戦略と整合しないアイデアに投資し続ける3つの理由(“Three Reasons to keep Investing in Ideas not Aligned with Strategy”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「戦略と整合しないアイデアに投資し続ける3つの理由(“Three Reasons to keep Investing in Ideas not Aligned with Strategy”)」という戦略外投資の戦略的意義についてのお話です。では本文をお楽しみください。
戦略と整合しないアイデアに投資し続ける3つの理由(“Three Reasons to keep Investing in Ideas not Aligned with Strategy”)
2025年11月12日
ダン・トマ氏
戦略と整合しないアイデアに投資し続ける3つの理由
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

多くの組織において、企業戦略に沿った投資は、成熟した経営と規律ある意思決定の証拠と見なされている。これにより、イノベーション投資が企業の戦略意図と整合し、持続的な成長と長期的な価値創造が促進される。
しかし、調査によれば、自社の戦略とイノベーション投資との間に強い関連性があると回答した企業は、わずか約12%にとどまっている。言い換えれば、多くの企業はいまだに、イノベーション投資の配分先と自社戦略が実際に優先している領域とを結び付けることに苦労しているのである。
ベンチャーボードやイノベーション投資方針といった仕組みを通じてこの結び付きを強化することで、成長投資を戦略的ニーズと整合させることが可能となり、実際の事業インパクトを生み出す可能性を高めることができる。
とはいえ、どれほど規律の整った組織であっても、現在の戦略の枠を超えた事業機会に直面する場面は必ず存在する。そのような局面において、リーダーは既存の戦略との整合を厳格に維持するのか、それとも戦略からの例外を認めるのかを判断しなければならない。
あらかじめ定めた戦略の枠を超えて投資することが、実際には適切な判断となり得る三つの状況を以下に紹介する。
理由1:市場機会への機敏な対応
イノベーションチームは、市場を探索する過程で予期せぬ洞察を得ることがある。顧客への深い理解と課題の検証を進める中で、現在の戦略ロードマップには含まれていない、より大きく緊急性の高い事業機会を見出す場合もある。
このような場合には、行動を起こすことが賢明である。実際の市場から得た強力な証拠に裏付けられた戦略外のアイデアへの投資は、成長に対する機敏で柔軟な姿勢の表れである。それにより、競合他社よりも早く新たな価値を取り込むことができるだけでなく、次の戦略サイクルを検討するうえで重要なデータも得ることができる。市場の変化が年単位の計画サイクルよりも速く進む時代においては、戦略的機敏性は戦略との整合そのものと同じくらい重要な価値を持つのである。
理由2:主要ステークホルダーへの配慮
時には、イノベーション投資の動機が市場からのシグナルよりも、むしろ自社を取り巻く関係者との関係性に基づくこともある。
現在の戦略の範囲外にあるプロジェクトへの投資が、主要なステークホルダー(主要なビジネスパートナー、規制当局、投資家、サプライヤーなど)への配慮という観点から、現実的な判断となる場合がある。これらのステークホルダーは、企業が中核的な事業計画を遂行する能力に少なからぬ影響力を持っている。彼らが支持する取り組みに対して選択的かつ小規模な投資を行うことは、信頼や好意、さらには将来の協働を可能にする関係資本を築くことにつながり、後に大きな価値を生み出す可能性がある。
このような投資は、ポートフォリオ全体の整合性を損なわない限り、事業戦略の実行を支える事業エコシステムの強化につながるといえる。
理由3:新興技術からの学習
時として、時期尚早であったり、まだ十分に実証されていなかったり、現在の成長戦略とは直接関係していなかったりするものの、無視するにはあまりにも魅力的な新しい技術が現れることがある。
このような場合、戦略的な学習実験として小規模な投資を行うことは理にかなった判断といえる。探索的な取り組みに資金を投じることで、組織はその技術の仕組みや潜在的なユースケース、さらには技術進化の速度について、二次情報ではなく直接的な理解を得ることができる。
このアプローチは、組織としての新技術への備えを高めるとともに、その技術が成熟して戦略的に重要な意味を持つようになった際に不意を突かれる事態を防ぐことにつながる。言い換えれば、将来のイノベーションに備え、低コストで保険をかけておくようなものである。
真の戦略的リーダーシップとは、計画に盲目的に従うことではなく、原則を損なうことなく柔軟に軌道修正すべきタイミングを見極めることである。
投資を戦略と整合させることは、組織の焦点と一貫性を確保するうえで重要である。しかし実際には、成長は多くの場合、新たな事業機会、ステークホルダーの利害、そして新興技術が現在の戦略の限界に挑戦するようなグレーゾーンを、いかに巧みに乗り越えていくかによって生まれるのである。
イノベーションで成功を収めている企業は、こうした例外的な事業アイデアを、単に組織の調和を乱す逸脱としてではなく、次のイノベーションの方向性を示し、それを進化させるための戦略的な実験として捉えているのである。
戦略との整合性を維持することは、規律ある成長を実現するうえで重要である。しかし同時に、柔軟性を保つことは、事業の適応力とレジリエンスを確保するために不可欠である。重要なのは、戦略外の投資を完全に避けることではない。明確な仮説を持ち、リスクを適切に管理し、長期的な戦略価値とのつながりを見据えながら、意図的に意思決定を行うことである。
当社のポートフォリオ管理・イノベーション会計プラットフォーム「SATORI」を使えば、企業のイノベーション・ポートフォリオと戦略意図との整合性をリアルタイムで把握できます。また、企業が最も重要な領域に注力できるように、どのプロジェクトや戦略領域が市場で最も強い反応を得ているのかを可視化します。つまり、SATORIを使うことで、企業は戦略を一連の実験として捉え、データに基づいた意思決定を行えるようになります。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください
次回のブログは「AI時代における退職支援パッケージと起業家教育のあり方(“Severance Packages & Education in the Age of AI”)」という、AIによる仕事の自動化が進む中で、企業の退職支援のあり方と、個人が価値を生み出す力を育てる起業家教育の必要性についてのお話です。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。



