ビジネスモデル・イノベーションは一方通行の道でなく、
むしろ複数の道筋に分かれた岐路である
("Business Model Innovation is not a one-way road, but a crossroad")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI
Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「ビジネスモデル・イノベーションは一方通行の道でなく、むしろ複数の道筋に分かれた岐路である("Business Model Innovation is not a one-way road, but a
crossroad")」という、ビジネスモデル・イノベーションを実現する方法は1つでなく、いくつかの選択肢があるということについてのお話しです。では本文をお楽しみください。

ビジネスモデル・イノベーションは一方通行の道でなく、むしろ複数の道筋に分かれた岐路である("Business Model Innovation is not a one-way road, but a
crossroad")

2017年10月6日
ビジネスモデル・イノベーションは一方通行の道でなく、むしろ複数の道筋に分かれた岐路である(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

世界中の様々な新興企業が、新しいビジネスモデルを開発したり、現状のビジネスモデルを革新したりして、革新的な新技術に依存することなく大きな成功を収めている。これらの新興企業の例から学べるのは、ビジネスの成功やイノベーションが、テクノロジーだけでなく、ビジネスモデルやその改善方法に関する合理的な理解の有無に依存している点である。

イノベーションへの道筋は一方通行ではない。イノベーションには、いくつかの経路を通じて到達できるのだ。イノベーションがいまだに中核事業に及んでいない分野を含め、BMILabでは、このような事例を数多く収集してきた。ここでは、製薬業界の例を詳しく見てみよう

製薬会社がイノベーションに関する注目を浴びることはあまりない。世界で最も革新的なビジネスに関する文献のほとんどは IT、通信、自動車の分野のものである。世界知的所有権機関(WIPO)が発行するグローバル イノベーション
インデックス
によると、これらの分野では企業が新技術に多く投資している。したがって、これらの分野が最も注目を集めるのも不思議ではない。しかし、いくつかの製薬会社ではすでに、変化が加速する市場に適応するためにビジネスモデルの変更と革新に懸命に取り組んでいる。

苦境に立たされるビジネスモデル
従来からの製薬会社のビジネスモデルは、以下3つのアプローチに基づいてる。

  1. ブロックバスターモデル(大ヒットモデル):このモデルでは、企業は世界全体で10億ドル以上の販売につながるような、非常に少数の非常に収益性の高い医薬品を研究および販売する。事業の成否はこれらの大ヒット薬から大きな利益を得られるかどうかにかかっており、その収入で高額な研究開発、マーケティング、販売コストを賄う必要がある。バイアグラは、この種の「大ヒット薬」の好例である。グラクソ・スミスクラインの前CEOであるJ・P・ガルニエ氏は最近、大ヒットモデルを「10~12年ごとに帳簿上の数字全体を失うことが確実なビジネスモデル」と定義した。
  2. 多様化モデル:このモデルでは、企業はより広範囲の医薬品を研究開発し、より小規模なニッチ市場で販売する。このモデルは、流通コストが低い小規模なニッチ市場でのみ機能する。一般向けに販売する医薬品でなく、病院や医療機関のみに販売される医薬品のほとんどは、このモデルに当てはまる。
  3. 中間モデル:このビジネスモデルでは、企業は上記のビジネスモデルの各種の要素を混在させ、多くの場合には異なる支店を通じて、大ヒット商品と特定の医薬品の両方を販売する

これらすべてのビジネスモデルには、製品の販売という明白な収益モデルがある。通常これは、政府機関や公的機関を含む複雑なマーケティングおよび販売チャネルの管理が必要となることを意味する。製薬業界は規制の厳しい業界であるため、事業運営コストはさらに増加する。結果的に、製薬会社は通常、製造する医薬品の収益化を担当する巨大な営業部門を抱えている。副次的なものではあるが、特許管理とライセンス供与も大きな収入源である。

製薬会社における3つの基本モデルに基づく「通常の事業」には、経年疲労の兆候が見られる。

ところが、これらのビジネスモデルは困難に直面している。2014年にKPMGが発表したものなど、製薬業界に関するいくつかの調査では、「過去数十年にわたり製薬業界を支えてきたビジネスモデルは経年疲労の兆しを見せている。コストは急騰し、画期的なイノベーションは後退し、競争は激化し、売上の伸びは横ばいになっている」と報告している。大ヒットモデルの失敗を引き起こす差し迫った要因はいくつかあるが、おそらく最も重要な要因は、ジェネリック医薬品の世界的な成長と、その背景にある医薬品の処方における費用抑制の措置を含む、国民に手頃な価格の医療を保証するために世界の多くの政府が実施した医療支出の抑制措置である。

