コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト(2)

イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏のブログをご紹介します。

コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト(2)

2020年7月3日  ダン・トマ氏
コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト(2)
(ダン・トマ氏が"The Corporate Startup bookウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

たとえ両者にとって協業のメリットは明らかであるとしても、乗り越えなければならない課題もいろいろとある。

スタートアップにとっての大きな課題は営業サイクルに関するものだ。大企業の長い営業サイクルは、短期的な売上計上を必要とするスタートアップとはかみ合わない。スタートアップのチームは小さいので、一件ごとの大企業案件への取組みは、もし案件を失注した場合にキャッシュが尽きてしまうリスクを伴う賭けと言える。スタートアップにとっては、セールスサイクルが短ければ短いほど生存確率が高まる。そのうえ、対等でなく上から目線で扱われているようにスタートアップが感じることも、しばしばある。真剣な事業と捉えてもらえず、大企業と協業しなければ行う必要の無かった妥協をせざるを得なくなってしまう。

大企業では協業における課題の中心は社内問題である。イノベーションには自前主義(NIH症候群)がつきもので、社外からイノベーションを持ち込む場合は特に顕著である。大企業では、スタートアップとの協業で開発された新技術を社内に導入することが難しい可能性がある。既存の自社ソリューションとの競合やカニバリゼーションのリスクもある。したがって、大企業は株主としてスタートアップへの期待を管理する必要があり、特に短期的な興味と長期的なメリットの調整が必要だ。

そのうえ、協業の目標や期待成果について、協業開始前に事業部門と合意形成できていない場合がある。その場合、プロジェクトを進めていく中で仕様の食い違いや遅延が発生しかねない。

最後に、大企業は文化という重要な課題を克服しなければならない。大企業の文化では、失敗プロジェクトに関与したことは参加メンバーにとって大きな痛手となるが、これは、失敗はすぐに回避され、かつ失敗が発生したとしても大っぴらに問題視されることが無いスタートアップとは異なる。したがって、スタートアップ協業の余波を利用して社内にイノベーション文化を構築したいと思っている優良企業の経営トップにとっての大きな課題は、自社組織が協業の取組みに真剣に取り組む仕組みを作って誘導し、プロジェクトが成功するために必要な支援を怠らないことだ。

インキュベーション、アクセラレーション、有償デモ、JV、無償提携など、協業の形式や規模は様々な可能性がある。しかしながら成功事例では常に、お互いに提携相手の興味、期待、動機、文化、企業倫理に気を配っていることが成功の根源となっている。役割、権利、責任を明確に決めておくこと以外に、協業においては提携の両者にリスクがついてまわることを考慮する必要がある。

我々の経験上、スタートアップにとって最大のリスクは1社の顧客に飲み込まれてしまうことだ。1社の大企業向けのカスタム構築ソリューションに注力した結果、本来の普遍的で、拡張性のあるソリューション構築に集中できなくなり、長期的な成長見通しが制限される。事業拡張とは真逆だが、スタートアップとの強力な協業を追い求めず、小規模な会社を無料コンサルティングの提供元と考えている大企業もある。このような大企業のやり方で、スタートアップのリソースが大きく浪費されてしてしまうことが多い。

スタートアップ側のもう一つのリスクは協業に続いて発生する。具体的にはPoCの成功や最初の案件の契約締結後に時期尚早な事業拡大をしてしまうことだ。イノベーション部門や最初の顧客企業への営業に成功したからといって事業拡張をすべきではない、というのが私からの起業家へのアドバイスだ。

大企業の組織は複雑で、スタートアップとの協業に興味を持つ複数の関係者がいるかもしれず、大企業内の複数の部署が提携に関してバラバラの要望を出してくることもあり得る。そのせいでしばしば遅延が発生し、スタートアップの財務余力が食いつぶされてしまうことがある。

最後に、協業があまりに密接になり、大企業側の意思決定への依存が強くなりすぎた場合、スタートアップがアジャイルな思考を失う危険がある。

規模だけで大企業が協業のリスクを回避できるわけではない。種類は違っても、大企業もリスクにさらされる。協業で何らかのトラブルが発生した場合、ブランドへの被害という意味では、スタートアップに比べて大企業の方がはるかに多くを失う。

協業にどれだけの金額を投資したかにもよるが、投資による損失も大企業が考慮しなければならないリスクだ。スタートアップの多く(約80%)は失敗するため、通常の漸進的なプロジェクトと比べて大企業の投資リスクは高い。

大企業の従業員は減点主義で評価されることに慣れており、失敗は自分のキャリアを危険にさらすと考えがちだ。スタートアップとの提携において、大企業の従業員はスタートアップの異なる文化に脅威を感じ、提携の目標に向けて全力投球せず、現状を変えない様に過剰に保守的になる可能性がある。

特に、大企業側で受け入れ準備が整っていないハイテク・ソリューションを開発する技術スタートアップと提携する場合、いわゆる成熟度のミスマッチが起きる可能性がある。したがって、提携のキックオフをする前段階として、あらかじめNASAが使っている様なテクノロジー・レディネス指標で合意形成することをおすすめしたい。

※本記事のオリジナルはダン・トマ氏が定期的に寄稿している「The Future Shapers」に掲載されたものです。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、『コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト("Corporate-startup collaboration checklist")』の第3回として、大企業とスタートアップとの協業を成功させるための協業チェックリストについてご紹介します。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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