3Dプリンティング技術がビジネスモデルに及ぼす影響とは?("What is the influence of 3D printing on Business Models?")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMILab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「3Dプリンティング技術がビジネスモデルに及ぼす影響とは?("What is the influence of 3D printing on Business Models?")」という、3Dプリンティング技術を核にして収益を生み出すビジネスを創造するために、革新的なビジネスモデルが重要な役割を果たすことについてのお話しです。では本文をお楽しみください。

3Dプリンティング技術がビジネスモデルに及ぼす影響とは?
("What is the influence of 3D printing on Business Models?")

2017年9月27日
3Dプリンティング技術がビジネスモデルに及ぼす影響とは?(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

3Dプリンティングは優れたテクノロジーだが、最高の成果を得るにためは、適切にビジネスモデルを革新することが必須である。

3Dプリンティングの歴史と産業における採用
3Dプリンティング、または積層造形は、コンピューター制御のもと素材を層状に繰り返し追加することで3次元の物体を製造するプロセスである。物体は、3Dモデル、CAD モデル、または別の電子データ・ソースファイルのデジタルモデル・データを使用して作成される。コンピューターはインクジェット・プリンターを制御し、バインダー材料を粉末層として一層ごとに堆積させる。以下の動画では、3Dプリンターで小さなエッフェル塔を作成する様子を見ることができる。

3Dプリンティング技術は新しいものではない。日本の児玉英夫が最初に積層造形技術を考案したのは80年代である。興味深いのは、フランスで取得された3Dプリンティングに関する初期の特許の1つが「事業面の見込みの欠如」を理由に放棄されたことである。しかし、もはやそのような問題はない。80年代以降、この技術は大幅に成熟し、現在ではプラスチック、金属、食品、さらには人間の組織さえも印刷できるようになった。一部の大企業はすでに製造プロセス内で3Dプリンティングを使用し、素晴らしい成果をあげている。

  1. ゼネラル・エレクトリックは、新型のリープ・ジェット・エンジン用の燃料ノズルを製造するために3D製造能力を強化している。このノズルは複数部品でなくひとかたまりの金属で作られており、従来製法で作られたノズルに比べて軽く丈夫である。同社は、現在の3Dプリンターを改良してプロセスをより高速かつ信頼性の高いものにするために、積極的に研究と人材採用を行っている。
  2. ボーイング社も、航空機の製造に積層造形を使用している大手企業である。787型ドリームライナー航空機に使用する部品のうち最大30個が3Dプリンターで製造されており、研究目的で客室全体を印刷したこともある。さらにボーイングは、複数の大学と協力して、英国における3Dプリンティングの研究プロジェクトを積極的に支援している。これらのプロジェクトは、積層造形による部品製造プロセス中にに電気的、光学的、構造的な素子を導入可能なハイブリッド型3Dプリンティング・プロセスなど、いくつかの注目すべき成果につながっている。
  3. ナイキもまた、スポーツシューズの製造プロセスに3Dプリンティング技術を適用している。ナイキ・ヴェイパー・レーザー・タロンには、サッカー選手のフィールドでのパフォーマンスを向上させるプリント・プレートが付いている。ナイキはこれを実現するためにSLSテクノロジー(粉末焼結積層造形)を使用しており、ナイキ・フットウェア・イノベーション担当ディレクターのシェーン・コハツ氏は次のように述べている。「SLSテクノロジーは、サッカーを超えてクリートプレートの設計方法に革命をもたらし、ナイキに従来の製造プロセスの制約内では不可能な、これまでにないソリューションを生み出す能力を与えてくれました。」同社は他の製品でも3Dプリンティングの使用を拡大する予定である。
  4. フォードも、2015年型フォード・マスタングのエンジン・カバーの製造に3Dプリントを適用している。この特定の部品を作成するうえで、同社が使用する3Dプリンティング技術は、膨大な量の無駄、時間、費用の節約に役立っている。このプロジェクトの結果が良好だったことを受けて、コスト効率の高いカスタマイズを目的として、より大型の部品をテストする予定だ。これと同じアプローチを、マクラーレンなどの他の自動車メーカーも適用している。以下の動画では、自動車部品の3Dプリンティング製造の様子がわかる。

上記の各社は、何らかの形で3Dプリンティングの恩恵を享受している。このテクノロジーにより、時間とコストが節約され、従来の工業プロセスに比べてカスタマイズとプロトタイピングがはるかに容易になる。

ただし、積層造形が組立ラインを完全に置き換える準備はまだ整っていない。積層造形は複雑な部品の製造には便利だが、これを使用しているすべての企業は依然として従来の方法に依存して製品の大部分を製造している。それにもかかわらず、この技術は急速に進歩しており、企業はその開発に多額の投資を行っており、近い将来、すべての店で完全に3Dプリントされた製品が見られるようになるかもしれない。次の2つの動画は、一部の企業がすでに家具や住宅全体まで印刷で製造できることを示している。

3Dプリンティングに適用されたビジネスモデルのいくつかの事例
したがって、この素晴らしいテクノロジーには明るい未来が待っている。しかし、この技術はビジネスモデルにどのような影響を与えるのか?3Dプリンティングで従来の製造業のビジネスモデルをどのように変えることができるのか?いくつかのスタートアップがすでにこの課題に取り組んでおり、80年代初頭にフランスのアルカテル社とレーザー・コンソーシアムが述べたような3Dプリンティングの「事業面の見込みの欠如」がもはや当てはまらないことを証明しようとしている。以下、いくつかの例を見てみよう。

