イノベーション会計を導入するために企業に必要とされる3つの事項(“THREE THINGS YOUR COMPANY NEEDS TO HAVE IN PLACE TO IMPLEMENT INNOVATION ACCOUNTING”)

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みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション・アカウンティング』を2022年10月5日に発売開始しました。

今回は、「イノベーション会計を導入するために企業に必要とされる3つの事項(“THREE THINGS YOUR COMPANY NEEDS TO HAVE IN PLACE TO IMPLEMENT INNOVATION
ACCOUNTING”)」という、イノベーション会計を導入する前に企業が実施すべきイノベーションの取り組みについてのお話です。では本文をお楽しみください。

イノベーション会計を導入するために企業に必要とされる3つの事項(“THREE THINGS YOUR COMPANY NEEDS TO HAVE IN PLACE TO IMPLEMENT INNOVATION
ACCOUNTING”)」
~まずはイノベーションの仕組みをつくり、そのうえで効率を測定する~

2023年3月7日  ダン・トマ氏
イノベーション会計を導入するために企業に必要とされる3つの事項
(ダン・トマ氏が“OUTCOME社ウェブサイト”に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

確実なものは何もない、ということだけが確実な変化の激しい世界において、企業におけるイノベーションの位置づけは、もはや「あったらいいな(Nice to Have)」で済まされるものでなく、企業の責務と考えなければならない。持続的成長を実現するための手段である。
しかし長きにわたって、イノベーションは科学でなく感性に基づく芸術的なものだと捉えられてきた。イノベーションを創造力と同一視する傾向があるのだ。

企業のリーダーたちは、素晴らしい新製品こそが成功する新事業の源だと考えがちであり、その結果としてどのリーダーも同じように格好良く、キラキラした新製品の開発を追い求めたがる。企業各社は何度でもこの罠に陥る。イノベーションで秀でるためには、大勢の「クリエイティブな人材」を一つ屋根の下に集め、次の大ヒット商品を考えてくれ、と依頼するのが最も良い方法だと、企業のリーダーたちは思っているのだ。ここで明確にしておきたいのは、経験豊富な起業家やイノベーションマネージャーであれば誰もがそう言うだろうが、素晴らしいアイデアは重要なインプットである。しかし、大勢の「クリエイティブと思われる人たち」を一か所に集めることは、成長を生み出すのための安全確実なレシピではないのだ。さらに言えば、多くの企業でイノベーションを明確に計測する能力が欠如していることを合わせて考えると、大多数の幹部層から大胆なイノベーションの動きをする機会を奪うことに貢献するだけである。

しかし、イノベーションは「規律」であり、習得して管理可能だ、という人も多くいるだろう(そして実例も存在する)。そして、イノベーションとは創造性よりもむしろ規律と繰り返しなのだから、企業内のほかのプロセスと同様に計測可能である。注意が必要なのは、イノベーション会計には事前に満たすべき以下のような前提条件があることだ。

1.イノベーションという言葉が何を意味するかを明確にする
もしイノベーション会計システムを構築してイノベーションを計測したいのであれば、まず最初にイノベーションの定義をしなければならない。大した話ではないように聞こえるかもしれないが、これは重要なステップで、それというのもイノベーションの定義によって利用する指標が変わるからだ。

社内の一部の人たちは、イノベーションをこれまで自社では実施したり提供したりしていない全く新たな何か、と捉えているかもしれない。その一方で別の人たちは、イノベーションを既存の製品やサービスの漸進的な改善と考えているかもしれない。常に輝きを失わず様々なシーンで利用されるイノベーションという言葉は、社内で人それぞれに異なる意味を持つ可能性があり、しかも各人の観点から見れば、そのすべてが正しいのだ。

もしあなたの会社においてイノベーションをより漸進的な意味合いで捉えることに合意したのであれば、指標としては財務会計やプロジェクト管理の分野のものを使ってイノベーションの取り組みを測定するのがより適しているかもしれない。その一方で、もしあなたの会社におけるイノベーションの定義がより破壊的な意味合いであれば、財務会計の指標の代わりに、各プロジェクトの現在の進捗状況や事業インパクトを即時の財務データなしに計測する指標を用いる必要があるかもしれない。

明確なイノベーションの定義に関する意識合わせをすることは、イノベーションの計測というだけでなくイノベーションを推進すること全般において、全体工程の最初の一歩である。(イノベーションに長けた銀行として名高い)DBSのような企業が、イノベーションを通じた事業成長とイノベーション文化の構築を「全社一丸となって進める」ことができた背景には、「自社に価値をもたらす、今までとは違う新たな何か」という、社内のだれもが理解し、かつアクションを起こすことができる簡単な定義を作成したことがある。

2.適切な統制を導入する
イノベーションの計測はイノベーション管理から始まる。イノベーションを計測したい企業は、まず最初に確固たるイノベーション管理プロセス(統制)を導入しなければならない。

この統制の範囲は、アイデアが生み出された瞬間から事業として成熟するまでに事業アイデアが通過する各段階について、投資あるいは撤退の意思決定がなされる頻度、イノベーションの予算措置の方法、さらには現場の各プロジェクトチームの進捗管理方法まで、全般にわたる。

例えば、事業アイデアが通過する各段階が明確でなければ、事業アイデアの進捗を計測できず、追跡管理できるのは費やされたコストだけとなる。会社側は、費やしたコストがイノベーションチームの進捗につながったかどうかを、個々の見解以外の方法で知ることができないのだ。

イノベーション統制システムは企業のイノベーション計測能力の要である。したがって、イノベーションにどれだけの費用が掛かっているのか、そして将来においてイノベーションから潜在的にどれだけの業績向上を期待できる可能性があるかを明確にしたければ、イノベーションの明確な管理方法を確立するための投資が必要となる。

3.イノベーションの管理と計測を行う方法を社員に教育する
どんな優れたシステムもそれを運用する人次第である。イノベーション統制を構築したら、企業は自社のすべての組織階層において社員のイノベーション管理スキル開発に投資する必要がある。このスキルとイノベーション統制が実践されて初めて、企業はイノベーション投資に関するデータを入手できるようになる。

イノベーション管理スキルが身についていなければ、各社員は、イノベーションには害となり、既存の中核事業に適した「昔ながらの」働き方に逆戻りしてしまうだろう。イノベーション統制システムへの投資を人材開発と適合させ、自社の研修プログラムにおいてイノベーション管理のすべての面を網羅する必要がある。もし企業が自社のイノベーション投資に透明性を持たせたいのであれば、自社の成長戦略に沿った事業アイデアを生み出す方法から、ビジネス仮説の実験を実施する方法、イノベーションチームの進捗を評価する方法、イノベーション専用の特定の指標を計測する方法まで、すべてを考慮にいれて人材を開発することが必要だ。

もしあなたが自社のイノベーションの計測、あるいはイノベーション会計システムの開発の担当者としてアサインされたのであれば、あるいは社内での責任や役割の一環としてイノベーションの計測やイノベーション会計システム導入のプロジェクトを引き受けたのであれば、上記の三つの前提条件を念頭におくこと、そしてイノベーションの計測システムの構築は複雑なタスクだが挑戦するに値する十分な価値があると認識すること、それが成功への第一歩となる。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。

次回のブログは「あなたの会社に本当にイノベーション会計は必要なのか?(“DOES YOUR COMPANY ACTUALLY NEED INNOVATION ACCOUNTING?”)」という、イノベーション会計の導入に適した企業の特性についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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