企業のイノベーション力は測定可能か?

イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。

今回は「イノベーション測定にまつわる8つの迷信(”8 Myths of Measuring Innovation”)」という、イノベーションの測定の是非、あるいはイノベーションの測定方法について、よく誤解されている点についてのお話です。イノベーション会計導入の出発点は、以下のような迷信があり、イノベーション力測定の妨げになっていると知ることだと思います。
では本文をお楽しみください。

「企業のイノベーション力は測定可能か?」
~イノベーション測定にまつわる8つの迷信~

2019年9月7日  ダン・トマ氏
イノベーション測定にまつわる8つの迷信
(ダン・トマ氏が”The Innovation Accounting bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

イノベーションの定量評価は、長年にわたりイノベーション管理の要諦と考えられてきました。ところが、現在のほとんどの組織が、イノベーションの定量評価を実施していないか、あるいは実施しているとしても散発的にしか実施しておらず、その重要性を深く考えていないのです。
それに加えて、いざ企業がイノベーションの定量評価を始めようとしても、非常に多くの場合に過ちを犯すのです。これらの過ちの原因となっているイノベーションの定量評価に関する迷信の矛盾を暴いてみたいと思います。
1.研究開発費はイノベーションの良い指標であるこのトピックについては、別のブログ記事でもふれましたが、以下の記事など、本件に関する様々な記事や文書が世にあふれています。

Strategy + Businessしかしながら、いまだに研究開発費をイノベーションと同一視したり、研究開発費の額がその企業の革新性と相関すると考える企業が巷には多くみられます。
2.イノベーションは定量評価できない。なぜならイノベーションは創造力であり、創造力は定量評価できないからだスコット・アンソニーは、著書『The Little Black Book of Innovation(Harvard Business Review Press,
2011)』の中で、「イノベーションとは、事業機会を見つけ、それをものにする事業アイデアを描き、その事業アイデアを実現して成果を達成するまでの一連のプロセスである。現実に価値を生んで初めてイノベーションだと肝に銘じよ。」と述べています。
3.決算数字を見なければ、新事業アイデアの成否は測れないこれはまったくの見当違いです。事業アイデアの成長過程にはさまざまな手がかりが存在し、手がかりを見れば正しい道を進んでいるかどうかを見分けられます。
4.(全社のすべてのアイデアでなく、一部のアイデア数を測定しても)社内で事業アイデア数を測定すれば、イノベーションを定量評価したことになる確かに川上に事業アイデアがなければ、川下でのリターンはまったく期待できません。だからこそ、川上以外を含めて定量評価することで、自社のイノベーション・エコシステムのどこかに問題が無いかどうかを確認するのです。
5.どんな組織でも同じやり方でイノベーションを定量評価できるNGOは銀行とは異なり、政府機関は製薬会社とは異なります。それぞれの組織のイノベーションに対するニーズは異なり、その定義も異なるのです。この件については、これ以上話す必要はないでしょう。
6.どんな種類のイノベーションでも、同じ方法でうまく測定できるイノベーションの種類が異なるとイノベーション会計という観点でも特徴が異なります。このトピックについては、グレッグ・サテルが素晴らしい本を書いています。そのサマリーがこちらにあり、彼が特定したイノベーションの4つの種類について知ることができます。
7.イノベーションを定量評価する唯一の理由は、イノベーション投資に対する経営陣や関係者の不安解消である上層部に対して自分たちのチームやラボの存在理由を正当化するために、イノベーションの定量評価を実施したい、という時点ですでに間違いを犯しています。
イノベーション定量評価を社員の行動変化の起点とし、継続的な改善の基盤とすることが本来の目的だからです。
8.イノベーション定量評価にインセンティブを紐づけることで、より多くの、より良い成果が得られるこのトピックついては事例をご紹介したいと思います。成績を処理完了した案件数で測定したために、政府機関の経験豊富なスタッフたちが自分たちでは簡単な案件を大量に処理し、難しい案件を経験の浅いスタッフに任せる、という結果になったのです。

イノベーション定量評価にまつわる迷信はこれですべてではありません。他にもたくさんの迷信があります。
ここでご紹介した迷信は、自社のイノベーションを定量評価したいという企業のマネージャーたちと接してきた私たちの経験に基づくものです。逆にこれらの迷信を言い訳にして、イノベーション定量評価をまったく実施しようとしないマネージャーを目にしたこともあります。
自社の状況に関わらず、イノベーションを定量評価できなければ、イノベーションの取り組みを支援するためのデータや証拠は得られません。


いいかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「従業員は資産か債務か?(”Are Employees Assets or Liabilities?”)」という、イノベーションの重要な要素である社員のもつスキルやノウハウを含む人的資源を、従来の会計では資産でなく人件費として扱っているが、それは妥当なのか?というお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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