アンドリッツはいかに4つの事業部門を1つのデジタルロードマップのもとに統合したか("How Andritz Aligned Four Divisions on One Digital Roadmap")

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みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元Seconds"社(旧BMI Lab社)のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「アンドリッツはいかに4つの事業部門を1つのデジタルロードマップのもとに統合したか("How Andritz Aligned Four Divisions on One Digital Roadmap")」という、オーストリアのプラントメーカーであるアンドリッツ社が、全社共通のデジタル戦略を策定し、4つの事業部門の取り組みを一つの方向性に整合させたプロセスについてのお話です。では本文をお楽しみください。

アンドリッツはいかに4つの事業部門を1つのデジタルロードマップのもとに統合したか("How Andritz Aligned Four Divisions on One Digital Roadmap")

2025年9月3日
アンドリッツはいかに4つの事業部門を1つのデジタルロードマップのもとに統合したか
Seconds"社ウェブサイト"のブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

アンドリッツ社では数多くのデジタルプロジェクトが進められていたが、それらを束ねる統一的なビジョンが欠けていた。そこで我々は、6カ月をかけて現状を可視化し、4つの事業部門の方向性をそろえるとともに、グループ全体のデジタルロードマップの策定を支援した。現在は、ステアリングコミッティーがロードマップの実行を主導し、すべての取り組みが明確な優先順位に基づいて推進されている。

課題

アンドリッツ社は、オーストリアのグラーツに本社を置く機械・プラントエンジニアリング企業であり、1852年の創業以来、業界を牽引する技術力を培ってきた。紙・パルプ、金属、水力発電、エネルギー・環境の4つを主要事業領域とし、世界各地で2万9,700人を超える従業員を擁するほか、ウィーン証券取引所に上場している。長い歴史とグローバルな事業基盤を持つ一方で、アンドリッツ社はデジタルトランスフォーメーションを一層加速させる必要性を認識していた。技術の急速な進歩と競争の激化を背景に、日々の事業目標の達成を支えながら、同社のサステナビリティ目標の実現にも貢献する、より明確かつ実践的なデジタル戦略が求められていたのである。

大きな課題の一つは、各事業部門で個別に進められていた数多くのデジタル施策を、単一のビジョンのもとに統合することであった。過去5年間にわたり、アンドリッツ社はAIを活用したデータ分析からモジュール型自動化ソリューションまで、多岐にわたるプロジェクトを立ち上げてきた。しかし、デジタル化を次の段階へ進めるための全社共通のロードマップは存在していなかった。図1に示すように、企業はさまざまな形でデジタル戦略を策定することができる。アンドリッツ社は、デジタル戦略を企業戦略と強固に結び付けるアプローチを採用することを目指した。これにより、各事業部門におけるイノベーションへの取り組みが、それぞれの事業に即した実効性の高いものとなるようにしたのである。

当社チームのアプローチ


図1

変革に向けた基盤の構築:アプローチ

強固なデジタルビジョンを構築するための基盤を築くべく、アンドリッツ社は当社(Seconds:旧BMI Lab)と連携し、当社の戦略フレームワークと実績あるイノベーション手法に基づく体系的なアプローチを採用した。アンドリッツ社と当社との協業は、2023年初頭の「分析」フェーズから開始された。この分析を通じて、アンドリッツ社は自社の現状をより明確に把握し、それを踏まえて戦略目標と基本方針を策定した。

次のフェーズでは、プロジェクトチームが4つの事業領域すべての主要な関係者に対してインタビューを実施した。これらの対話は、業務プロセスの効率化をはじめ、各事業部門が抱える固有のニーズを明らかにするうえで重要な役割を果たした。

戦略の策定:ビジョン、ミッション、基本方針の整合

続いて、これらの知見を具体的な指針へと落とし込むための戦略を策定した。市場動向に関する洞察やベストプラクティスを踏まえ、参加者はAI、IoT、デジタルツインなどのデジタル技術について議論し、それらの技術が最も大きな価値を生み出せる領域を特定した。また、このワークショップは、参加者が共通のデジタルビジョンを共有する場ともなり、そのビジョンは基本方針とともに具体化された。