しかし、このモデルが衰退するもう一つの重要な原因が顧客側にある。他の多くの業界と同様、現在のほとんどの顧客は製品ではなくサービス (そのほとんどはデジタルサービス)
を求めている。新しいテクノロジーによって消費者の力が増した結果、現代の消費者はもはや「プッシュ型」の販売戦略を受け入れない。医薬品を含む製品を薬局で購入する前に、おそらくGoogleで検索して他の選択肢を調べるはずだ。そして、最適な選択肢を見つけるために専門のブログやWebページもチェックするだろう。ところが、製薬会社はそれに対する準備ができていない。製薬会社の巨大かつ高コストのマーケティング部門や販売部門は、消費者が医師や薬剤師にのみアドバイスを求めることを前提とした狭い世界向けに構築されている。顧客の新たな行動は、製薬会社の理解や能力をはるかに超えているのだ。

ビジネスモデルの革新で課題に対処する
すなわち、ここに製薬業界の課題がある。それは、市場の変化により利益が縮小しているということだ。それと同時に、製薬会社にはデジタル社会の顧客の新たな行動様式に応える準備ができていない。幸いにも「錠剤を超えた(Beyond-the-Pill)」アプローチを模索している企業がすでに多数ある。これは「プッシュ型」で顧客に医薬品を購入させようとする従来のビジネスモデルをやめ、患者のニーズに応える新しいサービスやソリューションを提供する「プル型」アプローチを採用することを意味する。これは大きな躍進である。いくつかの実例から、先行企業がこの新しいアプローチをどのように事業に適用しているかについての洞察が得られる。

23andMeは、オーダーメイド医療を次の段階に進める消費者向けのゲノム検査キットを開発した。

  1. 最初の例は、DIYゲノム検査の特許を取得したサンフランシスコ発のスタートアップである23andMeだ。同社サービスを使えば、誰でも自分のゲノムのサンプルを入手し、それを検査のために会社に送ることができる。検査結果として、病気の予防に役立つさまざまなゲノム情報が特定され、それ以外にもさまざまなサービスを受けられる。バイオテクノロジー企業である同社は、2つの目的で顧客データを保管している。1つは、ゲノムに由来する特定の状態を対象とした新たな治療法や療法を研究開発するためである。もう1つは、製薬会社の研究用にデータベースを共有し、データ利用料や成果報酬型の取引による利益を得ることだ。
  2. 2つ目の例は、GoogleライフサイエンスのベンチャーであるVerilyだ。同社は、患者データを収集・整理するためのデバイスの研究開発に注力している。このデータはさらなる研究に利用され、その結果をもとに、患者の生活改善のための総合的なケア管理が提供される。Verilyは、現在までに2つのデバイスを開発した。1つは、2型糖尿病患者の状態管理に役立つ小型の連続血糖モニターである。このデバイスは、自分の健康状態を管理するのに役立つ最新情報を患者自身に提供し、それに加えて非常に貴重なデータを研究者に提供し、病気をより深く理解するために役立つ。このデバイスのほかに、Verilyは血糖値を継続的に監視するためのグルコース感知レンズや、老眼(加齢に伴う遠視)の人向けの調節可能なコンタクトレンズなどのスマート眼科デバイスも開発した。1つ目のデバイスと同様に、このデータは患者と研究者の両方が患者の状態をよりよく理解し、それを通じて医療を改善するために使用される。どちらのケースでも、Verilyは新たなヘルスケアソリューションの開発を進めるために、サノフィ社などの外部パートナーと積極的に協力している。収益は製品販売でなく、サービス料から得ているが、総収益に占める割合はごくわずかである。以下の動画では、Verilyのスマート眼科デバイスの紹介と、事業性の分析をしている。
  3. 製薬業界における新しいビジネスモデル・イノベーションのもう1つの例として、糖尿病患者の治療成績改善に取り組む複数企業が参加しているノボ・ノルディスク・アライアンスがある。大手製薬企業であるノボ・ノルディスク社は、シリコンバレーのGlooko社と提携して、血糖値を監視するアプリを開発した。血糖値の監視と同時に、このアプリはIBMワトソンとの提携を通じて構築された、デジタル・ヘルス・プラットフォームにも接続する。このプラットフォームは、患者がインスリンの作用を計測するのに役立ち、ノボ・ノルディスクの提供する糖尿病患者向けのオーダーメイド型サポート・プログラムである「Cornerstones4Care」を通じて、より良い医療のためのアドバイスが提供される。このビジネスモデルは、ノボ・ノルディスク社にとって画期的なイノベーションである。同社CEOのラース・フルアガード氏は次のように話している。「当社では分子の精製に90年以上を費やしてきたが、末期合併症のリスクを排除できるレベルでコントロールできている患者は10パーセント未満であり、それでは十分ではない。」

