ビジネスモデル検証の課題を乗り越えるための4つの画期的なアイデア("4 Inspiring Ideas to Overcome Challenges when Testing Innovative Business Models")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「ビジネスモデル検証の課題を乗り越えるための4つの画期的なアイデア("4 Inspiring Ideas to Overcome Challenges when Testing Innovative Business Models")」という、革新的なビジネ スモデルをテストする際に直面する共通の課題に対する効果的なソリューションについてのお話しです。では本文をお楽しみください。

ビジネスモデル検証の課題を乗り越えるための4つの画期的なアイデア("4 Inspiring Ideas to Overcome Challenges when Testing Innovative Business Models")

2020年7月3日
ビジネスモデル検証の課題を乗り越えるための4つの画期的なアイデア(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

革新的なビジネスモデルをテストする際に企業が直面する最も一般的な課題に関する最近掲載したブログ記事に続き、今回のブログ記事では課題を克服するための効果的な方法と思われる4つの刺激的な取り組みを紹介したい。

トレーナー養成プログラム

企業の成功は企業文化によって決まる。ピーター・ドラッカーの有名な「企業文化にとって戦略は朝食のようなものだ」という言葉は、ビジネスモデル・イノベーションにも当てはまる。ビジネスモデル・イノベーションのプロジェクトを推進するために必要な思考様式を社内に培うという課題を克服するために、ヨーロッパのいくつかの企業は、ビジネスモデル・イノベーションに特化したコーチやファシリテーターの社内チームを構築するというアプローチを生み出した。通常は、これらの専門要員は社内のイノベーション部門に所属し、新たな思考様式を増幅する役割を果たし、最終的には企業文化の変化をもたらす。

適切なコーチを揃える方法としては、外部採用と、専用に設計されたトレーナー養成プログラムによる社内適任者の教育という2種類の方法が可能だ。外部ファシリテーターを採用するためには、社内チームを構築する場合と同じ種類の課題が発生するため、社内でトレーナーを要請する方法が最も進めやすい。具体的には、ほとんどの企業にとって、必要な資格や特定のプロファイル要件の文書化が容易でないことが課題となる。

社内トレーナー養成プログラムの主な利点は以下のとおりだ。

  • 新たな専門性を社内構築することで、自社の長期的な成功可能性を高めることができる。
  • 社内コーチたちに、イノベーションの思考様式を広め、企業文化を段階的に変化させる変革の増幅役としての役割を担わせることができる。
  • 社内コーチの方が、自社内の事業部門への受け入れが進みやすい

社内起業家育成プログラム

適切なスキルセットを文書化して人材育成するという課題を克服するために、社内起業家プログラムを設計したという3つの企業を我々は分析した。これらの企業の目的は、ビジネス・イノベーション・プロジェクトに必要な新たなスキルを実践的な形で従業員に教えることだ。

この種のプログラムは、さまざまな形で企業に影響を与える。まず、参加者は実際の環境で、しかも短期間で革新的なビジネスモデル開発のプロセス全体を体験することになる。短期集中で作業を進めるため、学習スピードの短縮を期待できる。また、プログラム・マネージャーやコーディネーターは実際の現場を観察できるため、必要なツールやスキルを把握するとともに、実践現場の浮き沈みや自社の企業文化の現状についても学ぶことができる。

それを踏まえると、社内起業プログラムの主な利点は次のようになる。

  • 各参加チームは、実際の顧客ニーズや問題に取り組み、より高いレベルの現状認識につながる。
  • 実戦形式の学習は、最も効率的なスキル開発方法であることが各種の調査等で証明されている。
  • 各チームの開発した多数の新規アイデアが、実際の自社のイノベーション・パイプラインとなる。

ビジネスモデル・インキュベーター

既存プロセスの変更は、複雑でコストのかかる作業である。そのことから、次の様なビジネスモデル・インキュベーターの取り組みは、この種の変更を開始するためのベスト・プラクティスの1つであると言える。新しいビジネスモデルのアイデアを生み出した後、有望なアイデアを選定し、事業アイデアの開発と検証のための作業枠を別途用意する。社内で事業アイデア・マネージャーを選定し、所定の期間と予算内で各プロジェクトを推進する。事業アイデア・マネージャーを社内イノベーション・チームがサポートし、プロジェクトの結果を自社の取締役会で役員たちに直接発表する。

