デジタルトランスフォーメーション時代のCFOの役割とは

DX・DX人材, イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。

今回は「結果レビューから事前プレビューへ(”From Review To Preview”)」という、企業でイノベーションを推進していくうえでのCFOの役割の変化についてのお話です。
今回のブログはノルウェーに本拠地をもつ世界最大手の海事協会であるDNV GL社CFOのトーマス・フォグス-エリクセン氏へのインタビュー記事です。DNV GL社はイノベーション管理システム導入の先進企業で、新事業を個別にボトムアップで立上げるのでなく、全社の仕組みとして生み出すことに成功しています。同社のイノベーション促進プロジェクトは非常に特徴的で、CFOであるトーマス・フォグス-エリクセン氏が先頭に立って、イノベーション管理システムやイノベーション会計の導入、活用を進めています。
では本文をお楽しみください。

イノベーションにおけるCFOの役割
~結果レビューから事前プレビューへ~

2019年11月6日  ダン・トマ氏
ノルウェーDNV GL社CFOトーマス・フォグス-エリクセン氏へのインタビュー
ダン・トマ氏が”The Innovation Accounting bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

最近ダンはDNV GL社CFOのトーマス・フォグス-エリクセン氏とデジタルエコノミーがもたらしたCFOの役割の変化について話をする機会がありました。
DNV GLは世界最大手の保証・リスク管理サービス協会でノルウェイのホヴィックに本社があります。同社は世界100カ国以上に350ヵ所の運営拠点を持ち、約14,500人の従業員を擁します。同社は港湾、再生エネルギー、オイル&ガス、電化、食品飲料、ヘルスケアなど様々な業界向けにサービスを提供しています。

対談のポイント:

  • デジタルエコノミーと隣接業界やスタートアップによる破壊の脅威の常態化がCFOの役割ににたらすた変化
  • 最高財務責任者たちと最高デジタル責任者や最高イノベーション責任者といった取締役会に新たに加わった機能とのやり取り
  • イノベーション投資にCFOがどんな方法で取り組むべきか
  • まだデジタルトランスフォーメーションを開始していない会社のCFOに対する全体的なアドバイス
競争環境は過去数年で大きく変わりました。現代社会において、大企業は既存の業界内だけでなく、スタートアップ企業や大手テック企業など他業界からの参入者との競争に直面しています。このような状況下で、CFOの役割はどのように変化しているのでしょうか?
私は2012年からDNV GL社のCFOを務めています。それほど長い年月でない様に思われるかもしれませんが、実は今日のデジタル世界では、7年はかなり長い期間と言えます。我々の業界は変わりました。特にいくつかの分野では、他よりも速く変化が進みました。
しかしながら、最大の変化はおそらく「変化のスピード」が変わったことです。これまでにも増して、そういった状況が進んでいます。ですので、新たな競合や潜在的な競合が本当に急に現れ、驚くことになるかもしれません。
何よりもまして、変化が常態化しています。したがって、変化することを見越しておくべきなのです。
私がもう一つ思うのは、デジタル・トランスフォーメーションが、かけた時間や用いた物質の量に基づく価格設定をとなっている古いビジネスモデルを、やがては「淘汰する」であろうという事です。だからと言って、組織に人がいなくなると言っているのではありません。間違いなく組織に人は存在し続けますが、顧客に時間単価や物質単価に基づいて製品やサービスの価格を提示できる時代ではなくなったのです。