製薬業界でイノベーションを起こす3つの方法
もちろん、これは製薬業界ですでに起こっているイノベーションのほんの一部である。ビジネスモデル・イノベーションの例は他にも数多くある。たとえば、イーライ・リリーが従来のブロックバスター・モデルから脱却し、ビジネスモデルをオープンにした方法などである。これらの例を垣間見ることで、製薬会社が現在のテクノロジー中心の時代にどのようにビジネスモデル・イノベーションを事業適用しているかを理解しやすくなる。製薬業界における各種の例は、オーダーメイド医療、ネットワーク型またはオープンなビジネスモデル、連合モデルの3つに要約できる。

  1. オーダーメイド医療:
    バイオテクノロジーとゲノミクスにおける近年の発展はすべて、同じ目的を追求したものだ。それは、各ニッチに向けて高度にカスタマイズした予測診断と予防診断を提供することで、多岐にわたるソフトウェア・ツール、開発ツール、および患者管理サービスと組み合わせて、オーダーメイド医薬に基づくオーダーメイド治療ソリューションを実現することである。このビジネスモデルは、「製品中心」のアプローチから脱却し、顧客のニーズと行動に焦点を合わせるものだ。その結果、収益は製品販売だけでなく、サービスや医療成果の収益化によってもたらされるようになる。このモデルは、製薬業界の多くのイノベーション・プロジェクトで広く普及しているアプローチである。
  2. ネットワーク型またはオープンなビジネスモデル:
    このアプローチでは、ライセンス供与と外部ライセンス利用のメカニズムを使用して、価値の提供や獲得を実現する。一例として、遺伝子検査で収集したデータを集約・整理し、それを有料で他の企業にライセンス供与するという23andMeのアプローチを考えてみよう。このビジネスモデルでは、製薬会社がベンチャーキャピタリスト、マーケティング担当者、オーケストレーターの役割を果たし、委託契約で活動する研究グループのネットワークを取りまとめる。このアプローチにより、従来の研究プロセスと比較して、効率が向上し、コストが削減され、研究開発のリードタイムが短縮される。
  3. 連合モデル:
    Verilyとノボ・ノルディスクが採用しているのがこのモデルだ。連合モデルでは、一つの企業が、患者グループなど特定の人口グループに対する成果管理など共通の目標を持つ様々な企業・団体のネットワークを組成する。このネットワークでは、各プレイヤーは柔軟性を犠牲にすることなく、それぞれが明確な役割を果たす。また、支援インフラに加えて資金、データ、患者へのアクセス、バックオフィス・サービスを共同利用する。ネットワークの参加者としては、大学、病院、技術サプライヤー、受託研究機関、製造業者、データ分析会社、そして様々な国の主要なオピニオンリーダーが含まれる場合がある。このモデルでは、収益は単に製品販売からだけでなく、主に有償でサービス利用する患者の治療結果からもたらされる。このアプローチは、オープン・ビジネスモデルからさらに一歩踏み込んでおり、単にライセンスのメカニズムを使用するのでなくリソースを共有し、より長くより深いパートナーシップを確立します。

ビジネスモデル・イノベーションの岐路

これら3つのビジネスモデル・イノベーションは、製薬業界における多数の製品やサービスのイノベーションの根幹をなしている。ただし、これはあくまでも例であり、同じ方法で事業適用されたり、これらのモデルが単独で事業適用されるわけではない。企業各社は、各種モデルを組み合わせることで、さまざまなニッチ市場のニーズに適合する最適な方式を見出そうとしている。そして、これは学ぶに値する興味深い教訓である。ビジネスモデル・イノベーションの道を進んでいくと、多くの岐路に遭遇する。正しい方向性、組み合わせ、ソリューションを選択できるかどうかは、自社のリソースと対象市場をよく理解できているかどうかにかかっている。

参考文献


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、『55種類のビジネスモデル・パターンカードでビジネスモデル・イノベーションを理解する("Understanding business models through BMI patterns")』というビジネスモデル・ナビゲーターの55種類のパターンカードのうち、いくつかの特徴的なパターンに関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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