コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト(1)

イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏のブログをご紹介します。
今回は「コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト("Corporate-startup collaboration checklist")」です。大企業がスタートアップと協業する際のメリット、課題、協業をうまく進めるためのチェックリストについて、これから3回にわたってお伝えします。まず今回は、大企業とスタートアップの協業における双方のメリットについてのお話です。今回のブログに関連して、弊社では海外スタートアップと国内大企業の協業支援をテクノロジー・ソーシングサービスとして創業当初より20年提供しております。その場合には海外の有力スタートアップとの提携を起点にして、自社の既存事業とは異なる新たな事業分野に進出できるというメリットもあります。では本文をお楽しみください。

コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト(1)

2020年7月3日  ダン・トマ氏
コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト(1)
(ダン・トマ氏が"The Corporate Startup bookウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)


イノベーション実現手段の多様化に対するニーズの高まりにつれ、次第に多くの企業がスタートアップとの協業の取組みを進めつつある。間違いなく、これは大企業側だけの都合による話ではなく、大企業とスタートアップのCEOの双方がそれぞれの会社の成長、自社のポジショニングの強化、売り上げ拡大に向けた戦略目標を共有している。

いくつかの企業は潜在的な業種破壊者(ディスラプター)とまで提携している。このような取組みは直感に反するかもしれないが、老舗企業が率先して業界を破壊することの難しさや、スタートアップが何としても破壊したいと思っている業界を理解することの難しさを考えると、両者がこのような取組からメリットを得ることも可能なのだ。

しかし、企業規模、文化、強みが異なる両者の共同作業には、潜在的に様々な落とし穴がある。ふと気が付くと、スタートアップCEOの会話の相手が、相手企業のCEOでなく、組織末端の社員となってしまい、協業に関する期待値も意識の共有が難しくなる。アジャイルとウォーターフォールという文化の衝突から問題が起きるのも典型的だ。さらに提携を進めるうちに、企業倫理やリスクへの積極性の違いから、協業のコントロールが効かなくなってしまう。

協業から得られるメリットは両者で異なるものの、上記の違いを乗り越えて提携を進めるのに十分なメリットがある。

スタートアップにとっては、特にスタートアップがまだ初期段階の場合には、売り上げが一番の動機であることが多い。大企業はパートナー提携に大きな金額を投じることが可能だ。この資金注入で、スタートアップは外部からの出資を求める必要がなくなる。大企業が長期プロジェクトに興味を持つこともあり得る。その場合にはスタートアップの安定性が増し、早期に損益分岐点に到達する役に立ち、さらには非常に早い段階で利益を出すこともあり得る。このようなやり方をすれば、意地の悪いベンチャーキャピタルと関わることなく、スタートアップは安定成長を実現できる。

スタートアップが大企業との提携を進めるもう一つのメリットは、リスクなしで海外展開を進められることだ。多国籍展開している大企業と協業すれば、提携の対象が潜在的に大企業の各国の現地法人にまで広がる可能性がある。さらに、大企業のブランド知名度、マーケティング力、販売チャネルなどを事業拡大のためにスタートアップが利用できることを考えると、大企業は理想の提携先とも言える。それに加えて、スタートアップの製品を洗練し、最適化することに、大企業の豊富な既存ユーザー層を活かせるかもしれない。

スタートアップ側のメリットはそれだけではない。大企業の提携により、将来の営業に役立つユーザー事例/ユーザーの声などの協力や、業界の内部情報の入手など、売上に直結しない間接的なメリットも得られる。提携の成功はスタートアップの評判を高め、将来の営業活動における成功事例として機能する。それというのも大企業の意思決定者は、契約締結前に同業他社での導入実績を気にするケースが多いからだ。

大企業のメリットとして、最もよくあげられるのはイノベーションである。戦略的ポジションを守るため、大企業は自社の業界或いは隣接業界からの新技術やイノベーションが引き起こす市場動向の変化に気を付けておく必要がある。大企業のガバナンスの鎖に縛られないスタートアップは、より高い自由度を持ち、真に破壊的なソリューションを開発できる。大企業にとっての価値は、スタートアップの提供するソリューションを使った売上や利益の向上だけでなく、新興事業領域への事業拡大にある。イノベーションは破壊への対抗手段となる。それというのも、将来の競争優位を確保できるからだ。社内のイノベーション・プロジェクトは、たいてい中核事業のキャッシュカウを守るために設計された漸進的イノベーションの方向に引っ張られるため、協業を通じて、社内で実施することは難しいが、必要な自社のビジネスモデルの破壊を担保する。

大企業側からみて、協業プロジェクトの主な推進要因でないことが多いが、提携から生まれる新たな売上も無視できない。

さらに、仕組みが確立された大企業と異なり標準プロセスを用いることが少ないため、傾向としてスタートアップはより顧客ファーストである。スタートアップはソリューションの修正やカスタマイズを実施しやすく、大企業が顧客により良いサービスを提供し、顧客のことをよりよく知る手助けになる。顧客ファーストで革新的なスタートアップと協業することで、最終的に大企業の業種破壊を起こす可能性のある市場動向、購買行動、技術動向の変化を、大企業はよりうまく追跡できる。

上記にあげた具体的なメリットに加えて、間接的なメリットも大企業がスタートアップとの協業を求める要因である。スタートアップと協業することで、何もしなければ階層的な組織に、より起業家的な文化を持ち込むことができるのだ。

※本記事のオリジナルはダン・トマ氏が定期的に寄稿している「The Future Shapers」に掲載されたものです。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、『コーポレート・スタートアップ協業チェックリスト("Corporate-startup collaboration checklist")』の第2回として、大企業がスタートアップと協業を進める際の課題についてご紹介します。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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