DX・イノベーションのリーダーシップ人材育成

DX・DX人材, イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。

今回は「イノベーション投資委員会の9つの失敗(”The 9 Mistakes Venture Boards Make”)」という、イノベーション投資を意思決定する会議での注意事項のお話です。
弊社が国内でご支援している際にも、現場側のスキルが向上して、実際にプロジェクトを進めようという段階になると、管理職側の人材育成・スキル向上が課題になります。不確定性の少ない既存事業の延長線でのプロジェクト立上げの経験をもとに判断、コメント、指示、意思決定をすると、せっかく現場サイドで進めてきた新事業の芽をつぶしかねないからです。そのため、いわゆるDXやイノベーションのためのリーダーシップ人材の育成が必要となります。
今回のブログ記事では、会議体として新事業を審査する際の注意事項を列挙していますが、そのような観点でご覧いただくと参考になるのではないかと思います。
では本文をお楽しみください。

DX・イノベーションのリーダーシップ人材育成
~イノベーション投資委員会の9つの失敗~

2020年8月23日  ダン・トマ氏
イノベーション投資委員会の9つの失敗
ダン・トマ氏が”The Innovation Accounting
bookウェブサイト
“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

原則論として、新規事業への投資について企業はもっとうまくベンチャーキャピタルの真似をすべきだ、という点に反対する人は誰もいないと思いますが、現実問題としては簡単にはいきません。

イノベーション案件一覧(と各案件の活動評価)に関する意思決定を、より適切に、より速く実施するために大企業が社内に設置可能な組織体として、イノベーション投資委員会があります。しかし、イノベーション投資委員会を設置したとしても、それを効果的に運用できる様になるためには、長い道のりを進んで行かねばなりません。
私たちが実施に目にする例として、投資委員会を設置しても期待した成果が得られないと不満を持つ企業が陥っている典型的な9つの落とし穴を以下にご紹介します。

1.散発的な会議:
推進力を生むためには、投資委員会の会議を一定頻度で開催する必要があります。散発的な会議開催は、「イノベーションは重要だが、継続的に時間を割くほどではない」という誤ったメッセージとなります。このような否定的な雰囲気が伝染すると、イノベーションチームは切迫感を感じなくなり、効果の薄い活動や、事業アイデアの成熟段階に合わない活動に時間を浪費するようになります。

基本的に私たちはお奨めしませんが、イノベーションチームのメンバーに他業務を兼務させる場合には、投資委員会の会議が散発的なことは特に有害です。一定の頻度で会議がないと、兼務のメンバーは中核事業の業務にどんどん引き込まれ、イノベーションは忘れ去られてしまいます。

世界最大級の海事協会DNV GLのビジネスプロセス責任者であるニーナ・ライグは次のように述べています。
「投資委員会の会議を一定頻度で開催することは、チームと投資委員会メンバーの双方にとって有益です。頻繁にチームと会っているので、投資委員会メンバーが活動報告を求める発想に陥ることは減るでしょう。
一方、三カ月や半年に一度でなく頻繁に投資委員会でプレゼンテーションを行うため、チームの不安感も軽減されます。また、絶えずフィードバックを得ているので、チームと投資委員会メンバーの期待値もずれにくいのです。」

会議の開催頻度は、それぞれの会社の状況によって異なります。B2C市場で活動するフラットな階層構造の企業では、私たちの経験上3週間の間隔が最も効果的です。
しかし、B2Bの規制が厳しい業界では実験に必要な時間が長くなるため、チームが進捗を発表するためには、おそらく3週間では間隔が短いでしょう。

2.活動報告会議:
私たちがよく目にするもう一つの大きな問題は、投資委員会の経験が浅い初心者メンバーが、投資委員会の会議を活動報告会議に変えてしまいがちなことです。
投資委員会の会議は、イノベーションチームが事業アイデアの進展と、ビジネスモデル仮説のリスク除去の進捗状況を発表する場です。単なる活動報告会議ではないのです。
このような問題を防ぐためのアドバイスは、次の2点を重視した質問項目の標準スクリプトを事前作成し、そこから脱線しないことです。

