5Gなどの破壊的技術を核としたビジネスモデルを創造する方法("How to create business models for 5G - and other disruptive technologies")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「5Gなどの破壊的技術を核としたビジネスモデルを創造する方法("How to create business models for 5G - and other disruptive technologies")」という、技術シーズを核とした新事業アイデア創造法についてのお話しです。では本文をお楽しみください。

5Gなどの破壊的技術を核としたビジネスモデルを創造する方法("How to create business models for 5G - and other disruptive technologies")

2021年5月26日
5Gなどの破壊的技術を核としたビジネスモデルを創造する方法(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

「顧客が欲しがる製品だけを作る」といえば簡単に聞こえるだろう。しかし実際には、これはかなり難しいことだ。ときどき企業から当社に「新技術を開発したのだが、その技術をもとにしたビジネスを作るにはどうしたらよいか?」あるいは「当社の技術は競合他社より優れているのに、どうして顧客はわかってくれないのか?」といった問い合わせがよせられる。

そういった類の質問に心当たりはないだろうか?もし心当たりがあるなら、ぜひ読み進めてほしい。このブログ記事では、スマート・マニュファクチャリングのB2B環境における5G技術を例にとって、企業が「顧客ニーズ・ファースト」で行動するために、ビジネスモデル・ナビゲーター手法がどのように役立つかを解説したい。

まず、スマート・マニュファクチャリングのB2B環境における5G技術とは何か(技術的な詳細は省く)についての認識を合わせ、そのあとで我々が特定した顧客のニーズや問題に関する理解を共有し、最後にこれらのニーズや問題の解決にビジネスモデル・イノベーションがどう役立つかを説明する。

5Gをめぐる話題の本質は何か?

ここのところスマートフォン・メーカーやモバイル・ネットワーク事業者が中心となって、5Gの高速データ転送と高帯域幅によって消費者向けの新たなアプリケーションが実現可能になると話題作りをしていることから、ニュースなどで5Gにかなりの注目が集まっている。

5Gとは何か?

5Gとは、4GすなわちLTE(Long-Term Evolution)規格に続く第5世代のモバイル・ネットワークを指す。5Gは高速かつ低遅延であるため、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)アプリケーション、自動運転車など、多くの新技術を実現するための重要な要素技術といえる。ここでは、スマート・マニュファクチャリングの可能性を解き放つ5Gの潜在能力に焦点を当てて話を進めたい。

スマート・マニュファクチャリングとはインダストリー4.0とも呼ばれる、テクノロジー主導の生産アプローチである。スマート・マニュファクチャリングでは、機械装置をインターネット接続して、進捗状況を監視し、データ収集して効率向上をはかる。これはIoT(モノのインターネット)の一分野といえる。

専門家たちは、5G技術がスマート・マニュファクチャリングを一段階上のレベルに引き上げるだろうと考えている。

  • 5Gは1平方キロメートルあたり最大100万台のIoTデバイスをサポートできるため、前例のない規模のデータ収集が可能になる。
  • 5Gネットワークの超低遅延という特徴によって、例えば安全性が重要視される環境でもモバイル・マシンの超高速応答を実現できる。
  • ネットワーク・スライシング、つまりアプリケーション要件に応じた仮想エンド・ツー・エンド・ネットワーク構築は、製造業における重要なビジネス・プロセスを非常に高い効率で実行するのに役立つ。

現在の状況は?

調査会社のmarkets&markets社のアナリストによると、企業向け5G市場は2021年の21億ドルから2027年には109億ドルに成長する見込みだ。したがって、世界有数の企業の多くが5G技術の導入に取り組んでいると報じられているのも不思議ではない。わくわくするような新しいユースケースを企業各社が模索し続ける中、業界関係者の共通認識としては、5Gによって最も影響を受ける分野は次の3つである。

  1. リアルタイム自動化
  2. 監視と追跡
  3. 自律型ロボット

これらの分野の目覚ましい成長が見込まれている一方で、5G技術の商用化については大きな疑問が残ったままだ。テクノロジーと市場が十分に成熟していないため、エコシステムにおける各プレーヤーの役割がまだ定まっていないのだ。同様に、どんなビジネスモデルがすべての関係者に最大の価値をもたらすかについても、議論が大きく分かれている状態だ。