図2に示すように、「デジタル戦略のハウス(House of Digital Strategy)」では、共通のビジョンとミッションを基盤として、各事業部門の重点活動領域、ビジネスモデル、ロードマップが策定される。アンドリッツ社が目指した姿は、各事業部門にそれぞれ固有の目標が設定される一方で、各事業部門のロードマップがグループ全体として相互に補完し合い、整合性を保つことである(図2)。

ワークショップ終了後、プロジェクトは統合フェーズへと移行した。統合フェーズの成果物として、アンドリッツ社全体の明確な戦略目標と、それらに整合した各事業部門の施策が策定された。各事業部門のロードマップには短期および中期の目標が盛り込まれ、柔軟性を損なうことなく、実行の指針として十分な具体性を備えた内容となった。


図2

デジタル施策の具現化:戦略から実行へ

最終フェーズでは、往々にして最大の課題となる、新たな戦略を机上の計画に終わらせることなく、着実に実行へ移すための仕組みづくりに焦点を当てた。具体的には、ガバナンス体制と継続的なレビュー・プロセスを構築した。これらは、全体構想としてのビジョンを具体的な成果へと結び付けるうえで不可欠な取り組みである。現在は、グループ本社と各事業部門のリーダー層で構成される全社ステアリングコミッティーが、ロードマップの実行状況を監督している。さらに、年次戦略レビューを導入し、新たな技術の登場や市場環境の変化を迅速に戦略へ反映できる体制を整えた。

成果

この取り組みにより、アンドリッツ社および各事業部門を対象とした、一貫性と将来性を備えたデジタル戦略が策定された。

さらに、アンドリッツ社は、新たに策定されたデジタルロードマップに基づき、戦略的な優先順位付けを行えるようになった。各事業部門はリソースを奪い合うのではなく、明確な基準に基づいてプロジェクトを調整・推進できるようになった(図3)。


図3

主な学び

組織への定着と主要な関係者の巻き込み

アンドリッツ社の戦略策定プロセスは、戦略を組織に着実に定着させることの重要性を示している。当初から経営陣の強力な支援を得るとともに、幅広いステークホルダーを巻き込むことで、各事業部門の意見を確実に戦略へ反映させることができた。また、部門横断的にマネージャーや専門家への詳細なヒアリングを実施したことで、グループ全体の方針と現場の実情の双方に即した、実効性の高い戦略を策定することが可能となった。

戦略の定期的な見直しと更新も、成功の重要な要因である。デジタル技術は急速に進化するため、一度策定した計画も短期間で陳腐化する可能性がある。アンドリッツ社はすでに定期的な進捗確認の仕組みを導入しており、あらかじめ設定したKPI(重要業績評価指標)に基づいて進捗を評価し、必要に応じて戦略を見直している。こうした取り組みにより、戦略を常に最新の状態に保つとともに、新たな市場機会や脅威にも迅速に対応できるようになった。

パーパスに則ったイノベーションの推進

当社チームとの取り組みを通じて、アンドリッツ社は戦略策定において、体系的でありながら柔軟性を備えたアプローチを採用することができた。多様な取り組みを単一のビジョンのもとに統合するとともに、関係するすべてのステークホルダーを体系的に巻き込むことで、実現可能性と実効性を兼ね備えたロードマップを策定した。また、この戦略フレームワーク(図2)は、新たな成長機会の特定、仮説の検証、さらには組織全体におけるイノベーション文化の醸成を体系的に進めるための共通の枠組みとなった。

そして何よりも重要なのは、この新たなデジタル戦略が、アンドリッツ社のサステナビリティ目標と整合している点である。資源効率の向上、予知保全、高度なデータ分析を推進することで、同社は環境面での具体的な成果を創出するとともに、運用コストの削減や顧客との関係強化も実現している。

全社統一されたビジョンに基づく持続的な価値創出

アンドリッツ社が、より重点を絞ったデジタル戦略の実現に向けて歩んできた取り組みは、明確なビジョンと幅広いステークホルダーの参画を組み合わせることで、重厚長大型産業に属する長い歴史を持つ企業であっても、変革と進化を実現できることを示している。図3に示すように、同社では現在、共通の戦略フレームワーク、事業部門ごとのアクションプラン、そして進捗管理のための明確なプロセスを活用している。

体系的かつ反復的なアプローチを採用することで、アンドリッツ社はオペレーショナル・エクセレンスの推進と持続可能な成長を支えるデジタル技術を積極的に活用しつつ、継続的なイノベーションを推進するための道を切り開いている。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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