1)何を学んだか?
2)どのようにしてそれを学んだのか?
1つ目の質問で、前回の会議以降にチームが検証した想定事項を確認し、2つ目の質問で、検証の根拠が信頼できるかどうかを確認します。

3.アイデア創出セッション:
活動報告会議の落とし穴と同様に、投資委員会の会議がアイデア創出セッションに変わってしまう怖れがあります。この場合には、進捗や具体的な根拠に集中せずに、投資委員会のグループが将来計画や本題以外の事業アイデアについて話し始めます。前述のシナリオと同様に、解決策は、成果と効果に焦点を当てた質問事項の標準スクリプトを事前作成して共有し、そこから外れないことです。

4.プレゼン大会:
投資委員会の会議が迷走するパターンの多くは、相互に連鎖しています。会議がプレゼン大会になったり、アクセラレーター・プログラムの発表会のようになったりするリスクは、多くの要因に起因します。
例えば、会議の開催が散発的だと、チームは事実や成果を示すのでなく注目を集めようとして争いがちです。また、事前に決めた標準スクリプトを厳守しなければ、会議がプレゼン大会になりかねません。

このようなリスクを軽減するために、自社の標準テンプレートを作成することを、私たちは推奨しています。話の焦点を定め、規律をもたらすという目的が守られていれば、テンプレートの形式はスライドでも文書でも構いません。
これまでの経験から、標準テンプレートを使用することで、チームがパワーポイントやプレゼンのスキルだけで投資委員会の意見を抑え込んでしまうおそれを排除できると考えています。標準テンプレートがあれば、出席者全員が事実と根拠に集中できます。

5.意思決定がなされない:
投資委員会の会議で見られるもう一つの落とし穴は、プロジェクトに関する意思決定がなされないことです。
意思決定には3つの形態があります。終了(この案件を中止すべき)、継続(この案件は製品ライフサイクルの現在の段階の重要な成功要因の根拠を集め続けるか、次の段階に進むべき)、そして方向転換(根拠に基づき、新事業チームはビジネスモデルに大きな変更を加えることを検討すべきであり、通常は製品ライフサイクルの最初に戻って新たな根拠の収集を再度開始することを意味する)です。

6.不適切な態度:
ときには、あるいは企業文化によっては、投資委員会メンバーの態度が不適切なことがあります。そういった不適切な態度は、チームの行動や、チームが会議中に何を発表し、何を発表しないかに悪影響を及ぼします。

投資委員会の会議は、余計な気遣いなく発言できるよう、信頼と安心感のある雰囲気で実施すべきです。
投資委員会はチームを罰するための組織ではありません。会議を定期開催し、関係者全員によるコーチングの場と捉えるべきです。会議では、投資委員会メンバーからチームにトップダウンで指示命令をするのでなく、双方から意見交換すべきです。
また、うまくいったことや思うようにいかなかったことを正直に話しても大丈夫な、チームが温かみを感じられる雰囲気づくりが必要です。相手を信頼できない雰囲気のもとでは、建設的な良い決定を下せません。

7.新規事業の評価は、改善プロジェクトの管理とは違います。持続的イノベーションと画期的なイノベーションでは、不確実性の度合いが大きく異なるのです。それだけでなく、不確実性の度合いが高いことで、いわゆる意思決定バイアスが強く現れます。

a.埋没コスト・バイアス:
このバイアスを慣用句で表現すると、「盗人に追い銭(損の上塗り)」です。これは、一度何かに時間やお金を投資すると、そのプロジェクトが最終的に失敗することが明らかになったとしても、それを放棄する可能性が非常に低くなるという考え方です。その結果、苦渋の決断をして早めに損切りした場合よりも、はるかに多くの損失を被ることになるのです。