変化の時期に取り残されない様にするために、ほとんどの企業が一方ではデジタル化を進めてトレンドに追随し、またもう一方ではイノベーション投資を倍増して成長をはかっています。これにともない、多くの大企業の取締役会に新たな機能である最高デジタル責任者や最高イノベーション責任者が加わりました。CFOとしての責務は企業の中枢を担うものですが、従来からの伝統的な役割です。あなたは、そして他のCFOたちは、取締役会でこれらの新たな機能を担うメンバーとどのようにやり取りするべきでしょうか?
私の場合には非常に幸運で、最高デジタル責任者は私の隣の部屋にいるのです。ですので気楽に話をしてアイデア交換できます。ですので、他の企業の皆さんへのコツとしては、CFOとCIO/CDOにより頻繁に会話をさせて、できれば居室も近くにした方が良いということです。私の場合には、正式なミーティングを彼らと行う機会はそれほど多くありませんが、むしろ会話を楽しんでいます。それというのも、我が社のCDOは2次元の世界に極めて集中しているのです。
一つにはデジタルですが、しかしその前に、彼は実際には顧客、顧客とのやり取り、どうやって顧客の話に耳を傾けるか、そして顧客からのフィードバックをイノベーションプロセスにどうやって即座に取り入れるか、あるいはどうやって一番最初から取り入れるか、と言った話をしているのです。
そして、あなたは伝統的なCFOという人々は最終利益のことしか頭になく、「顧客」という文字の書き方すら知らないのではないかと思っているかもしれません。しかし、私が20年以上前に最初のインターン研修先で学び、今でも心に残っている教訓は、「事業は顧客ありきだ」ということなのです。そして私の考えでは、顧客中心こそがすべてのCFOにとっての重要事項だと思っています。ですので、顧客が満足しない限り、売上や利益率のことを語ることはできないのです。
顧客中心が、CFOとCDO/CIOのコミュニケーションの基盤であるべきです。
また、もう一つ付け加えておきたいのは、最高デジタル責任者のとなりには、最高人材責任者がいることです。こうすることで、我が社では3次元すなわち3つの軸が集まっています。そのため、もし何か注目すべき事業機会があれば、簡単に3つの観点を持てます。今日では、我々にはこの件はCFOの件だとか、イノベーションの件だとか、人事の件だとか言っている余裕はありません。世界はあまりに相互連携して複雑化しているため、3つの軸すべてを慎重かつ同時に吟味する必要があるのです。

イノベーションはコスト、あるいは少なくとも、未知の長期的リターンにつながる短期的コストとみなされています。CFOはイノベーション投資に対する「不安」にどう対処し、成長にコミットすればよいのでしょうか?仮に何か見返りが得られるとしても、最終利益につながるのは将来であり、2年、3年、あるいは5年後には多少投資回収できるかもしれない、といった投資案件を、CFOはどのようなレンズ越しに見るべきでしょうか?
私が思うに、これはまさに的を射た質問です。従来型のCFOが直面するリスクは、彼らが過去に重きを置きすぎる点です。会計帳簿でわかるのは過去に起きた事だけです。歴史から学ぶことはできますが、変えることはできません。イノベーション投資の評価ポイントは投資回収ではなく、素早く安く学び、未来に適応することに寄与するかどうか、なのです。
変化が常態化しており、自分たち自身も常に刷新しなければならないと知れば、イノベーション投資に対する「不安」を軽減できるかもしれません。しかしながら、我々にとっての最大の課題は、既存事業にも将来事業にも同じ様に投資をする必要がある点です。
だからこそ、将来を見据えてイノベーションを実行する際には、複数年度アプローチをとらなければなりません。自社のイノベーション・プロセスと、新規開発を進める人々を信じられる限り、我慢は美徳と言えます。一般的に、CFOは敢えて失敗する必要があります。それというのも、失敗から学ぶことが市場や消費者を知る唯一の方法だからです。このような学習を系統的かつ科学的に実施する必要があるのは明白です。会社を前進させるには、これしか方法が無いのです。
イノベーション投資が短期の設備投資(CAPEX)にマイナスの影響を及ぼすことは、私もわかっています。しかし全く投資をしなければ、2、3年後、あるいはその先に新たな収益を見込めないのです。

