スイスのオミヤ社が構築した産業用鉱物業界におけるAI戦略("How Omya Built a Focused AI Strategy in Industrial Minerals")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元Seconds"社(旧BMI Lab社)のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「スイスのオミヤ社が構築した産業用鉱物業界におけるAI戦略("How Omya Built a Focused AI Strategy in Industrial Minerals")」という全社的なAI活用の優先順位付けと展開ロードマップの策定についてのお話です。では本文をお楽しみください。
スイスのオミヤ社が構築した産業用鉱物業界におけるAI戦略("How Omya Built a Focused AI Strategy in Industrial Minerals")
2025年8月27日
スイスのオミヤ社が構築した産業用鉱物業界におけるAI戦略
(Seconds"社ウェブサイト"のブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
オミヤ社(Omya)は、全社で人工知能(AI)を活用するための明確な戦略の策定を目指していた。そこで私たちは、4段階からなるプロジェクトを通じて、AI活用に向けた準備状況の評価、目標設定、パイロット案件の選定、そして全社展開に向けたロードマップの策定を行った。具体的な成果物として、AI活用テーマの優先順位リストと、組織全体の取り組みを整合的に推進するためのガバナンスモデルを構築した。

オミヤ社は、工業用鉱物および機能性原料を世界各国に供給する企業である。同社の研究開発チームでは、業務効率の向上と新たな収益源の創出につながる技術の探索を進めている。
課題
各部門でAIの実証プロジェクトが個別に立ち上がり、全社の共有資源である同一のデータや人材を奪い合う状況が生じていた。そのため経営陣には、AIが最も大きな価値を創出できる領域を見極めるとともに、全社共通の目標を設定し、取り組みの重複や分散を防ぐことが求められていた。
当社チームのアプローチ
フェーズⅠ:企業分析 ― AI活用の可能性を把握する
最初のステップでは、企業のAI戦略を左右する外部要因と内部要因の双方について詳細な分析を行う。このフェーズの目的は、AIがどの領域で価値を創出できるのかを明らかにするとともに、その実現に向けて強化すべき社内の能力や体制を特定することである。
・外部分析: 市場動向、顧客ニーズ、新たなAI技術の登場、さらには業界全体の変化を分析する。これにより、AI活用の機会や将来的に生じ得る市場環境の変化を把握することができる。
・内部分析: 自社の中核的な強みや現在の能力、ならびにAI活用に向けた準備状況を評価する。評価対象には、データ基盤、技術的な専門知識、人材、業務プロセスなどが含まれる。
・戦略との整合性: AI施策が事業目標や長期的な成長戦略、さらには市場における競争優位性の確立に向けた方針と整合していることを確認する。
このフェーズの終了時には、自社におけるAI活用の可能性、AI導入に影響を及ぼす市場環境、そして今後強化・改善すべき社内の強みや課題について、明確な全体像を把握することができる。
💡洞察: オミヤ社では、外部環境の変化と自社の強みを踏まえてAIプロジェクトの棚卸しを行うことで、重複する取り組みを特定するとともに、事業価値と実現可能性の観点から重点的に取り組むべき領域を明確化することができた。
フェーズⅡ:AI活用の目標設定と機会領域の特定
自社におけるAI活用の可能性を十分に理解したうえで、次のステップでは、AI活用に関する明確な目標を設定するとともに、AIによって大きな成果が期待できる機会領域を特定する。
・AI活用の目標設定: AI活用の戦略的な方向性を定める。具体的には、業務プロセスの自動化、コスト削減、顧客体験の向上、製品イノベーション、あるいはビジネスモデル・イノベーションの実現など、AI活用によって目指す成果を明確化する。
・KPIの設定: AI活用の成果を測定するための主要業績評価指標(KPI)を設定する。具体的には、業務効率の向上、売上高の増加、顧客満足度の向上など、AI活用の成功を評価するための指標を定める。
・機会領域の選定: AI活用によって最も大きな価値を創出できる業務領域を特定し、優先順位を設定する。具体的には、予知保全、AIを活用した意思決定支援、顧客ごとに最適化された対応などが対象となる。
このフェーズの終了時には、AI活用の優先順位、成功指標、および具体的な導入対象領域を明確化したロードマップが策定される。
💡ヒント: オミヤ社では、AIプロジェクト間で限られた経営資源を奪い合う状況が生じやすいことに気づき、明確なKPIと優先順位付けの基準を設定することで、最も高い価値が期待できる活用テーマに注力した。
フェーズⅢ:ユースケースの特定とパイロットプロジェクトの選定
目標が定まった後、このフェーズではAI活用の具体的なユースケースの選定、実行戦略の策定、そしてパイロットプロジェクトの立ち上げに取り組む。
・ユースケースの選定: カスタマーサポートの自動化、AIを活用した売上予測、スマート・サプライチェーン管理など、戦略的目標と整合する具体的なAI活用領域を特定する。
・戦略的選択肢の評価: AIをどのように導入・実装するかを検討する。具体的には、自社開発、パートナー企業との協業、あるいは外部ソリューションの活用といった選択肢の中から、最適なアプローチを決定する。
・パイロットプロジェクトの選定: 実現可能性と事業インパクトを検証するため、小規模なAI導入プロジェクトを選定する。管理された環境下で、反復的かつ迅速に検証できるものを対象とする。
このフェーズの終了時には、AI活用の具体的なユースケースが定義され、最適な導入戦略が選定されるとともに、AI活用の可能性を検証するためのパイロットプロジェクトが開始される。
💡ヒント: オミヤ社では、小規模なパイロットプロジェクトを活用してAI活用の実現可能性を迅速に検証し、高い事業インパクトと拡張性が期待できるプロジェクトのみを次の段階に進めることとした。
フェーズⅣ:AIソリューションのテスト、評価、および全社展開
最終フェーズでは、AIソリューションのテストと改善を行うとともに、全社展開に向けた準備を進める。
・テストと成果の測定: 事前に設定したKPIを用いてパイロットプロジェクトを評価し、コスト削減、業務パフォーマンスの向上、顧客エンゲージメントの向上といった観点から、その有効性を検証する。
・反復と改善: パイロットプロジェクトの結果から得られた知見を活用し、AIモデルの改善、データ活用の最適化、および課題や制約事項への対応を進める。
・AIソリューションの全社展開: パイロットプロジェクトが成功した場合には、AI活用を組織全体へと展開し、既存のシステムや業務プロセスへの統合を進める。
このフェーズの終了時には、AIソリューションの有効性が検証され、最適なパフォーマンスを発揮できるよう改善が行われるとともに、AIを活用したイノベーションを事業全体へ展開するための戦略が策定される。
成果
ビジネスへの影響
初期のパイロットプロジェクトを通じて、どのAI活用テーマが全社展開に適しているか、またどのテーマにさらなる改善が必要かが明らかになった。現在では、それぞれの優先テーマに対して明確なKPIが設定されている。
組織能力と企業文化への影響
共通のガバナンスモデルを導入したことで、部門間における経営資源の競合を回避できるようになった。現在では、新たなAI活用の取り組みを開始する際に、各チームが共通のフレームワークを活用している。
主な学びと今後のステップ
既存の取り組みを早い段階で可視化することで、重複投資や無駄な労力を防ぐことができる。また、小規模なパイロットプロジェクトはリスクを抑えながら、短期間で有効性を検証するうえで有効である。オミヤ社では、今後、成果の高かったパイロットプロジェクトを全社展開するとともに、AI技術の進化に合わせてロードマップを継続的に見直していく予定である。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。