b.生存者バイアス:
成功物語は目立ちますが、音もなく沈んで消滅してしまった失敗はなかなか目に留まりません。だからこそ、私たちはリスクのある新事業の成功の可能性を過大評価しがちです。信じられない方は、現実を思い知らされたスタートアップ業界の長年の経験者に聞いてみてください。
また、学校を中退するなど、特定の成功者の戦略を過大評価してしまうのもこのためです。私たちは、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグといった世界的な成功者を思い浮かべ、ある行動(学校を辞めること)がある結果(起業家として大金持ちになること)につながる可能性を計算する際に、ひっそりと苦労している膨大な数の中退者を考慮に入れることを忘れてしまうのです。

c.安全バイアス:
安全バイアスとは、損失を避けようとする、いかにも人間的な傾向のことです。
多くの研究によると、私たちはお金を得ることよりも、お金を失うことを避けたいと、より強く願うようです。言い換えれば、悪いことは良いことよりも影響力が強いということです。
安全バイアスは意思決定を遅らせ、健全な形でのリスクテイクを妨げます。安全バイアスを軽減する方法の一つは、自分と意思決定との間に距離を置くことです。例えば、過去の自分がすでに正しい選択を実施済みだと想像することで、損失に対する恐怖心を弱めることができます。

d.経験バイアス:
自分の認識を客観的な真実だと思い込んでしまう傾向。自分の人生の主役は自分自身でも、他の人は自分とは少し違う角度から世界を見ています。
経験バイアスは、その事実を忘れたときに起こります。ある問題や状況に対する自分の見方が、すべての真実だと思い込んでしまうのです。このような場合には、外部の専門家の存在が大きな違いを生む可能性があります。

e.近視眼バイアス:
私たちは、時間をかけるよりもすぐに行動することを好みます。近視眼バイアスによって、より適切で有用かもしれない答えを無視し、明白に見える答えを選ぶことがよくあるのです。手近なデータの優先というバイアスは、さまざまな形で現れます。
デジタル出版では、筆者を文章の質ではなく、アクセス数のみで評価しているかもしれません。また営業部門では、顧客との良好な関係構築が将来のビジネスにどう影響するかを考慮せず、目先の収益目標のみを重視しているかもしれません。別の言い方をすれば、「測定できるものは何とかなる(”what
gets measured gets managed”)」というのは事実ですが、測定(“measurement”)と経営(“management”)とを混同してはならないのです。

8.時間管理の不徹底:
投資委員会の会議を効果的に行うためには、各チーム均等に発表時間を与える必要があります。これまでの経験から、チームが進捗状況を伝え、メンバーが不明点を確認するための時間は、15分から20分で十分だと考えています。時間を長くするほど、会議が活動報告になったり、アイデア創出セッションになったりするおそれが高まります。時間の制約は、会議が乗っ取られたり、脱線したりしないようにするための無言の守護者と考えることができます。

9.データ記録の不備:
イノベーション会計システムを機能させるためには、毎回の会議後にデータを記録しておくことが非常に重要です。どのようなデータを収集し、記録すべきかについては後述しますが、とりあえず、データが記録されない投資委員会の会議は、何も決定されない会議と同じくらいひどいものだということを覚えておいてください。

投資委員会は、企業の戦略と戦術を結びつける役割を担っています。イノベーション戦略が実行されるように確認すると同時に、その戦略に対するフィードバックを行います。イノベーション戦略が市場で通用するのか、それとも変更する必要があるのかを知るための場所が、投資委員会の会議なのです。
投資委員会の会議を行わないと、戦略に対するフィードバックを得られないと言っているのではありません。ただ、この会議を行わないと、財務会計の帳簿上で結果を見るしかないため、フィードバックが遅くなるのです。また、投資委員会の会議でイノベーション戦略のフィードバック周期を短縮することで、戦略がうまく機能しない場合の早期警戒システムとしても活用できます。
これらのことは、前述した財務会計システムの難問の一つ、すなわち資産投入の最終結果である売上と利益しか表現できない、という会計ベースの財務報告の問題軽減にもつながります。

※本記事のオリジナルはダン・トマ氏が定期的に寄稿している「The Future Shapers」に掲載されたものです。


いいかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「企業倫理の測定(”Measuring Ethics”)」で、パーパス経営、SDGsや、悪い面ではグリーンウォッシングなどにも関連する最近話題のトピックです。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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