現代のCFOは、収益と既存のビジネスモデルの活用を重視する短期的視点と、継続的な成長と新規のビジネスモデルの開発を重視する長期的視点という、相容れない2つの視点をどう扱うべきなのでしょうか?
ご質問の時間に関する2つの視点ですが、私は2つの別の部屋で、違う話をするイメージでとらえています。一つの部屋は業績の部屋で、この部屋では業績の指標について話をします。もう一つの部屋はイノベーションの部屋で、こちらの部屋ではイノベーションの指標について話をするのです。
一つ目の短期視点では、業績に関する既存の各種指標を通常通り適用できるので、どの指標を使うかの議論に時間をかける必要はありません。しかし、時には2つの部屋の境界があいまいになり、たとえば業績ミーティングの中で、イノベーションについても議論しなければならない場合もあります。したがって、2つの異なる時間的視点をすばやく切り替えて、異なる評価指標を適用するための頭の柔軟性が必要です。たとえば初期段階のイノベーション・プロジェクトを収益で評価することはありません。
たとえば初期段階のデジタル製品の場合、このプロジェクトが将来商業的に成功する可能性につながっているのか、それだけは注視するべきです。どんなイノベーションチームでも、最終的な目的は商業的成功だからです。一方で、たとえば自社のソリューションで解決しようとしている特定の問題を、本当に顧客が抱えているかどうかわからないうちから価格の議論はしません。基本的には時間的視点の違い、すなわち2つの部屋に応じて議論するのです。

イノベーションやデジタル・トランスフォーメーションを支援する気になれないCFOへのアドバイスはありますか?また、イノベーションやデジタル・トランスフォーメーションを、まだ始めていない企業のCFOにアドバイスをお願いします。
まず何より先に、鏡に向かって自分を見つめ、「自分は変える側にたつか、変えられる側になるか」ということをよく考えた方が良いと思います。あなたやあなたの会社の許しがなくとも、世の中はどんどん変わってしまうのです。昔ながらのエクセルシートで過去データの分析に力を注ぎ、何とかやり過ごそうとしても、それでは後れを取るという可能性が高いのです。
次にあなたは、社内の誰もが納得するイノベーションのフレームワークを作らなければなりません。これまでとは異なる、さまざまなツール、能力、顧客との接し方、仕事の進め方などからなるフレームワークです。
そして、投資を通じて、特に能力開発や人材への投資を通じて、このフレームワークを機能させる必要があります。従来のやり方にとらわれない、イノベーターや起業家的な人材が必要です。
私の視点では、どんなプロジェクトでも結果は3通りになります。2つは成功で1つは失敗です。もちろん一番目は商業的な成功です。しかし二番目の成功は、短期で良質な失敗です。そもそもこれを失敗と呼ぶべきではなく、ある種の良い学習機会と呼ぶべきです。お客様から興味深く貴重なフィードバックをたくさんいただき、有意義な学習機会になったのであれば、新サービスや新製品が実現しなかったとしても、プロジェクトから多くの学びを得られたわけです。そのこと自体は成功と言ってよいでしょう。
残りの一つ、すなわち失敗とは、動きの止まったプロジェクトを指します。こういうプロジェクトでは、何も起きず、どこにも到達しません。その場合には、即刻中止すべきです。
最後に、CFOは取締役会メンバーに「長期的な視点はビジネスにとって良いことだ 」と宣言すべきだと思います。これはイノベーションだけの話ではなく、日々の既存事業でも同じです。数年前に私はDNV GLに「15ヶ月ローリング・フォーキャスト」という仕組みを導入しました。5四半期先までの将来予測を四半期ごとに見直す仕組みです。私が我が社のメンバーや他社のみなさんに伝えたいのは、取締役会では会議時間の半分を過去(会計帳簿)の議論に、もう半分を未来への準備に費やすべき、ということです。残念ながら、我が社でもまだ時間配分の目標を達成できていませんが、最高デジタル責任者(CDO)や最高人材責任者のおかげで、だいぶ目標に近づいてきています。
CFOは資金面だけでなく、取締役会メンバーに受け身の議論を止めさせ、前向きな議論をさせることで、企業の将来に貢献する、という意識が必要です。どうせ変えられないのですから過去にとらわれていても意味がありません。過去から学び、未来に備えることの方がもっと重要なのです。

※本記事のオリジナルは「Thinkers50」に掲載されたものです。


いいかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「イノベーション会計の原則(”Principles of an Innovation Accounting System”)」という、イノベーションを正しく評価するためのイノベーション会計における一連の基本原則についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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