  • Organovo社は、生体組織の3Dプリンティングという有望分野に取り組むスタートアップである。同社では、人間の組織を模倣し合成プロテーゼよりも優れた性能を備えた、医療および外科目的に使用するバイオプリント材料を作成している。さらに同社は、移植用の肝臓組織の印刷についても研究している。以下の動画では、この分野の研究者であり起業家であるサム・ワズワース博士が、医療用途におけるこのテクノロジーの大きな可能性について説明している。
  • Shapeways社は、3Dプリント作品を作成、購入、販売するためのオンライン・マーケットプレイスである。誰でも自分の製品の印刷可能な仮想モデルを構築でき、Shapeways社がオンデマンドで製品を印刷する。製造にあまりお金をかけずに製品を販売したいデザイナーにとっては素晴らしいプラットフォームである。利用可能な製品の多様性は傑出しており、オンデマンド3Dプリンティングの可能性についてはまさに目を見張るものがある。
  • 同じ3Dバイオプリンティング技術は、食品印刷への応用にも成功している。FoodiniFoodInkなどのスタートアップは、家庭用とレストラン用の食品プリンターを販売している。両社ともに、人々やレストランが食料、時間、お金を節約できるよう、新鮮で自然な食品を生産することを公言している。
  • さらに、他にもカスタマイズ可能な小売製品を作成および販売する企業が多数ある。Banneya社はロンドンを拠点とする会社で、カスタマイズ可能なジュエリーを女性と男性の両方に販売している。顧客は好みに応じて製品をデザインでき、同社はそれをオンデマンドで印刷して納品する。アイルランドの企業Love & Robotsも、風の中で服が動く様子をデータ・モデルとして使用した、印刷可能な宝石を販売している。クライアントはWebサイト上で特定の場所と日付の気象条件を選択でき、シミュレーターはこれらの気象条件によって操作されるリボンの印刷可能なデータモデルを自動生成する。
  • 最後にもう1社ご紹介すると、Sols社では男性用と女性用の印刷可能な靴を販売している。同社はモバイル・アプリを通じて足のサイズや形状を取得し、パラメータ化された3Dモデルに入力して、靴を印刷可能なファイルを生成する。このオンデマンドの100%カスタマイズされたサービスには、「大量生産は過去の話だ」という大胆なスローガンが掲げられている。間違いなく、現時点で3Dプリンティングがすでに達成できることを明確に宣言している。

おそらく3Dプリンティングで作るのが最も難しいのは「収益実現」という部品である。この障害を克服するためには、新しい収益モデルを生み出す必要がある。

  1. まず、3Dプリンティング技術は製品とサービスの革新につながり、マスカスタマイゼーションを可能にする。顧客と企業との共創の結果、大量生産の製品よりも価値の高い製品を生み出すことができる。したがって、ビジネスモデルにおける顧客の重要性がこれまで以上に高まり、より多くの価値創造とより高い収益の獲得が可能になる。
  2. 2番目の要素も共創に関連しており、クラウドソーシングである。クラウドソーシングはすでに大きなビジネスモデルの革新をもたらし、まったく新しいビジネスモデルを生み出している。クラウドソーシングは、企業と顧客の間にポジティブなフィードバック・ループを生み出すのにも役立つ。
  3. 3Dプリンティングを使用すると、市場規模がどれほど小さいかに関係なく、新たな市場セグメントをターゲットにできる。オンデマンド生産では、大量生産のような高い固定コストを考慮することなく、少数の製品を生産できる。ある意味、「ロングテール」による収益化が可能になるのだ。
  4. 3Dプリンティング技術により、部品を現地で生産する分散型製造が可能になる。適切な3Dプリンターと3Dファイルさえあれば、誰でも必要な部品をなんでも製造し、最終製品の製造に参加できるのだ。この事実は物流とサプライチェーン管理を劇的に変化させる。なぜなら工場から顧客に商品を出荷する必要性が減少するからだ。これにより、輸送コストと保管コストを大幅に削減できる。

では、3Dプリンティングによる新たなビジネスモデルを実現するためにはどんな障害があるのだろうか?障害は多数あるが、価格が顧客の予想よりも高くなる場合があるため、おそらく3Dプリンティングで作るのが最も難しいのは「収益実現」という部品であろう。この障害を克服するためには、新たな収益モデルを生み出す必要がある。一方で、3Dプリンティング技術を利用すれば、はるかに低コストでさまざまな新しいビジネスモデルを実験できる。プロトタイピングやテストをはるかに安価に実施でき、企業は単なるモックでない機能するプロトタイプですら、低コストで簡単に構築してテストできるのだ。

3Dプリンティングの可能性を一言で要約すると、物体のデジタル化とその製造が可能になることだ。何かの3Dモデルを作成さえできれば、そしてインターネット接続、コンピューター、プリンターさえあれば、いつでも簡単にそれを複製できる。近い将来、分散型製造の世界が訪れるのか?それを予測できる人は誰もいないが、このテクノロジーが今後も存続し続けるのは明白であり、関係するすべての企業は手遅れになる前に自社のビジネスモデルの適応と変更を検討するべきだ。

【参考文献】
3Dプリンティングとビジネスモデル・イノベーションに関する論文:
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0040162515002425


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、『ビジネスモデル・イノベーションは一方通行の道でなく、むしろ複数の道筋に分かれた岐路である("Business Model Innovation is not a one-way road, but a crossroad")』というビジネスモデル・イノベーションを実現する方法は1つでなく、いくつかの選択肢があるということに関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

関連記事一覧

資料ダウンロード 資料ダウンロード