AIプロジェクトが失敗する理由:ROIを損なう6つの誤りとその回避策(“Why AI Projects Fail: 6 Mistakes That Kill ROI (and How to Fix Them)”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「AIプロジェクトが失敗する理由:ROIを損なう6つの誤りとその回避策」という、AI導入がビジネス価値につながらない原因と、その実行面での改善アプローチについてのお話です。では本文をお楽しみください。
AIプロジェクトが失敗する理由:ROIを損なう6つの誤りとその回避策(“Why AI Projects Fail: 6 Mistakes That Kill ROI (and How to Fix Them)”)
2026年4月17日
ダン・トマ氏
AIプロジェクトが失敗する理由:ROIを損なう6つの誤りとその回避策
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

AIが失敗しているのは、技術が未成熟だからではない。多くの組織が、それを事業価値へと転換する方法を理解していないからである。
AI投資が急増しているにもかかわらず、AIプロジェクトの80~90%は有意義な投資収益を生み出せていないと推定されている。同時に、AIによる人材置き換えでコスト削減を急いだ企業の中には、自動化が期待通りに進まなかったため、方針を見直し、より高いコストで人材を再雇用する動きも見られる。さらに多くの組織では、AIによって業務が減るどころか、検証・監視・調整といった新たな工程が加わり、むしろ業務量は増加している。
これはツールの問題ではない。実行の問題である。
多くの企業はいまだに、AIに対して従来のソフトウェア導入と同様の発想を適用している。すなわち、要件を定義し、モデルを構築し、導入し、予測可能な結果を期待するというものである。しかし、AIシステムは決定論的に振る舞うものではない。設計が優れているだけで性能が向上するわけではなく、存在するだけで価値を生み出すものでもない。
AIプロジェクトがなぜ失敗するのか、そしてより重要なこととして、いかにして投資対効果(ROI)を生み出すのかを理解するためには、AIが事業の中でどのように実装されているかに目を向ける必要がある。
AI導入における誤りその1:ソリューションから出発すること
「我が社にもAIが必要だ」というのは戦略ではない。それは、取締役会、競争環境、あるいは社内からの圧力に対する反応にすぎない。ソリューションから始まるプロジェクトは、明確に定義された問題に根ざしていないため、方向性を失いやすい。売上の減少、業務の非効率、機会損失といった測定可能な痛点がなければ、成功を評価することはできない。その結果、取り組みは方向性を欠いた単なる活動に陥る。
回避策
すでに存在し、実際に痛みを伴っている問題から出発すること。その問題を定量化し、ユーザーや関係者との直接的な対話を通じて検証する。そのうえで初めて、AIが適切なツールであるかを評価すべきである。AIは戦略そのものではなく、あくまで一つの手段にすぎない。
AI導入における誤りその2:AIを単発の導入として扱うこと
多くの組織はいまだにAIを従来のITプロジェクトと同様に扱っている。すなわち、要件を定義し、構築し、リリースするという流れである。しかし現実には、いかなるAIシステムであっても、その初期バージョンは誤っている。単にわずかな誤りがあるというレベルではなく、現実世界の実際の振る舞いと整合していないのである。成功するAIの取り組みを分けるのは、リリース時点での性能ではなく、導入後にどれだけ速く改善できるかである。
回避策
反復を前提とした設計を行う。実際の利用状況を捉え、それをシステムに還元するフィードバックループを構築する。継続的な学習のための時間とリソースを確保する。小さく始め、迅速に検証し、効果が確認できてから拡大する。AIが価値を生むのは、計画の完璧さではなく、学習の速さによってである。
AI実装における誤りその3:データに対する過度な楽観
手元にあるデータこそが必要なデータであるという前提は根強い。しかし実際には、多くの場合そうではない。データは不完全であったり、偏りがあったり、古かったり、あるいはAIシステムが支援すべき意思決定と無関係であることが少なくない。このような状況は、初期段階において誤った進展感を生み、最終的には失望を招く。
回避策
意思決定から逆算して考える。システムは何を正しく判断すべきなのか。その意思決定を改善するためには、どのようなシグナルが必要なのかを明確にする。データは、受動的に与えられるものではなく、能動的に構築し磨き上げるべきものとして捉えるべきである。
AI導入における誤りその4:責任の分散
AIプロジェクトは、データ、エンジニアリング、プロダクト、オペレーションといった複数のチームの交点に位置する。多くの関係者が関与すると、責任の所在はしばしば曖昧になる。その結果は明らかである。各チームは個別の成果物は提供するものの、最終的な成果に責任を持つ者がいない。システムは存在するが、価値は生み出されない。
回避策
ビジネスへのインパクトに責任を持つ単一の責任者を任命する。重視すべきは期限でも技術的な成果物でもない。結果である。この責任者は、システムが実務において機能することを担保するための権限とインセンティブの双方を備えていなければならない。
AI導入における誤りその5:成功指標の誤り
精度は測定しやすいが、ビジネスへのインパクトはそうではない。このため、多くのAIプロジェクトは机上では成功しているように見えても、実際には失敗に終わる。誰にも使われない高精度のモデルは価値を生まない。一方で、日常の業務フローに組み込まれたシンプルなソリューションが、大きな成果をもたらすこともある。
回避策
行動と経済的成果の観点から成功を定義する。意思決定は迅速化されたか。コストは低減したか。収益は増加したか。モデルの出力だけでなく、ビジネス成果に直接結びつく指標でパフォーマンスを測定すべきである。
AI導入における誤りその6:AIを統合せずに孤立させること
多くの組織は、AIを独立した取り組みとして扱い、特定のチームが担う個別の議題として位置づけている。これは、企業が10年前に「イノベーション」で犯したのと同じ過ちである。AIが特定部門の責任となった瞬間、他の組織は関与しなくなる。その結果、プレゼンテーションやパイロット、プロトタイプは生まれるが、実質的な変化は起きない。AIは単独のテーマであるべきではない。価格設定や採用、リスク管理、顧客体験に至るまで、事業全体の中核的な意思決定のあり方を変えるものである。
回避策
「自社のAI戦略は何か」と問うのではなく、AIが既存の意思決定をどのように変えるのかを問うべきである。AIが既存の業務プロセスやコミュニケーションの流れに組み込まれていなければ、価値は生まれない。
失敗に終わったAI導入には共通するパターンが見られる。組織が成果の検証ではなく、システム構築の最適化に注力している点である。一方で、成功している組織はその逆を行っている。すなわち、実際の課題に焦点を当て、AIを業務フローに統合し、オープンな形で反復し、本当に重要な指標を測定している。
AIは自動的にコストを削減するものではない。仕事をなくすものでもない。また、綿密な計画よりも、迅速でエビデンスに基づく学習を重視するものである。機会は確かに存在するが、それを捉えるためには相応の規律が求められる。自社がAIに投資しているにもかかわらず、測定可能なROIが見えていないのであれば、問題は多くの場合モデルにはない。取り組みの位置づけ、責任の持たせ方、そして実行のあり方にある。
AIは変革への近道ではない。それは、組織がいかに学習するかを理解しているかどうかを試すものである。
当社のポートフォリオ管理プラットフォームである「SATORI」は、イノベーションポートフォリオと戦略との整合性をリアルタイムで把握することを可能にします。また、どのプロジェクトや戦略領域が市場で最も高い反応を得ているかを可視化し、企業が重要な領域に注力できるよう支援します。つまり、SATORIは、企業が戦略を一連の実験として捉えることを可能にします。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。