このような理由から、我々はスマート・マニュファクチャリング企業へのインタビューを通じて各社のニーズと問題を特定し、エコシステム内のさまざまなプレーヤーにとって長期的に有意義な価値創造と収益獲得につながる最も有望なビジネスモデルを特定するという課題に取り組んだ。

5G技術向けのビジネスモデル開発

新技術、新製品、新サービスのいずれのビジネスモデルを開発する場合にも、我々は常にビジネスモデル・ナビゲーター手法を使ってビジネスモデル・イノベーションに取り組んでいる。この手法は反復実施する4つのフェーズで構成されており、それらは「現状分析」、「アイデア創出」、「事業設計」、「実行」の4フェーズだ。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の詳細については、こちらを参照頂きたい。このブログ記事では、5G技術を例に、現状分析フェーズとアイデア創出フェーズに焦点を当てて解説する。

ステップ1:事業エコシステムの分析

まず、5Gスマート・マニュファクチャリングの事業エコシステムと各種プレーヤー、および現状のビジネスモデルを調べる。現状のプレーヤーは主に、4G分野から引き継いだ従来のビジネスモデルに依存している。すなわちハードウェア・メーカーは、モバイル・ネットワーク・オペレーターに製品を販売またはリースし、オペレーターはネットワーク・ソリューションを提供し、要望に応じて運用および保守サービスを製造業の顧客各社に提供している。

ステップ2:顧客ニーズの特定

次に、潜在顧客にインタビューして事業機会のある分野を特定する。製造業分野の顧客調査から得た発見事項は以下の通りだ。

  • 認識状況:ほとんどの製造企業は、5Gの主な利点を十分理解している。ただし、5Gネットワークを導入済みの企業はわずかである。すでに導入されている数少ない5Gネットワークは、特定のユースケースで限定的に導入されているか、実証実験のために試験導入された段階だ。
  • 重要度:製造業各社は、5Gを自社の中核事業としてではなく、工場や生産プロセスのネットワーク・インフラの改善を実現する多くの要素技術の1つと見なす傾向がある。したがって、潜在的な顧客を説得するためには、具体的なユースケースに沿った5Gネットワークのビジネス上の明確なメリットを示す必要がある。ユースケースのメリットを最大限に享受するためには、ネットワークに関する専門知識と製造業の業種ノウハウが必要となる。

ステップ3:事業機会のマッピング

ドイツでは、4G技術と異なり5G技術は企業に新たな事業機会の可能性を開く形で開発されている。4G技術の場合、個人向けおよび産業向けの全周波数域は通信プロバイダーの手に委ねられている。4G技術においては、通信プロバイダーは、特定の周波数帯域幅を所有する権利を取得するための入札プロセスと、ネットワーク・インフラの導入に、多額の資金を投資してきた。一般企業がこのネットワークを利用したい場合は、モバイル・ネットワーク・プロバイダーを通じて利用する必要がある。

5G技術では状況が異なる。ドイツの「連邦ネットワーク庁」は、産業関連のアプリケーション専用に、3.7~3.8GHzの100MHzの専用周波数範囲を確保している。これにより、製造業各社はネットワーク・プロバイダーのサービス提供を受ける必要がなく、独自の工場内5Gネットワークを敷設できるのだ。

このような状況を踏まえると、事業エコシステム内のすべてのプレーヤーはビジネスモデルを徹底的に検討しなおす必要がある。

  • モバイル・ネットワーク・プロバイダー:既存の顧客基盤を維持し、5G分野で顧客層を拡大するために、モバイル・ネットワーク・プロバイダーは現在、エコシステム・アプローチを検討している。
  • ハードウェア・メーカー:ハードウェア・メーカーは、製造業各社と直接ビジネスをすることで、バリュー・チェーンにおける自社の立場を変えるチャンスがある。

ステップ4:5Gの迅速な導入に向けた障壁の克服

スマート・マニュファクチャリング分野のB2B向け5G市場の現在のプレーヤーは、技術関連の競争優位性に重点を置き、潜在顧客と技術的な議論を行い、既存のネットワーク接続ソリューションに対する技術的な優位性に基づいて自社の製品とソリューションを売り込もうとしている。

