QBハウスが理美容業界にイノベーションを起こした画期的なビジネスモデルとは?
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こんにちは、マキシマイズの田中です。
前回ご紹介したメルカリに続き、理美容業界にイノベーションを起こしたQBハウスのビジネスモデルを、ビジネスモデル・ナビゲーター手法によるビジネスモデルの定義「ビジネスモデルの4軸」とビジネスモデル・パターンカードを使用して解説していきたいと思います。
本記事の作成にあたりキュービーネット株式会社様にご協力をいただきました。ご協力御礼申し上げます。
QBハウスが理美容業界にイノベーションを起こした
画期的なビジネスモデルとは?
QBハウス(キュービーネット株式会社)は10分1000円(創業時)でヘアカットを行う、いわゆる「1000円カット」で有名な企業です。1996年の1号店出店以来、2021年6月末時点で国内に579店、海外に135店舗、年間2,000万人以上が利用する理美容業界の大手チェーンです。(2022年11月25日修正)
理容業界全体の2021年の市場規模は約2兆1,000億円(矢野総研調べ)に及ぶにもかかわらず、経営主体は理容業で96.5%、美容業で88.7%が個人経営(厚生労働省調べ:資料①、資料②)と大規模なチェーン店が少なく、個別の店舗がしのぎを削る非常に成熟した業界と言えます。
そのような市場環境の中でQBハウスはどのようにイノベーションを起こしてきたのでしょうか。
それではまず、QBハウスが既存の理美容市場をどのように変革してきたのか、ビジネスモデルの4軸を使用して、従来の総合サロンとQBハウスのビジネスモデルを分析していきたいと思います。
【ビジネスモデルの4軸とは】
ビジネスモデルの4軸は、ビジネスモデルをシンプルかつ抜けもれなく定義することで、ビジネスモデルの設計や検討を容易に行うために開発されました。
具体的には、顧客は誰でどんな困りごとを持っているかというWHOの軸、顧客へ提供する提供価値は何かというWHATの軸、どのような手段で価値を提供するのか差別化をするのかというHOWの軸、なぜ儲かるのかというWHYの軸の4軸でビジネスモデルを定義します。特にビジネスモデル4軸のうち2軸以上が変化したとき、ビジネスモデルの構造が変わったとみなし、ビジネスモデル・イノベーションと呼んでいます。ビジネスモデルの4軸は、新規事業の設計だけでなく、既存事業の分析、企画内容の精査などにも利用することができます。
【従来の総合サロンのビジネスモデル】
それでは、従来の総合サロンのビジネスモデルを4軸で分析します。
従来の総合サロンはゆったりとした空間でヘアカットだけでなく、シャンプーや簡単なマッサージといったサービスを熟練のスタイリスト(理美容師)が施術します。利用者は約1時間程度手厚いサービスを受ける対価として4000円~5000円程度の施術料を支払います。総合サロンはヘアカットに付随するサービスに加えさらに染髪やパーマなど幅広いサービスを提供する事で付加価値を高め、一顧客あたりの単価を高めて利益を上げています。
一方、新店舗の開業には大きな設備投資のコストや安定的なスタッフの雇用が伴うため大規模なチェーン店が生まれにくく個人経営の店舗がほとんどという状況が続いています。
また、業界の慣習として働くスタイリストの給与は歩合制であることが多く、多くのスタイリストにとって収入が不安定であること、また最も混雑する土日や祝日に休みを取ることが難しいということが悩みとなっていました。
【業界を変革したQBハウスのビジネスモデルとは?】
そこに現れたのがQBハウスだったのです。
従来の総合サロンとQBハウスのビジネスモデルモデルを4軸で比較するとWho、What、How、Whyの4軸全てが変化しビジネスモデルの構造が変化するビジネスモデルのイノベーションが起きているという事がわかります。それではどういったビジネスモデルパターンを使用してビジネスモデル・イノベーションが起きたのか順番に見ていきたいと思います。
【格安製品】
QBハウスではシャンプーやカラー、パーマ、スタイリングといった周辺サービスを全てそぎ落とし、髪を切るというサービスだけを1000円(※現在は1,200円)、所要時間10分という圧倒的な低価格短時間で提供することで大きく成長してきました。店舗はスタイリストが施術に集中し短時間でサービスを提供できるよう、施術スペースが効率的に設計されているだけでなく、会計も券売機からチケットを購入するなどオペレーションも極限まで効率化されています。一回の施術を10分という短時間で効率的に提供する事で、既存の総合サロンと比較して1時間当たりの売上を伸ばす事ができます。
