イノベーション投資効率

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。

第2回目の今回は「イノベーション投資効率(”Efficiency of the innovation investment (EII)”)」という、イノベーション投資の費用対効果についてのお話です。
イノベーション会計では、個々の新事業案件の成果を測るだけでなく、企業としてのイノベーションの取組み全体の効率や成果を測ります。それによって、自社における新事業立上げの仕組み(イノベーション・システム)がうまく機能しているのかどうかを把握し、数字に基づいて合理的にイノベーション立上げの仕組みを改善できます。このようにして、新事業が継続的に生まれ、育つ環境を自社内に整備していくのです。
では本文をお楽しみください。

イノベーション投資効率

2021年1月25日  ダン・トマ氏
イノベーション投資効率
ダン・トマ氏が”The Innovation Accounting bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

イノベーション投資費用の大部分は、営業費用(OPEX)に分類されます。OPEXは企業のランニングコストの大部分を占めるため、リーダーは一般的に、品質や生産量の重大な低下を招くことなくOPEXを削減する方法を模索しています。
そして、OPEX削減が必要なときには、イノベーションが常に標的とされます。なぜなら事業環境が困難なときには、投資回収までに長期間を要するプロジェクトは当然のごとく批判的な目で見られるからです。
自社の生き残りのために短期的な業績の穴埋めが必要なときに、長期的な事業機会への過剰投資にリーダーが懐疑的になるのは当然です。したがって、イノベーション投資効率(EII)の理解が鍵となります。「1ドルのイノベーション投資」が何ドルの新規売上を生むのかという、すべてのリーダーにとって極めて重要な質問にEIIは答えてくれます。

イノベーションへの継続投資の正当化が必要なときには、この質問への回答が常に役立ちます。特にイノベーションに懐疑的な利害関係者と対峙する際には効果抜群です。

それに加えて、EIIは、NPVIの測定結果を補完するという意味でも有用です。過去X年間に提供開始した製品から今日どれだけの売上を上げているかを示すのがNPVIなら、その売上を新たに生み出すためにいくら費やしたかを示すのがEIIです。

EIIの計算式は、「過去X年間に提供開始された製品から得られた今年度の売上額の総額」を「過去X年間のイノベーション費用の合計」で割ったものです。計算の対象とする期間は、各社のニーズをふまえて自社で決める必要があります。ただし、私たちは3年または5年の期間で計算することをお勧めしています。

たとえば、ある企業の2020年期末の会計報告で、過去3年間に立ち上げた新規事業からの売上総額が1,800万ドルであったとします。一方、この企業のイノベーション費用は、2020年に300万ドル、2019年に100万ドル、2018年に400万ドルで、2018年から2020年までのイノベーション費用の合計は800万ドルです。この場合、EIIは1800万/800万=2.25となります(パーセンテージで表したいなら、「イノベーション投資効率は225%」と言えばよいでしょう)。

わかりやすく言うと、2018年から2020年に使ったイノベーション費用1ドルに対して、2020年に2.25ドルの新たな売上が得られたということです。

もし自社のEIIが1または100%を下回ってしまったなら、売上として戻ってくるよりも多くの費用をイノベーションに使っていることを意味します。こうなると、自社のイノベーションの取組みが、見映え重視の「イノベーション劇場」となっていることを示す警告ランプに赤信号が点灯していると考えてほぼ間違いありません。

社内のEIIを計算する際に、イノベーション費用については新事業の立上げ状況管理用のファネル・ダッシュボードで確認できます。EIIの計算に必要な数字は、イノベーション施策で発生したすべての費用の合計額です。すなわち、開発中の新事業、持続段階に達した新事業、中止された新事業、これらに使った費用すべてです。EIIの算出期間と同じ期間の費用を調べる必要があります。

注意事項として、持続段階に達した新事業の事業運営にともなうOPEXとCAPEXは除外するようお願いします。

EIIをより包括的に捉えたい場合には、社内のイノベーションに加えて、合併・買収(M&A)、スタートアップへの投資(CVC)、ジョイントベンチャーなど、イノベーションに関連する各種活動にひもづく売上と費用を含めて計算してもよいでしょう。

また、CVC のような特定のイノベーション手段のEIIのみに焦点をあてたい場合には、EII の計算式の考え方をCVC の成果と費用だけに適用します。

企業のリーダーは、ベンチャーキャピタルの投資効率が高いのは、当たりくじ(スタートアップ)だけを選んでいるからでなく、一定の手法に従って複数投資と投資先のフォローアップを実行しているからだということを忘れるべきではありません。成功するのはほんの一握りの投資先です。
しかし、その数少ない成功案件が、最終的には他のすべてのスタートアップで発生した損失をまかない、さらにファンドの利益の大半を構成するのです。ここからも、イノベーション投資と管理の考え方を転換することの重要性が明確にわかります。

EIIは遅行指標であり、したがって直接的に改善することはできません。しかしこの指標は自己診断や動向分析に有用で、また時間の経過にともなうイノベーション・エコシステムの成熟状況と成長貢献度を理解するのにも適しています。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「イノベーション投資委員会の9つの失敗(”The 9 Mistakes Venture Boards Make”)」という、イノベーション投資を審議する会議の運営における注意事項についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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