このインキュベーター・アプローチの目標は、事業アイデア・マネージャーに制約やプロセス上の遅延なしに事業アイデアの成熟度を評価する機会を与えることだ。アイデアのインキュベーションは以前から各社で実施されているが、インキュベーターが複数のイノベーション・チーム全体のインキュベーションを行うのが一般的だ。ビジネスモデル・インキュベーターは1つの事業アイデアのインキュベーションを行う。1人の事業アイデア・マネージャーが1つのチームを組成し、ニーズと事業の開発段階に応じて社内の関係部署や外部の専門家ネットワークがサポートする。ビジネスモデル・インキュベーターは、実際に活動するイノベーション・エコシステムに基づくプロセスなのだ。

インキュベーターの主な利点は次のとおりだ。

  • より速く作業できるように設計された自社独自のプロセス
  • 既存の中核事業に影響を与えることなく、新しい働き方を学ぶ
  • 「社内で発明された」ビジネスモデルのアイデアを見出す認識力の向上
  • 自社内で実際に活動する各種コンピテンシーのハブをイノベーション・エコシステムとして機能させる

専門のテスト・サービス

探索的な思考様式という課題を克服するために実施可能な最も創造的な方法は、「内部テストチーム」を設置することだ。各プロジェクト・リーダーは、社内の検証スペシャリスト・チームに依頼して、検証期間中、自分のチームと連携してもらうことができる。

新しいビジネスモデルの企画を作成し、仮説を特定し、それを検証するためのテストを選択した後、プロジェクト・チームは検証実験の実行をテストチームに依頼する。この実行チームは「DevOps」チームのように、各チームが選択した実験を準備・計画し、実行して、結果を分析/報告する。その後、事業アイデアはプロジェクト・チームに戻され、ピボット、継続、中止などの次のステップを意思決定する。

テスト・サービスには、次のような利点がある。

  • 検証に関する専門知識による検証成功率の向上
  • 短期間で事業アイデアとその想定について深く学ぶことが可能
  • 重要な影響を持つ要因の段階的な検証

将来に向けた展望

過去5年間に我々が支援したほとんどの企業は、革新的なビジネスモデルのアイデアを生み出すことに長けている。ビジネスモデル・ナビゲーター、デザイン思考、ブルーオーシャン・アプローチなどの各種ツールを活用すれば、企業は顧客視点とニーズに関する非常に有用な洞察を得ることができる。また、説得力のある提供価値とビジネスモデルの企画を作成することもできる。今こそ、具体的な結果を示し、これらのアプローチがビジネスにインパクトを与えられることを証明するときだ。

これが、ビジネスモデル・アイデアの実現が企業にとって最新の課題となっている理由だ。コロナ禍のパンデミックにより、企業はすでに世界的な環境の多大な不確実性に対処することを余儀なくされているが、企業は新しいビジネスモデル・アイデアの根底にある不確実性にも対処する必要がある。つまり、社内で適切なチームを見つけることに加え、適切なスキルを構築し、適切なプロセスを実現し、探索的な仕事の仕方を実現することが必要なのだ。

この記事で紹介した通り、ビジネスモデル検証の課題を克服するための優れた実践方法はいろいろある。これらの実践方法に加えて、BMI Labのテスト・サイクルを使えば、企業は常に自社の現在地点と次のステップを把握できる。テスト・カードは、新しいアイデアの根底にある想定を検証するための様々な検証方法についてのブレインストーミングを行うのに役立つツールだ。テストカードを使って検証方法を検討する目的は、自分たちの製品やサービスを想定顧客に打診するためのリソースをなるべく消費しない検証方法を見つけることだ。

ただし、いずれにしてもイノベーションのトップが確約して、会社全体、より具体的にはイノベーション・チームが検証アプローチを採用し、その実行を支援すると保証しない限り、これらのツールやベスト・プラクティスはどれも機能しない。実行されなければ、最高の計画であっても失敗するということを常に念頭に置かなければならない。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「コロナ禍が銀行のビジネスモデルのデジタル・トランスフォーメーションを加速する("COVID-19: The digital transformation catalyst of banking business models")」という、コロナ禍をきっかけとした金融業界のデジタル・トランスフォーメーションの加速に関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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