また、従来の総合サロンではシャンプー台やパーマ用の機器などフルサービスを提供するための大規模な設備投資に加え、ゆったりとした店舗を構えるための家賃や、水、リネン、シャンプーといったランニングコストが必要でしたが、サービスを限定したり、ユニット家具を再利用する事で出店に伴う設備投資やランニングコストを削減し、低価格のサービス提供を実現しています。
【フランチャイズ】
QBハウスでは事業開始初期の約10年間フランチャイズ形式を採用し、規模を拡大しました(現在はフランチャイズの募集は行っていません)。フランチャイズは自社のノウハウを外部のパートナーへ提供することでロイヤリティ収入やパートナーへ製品を卸す事で収益を上げるビジネスモデルで、自社の大きな投資コストをかけず規模の拡大ができます。フランチャイズのビジネスモデルは、パートナーが容易且つ速やかに事業を開始できる業務プロセスやマニュアルが重要な差別化要素となります。QBハウスではスタイリストが効率的に施術を行うためのパッケージ化された施術スペースと施術ノウハウをパートナーへ提供していました。直営店を主体とする現在もこのパッケージ化された施術スペースは積極的な出退店の戦略に有効に活用されているようです。
【合気道】
既存の業界の常識に対して真逆の戦術をとり、相手の強みを弱みに変える合気道の観点では、これまで見てきたように、従来の手厚いサービス対して髪を切るサービスに特化するという点以外に、スタイリストの雇用条件や教育に関して重要な点があります。1つ目はスタイリストの給与を主流だった歩合制ではなく、固定給にしたことそして、土日祝日にも休みを取れる制度を整えたことです。給与が不安定、休日に休めないというスタイリストの課題に対して安定し、働きやすい環境を提供しています。
2つ目は教育制度を整えた事です。従来スタイリストになるには就職して約2年~3年、店舗でアシスタントとして研修期間があり、研修中は通常業務の終了後にカットの練習や研修などを行うサービス残業が一般的でした。ところがQBハウスでは研修用のプログラムや専用施設を構え、6ヶ月間の有給研修の期間に集中して技術を学びます。研修修了後すぐにスタイリストとして店頭で施術を行う事ができます。この点でも長期の研修やサービス残業を無くし働きやすい環境を提供しています。
これらの施策を行うことで1年目離職率約50パーセント、3年目離職率約70パーセント(出典:理美容ニュース)と言われる理美容業界で、QBハウスは離職率を6.8%(21年度)と業界水準を大幅に下回る水準を実現しスタイリストを安定的に集める事に成功しています。定着率を高めることにより、永続的に均一なサービス提供ができるようになり、さらに、習得した技術の流出を防ぎ、採用コストも削減できるため、公正評価は社員満足だけでなく企業の軸としても重要な要素となっていることがわかります。
格安、短時間を武器に急速に規模を拡大したQBハウスですが、急速な規模拡大の裏側にはオペレーションの効率化だけでなく、従来のスタイリストの不満を解決し、安定的にスタイリストを集めることができたという点が重要になっていると考えられます。
このようにして、新たな価値を提供することで規模を拡大してきたQBハウスですが同社のHPを見ると、独自のビジネスモデルを武器に積極的にその価値を進化させています。近年は1,650円のプレミアム価格や、カットだけでなくスタイリングまで提供するサロンといった新たな店舗の開発だけでなく、介護施設や病院などへの訪問サービスなど時代の変化に合わせサービスを展開しています。新たな価値の提供で成長してきたQBですが時代に合わせたサービスの提供で更なる成長を企図しているようです。
今回はQBハウスと既存の総合サロンをビジネスモデルの4軸とビジネスモデルパターンを使用して比較、分析をしました。4軸でビジネスモデルを分解する事でビジネスモデルの強みは何か、何が勝負を分けるのかといった点も明らかにすることができます。
今後もビジネスモデル・ナビゲーターの事例やセミナーの情報などご紹介させていただきます。
WRITER
- 田中 陽介(たなか ようすけ)
- 株式会社マキシマイズ コンサルタント
株式会社マキシマイズにて、国内大手企業向けに海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を支援。新規事業立ち上げ、事業開発に強みを持つ。広告代理店、中国向け電子コミック配信事業、プロ野球独立リーグ球団運営を経て現職。「イノベーションの攻略書」共訳。立教大学法学部卒業。