しかし、前述のように、ほとんどの製造業各社にとって5Gはコア・テクノロジーではなく、生産性向上の手段である。企業各社は技術的な詳細には興味が無く、高速で安全かつ信頼性の高いネットワーク接続によって実現される具体的で付加価値のあるユースケースに興味を持っている。

主な障壁は次のとおりだ。

  • すぐにメリットを得られるか?:企業各社は、現在使用しているLANまたはWLANソリューションが導入時のユースケースで適切に機能しているため、既存のネットワーク接続ソリューションを切り替えたり5Gを追加したりしても、すぐに大きなメリットが得られるとは考えていない。
  • こなれた技術か?:多くの製造企業は、特に5G用のハードウェア部品が工場の環境下で確実に機能するかどうかなど、技術の成熟度に疑問を抱いている。コア・ネットワーク技術は概ねかなり安定していると見られている。ただし、産業用5Gデバイスはまだ開発の初期段階にあると見られている。
  • 高コスト?:5Gのコストへの影響に関する疑問は、依然として主たる不確定要素である。企業各社は、このテクノロジーの導入と展開に多額の設備投資および運用コストがかかることを予測しており、投資決定を行う際にはトータルでの設備効率と投資収益率(ROI)を重視している。

5Gのバリュー・チェーンと事業エコシステムの構造や設計、および各プレーヤーの役割はまだ定まっていない。これらを明確にすることが、システム全体を取りまとめるオーケストレーターとして活動するにせよ、あるいは専業プレーヤーとして特定の役割を担うにせよ、すべてのプレーヤーが事業エコシステム内での役割を決定するのに役立つ。

有望なビジネスモデルのアイデア

BMI Labにとって重要なのは、事業エコシステム内のさまざまなプレーヤーが革新的なビジネスモデルを通じて事業機会を活用し、現状の障壁をうまく乗り越えるための方法である。革新的なビジネスモデルで、次の4つの重要な質問にうまく対処する必要がある。

  1. 4G分野から引き継がれた現在の業界の仕組みやロジックを、すべての関係者に利益をもたらす形で打破するには、どうすればよいか?
  2. 5Gソリューションの技術的な、あるいはビジネス上のメリットに関する顧客の知識レベルを高めるためには、どうすればよいか?
  3. 工場環境に5Gネットワークを導入する際の財務上の障壁やリソース関連の障壁を低くすることで、この新しいテクノロジーへの投資に関する顧客の意思決定のリスクを軽減するためには、どうすればよいか?
  4. ネットワーク機器の設定から、ネットワークの導入、既存の工場システムへのインテグレーション、ネットワークの運用と管理に至るまでの、必要なすべての作業を、事業エコシステムのすべての参加者に最大の価値をもたらす形で、うまく事業エコシステムに統合するにはどうすればよいか?

BMI Labでは、潜在的なビジネスモデル・イノベーションのアイデアの出発点として3つの重要分野を特定した。

(1)知識の共有

ライセンシング:製造業各社における5Gの潜在的なメリットに関する知識と専門知識の蓄積という障壁を踏まえると、「知識の共有」は、複雑な新技術の顧客導入を加速させるための鍵と言える。ハードウェア・メーカーは、製造業各社に技術をライセンス供与して5G導入への準備を加速することで、この事業機会を活用できる。特許取得済みのノウハウを利用することで、OEMやその他の製造業各社のユースケースを大幅に強化できる可能性がある。

(2)サービス化

サブスクリプション:5Gの投資コストは、この新しいテクノロジーを迅速に導入する上での大きな障壁である。この障壁を克服するために、継続的に価値提供するサービス型のビジネスモデルを検討することをお勧めしたい。今回のケースでは、サブスクリプション・モデルが特に適しているように思われる。サブスクリプション・モデルは、5Gの実装を検討している企業のCAPEXをOPEXに変換するのに役立つ可能性があるからだ。このパターンでは、顧客は主に初期投資コストの削減とサービス全般の可用性という恩恵を受け、サービス提供者にとっては安定した収入源となる。

(3)コラボレーション

我々は、スマート・マニュファクチャリング分野の5Gに関する強力なコラボレーションには、大きな可能性があると考えている。そのことから、ニッチ分野や単一業種にとどまらない強力な提供価値を展開する手段として、エコシステムを重視する戦略をお勧めする。次の2つのパターンが特に有望だ。

