で行われるべきだ。各自が自社のために最善を尽くせるように、すべての従業員に裁量権限を与えるべきである。そのために、明確なコミュニケーション(縦割り組織の回避)、フラットな組織階層、オープンな共同作業とチームワークに適したオフィススペース、社員間の交流、新アイデアについての議論、次世代のビジネスモデル革新の探求を促す様々なの機会の提供を実現する。このような企業文化の導入に成功し、興味深い成果をあげている良い例がエアビーアンドビー社だ。
  • 6.最高の人材の採用:反復と実験のプロセスをスムーズかつ迅速に進めるには、最高の人材を採用する必要がある。ここで最高の人材の採用とは、最高の専門家を集めることでなく、むしろ最高の体育会系人材を採用することだ。何人かは本当に優れた専門家が必要だが、全体像をまとめ、新たな道筋や改善策を考え出すことができる多数のジェネラリスト人材が絶対に必要となる。大きな波を乗り越えて進むためには、バランス感覚に優れ目標に向かって研ぎ澄まされたチーム組成を目指す必要がある。ザッポス社はこの課題にたいして、「時間をかけて採用し、素早く解雇する」という明確なルールを適用している。すなわち、新たに採用する際には会社にピッタリの候補者であることをよく確認する必要があり、その一方でチームワークの悪い従業員はできるだけ早く解雇する必要があるということだ。

        【安心して失敗できる環境の提供が、コスト削減につながる】
前述した各項目が、多くの大企業がイノベーション・プロセス改善のために採用しているスタートアップの非常に一般的な特徴である。しかし、イノベーションチームに安心して失敗できる環境を与えなければ、これらすべては無駄になる。そのような環境でなければ、ビジネス・イノベーションのプロセスに付随するリスクを誰も負えないからだ。

もちろん、スタートアップのやり方で失敗すれば、失敗のコストも安く済む。安く済むように設計するのだ。最低限の費用で多数のビジネスモデル仮説をテストするために、プロトタイプは簡単に作成し、簡単に捨てる。このような実験プロセスを通じて自社製品を設計すれば、莫大なコスト(と巨額の損失)を負って誰も欲しがらない製品を市場投入するリスクが大幅に減少する。これが、安く頻繁に失敗した方が長期的には多額の費用を節約できる、という理由だ。それと同時に、おそらくこれが、成功したスタートアップから得られる最も重要な教訓でもある。やり方がわかっていれば、イノベーションを起こす過程において失敗を成功に変えることができるのだ。
このように、ツールや手法の選択肢は幅広く、よりどりみどりである。いずれにせよ、これらすべての手法を同じ問題に対する異なる取り組み方法として捉えるべきである。そして実際に、多くの場合には、各種のツールには以下のような共通点がある。

【参考文献】
https://www.theguardian.com/media-network/2015/jul/06/startups-cannes-lions-innovation
https://www.forbes.com/sites/theyec/2015/07/24/what-the-largest-organizations-can-learn-from-startups/#1dd3dffe4fe4
https://www.forbes.com/sites/groupthink/2016/10/17/7-lessons-small-businesses-can-learn-from-tech-startups/#75637f6f79d1
http://mashable.com/2010/12/07/tips-startups-entrepreneurs/#WiIp6Lu1Lmqb


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「55種類のビジネスモデル・パターンカード:ソリューションプロバイダー("BMI's 55 Pattern Cards: Solution Provider")」という、ソリューションプロバイダーのビジネスモデルに関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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