「なぜイノベーションのシステムを構築するのか?」

イノベーション, ビジネスモデル・イノベーション, 事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回から書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏のブログを皆さんにご紹介していきたいと思います。
初回は「なぜイノベーションのシステムを構築するのか?(”Why build a system for innovation?”)」についてのお話しです。2年前にダン・トマ氏が来日した際に雑談で同じ様な話をしたことがあります。ちょうどスペインの2大強豪サッカーチームの方針の違いの様なものだ、とダン・トマ氏は言っていました。全世界から即戦力となるスター選手を集めて属人性で戦うレアル・マドリードに対し、下部組織で若手を育てて全体を底上げすることで勝負するバルセロナ(近年は少し変わってきているようですが)。イノベーション・システムの構築は、全体の戦力を底上げして戦うバルセロナ方式なんだ、とのことでした。では本文をお楽しみください。

「なぜイノベーションのシステムを構築するのか?」

ダン・トマ氏が”The Corporate Startup bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています。

イノベーションがアートなのか科学なのかについて未だに白熱した議論がかわされているが、大企業に勤めるすべての人が「スティーブ・ジョブズ」になれるわけではない点については認めざるを得ない。しかし、そのこと自体はまったく問題ない。

また、人事部が最高のイノベーション人材を採用しようと躍起になったとしても、決して「イーロンマスク」級の人材を十分な人数採用できない。しかし、そのことも心配には及ばない。それというのも、実際には企業が実績を上げるためにトップレベルのイノベーターばかりを集める必要はないからだ。私の友人がコーチングセッションの際に着ていたTシャツのメッセージが良く言い当てている。「忍者+ロックスター≠チーム」。もしあなたの会社にロックスターばかりいたら、チームとしてまとめるのはかなり困難だろう。確かにメンバーに一定レベルのイノベーション能力が無ければ、チームは成果を上げられない。しかしそれ以上は必須ではなく、「ナイス・トウ・ハブ」なのだ。誤解の無いようにしたいが、トップレベルのイノベーターが会社の成果にもたらすインパクトを過小評価するつもりは毛頭ない。

従って、企業はトップ層の人材を採用することに過度に執着するべきではないし、仮にある程度うまくいったとしても十分な数のトップ人材を集めようとしてもきりがなく、逆効果になる場合もある。では、どうすればよいのか?

イノベーション・システムの構築がその答えだ。

企業は将来の成果を期待してイノベーションに投資する。しかし、イノベーションの成果は、イノベーション・ポートフォリオのすべてのチームの成果である。最悪のプロジェクトから最高のプロジェクトまで、イノベーション・プロジェクトすべてが、企業の利益に影響を及ぼすのだ。自社がイノベーションから得る成果は、最悪のチームの成果から最高のチームの成果まで、すべての平均値と考えてよいだろう。つまり、全体の成果は最高のイノベーターから最低のイノベーターまで全体の成果の平均と言ってよい。
イノベーション・システムをうまく設計すれば「平均以下のイノベーターたち」のパフォーマンス向上につながり、その結果として自社が得られる成果の全体平均が底上げされる。

注意が必要なのは、そのためのシステム構築だ。イノベーション・システムは、一番レベルの低いメンバーの成果を底上げするのに十分なものであり、それと同時に最も優れたイノベーターのパフォーマンスを邪魔するものであってはならないからだ。

もしもシステムの自由度が低すぎると、トップレベルのイノベーターは杓子定規のやり方に辟易してしまう。結果的に会社を辞めてしまうことになりかねない。

逆もまた真である。もしシステムの自由度が高すぎた場合、トップレベルのイノベーターは十分な成果を上げやすい、自由度が高いほど彼らは良いパフォーマンスを上げる傾向にあるからだ。しかし、その場合には「平均レベル」や「平均以下」のイノベーターたちは悪戦苦闘して深みにはまってしまう可能性が高い。結果的に、「ロックスター」率いる1つか2つのチームだけが成果をあげるという事になるだろう。

したがってイノベーション・システムを設計する際には、複雑さと自由度をどの程度にするか、よく注意を払う必要がある。ガチガチの枠組ではトップイノベーターは自社からいなくなってしまい、緩すぎれば成果が限定的になる。適切な度合いを測るための一番よい方法は、社内のイノベーターたちが自社のイノベーション・ガバナンスについてどう感じているかを絶えずインタビューすることだ。みんなを巻き込んで、トップレベルのイノベーターから平均以下のメンバーまで広くインタビューすることだ。きっと、あまりに多くの学びがあることに驚くことだろう。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非こちらにお問い合わせください。
次回は、5Gの事業機会をテーマにした『通信業界の2度目のチャンス(”Telcos’ second chance”)』というブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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