ソリューション・プロバイダー:事業エコシステム内の企業はソリューション・プロバイダーとして機能できる可能性がある。このパターンでは、フルサービス・プロバイダーが、特定ドメインの各種製品やサービスを単一の窓口からオール・イン・ワンで提供する。ただし、サービス・プロバイダーはソリューション構築のために協業先エコシステムと協力してもよい。顧客企業の効率やパフォーマンスを向上させるための特別なノウハウがソリューション提供される。フルサービス・プロバイダーとしてサービスを拡張して提供内容に追加することで、サービス提供企業は収益の取りこぼしを防ぐことができる。このパターンは、製造業分野で相当のノウハウを持ち、戦略的パートナーを獲得する能力を持つ企業にとって有望である。

オーケストレーター:上記に加えて、オーケストレーター・パターンも、製造業の顧客に多くの付加価値を提供する強力かつ持続的な方法であると思われる。このモデルでは、企業はバリュー・チェーンにおける自社のコア・コンピテンシーに集中する。バリュー・チェーンの他の機能は他社にアウトソーシングし、主体的に取りまとめる。こうすることで、オーケストレーター企業はコストを削減し、専業サプライヤーの規模の経済によるメリットを得られる。このパターンは、専門性を持つパートナー各社の複雑なネットワークを取りまとめて調整する強力なノウハウと能力を備えた企業にとって有望である。

以降の進め方: 事業設計と実行

ここで、ビジネスモデル・ナビゲーター手法に戻りたい。上記の重点分野で具体的なビジネスモデル・イノベーションのアイデアを開発し、優先付けをしたら、最も有望なアイデアを詳細化し、社内及び社外との一貫性を検証する必要がある。これを事業設計フェーズと呼んでいる。

社内および社外との一貫性を確認したら、実行フェーズを開始する。ビジネスモデル・イノベーションのアイデアを、検証作業を通じた学習に基づいて繰り返しテストし、修正することで、アイデアのリスクを段階的に軽減できる。テストによってアイデアを肯定する結果を得られたら、アイデアを市場に投入可能だ。

要点のまとめ

売れない新ソリューションに対するビジネスモデルを構築しなければならない状況に陥らないようにするためには、新しい技術、製品、サービスの開発を進める前に、まず顧客ニーズを先に確認し、それを踏まえて技術、製品、サービスを構築することだ。

最後に、企業が潜在的なビジネスモデルを見つけ出す前に新技術を開発するという罠に陥ってしまうことが分かる(面白い)例を示したい。アップルは、まだ顧客が5G技術の実際のメリットに納得していない状況にもかかわらず、最近6G技術の開発を始めたのだ。

しかし、少なくともアップルは過去に、同社がたいていは顧客ニーズをかなりよく理解していることを証明してきた。ここに故スティーブ・ジョブズの言葉を引用したい。

「顧客が望むものを提供すべきだと言う人もいますが、それは私のやり方ではありません。私たちの仕事は、顧客が望む前に何を望むかを見極めることなのです。ヘンリー・フォードはかつてこう言ったそうです。『顧客に何が欲しいか尋ねたら、もっと速い馬が欲しいと答えただろう』。人々は、実際にそれを見せないと、自分が何を望んでいるのかわからないのです。だから私は決して市場調査に頼りません。私たちの仕事は、まだ紙に書かれていないものを読み取ることなのです。」

— アップル社CEO、スティーブ・ジョブズ

アップルやこの分野の他の企業が洞察力を活用して、どのように5Gおよび6Gテクノロジーの開発を推進していくのか、今後の推移を見守ってみようではないか。

5Gに関する当社の知見について詳しく知りたい場合、あるいは新しいテクノロジー、製品、サービスに関する同じような状況でのサポートが必要な場合は、当社の新技術の専門家にご連絡願いたい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「シナリオ管理とビジネスモデル思考を組み合わせる:なぜ戦略的アジリティが企業戦略を定義する新たな方法であるのか("Combining scenario management and business model thinking: Why strategic agility is the new way to define your corporate strategy")」という、シナリオ・プランニングとビジネスモデル・イノベーション手法を使って未来のビジネスモデル検討を進める具体的な方法に関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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